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第百五十話

メリークリスマス!

あと少しで2017年も終わりですね。


第百五十話です。

 ローズとの再会は、新たな試練の幕開けでもあった。

 旅を終えた僕の成長を見定める模擬戦。控えめに言って僕以上の怪物と表現してもいいローズと真っ向から戦わなくてはならない。

 正直、自分の力が通じるイメージすら湧かない。

 しかし、絶望は感じていたが、それと同じくらいに今の自分がローズを相手にどれくらい戦えるのか、知りたくもあった。


「ネア、お前の部屋はここだ」


 ローズとの話を終え、団長室を後にした僕は気絶から目を覚まさせたネアを連れて、彼女がこれから住む部屋に案内していた。

 案内された先の部屋で、ネアは機嫌を悪くする。


「ちょっと、もう誰かいる部屋じゃない」

「基本救命団は二人で一つの部屋を使っているんだよ。それは僕も例外じゃないよ」

「……知らない人と住むより、貴方の方がマシなんだけど」

「一応君も女の子だからね。男女で同じ部屋を使うのは駄目だよ」

「待って、今なんで一応ってつけたの?」


 ネアの追及をさらっと躱しつつ、運んできた布団を部屋に運び入れる。

 流石に部屋の主に無断で入るのはアレかと思うけど、ローズの許可は得ているので体裁的には問題はない。

 救命団の普段着である訓練服を抱えたネアは、僕をジト目で睨みつける。


「そんな嫌そうな目をしなくても、この部屋に住んでいるのは君と同じ女の子だよ」

「……」


 なぜか余計に機嫌が悪くなったんですけど。

 意味が分からなくなりながら部屋を見回してみると、掃除はちゃんとしているようで、ベッドの上の布団も畳まれ、整理整頓もしっかりと行き届いている。


「……うーん、やっぱり後でネアの分のベッドを運ばないとな」


 今は綺麗だけど元々は物置だったからな。現状はこれで我慢してもらうしかないか。

 そう思い、ベッドの置いてあるのと反対側の空間に布団を置く。


「よし、とりあえずはこれでオッケーだな」

「——、あぁ、今日も疲れたなぁ……って、んん?」

「ん?」


 背後からの声。

 それに振り返ると、銀髪に角の生えた、褐色の肌の少女と目があった。

 数秒ほどして、彼女は僕とネアの姿を認識すると、血相を変えて後ずさった。


「お、おおおお前ら! ボクの部屋の前でなにをぉッ……、ウサト!?」

「おお、ただいま。フェルム」

「あ、おかえり……じゃない! なんでよりにもよってお前がボクの部屋に勝手に入っているんだ! ていうか、今日帰ってきたのか!?」


 まあ、いきなり男の僕が部屋にいたら怒るわな。

 顔を真っ赤にして怒るフェルムに、素直に謝ることにした。


「それに関しては、ごめん。帰ってきたのはついさっきで、君の部屋にいるのは、今日から新しい団員が君と一緒の部屋に住むことになったからだよ」

「はぁ!?」


 食い気味に驚くフェルムにネアを紹介する。

 ネアのことを知ったフェルムは、予想通りに怒ってネアを指さした。


「なんでボクがこんなのと一緒の部屋に住まなきゃいけないんだよ!」

「それはこっちの台詞よ! あんたみたいなちんちくりんと一緒に住むなんてこっちから願い下げよ!」

「な、なんだとぉ! この乳のお化けがぁ!」

「うっさい! ヤギ頭が!」


 売り言葉に買い言葉。

 なんとなく喧嘩になりそうだとは思っていたけれど、ここまでだとは……。まるでアマコとのやり取りを見ているようだ。

 お互いの服を掴んで取っ組み合いを始めたネアとフェルムにため息をつきながら、二人を引きはがす。


「はいはい、喧嘩はやめようね」

「ウサト! こいつ嫌! 気に入らない!」

「フェルムは口は悪いけど、素直になれないだけなんだよ。君も年上なんだから、そのくらい目をつむってあげても——」

「調子に乗られると癪だから嫌」


 ふいっ、と顔を逸らすネアにため息をつく。

 こいつ、精神年齢低すぎか。見た目相応な意地っ張りを見せる三百歳に一瞬だけイラっとしながら、フェルムに視線を移す。

 こいつはこいつで、猫のように警戒心を露わにしているが、こっちに限っては対処は簡単だ。


「フェルム、納得できる理由が欲しいの?」

「ああ!」

「団長の決定」

「……くそぅ!!」


 一瞬で怒りが鎮火し、頭を抱えたフェルム。

 ローズに逆らう恐ろしさを身をもって経験しているから、そうする気持ちも分かる。

 ここは下手に刺激せずに、おだてていくしかない。


「フェルム、君はここでは先輩なんだから、ネアに色々教えてやってあげてよ」

「……お前が教えてやればいいだろ。一緒に旅をしてたんだろ。……一緒に」


 なんだか刺々しい言い方だな。


「僕も教えるけど、同室の君もね? できれば仲良くしてほしいんだけど……」

「「それは無理」」


 意外と仲良くできそうだな。

 口を揃えた二人に苦笑する。仲が悪そうに見えて、意外に相性良さそうではあるんだよなぁ。

 アマコと同じ感じで。


「とにかく、あまり喧嘩しないようにな。フェルムは分かっていると思うけど、ネア……もし、喧嘩してるところを団長に見つかったら……」

「み、見つかったら……」


 ごくり、と喉を鳴らすネアに、いや、とかぶりをふる。


「……いや、言わないでおこう。君を怖がらせたくない」

「そ、そこまで言ったらいいなさいよ!? 余計怖くなったんですけど! あ、あの恐ろしい女になにをされるのぉ!?」


 震えるネアと、ローズにお仕置きされている時のことを思い出したのか、青ざめた顔をしているフェルム。

 そんな二人を見て、大丈夫と判断した僕は自分の部屋に向かうことにした。


「じゃ、そろそろ僕は部屋に行くから。あ、今日は救命団の皆で集まって食事をするらしいから、いつもより早く来るんだよ?」


 二人にそう言い残し、その場を後にする。

 夕食までに時間はまだあるから……着替えた後は、その時間まで少し休んでおこうか。



 救命団の自室に戻った僕は、荷ほどきと着替えを済ませた後、ベッドに横になり少し仮眠をとることにした。

 野宿から王国のベッドまで、あらゆる場所で就寝したことがあるけれど、やっぱりここのベッドが気持ち的に一番落ち着いた僕は、瞬く間に眠りに落ちてしまった。

 ルームメイト? のトングに小突かれて目を覚ました僕は、寝起きにはあまりにも衝撃的すぎる強面に思わず蹴りを叩きこみながら、起き上がる。


「……ふぁ……もうこんな暗くなったのか」

「て、テメェ、人の顔見るなり足を飛ばしてくるたぁ、いい度胸じゃねぇか……!」

「人の頭を勢いをつけて小突く奴にはキックで十分だろうが」


 寝起きも相まって、非常に気分を害したぞ僕は。

 意気揚々と悪戯を仕掛けたような顔も見えたので、罪悪感を感じる必要もない。


「少しは礼儀正しくなって帰ってきてると思ったが、そのクソ生意気な態度は変わらねぇなぁ、おい!」

「え、礼儀正しく? ここで団長以外に敬意払うとかあるの?」

「あ?」

「あ?」


 互いの胸倉を掴んでにらみ合う。

 数秒ほどの沈黙の後に、手を離すとトングは口の端を歪めた。


「どうやら、礼儀は覚えてはこなかったが、腑抜けたわけじゃなさそうだな」

「当たり前だろ。ここの教えをそう簡単に忘れるはずがない」

「ハッ、違ぇねぇ」


 団員全員が、ローズの地獄の訓練を経験している。

 体どころか精神にまで刻み込まれるそれは、そうそう忘れられるものじゃない。


「夕食だ。もうほぼ全員が集まってんぞ」

「分かった。じゃ、すぐに行こうか」


 トングと共に部屋を出で食堂へ向かう。

 そのついで、トングに救命団の近況について尋ねておくことにした。


「僕がいない間、救命団で何かあった?」

「いや、ナックが救命団に入ったこと以外は特になんもなかったな。強いて言えば、ミルが料理? かなんかを勝手に作って団長をキレさせたことぐらいだな」


 かつて救命団内で起こった激マズテロを思い出して、手が震える。

 あの味覚への暴力と、治癒魔法でさえ癒せない異物感は忘れたくても忘れられない。


「はぁ? あいつまたあんなもん作ったのか。懲りないなぁ、本当」

「俺からすりゃあ、何作ればあんなに団長を怒らせられるかが知りたいぜ」

「知らないほうがいいよ」

「お、おう」


 トングと少し話しているうちに、すぐに食堂への入り口近くに到着する。

 すると、そこでネアとフェルムと、二人の男女、オルガさんとウルルさんがいた。

 僕の姿を見つけたウルルさんは、笑顔を浮かべて手を振ってきた。


「あー、ウサト君! おかえりー!」

「ただいま、ウルルさん。ネアとフェルムは……どうしたんだ?」

「こ、この女にもみくちゃにされて……」

「やっぱりこいつ、苦手だぁ……」


 息も絶え絶えな様子のネアとフェルムに首を傾げる。

 とりあえず、トングを先に食堂に行かせて、どうしてこんな状態になっているか話を訊いてみる。


「えーっと、フェルムと仲がいいんですね」

「そうだね。最初は魔族だからちょっと怖かったんだけど、一度会ってみれば全然そんなことなかったね。むしろ反応が可愛くてつい意地悪しちゃうくらいに仲がいいよ」


 そう言って、慣れた手つきでフェルムの頭を撫でまわすウルルさん。

 当のフェルムは、すごい嫌そうな顔をしている。


「だ、だからっ、角に触るなぁ! 髪に触れるな! 撫でまわすなぁ!」


 ウルルさんの手を払いのけたフェルムは、そのまま食堂に駆け込んでしまう。

 それを残念そうに見送ったウルルさんだが、彼女に続いて逃げようとしたネアに抱きつき、捕獲した。


「ぐふぅ!?」

「ねぇねぇ、この子! ウサト君の使い魔なんだってー?」

「ええ、ネアって言います。ぜひ仲良くしてやってください」

「ちょぉ、ウサト! こいつ、スズネと同じ感じが——」

「ネアちゃん、一緒にご飯食べよ! 色々聞きたいこともあるし! あ、丁度フェルムちゃんの隣の席が空いてる!」

「いやぁぁぁ!」

「来るなぁぁ!」


 逞しいなぁ。ウルルさん。

 ローズ相手でも物怖じしない明るい性格は、一つの長所といってもいい。

 まあ、僕としても救命団で、ネアとフェルムの交友関係が広がってくれるのはいいことだと思う。

 ……そういう意味で、ウルルさんのぐいぐい行く性格は好都合なのかもしれないな。


「ははは、相変わらずだなあ、ウルルは」

「オルガさん」

「おかえり、ウサト君。君が無事に帰ってきてくれて嬉しいよ」


 そう言って笑いかけてくれるオルガさんに、つられて笑みを浮かべる。


「旅はどうだったかい?」

「大変でしたけど、得るものは多かった……ですね。個人的には楽しかったです」


 僕の言葉にオルガさんは優し気に頷いた。


「君がそう思うのなら、きっとそうなんだろう。僕としても君の旅の話をじっくりと聞きたいところだけど……ここは彼に譲るとしよう。うん」

「彼……?」


 オルガさんの目線が僕の後ろに向けられる。

 彼に合わせて後ろを見れば、そこには救命団の訓練服を着た少年、ナックが驚きと喜びを合わせたような表情で立っていた。


「いつもの夢かと思ったけど、今度は違った……! ウサトさん、本当に帰ってきてた……!」

「こうして救命団の団員として会えて嬉しいよ、ナック。ちょっとがっしりしたか?」


 気持ち、逞しくなっているような気がする。

 ミアラークで映像越しでその姿は見たけれど、実際に会うのはルクヴィスで別れて以来だ。


「救命団での日常はどうだ?」

「そりゃあもう、辛いってもんじゃないですよ、もうそんなこと思えないほどにやばいです」

「うんうん、分かる。すっごい分かるよ。あれだよね、もう言葉にならないよね」

「はい!」


 言葉に表せないから、地獄という言葉でとりあえず代用するしかないのがローズの訓練だ。


「でも俺はまだ子供だから、それほど厳しい訓練ではないそうです。個人的にはウサトさんから受けた訓練以上に理不尽でしたけど……」

「団長だからね。まあ、指導者としては僕より断然有能だから、結果はちゃんとついてくるはずだよ」


 ……そろそろ移動しようか、いつまでも食堂の入り口で喋っている訳にもいかないし。


「とりあえず、席に座ろうか。話はそれからいくらでもできるからね。オルガさんも一緒にどうですか?」

「うん、そうだね。それじゃあ僕も座らせてもらおうかな」

「あ、じゃあ俺、三つ分の席、確保してきます!」


 小走りで食堂へ入り、席を確保しにいったナックに苦笑する。

 ルクヴィスにいた時とは、本当に見違えるほどに成長したな。最初に見たときは、弱々しい少年って印象だったけれど、今じゃ立派な救命団の一員だ。

 一時とはいえ、ナックに訓練を施していた身としては、彼の成長が嬉しくもあり、どこかむず痒くも感じる。


「本当に、賑やかになったなぁ」


 僕の隣で食堂を見回していたオルガさんは感慨深くそう呟いた。

 改めて見ると、食堂内には五人の強面たちに、フェルム、ネア、ナック、ウルルさんの9人がいる。


「そうですね……」

「君がここに来てくれて本当に良かった」

「え?」


 突然の言葉に、思わずオルガさんの方を見てしまう。


「君が来てくれたおかげで、僕達の……いや、ローズさんの止まっていた時間がようやく動き出した」

「止まっていた、時間?」

「うん、ローズさんにとってウサト君、君は——」


 僕の問いに対して言葉を続けようとしたオルガさんだが、そんな彼の頭にげんこつが叩きつけられる。

 「ふぉぉ!?」という声と共に頭を押さえたオルガさんの背後から、我らが団長、ローズがいかにも不機嫌ですという表情で仁王立ちしていた。


「余計なことを言うんじゃねぇ」

「す、すいませぇん……」


 流石のローズでも、体の弱いオルガさん相手には手加減していたのか、すぐに立ち上がった彼を睨みつける。

 オルガさんは引き攣った笑みを浮かべたまま、僕へ視線を移す。


「はは、じゃ、そういうことだから……」

「は、はい……」


 頭を押さえながらナックの用意してくれた席に向かうオルガさんの背中を見送る。

 一体、オルガさんはなにを言おうとしたのだろうか? 僕はローズにとっての……サンドバッグだとか、一番弟子的なことを言おうとしたのか? 

 個人的には後者が地味に嬉しいのだけど、そんな甘い話はないか。


「……おい、ウサト、いつまでそんなとこで突っ立ってやがる。さっさと席につけ」

「あ、分かりました」

「ああ、それと——」


 後ろを向きかけた僕に、ローズは続けて言葉を紡ぐ。


「今日はお前の帰還を祝う場でもある。少しくらいは羽目を外してもいいが、疲れを明日に残すなよ」

「はいっ、分かりました!」


 一礼した後に、今度こそ席に向かう。

 僕がローズにとってどのような存在かは、考える必要はないだろう。多分、それは然るべき時に、ローズ自身から明かされるものだからだ。

 だからこそ僕は、その時が来るまで変わらずに救命団員としての日常を過ごしていくだけだ。


ネアとフェルムは同室になりました。

因みにナックは一人部屋です。


次話は、早めに更新できそうです。


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