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第百四十九話

お待たせしました。

第百四十九話です。

 ブルリンを連れて城を出た僕とネアは、真っすぐに救命団へ向かっていた。

 リングル王国の街並み、救命団へ通ずる道、そこまで続く周囲に生い茂る木々———、見るものすべてが懐かしい。


「皆元気かなぁ。まあ、元気に決まってるか」

「グワァー」

「そうかそうか、お前も帰ってこれて嬉しいか」


 隣を歩くブルリンの頭を撫でつけながら、肩の上にいるネアに目を向ける。

 さっきまで逃亡を試みていたが僕の反射神経の前では無意味と悟り、今は不貞腐れながら大人しくしている。


「まあ、救命団は君が想像しているよりも悪いところではないよ」

「……嘘ついても分かるんだからね」

「嘘じゃないよ。ただ、所属する人ほぼ全員が個性的すぎるだけだから」

「まるで自分は個性的じゃないみたいな言い方やめてくれない? むしろ貴方以上に個性的な人知らないんだけど」


 失礼な。

 僕なんて下から数えたほうが早いくらいだぞ。


「いやいや、救命団には怪物も真っ青な強面たちもいるし、何より団長は僕なんかよりもずっとやばいぞ。邪龍と団長、どっちと戦うか選ばないといけないなら、迷いなく邪龍を選ぶくらいにやばい」

「そ、そんなことで怖がらせようとしても無駄よ! 流石に邪龍以上とか信じられないわ!」


 僕からしてみれば、ほぼ全ての面で僕を上回っているローズの方が相手にしたくないんだよなぁ。

 邪龍と違って、小手先の技もごり押しも通じないだろうし、籠手を手に入れた今でもローズと戦えるビジョンが全く思い浮かばない。


「まあ、それは会ってから分かると思うよ。あ、でも他のメンバーに君のことも紹介しなくちゃな。強面共とフェルムにナック……それに診療所のオルガさんとウルルさんにも」

「フェルムって、ミアラークでファルガの魔術で呼び出された魔族のこと?」

「そうだよ」


 あれから一か月近く経ったけど、少しは落ち着いてくれたかなぁ。

 いや、あの子のことだから落ち着きはしないか。ナックと仲良くしているか心配だけども、ローズがいるからそこは大丈夫かな?


「私、やっていけるのかしら……もうメンバーが濃すぎて、うまく馴染めるか不安になってきた」

「はは、君も大概だから大丈夫だと思うよ」

「ちょっと、それどういう意味!」


 吸血鬼とネクロマンサーの混血でフクロウでドジっ娘でその他諸々のネアが、救命団がイロモノだらけだとしても個性で負けるはずがない。

 いや、勝っているかと聞かれたら微妙だけど。

 僕の言葉に納得いかないのか、プンスカと怒るネアをなだめながら歩いていると、ようやく救命団の宿舎が見えてきた。


「い、意外と普通の外観ね。拷問器具とか置いてあるかと思ってた」

「大袈裟すぎだろ……。ここは人を助ける場所だよ。そんな物騒なものあるはず……ん?」


 その時、宿舎の前に何かが転がっていることに気づく。

 黒髪の少年ナックと銀髪の魔族の少女フェルム。

 二人はボロボロの姿で、力尽きたように宿舎の扉に手を伸ばしたまま気絶していた。

 僕に続いてネアが気づくと、彼女は顔面を蒼白にして、声を震わせた。


「ね、ねぇ、ウサト。ひ、人を助ける場所で人が倒れているんだけど……」

「これは救命団の日常だよ。全然珍しくないから安心してくれ」

「私、村に帰るぅ!」

「させん」


 逃走を試みたネアを即座に捕まえる。

 バタバタと翼を必死に動かすネアに、平坦な声で語りかける。


「ははは。今頃ホームシックかネア。大丈夫、ここが君の家になるんだ」

「なんで家の前に人間が倒れてることが当たり前なところに住まなきゃならないの!? 救命団ってのはどんだけ猟奇的な集団なのよ!」

「君の帰る場所はここなんだ。ここしかないんだ。むしろここ以外に選ばせない」

「貴方、どれだけ私を巻き込みたいの!?」


 正直に言うと、団服を破ってしまったことを怒られるのが怖い。

 一人でも事情を知っているネアがいてくれれば、ローズの怒りも少しは和らぐかもしれないと、考えた末の行動だ。

 あまり効果があるとは思えないけど、いないよりマシだ。

 ネアを捕まえたまま、気絶しているナックとフェルムの元へ歩み寄る。

 フェルムは……駄目だ、完全に白目を剥いている。

 ナックは——、


「……あれ、ウサト、さんがいる……」

「ナック! 大丈夫か!?」

「へ、へへ……やっぱり団長の訓練は、地獄……です」

「ナック! おい、しっかりしろ! ナック……!」


 力尽きるように気絶するナックから顔を背ける。

 流石はローズだ。

 既に治癒魔法がかけられていて、治す余地がないにも関わらず精神的なダメージのみで気絶させられている。

 これじゃあ、僕にはどうすることもできない。


「……そっとしておこう」

「今、とち狂った救命団の日常を垣間見たわ」

「グゥ……」


 ネアとブルリンの視線を流しながら、気絶したナックとフェルムを近くの原っぱに寝かせる。

 多分、一時間くらいで目が覚めるだろう。

 今目覚めさせるより、一時間休ませた方が二人にとっては嬉しいはずだ。

 僕も訓練時はそう思っていたから。


「よし、まずはブルリンを厩舎に連れて行かなきゃな」

「グァー」


 一声ないたブルリンと共に厩舎へと足を運ぶ。

 宿舎のすぐ近くにある厩舎には相変わらずたくさんの藁が積まれており、ブルリンは勢いをつけてその束にダイブして、ものの数秒で寝息を立てて眠ってしまった。


「お疲れ様、ブルリン。これからもよろしくな」

「よほど疲れていたんでしょうね……。まあ、無理もないわね」


 肩に戻ったネアが、ブルリンを見てそう呟く。

 その時、目の前の藁の陰から黒い小さな影が、こちら目掛けて飛び出してきた。

 すぐに影の正体に気づいた僕は、構えもせずに受け止めようとするが——、どういうことか小さな影は僕ではなく、肩にいるネアに向かっていった。


「え? なに、ぶごぉ!?」


 フクロウ状態のまま、体当たりを食らったネアは、衝撃のあまり黒髪赤目の人の姿に戻ってしまう。

 さっきまでネアがいた場所には、ローズのペット、ノワールラビットのククルがドヤ顔で特徴的なたれ耳を動かしていた。


「相変わらずだなぁ、お前。元気だったか? ククル」

「キュー」


 見た目は非常に愛くるしいが、主人と同じドSウサギである。

 基本、その見た目で相手を騙し、絶望のどん底に叩き落すのがこいつの仕事である。


「この畜生ウサギめ! いきなり私を叩き落すなんていい度胸じゃない! ウサト! なんなのこいつ!」

「この子は、団長のペットのククルっていうんだ。君と同じような珍しい魔物らしいよ」

「きゅ」

「珍しいかなんてどうでもいいわ! そこは私のよ!」


 再びフクロウに変身したネアは、肩にいるククルに突撃する。

 しかし、軽やかな動きでネアを避け、反対の肩に移動したククルは「甘いな」とでも言いたげな嘲笑をネアへ向ける。

 元の位置に戻ったネアは、ふるふると怒りで体を震わせる。


「ウサト、なんなのこいつ!? すっごいむかつくんですけど!」

「ま、まあ、落ち着きなよ。それより、ククル、団長は宿舎の中にいるのか?」


 ネアを静めながら、ククルにそう訊くと、こくりと頷いてくれる。

 それじゃあ、このまま宿舎の方へ行こうか。

 右肩にネア、左肩にククルという、テイマーになった気分で厩舎を離れ、宿舎へ入る。

 ……よく考えたら、今の僕を犬上先輩が見たら、我を失って襲い掛かってきそうで怖いのだけど。


「……強面共がいないな。この時間帯は訓練中かな?」

「きゅー」

「あぁ? 何見てんのよ。この畜生ウサギ」


 とりあえず僕の顔を挟んで喧嘩をしないでほしいのだけど。

 ため息をつきながら、宿舎の内装を見渡し、感慨にふける。


「団長は……団長室だな」


 待っているとしたら、あそこしかない。

 僕が帰ってきていることは、もう知っているだろう。なら、ここは変に躊躇せずに真っすぐ団長室へ向かおう。

 そう決意した僕は、階段を上りローズのいる団長室の扉の前に立つ。


「すぅー。……よし」


 今一度決心を固め、団長室の扉をノックする。

 すると、短く「入れ」という言葉が返ってきたので、緊張しながらもドアノブに手をかけ、扉を開け放つ。

 まず視界に入ったのは、団長室の椅子に腰かけ腕を組んでいるローズの姿。

 僕の姿をしっかりと認識したローズは——、最後に会った日と変わらない、どこか獰猛さを感じさせる笑顔を浮かべた。


「まあ……言ってやりたいことが山ほどあるが……それは後にしよう」


 言葉の出ない僕に構わず、彼女は続けて言葉を紡ぐ。


「よく帰ってきた。ウサト」

「……ッ!」


 その言葉に、こみ上げるものを抑えながら、できるだけ胸を張る。

 しっかりと、声に出そう。


「ただいま帰りました! 団長!!」


 この時、僕はようやく“自分の家”に帰ってきたことを実感したのだった。



 あの後、僕は団長室にて、これまでの旅で起こった出来事をローズに簡単に説明していた。

 先輩達とは違い、邪龍の話もファルガ様の話も眉一つ動かさずに聞いていて肩透かしをくらった。


「随分とまあ、愉快な旅を送ってきたようだな」


 全ての話を聞き終えたローズは、考え込むように腕を組んだ後にそんなことを口にした。

 愉快って……すっごい簡単にまとめられちゃったな。


「ははは、まあ……はい」

「褒めてねぇよ、バカ。お前は問題に首を突っ込みすぎだ。結果的に丸く収まったからいいものを、もう少し後先考えて行動しろ」

「はい、すいません……」


 事実なので、素直に自分の非を認める。

 ここで怒られるのはしょうがないが、もう一つ怒られそうな案件がある。

 恐る恐る、ローズに話を切り出してみる。


「あの、団服のことなんですけど……」

「第二軍団長にボロボロにされたって話だな。見せてみろ」


 荷物から布で包んでいた団服を取り出し、それをローズへ渡す。

 団服を広げた彼女は、数秒ほどコーガに切られ、空けられた穴を注視すると、やや不機嫌そうな面持ちで僕へと視線を戻した。


「まず言っておくが、私はそこまで怒ってはいない」

「……え!?」


 おもっくそ不機嫌そうなんですけど。

 僕の反応に、ローズは額を手で押さえた。


「こいつはお前の身を守るためのものだ。それがボロボロになって悪い理由がどこにある。本来の役割を果たしたってことだろうが」

「でも、これは救命団の……」

「こいつは突き詰めれば少し丈夫なだけの服だ。重要なのは、お前自身だ」

「僕、ですか……?」


 団服を丁寧に畳み机の上に置いたローズの言葉に少しばかり動揺する。


「こんなもんいくらでも作り直しが利くがな、お前という存在は一人しかいねぇんだよ。そんなお前とこの団服、どっちを優先させるかは比べるまでもない」

「だ、団長……!」


 そこまで僕のことを……!

 やばい、滅多にない優しいお言葉に泣きそうになってくる。


「まあ、逆に小綺麗なまま帰ってきたらぶっ飛ばしていたところだったがな」

「……」


 涙が引っ込んだ。

 今、ちょっとだけコーガに感謝してしまった。

 オチもついて団服の話が終わったところで、次の話題はネアに関してのことに移る。


「で、そっちの黒いのはお前の使い魔か?」

「ええ、ネアっていいます。今はフクロウの姿ですけど、本来は人の姿の魔物なんですよ」


 ネアに人間になるように目配せをする。

 光と共に人間の姿になったネアに、少しばかり驚きながらもローズは軽くため息をついた。


「魔族に治癒魔法使いのガキに、今度は魔術持ちの使い魔ときた。お前はうちを大道芸の集団と勘違いしてるんじゃねぇだろうな?」

「まあ、メンツ的には貴女を含めて同じようなもんぐおおおお!?」


 顔が潰されそうなくらい痛いぃぃ!?

 反応できない速さで僕の顔を鷲掴みにしたローズに、忘れかけていた恐怖が蘇る。

 苦悶の声を上げる僕に、ネアは目を逸らしてただただ震えているが、そんな彼女にローズがギロリと視線を向ける。


「おい」

「は、はいぃ!?」

「お前がウサトの使い魔なら、形式的に救命団の預かりとなる。魔物だからって特別扱いはしねぇ、構わないな?」

「あ、いえ、それはぁ、その……」


 しどろもどろになりながら、答えられないネア。

 団長を前にして委縮してしまうのはしょうがない。

 僕が代わりに答えてあげよう。


「構わないそうです」

「!?」


 信じられないと言わんばかりの顔で僕を見るネア。

 気にするな、と返すと涙目で僕の肩を殴りつけてきたが、痛くもかゆくもないので愉悦でしかない。


「そうか。なら、こいつの魔術と、お前がどれだけ成長しているか確かめねぇとな」

「確かめるとは?」


 どことなく嫌な予感をしながらも、そう訊くとローズは薄ら笑いを浮かべた。


「私が相手をしてやる」

「……え、死にますよ?僕とネアが」

「手加減はするから安心しろ」


 手加減されても絶望しかないのですが。

 虚ろな目で、隣のネアに笑いかける。


「なら、安心だ。やったな、ネア。一命は取り留めたぞ」

「さよならウサト! 今まで楽しかった!」


 今日何度目か分からない逃走を試みたネアに、僕は動かずにただ目を瞑る。

 分かっているのだ。

 この状況で、ローズのテリトリーの中で逃げることなんてできないことを。

 ローズの手が一瞬だけブレると、背後のネアに何かが炸裂したような音が響き、悲痛な叫び声と共に静かになった。


「……団長。それで、今日やるんですか?」

「いや、数日置いてからだ。お前も報告関係で忙しくなるだろうからな。今日に関しては、お前が帰ってきたっつーから、アレク達が夕食の場を用意しているそうだ」

「オルガさんもウルルさんも来るんですか?」

「ああ」


 ということは、夜は救命団の団員全員が揃うんだ。

 ナックとも色々と話したいこともあるし、楽しみだな。


ローズとの戦闘フラグが立ちましたが、ちょっとだけ先ですね。


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この話を読む度に思うんだけどネアは団長の事邪龍以上と認めたのか気になる
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