閑話 旅の終わり
二話目の更新です。
今回はスズネの視点での閑話となります。
私たちの旅は終わった。
最後に訪れた国、サンダーラ王国では、私にとって色々と実りのある経験をさせてもらった。
書状を渡したのはいいが、国王は勇者を名乗る私の実力を疑い、私が勇者として相応しい実力を有しているか確かめるべく、一つの試練を課した。
それは、サンダーラ王国から離れた場所に位置する山に生息する光を纏う魔物の討伐。
光と共に人を襲い、多くの犠牲者を出している魔物。
危険は承知の上だけど、私たちは魔物を討伐するべく、生息する山へと足を踏み入れた。
「いやぁ、まさか纏っていた光の正体が雷だったとはね。しかも、正体が伝説級の魔物だとは思わなかったよ」
「紛れもない強敵でしたねぇ。人の言葉を解すほどの知性を持っていましたし、スズネさんの機転がなければ、負けていたのはこちらだったかもしれません」
物思いに耽るように呟いた私に同意するクルミア。
無事試練を乗り越え、サンダーラ王国から協力の意思を受け取った私たちは、使命を終えてリングル王国への帰路を馬で進んでいた。
「私も流石に死を覚悟したよ、あれは」
人の言葉を解す魔物。
非常に稀と言われる存在に遭遇したことは幸運なことだったけれど、いかんせん遭遇した奴が駄目だった。
そいつは自分以外の生命を見下し、敵対しようとしなかろうと、惨殺しようとする残虐性を持っていた。
あれは、雷獣とでもいうのだろうか?
雷と見間違うほどの高速移動で獲物の命を刈り取る人食い虎。
雷を操る魔法を持つ私でも、苦戦を強いられた強敵だった。
「でも、出合い頭に『私の使い魔にならないか!』は呆れましたよ」
「うぐ……」
嘲りと共に叩きつけてきた言葉には、最早敬意もなにもない。
最初の頃に会ったときは「スズネ様ですね! 一緒に旅をできて光栄です!」って言ってくれたのに、今となってはこうだよ。
「はぁぁ、なんで私の遭遇する魔物は凶暴なのばっかりなんだろう。今回だって、虎、喋れる、我様口調で絶対にかわいい使い魔になれる素養があったのに……もう、残虐非道っていうのが全てを台無しにしてる……」
「フーバードでいいんじゃないですかね?」
「私だけの使い魔がいいの!」
「それじゃあ、今乗っている愛馬がいるじゃないですか。なんでしたっけ? サンダーホースのサンホ君でしたっけ。素晴らしいネーミングセンスですね。失笑を禁じえません」
「魔物ですらないじゃないか! それに、サンホ君の悪口は君でも許さないぞ!」
私の旅の愛馬、サンホ君をバカにするのはクルミアでも容赦はしない。
サンホ君の鬣を撫でながらそう言い放つと、私の怒りにクルミアは朗らかな笑みを浮かべた。
「サンホ君の悪口ではありません。貴女への悪口です」
「もっと許せないよぉ!?」
この護衛騎士、私のことをなんだと思ってんだ。
確かにもっと気を張らずに接してくれとは頼んだけど、ここまで無礼を働くとは思わなかったよ。
でも、この旅の仲間で一番仲がいいし、いざというときに頼りになるところが憎らしい。
彼女相手に口喧嘩では勝てないので、ため息を漏らしながら項垂れる。
「あぁ、使い魔が喋ってくれたらきっと楽しいんだろうなぁ」
「喋る使い魔なんて前代未聞ですよ。頭のいい魔物は基本的に人に姿を見せませんし、そもそも大抵強大な力を持っているので人には下りません」
「そうなんだよなぁ。そんな夢みたいな話ないよね。あの虎、絶対に人間と馴染めるような性格してなかったし……」
あの雷獣にも提案したが、普通に鼻で笑われた。
……使い魔といえば——、
「ウサト君、大丈夫かな……」
いつのまにかフクロウを肩にのせていたウサト君。
そんな彼は現在、獣人の住む領域へと足を踏み入れている。
「王国によると、ミアラークを出て以降、連絡が途絶えているそうですね」
「行き先が獣人の国だからね。フーバードの届かない場所だから、しょうがないとはいっても、やっぱり心配になってきちゃうな」
獣人の国は人間にとっては未知の領域。
そんな場所にアマコの母親を助けにいったウサト君たちは、今どうしているだろうか?
無事に彼女の母親を助けたのだろうか……。
「カズキ君は無事に使命を終えて、私と同じように帰る途中だって知らされたし……後はウサト君からの連絡を待つばかりだよ」
カズキ君も無事に使命を終えられてよかった。
迷い込んだ森で偶然エルフの住む隠れ里を見つけただとか、何だか私にとって不穏な情報が手紙に書いてあったけれど、精神的安定を保つためにそれはあまり気にしないようにした。
「でもまあ、ウサト様なら獣人族に襲われても対処できるんじゃないでしょうか。あの方の身体能力はローズ様譲りですから、なんとかできる人の方が少ないと思いますし」
「確かに、そうだね。ミアラークでは龍人と化した勇者と戦っていたし、旅の間に彼も成長していてもおかしくはない」
いや、むしろこの世界で救命団に入団してからストイック寄りの性格になってしまった彼が訓練を欠かすなんて考えられない。
「それより、スズネさんはウサト様と再会した時が大変じゃないですか」
「うぐぐ……私もなんとかしようと思っているけど」
「顔を真っ赤にしながら、否定しようとしても生暖かい視線しか送れません」
「だ、だって……」
いざ、記事を片手に質問されると、どう答えていいか分からず口ごもり、それでもちゃんと否定しなくちゃいけないという意思に苛まれ、結局誤魔化すような形で否定する感じになってしまうのだ。
「スズネさんは、皆さんが想像している以上にヘタレで」
「むぐっ!」
「調子に乗りやすくて」
「あぐっ!」
「恋愛ダメダメな人なので、しょうがないのは分かっています」
「ぐはぁぁ!?」
怒涛の三連攻撃が私の心に突き刺さり、崩れ落ちそうになる。
「でも、せめてウサト様には謝ったほうがいいですよぅ」
「わ、分かってるよ。……でも、嫌われたりしないかな!?」
「そんなこと貴女が一番よく分かっているはずです」
呆れながら肩を竦めたクルミア。
ウサト君なら、怒りはするけど、嫌ったりはしないだろう。でも、もしものことを考えると酷く不安になる。
それでも——、
「……話したいことがいっぱいあるから、早く会いたいな」
旅で起こったこととか、体験したこと。
ウサト君もカズキ君も、きっと大変な旅を送ってきたに違いない。
……というより、カズキ君はトーナメントみたいのに参加してたし、ウサト君はミアラークで龍人と戦っていたから、その時点で大変なのはわかっている。
だからこそ、それぞれの旅の話を語り合いたいな。
「まあ、騒ぎに巻き込まれたことに関しては、私も相当なものだからね。私の魔法もパワーアップしたことだし」
というより、なぜ私は凶暴な魔物にしか遭遇しないんだろう。
頭を抱えると「やっぱり似た者同士だからじゃないんですかね?」と、笑顔で毒を吐いてくるウサト君の顔が頭の中に浮かんだ。
私の独り言をきいていたのか、唇に人差し指を添えたクルミアは、思い出したようにこちらを見る。
「あれ? 確かウサト様って、見覚えのない籠手をして、フクロウも連れていましたよね? 見た目になんら変化のないスズネさんは、その時点で既に敗北しているようなものでは?」
「……」
「あ、ちょっとやめてください。暴力反対ですっ。ポカポカ叩かないでくださいよぅ!」
「君ってやつはー! 君ってやつは本当にもぉー!」
必死に目を逸らしてたのに!
必死に考えないようにしてたのにぃ!
馬上から腕を伸ばしてクルミアの背を叩く。
「大体、フクロウって狙いすぎじゃないかな!? もう可愛いなんて分かりきっているじゃないか! それなのに、これ見よがしに肩に乗せて……! しかもずんぐりむっくりで、まるっこくて、羨ましい……!」
「あ、あれ、もしかしてスズネさん泣いて——」
「な、泣いてなんかないやい!」
決めた。
ウサト君にあったら最初に誠心誠意、謝ろう。どんな仕返しも罵詈雑言も喜んで受けよう。
その後に、絶対にフクロウを触らせてもらえるようにお願いしよう。
それを叶えるためには、私自身も無事にリングル王国に帰らなくてはいけない。
ウサト君への、心配と不安を抑え込んだ私は、確かな決意を以てリングル王国への帰路を進んでいくのであった。
カズキの視点も書こうと思いましたが、スズネと同じような感じになってしまうので、再会した時のお楽しみということにしました。
第7章は、流石にこれ以上巻き込まれるようなことはなく、普通に帰ります。
次の話までの繋ぎのような章なので、今までよりも、ギャグ的な要素が多くなるかもしれません。
テーマは『再会』となります。
次話、第七章第一話の更新は間を開けて、明日の朝6時を予定しております。




