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治癒魔法の間違った使い方~戦場を駆ける回復要員~  作者: くろかた
第五章 水上都市ミアラーク
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第百十四話

お待たせしました。

第百十四話です。

 ファルガ様に呼ばれた僕はネアと共に玉座がある広間へ向かった。

 普段ならノルン様がいるはずの広間だが、この時ばかりは誰もいなかった。

 どうやってファルガ様のいる地下にまで行こう、と思いながら広間の中心まで移動すると、足場がひとりでに床に沈み、地下へ向かっていった。

 恐らくファルガ様が遠隔で動かしたのだろうけど、これはいよいよ僕だけを呼んだと見て間違いないようだ。


「人に聞かれたくない話でもあるのかな? いや、でもファルガ様に限ってそんなことあるのか?」

「分からないわよー。神龍といっても邪龍と同族の魔物。内心で何を考えているか分かったものではないわ。年食っている魔物なんて狡猾で意地が悪くて頭も良いし本ッ当に厄介なのよ」

「君が言うと説得力があるよね……」


 凄い勢いでブーメランが刺さっているけど……。

 ネアからしてみれば、ファルガ様は十分に年を食った存在だけれども、人間の僕からしてみれば三百歳のネアも十分に長生きなんだよね……。

 本人の為にあえて口には出さないけど。

 他愛のない会話をしているうちに地下へ到着した僕達は、泉から姿を現わしているファルガ様を見つける。彼は僕が到着したことに気付くと、ゆっくりと顔を上げて僕の肩にいるネアを見やる。


「貴様も来たのか」

「来ちゃ駄目なの?」

「いいや、構わない」


 不機嫌そうなネアに、そう返したファルガ様は僕に視線を移した。


「今回ウサトを呼んだのには、ある目的がある」

「目的?」


 僕の言葉に頷くファルガ様。

 昨日の今日でどうしたのだろうか? それにわざわざ僕の頭に直接声をかけてくるなんてマネをして。


「カロンとの戦いは近い。我が欠片を以てして戦いに臨む貴様は、否応なくあやつと真正面からの勝負を強いられることになる」

「そう、ですね……」


 今日の作戦がどんなものに決まるとしても、カロンさんを抑えるのは僕の役割になるだろう。

 でも、それがどうしたのだろうか?


「我は貴様とカロンが差し違え、命を落とす可能性を危惧している」

「……差し違えっ!?」

「近距離での戦いにおいて今の貴様とカロンに明確な差がない。恐ろしい話だが、理性を失っているが、龍に覚醒しつつある者に己が肉体と籠手のみで追随しようとしているのだ」


 言外に化物扱いされた気がする。

 だけど、差し違えるか……。僕としてはそんな結末はご免だけど、ファルガ様が言うにはその可能性があるということだ。


「この生存能力特化の化物が死ぬなんてありえないと思うんだけど……?」

「ネア……今、大事な話をしているんだ。冗談を言っている場合じゃない」

「全然冗談なんかじゃないんだけど……。その呆れた表情すっごいむかつくんだけど!」


 全く、大事な話に水を差さないでほしいよね。

 納得いかないとばかりに肩の上でボヤくネアをスルーし、ファルガ様に向き直る。 


「それで、忠告をするためだけに呼び出した訳ではないのでしょう?」

「ああ。先ほどの言葉は心に留めておくだけでいい。貴様もここに呼んだのは、貴様の記憶を覗かせてもらうためだ」

「僕の記憶?」


 そんなものがなんの役に立つのだろうか?

 もしかして、ネアのように異世界の知識が知りたいのだろうか?

 首を傾げている僕に、ファルガ様が続けて言葉を紡ぐ。


「視るのは貴様の知る勇者の記憶だ」

「それは犬上先輩とカズキ……リングル王国の勇者のことでしょうか?」

「そうだ。恐らく、我がリングル王国の勇者に直接会うことはない。貴様が戦いに赴くその前に、貴様の知る勇者の姿を知っておきたいと思ってな」


 犬上先輩とカズキのこと。

 僕としても二人の全てを知っているわけじゃないけど、二人のことを知ってファルガ様はどうするのだろうか。

 この方はネアと違って、知識欲を満たすために僕の記憶を覗こうとはしていない感じがする。

 そもそも、この方なら遠方にいる先輩とカズキのことを把握できるんじゃないか?


「勇者の姿を知る理由は、我が武具を作る価値のある者か、それを見定める為でもある」

「それって、凄い重大なことじゃないですか。僕の記憶なんかで大丈夫なんでしょうか?」


 ファルガ様が二人の為に武器を創るとなれば、それは正真正銘の”勇者の武器”と呼ばれるものだ。


「貴様でなくては意味がない。最も信頼を寄せられているであろう貴様以上の適任者は存在しない」

「……分かりました」


 そこまで言われたら頷くしかない。

 しかし、僕の記憶の中の先輩とカズキか。

 カズキは、全体的に親友って印象だけど、先輩は……。

 先輩がテンション振り切っている姿とか、先輩が仕事放り投げて自由にしている姿だとか、欲望に任せて暴走している姿だとか……。

 ……。


「……ファルガ様、前もって言いますが、勇者の一人はすっごい変わった人なんです。でも、いい人なんです! それを分かった上で僕の記憶を視てください……!」

「う、うむ?」

「苦渋の表情でそんなこと言われたら、嫌な予感しかしないと思うわ……。てかウサトの知っている勇者ってそんな変人なの……?」


 やや引いているファルガ様とネア。

 先輩は変な部分が目立つ人だけど、悪い人ではない。むしろとてもいい人だ。

 僕と先輩のありもしない記事を大陸全土に広めたという前科はある。だけど、それで嫌いになるほど僕はあの人ことを軽く見ていない。

 ……帰ってから仕返しはするけどねっ!


「……では、貴様の記憶を見せてもらおう」

「僕はなにを?」

「思い浮かべるだけでいい。勇者としての姿ではなく、貴様にとっての友の姿を」


 そう言ったファルガ様の瞳に魔術の文様が浮かぶ。

 それは昨日のものとは形が違っていることから、僕の記憶を覗くためのものなのだろう。

 危険はないと分かっているので、目を閉じて、ファルガ様の言うとおりに二人の姿を思い浮かべた。

 ……最初に思い出すのは……そうだな。

 あの雨の日、平凡な高校生だった僕が初めて二人と出会ったその日から思い出そう。



 ファルガ様が記憶を見ていた時間は30分ほどであった。

 僕としては白昼夢のような不思議な感覚の中にいたから、もっと長い時間が経ったと思っていた。目を開けると、肩の上のネアは暇そうに欠伸をして、ファルガ様は深い吐息を零していた。


「貴様は縁に恵まれたようだ」

「ええ、僕には勿体ないくらいですけどね」

「言うまでもなく、貴様の知る勇者には我の欠片を預けるに相応しい素質を持っている」


 良かった。

 先輩が一般的な勇者とは違うから、武具を預けるに相応しくないって言われなくて……。

 カズキと先輩に武具を預けられると聞いて、安堵する。


「あとは、我がその核を創り、託すのみだ」

「……」


 創り託す、か。

 勇者の刀を僕のものにつくり変える際に、ノルン様が慌ていたのを今でも覚えている。

 強力な武具を創り出すには、ファルガ様の肉体の一部を用いる。僕のは例外として、他の武具の性能を見る限り、ただ肉体を切り離しているわけじゃないだろう。

 カロンさんや先代勇者の武器の強さを見る限り、力そのものを切り離しているのかもしれない。

 ノルン様があんなにも慌てていたのも、ファルガ様のその行為が肉体に多大な影響を与えることを危惧してのことだとしたら……。


「……いや」


 僕が何を言ってもファルガ様を止めることはできない。

 この方はそれを承知で、二人に武具を預けようとしている。一人で結界を維持し続けたノルン様を影ながら支えてたのもこのお方だ。

 思惑こそは読めないけれど、間違いなくファルガ様は人類の味方といってもいいだろう。

 自身の体すらも切り離して、僕達人間に協力してくれている。


「ファルガ様は、人間が好きなんですね」


 失礼だと思うけど、そんなことを言ってしまった。

 僕の言葉にファルガ様は、目を見開く。十秒ほど無言のあと、彼が重く口を開いた。


「貴様には、言わねばならないな」

「へ?」

「カロンの内に眠る龍の因子がどこから来たか、についてだ」


 カロンさんの龍の力の出所……!?

 まさかノルン様やレオナさんでもなく、ファルガ様本人からそれが明かされるとは思ってもいなかった。


「結論から言えば、カロンは我が子孫のようなものだ」

「はぁ!?」


 肩の上のネアが驚愕する。

 ネアのその反応を見て、ファルガ様が愉快げに笑みを浮かべる。


「その点でいえば、貴様と近い。人間と神龍の混血。龍の血は限りなく薄くはなっているが、その潜在能力は褪せることなく、受け継がれていく」


 確かに、吸血鬼とネクロマンサーのハーフのネアに近いものがあるな。

 だけど、意外だとは思わなかった。

 龍の因子を持つ以上、何かしらの血が彼に混ざっているとは考えていた。……さすがにファルガ様のものだとは思わなかったけど。


「どうして、カロンの体に貴方の力が?」


 訝しんだ様子のネアの質問に、ファルガ様がやや声を低くさせる。


「その理由は、魔王が先代の勇者に打倒され、封印された時にまで遡る」

「魔王が封印ってことは、何百年も前の話ってこと?」

「そうだ」


 まさか、そこまで遡るのか?

 これは、僕が考えている以上に難しい問題なのかもしれない。


「魔王が封印されたそのあと、我は人という存在の価値が分からなくなっていた。調和と平和、それを司る神龍である我にとって、人間はそれを乱す悪なのではないか? 争いを繰り返し、同族を裏切り、異種族を虐げ、無意味に破壊をもたらす人間という存在に、力を貸してしまったことは正しいことだったのか? 己の行動にさえ疑問を持ってしまったあの時の我は、自身の在り方を見失っていた」

「貴方様が、ですか……」

「それほどまでにかつての魔王軍と人間の争いは壮絶なものだった」


 神龍であるファルガ様が人間を疑問視してしまうほどの争い……想像したくないな。


「それで、どうなったのですか?」

「自身の存在すらも見失いかけた我は、今一度人間の価値を見定めるために人の姿へと変身し、一つの都市に入り込んだ。神龍のファルガとしてではなく、ただの一人の人間のファルガとしてな」


 人間を知るために人間になった、ということか。

 というより、ネアのように人の姿になれたのか。ネアの変身は吸血鬼特有のものかと思っていたけど、ファルガ様は魔術かなにかで変身したのかな?


「魔王との戦いの傷跡が色濃く残るその都市は、酷い有様だった。怪我を負う人間で溢れ、食物も満足にない。だが、それでもそこに存在する人間達は絶望に暮れることなく諦めずに日々を生きていた」


 絶望に負けずに、生きる人々。

 自分を見失いかけていたファルガ様にとって、その光景は筆舌に尽くしがたいものだったのかもしれない。


「そんな人間達の様子を見ていた我に、一人の人間が声をかけた。それが彼女との出会いだった」

「彼女? もしかして、その人がカロンさんの……?」

「ああ」


 ”彼女”と語ったファルガ様の口調は優しげだった。

 遙か昔の記憶を思い出しているのか、僅かに口の端を歪ませたファルガ様は続けて言葉を紡ぐ。


「彼女との出会いを通じて、我は人間という存在をより深く知ることになった。それは、長い時を生きる我にとって楽しいものだった。人間の生とは驚きの連続であったからだ」

「……」


 ファルガ様がどれほどの年月を生きているかは分からない。

 分からないけど、そんな彼が語る人間の生という言葉に僕は重みのようなものを感じた。悪い意味ではなく、命の尊さを感じさせるような、そんな言葉であった。


「彼女を見初めた我は、神龍としての務めを忘れ人の生を謳歌した。子を成し、人の親となり、数十年の時を過ごした我は、彼女の死を看取ったその後……彼女の故郷、ミアラークを守る神龍となった」

「……私と、似てるわね」

「ん?」


 ファルガ様の言葉を聞いて、肩の上のネアが小さくそんなことを呟いた。

 肩の上の彼女はすぐに誤魔化すようにぷいっと顔を背けるけど、似ている、という言葉は聞こえた。

 ……その言葉で僕は、彼女のいた村のことを思い出した。

 あの村で、ネアは二百年以上村の住人を演じ続けた。その理由は詳しくは聞いていないけど、先ほどの呟きで彼女の心情は察せられた。

 人の生きる場所を神龍として見守ってきたファルガ様。

 村人が住む村で、自身の姿を偽りながら共に過ごしたのであろうネア。

 確かに、似ている。


「……本来、カロンは暴走する前に止められたのだ」

「っ!?」


 考えに耽っていた僕は、零すように呟いたファルガ様の予想外の言葉に動揺してしまう。

 暴走する前に止められたってことは、ミアラークがこんなことにならずに済んだということなのか?


「龍の力が目覚めようとしていようが元は人間には変わりない。目覚めて間もない状態であれば、魔術で息の根を止めることができた……だが、それができなかった」

「ファルガ様……」

「カロンは魔王に対する切り札となり得る存在だ。奴が我の力、我の創り出した武具を完全に我が物とすれば、その力は強力無比なものになる。それに、異世界から召喚された二人の勇者もいる。彼らと協力し立ち向かえば、魔王を倒すことができる」


 魔王を倒すことができる力。

 神龍であるファルガ様の力を受け継ぐ彼ならば、その力は勇者であるカズキと先輩と同等……いや、それ以上かもしれない。

 実際、肉体の力においても僕と同等以上の力を有していた。 


「しかし、それはあくまで建前に過ぎない」

「え?」


 建前……?


「どれだけ理由を取り繕おうとも、カロンを殺せなかったことには変わりない。我は、決意できなかったのだ。自身の子孫であるカロンを殺すことをな」

「……それは!」


 それは、しょうがないことじゃないのか……!?

 自分の息子にも等しい存在を殺さなければいけない状況で、決意しろというのが無理な話だ。


「いずれ我が血族がこうなることは分かっていたのだ。”奴”がやろうとしていることが、我の考えている通りならば、今回の出来事は避けることができない。……分かっていても、我は非情に徹することができなかった。なぜならば、何度世代を経ても、カロンには彼女の面影が残っている。それだけで、我の決意は何度も揺り動かされてしまうのだ」


 目を伏し、悔やむようにそう言葉にしたファルガ様に何も言うことができない。

 今まで見守ってきたミアラークの民であり、自身の子孫にあたる人間を殺すなんてこと、できるはずがない。


「カロンがここに留まっている理由は我を殺すためだろう」

「っ、ファルガ様を!?」

「己が力の根源を殺し、本能から解き放たれようとしている。そうなれば、奴は第二の邪龍と化し、視界に映る全てのものを破壊し尽くす可能性がある」

「第二の邪龍!?」


 なぜカロンさんがここに留まっているか疑問に思っていたけど、ファルガ様がここにいたから留まっていたのか!?

 つまり、ファルガ様が殺されれば、暴走したカロンさんがミアラークから解き放たれる……! そんな状態のカロンさんが暴れ回れば、大変なことになるなんてレベルじゃないぞ!

 僕とネアの焦燥を見たファルガ様は、目を伏せた。


「龍は、人間である貴様らが想像するよりも脆い生物だ。どれだけ強く、知が優れていても、その精神までもが優れているわけではない。力に呑み込まれれば、我が片割れのような破壊と殺戮のみを至上とした怪物に変わってしまうような……簡単に傾いてしまう弱い生物なのだ」

「貴方様も、そうなんですか?」

「ああ、我は己の感情に囚われ、判断を見誤った。人間の未来を想うならば、あの時カロンを殺すべきだった」

「違うわ」


 ファルガ様の言葉をネアが遮った。

 驚きのままに、肩の上の彼女を見れば、どこか強い意志を感じさせる瞳でファルガ様を見つめていた。


「それは違うわ。きっとそれをしたら貴方は生きようとはしなくなる。殺したくないから殺さなかったのに、それを後悔するのは駄目なのよ」

「ネア……?」

「原因の一端の私が言うのはお門違いだと思う。でも、貴方が後悔するのは早いのよ。まだカロンも生きているし、ミアラークも滅んじゃいない、私達だって生きているんだから」


 ネアの言葉にファルガ様は無言になる。

 その表情からなにを思っているのかは伺うことができない。


「自分のやったことに後悔して、死にたくなる気持ちは痛いほどよく分かる。私もバカをやって、大切なものを失いそうになったわ。でも、このお人好しのおかげでそうならなかった。……だから、まだ希望はある」


 ……ネアもこの旅で変わってきているということか。

 まだ一ヶ月という短い間だけれども、その変化は決して小さいものではなかった。


「ネアの言うとおりです」


 僕も彼女と同じように、ファルガ様を見上げる。

 そうだ、まだカロンさんを助けられる可能性が残っているうちは諦めるなんてできるわけがない。

 元から彼も助けるつもりだったけど、レオナさんとファルガ様の話を聞いた今では、その気持ちは揺るがないものになっている。 


「僕達がいます。第二の邪龍も誕生させませんし、カロンさんも助けてみせます」

「……困難だ、と言われても貴様はやるというのか?」

「僕は救命団です。そのくらいの無茶は通します」


 いつだって無茶をやってきた。

 今回も、それは変わらない。

 カロンさんには帰りを待ってくれている人がいるし、そんな彼を死なせたくないと願う人もいる。

 僕が助けたいと思う理由はそれだけで十分だ。


「……やはり、貴様は強い人間だ。だからこそ、愚直なまでに前に進めるのだろうな」


 そう呟いたファルガ様は表情を穏やかなものにさせて、僕とネアを見下ろした。


「貴様は勇者としての素質はあるが違う。勇者とは戦い勝利する者で、貴様は他者の為に戦い救う者。だからこそ、勇者ではなく貴様が訪れたことは、我らにとって幸運なことなのかもしれないな」

「そ、そこまで持ち上げられるのは……」


 きゅ、急に褒められて、むず痒くなってしまった。

 少し恥ずかしくなって照れ隠しに頬をかいている僕に、ファルガ様は悩むように目を瞑った後に口を開いた。


「もう隠すことは何もない。その上で、貴様に頼みたいことがある」

「え? 頼みたいこと、ですか?」

「貴様にある者を救ってほしいのだ」


 救ってほしいって……この話の流れで改めて、そう言われるのはおかしいけど――、


「カロンさんのことですか?」

「カロンではない。先ほどの言葉で、そう願う必要がないのは分かっているからな」


 どこかおかしそうな彼の言葉に、僕は首を傾げる。

 確かに、願われなくてもカロンさんを助けると、僕の中では決まっている。

 ……だとしたら、ファルガ様は誰を……?


「その者は己の使命を背負い、なにもかもを一人で解決しようとしている。自身を苛む迷いすらも振り払うことなく引き摺り続けた彼女は、最悪の手段を行うことを決意してしまった」

「最悪の、手段?」

「禁断の泉の一掬いを手に、この都市に危機を及ぼす者と相打たんとしようとしているのだ」

「……っ」


 その言葉に、ファルガ様の足下の泉を見やる。

 ”クレハの泉”

 人を狂わせる水。

 命を力に変える毒。

 力を求める者に破滅と狂気を与える泉の水を、ファルガ様の言う”彼女”は手に入れた。


「まさか……!?」


 昨日の、彼女の様子はそういうことだったのかッ!

 ようやく、彼女に抱いた違和感の正体に気付いた……いや、気付いてしまった!

 アマコの言うとおり、僕はなんて鈍感な奴なんだッ!

 少し考えれば、彼女がどれだけ精神的に追い詰められていたかなんてすぐに分かったはずだ!


「……っ!」

「使命に囚われ、一人で抱え込むことを是とした彼女に、我の言葉も、ノルンの言葉も届かない。だが、貴様の言葉ならまだ届くはずだ」


 今日、僕のことを心配してくれていた。

 無理はするな、と。

 心配をかけさせるな、と。

 無茶をしている僕を気遣うように優しくしてくれた彼女が、他ならぬ一番の無茶をしようとしていたなんて、想像もできなかった。


「ウサト、レオナを救ってほしい。これは、勇者であることを願わなかった貴様だけにしかできないことだ」


 彼女は死ぬつもりだ。

 自分の命を投げ打って、カロンさんを止めようとしているんだ。

今回は、カロンの出自(?)とファルガの内に秘めた苦悩についての話でした。


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