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治癒魔法の間違った使い方~戦場を駆ける回復要員~  作者: くろかた
第五章 水上都市ミアラーク
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第百十三話

お待たせしました。

第百十三話です。

 ただ硬いだけの籠手。

 完成した武具はあまりにもシンプルな性能を有していた。

 広範囲に渡り破壊を及ぼすような武器でもなく、相手に致死レベルの一撃を与える武器でもない、ただ守るための防具。

 勇者の使っていた武器が、このような形になってしまったことは先代勇者には申し訳ない気持ちにはなるけど、僕はこの籠手を気に入っていた。

 ファルガ様に籠手を貰ったその翌日の午前、僕は籠手を用いてアルクさんと模擬戦を行っていた。炎を扱うアルクさんとの模擬戦。

 しかも、今回は木剣ではなく刃を潰した鉄製の剣を用いての戦いだ。

 炎を纏わせた剣によるテクニカルな戦い方を発揮できる彼は、レオナさんと同じく、僕にとって天敵といってもいい強敵に違いなかった。


「フッ……!」


 拳は握らずに、手刀の形にさせて前に突き出した右手でアルクさんの炎の剣を弾いていく。

 上からの振り下ろしを掌で逸らし、横薙ぎを腕で受け止める。

 弾いた籠手には感覚こそは感じれど、痛みも、熱さも何も伝わらない。これなら、ネアに操られたアルクさんと戦った時のように、熱で使えなくなるという事態にはならない。


「これが、こいつの性能か!」


 左腕はいつでも拳を打ち出せるように構え、右腕はひたすらに防御に用いる。

 この模擬戦において、それが僕の新しい戦い方となりつつあった。


「やはり、硬い……!」

「僕もびっくりしていますよ!」


 アルクさんも籠手の堅さに驚いているようだ。

 僕の方は、腕以外の場所は勿論熱いけど、直接炎に当てられているわけじゃないから全然耐えられる。


「さすがですね! ウサト殿!」

「アルクさんこそ!!」


 しかし、アルクさん自身も前に戦った時と違い、誰に操られることもなく本領を発揮できる状態で戦えている。

 僕が攻撃を籠手で弾き、躱せる攻撃を見切った上で懐に入り込もうとすると、その前にあっさりと後ろへ引いて、仕切り直すように剣で斬りかかってくる。

 必要以上に踏み込んでこないあたり、アルクさんの戦い方は巧いと驚かされる。


「これは避けられますか!」

「っ!」


 剣を拳で弾いた僕に、掌に複数の魔力弾を生成したアルクさんが、それらを一斉に僕へ投げつけた。

 ルクヴィスでミーナが使った広範囲型の魔力弾!? アルクさんも使えるのは意外ではなかったけど、この近距離で使ってきますか!?


「でも! 僕にはこいつがある!」


 この籠手の特徴は硬いだけじゃない。

 魔力の操作を補助してくれるこの籠手のおかげで、僕の治癒魔法に新たな技が加わった。

 魔力を右の掌に籠め、それを迫る魔力弾に向ける。


「弾けろ!」

「なぁッ!?」


 掌から圧縮された魔力が爆発し、アルクさんが放った魔力弾全てを誘爆させる。

 これが新技、治癒魔法破裂掌。

 系統強化の一環で、魔力の暴発をなにかに利用できないかと試行錯誤した結果、近距離での回避と防御を兼ね備えた技になった。

 色々な問題があって今の今まで使えなかったけど、この籠手のおかげでようやく実戦で使えるようになった。


「行くぞ、アルクさん!」

「な、ななななにをやっているんだウサト!?」

「うぉ!? レオナさん!?」


 模擬戦の続きをしようと右手で砂煙を払うと、横から飛んできたレオナさんが血相を変えて僕の両肩を思い切り掴んだ。

 アルクさんも剣を構えたまま呆然としているけど、レオナさんは僕の右腕を持ち上げ怪我がないか確認した。


「君はなんて危険な魔力の使い方をするんだ!? 系統強化はそんな使い方をするものじゃないんだぞ!?」

「あ、ええ。大丈夫です。籠手があるので右腕は無傷です」

「君というやつは、もう……」


 あぁ、系統強化を扱えるレオナさんは、僕の行った治癒魔法破裂掌の原理に気付いてしまったのか……。

 僕の言葉に憤っているのか、困惑しているような表情を浮かべたレオナさんに、剣を収めたアルクさんが近づいてきた。


「あの、レオナさん。ウサト殿は先ほどなにをしたのですか? 私には彼が掌から凄まじい勢いで魔力を放出したようにしか見えなかったのですが……」

「ウサトは、文字通りに魔力を破裂させたんだ。系統強化の欠点である魔力の暴発を意図して行う……系統強化を扱える者からすれば正気の沙汰ではない行為だ……」


 そう、治癒魔法破裂掌が使えなかった理由は、魔力を意図的に暴発させる技だからだ。

 以前、籠手なしでやったときは掌が血だらけになって大変だし、魔力を込める時間もかかるし実戦には使えないと思っていたけど、この籠手によって問題は解決した。

 しかし、余程僕の行動に危機感を抱いたレオナさんはぐいぃっと肩を掴む力を強め、顔を近づけてくる。


「な、の、に、君はどうしてそんな危険なことを平気でしでかそうとするんだ! いくら籠手があるとはいえ、もしもの事態ということがある! ファルガ様の武器も完璧じゃないんだ。行き場を失った魔力が逆流することだってありえるかもしれないんだぞ!?」


 必死なレオナさんの言葉に圧倒されながらも頷く。

 それで落ち着いてくれたのか、やや疲れたような表情を浮かべた。


「ウサト、次にこういうことをする時は私達に言ってくれ……君だけじゃなく、私の心臓にも悪い。系統強化は本当に危険な技術なんだ」

「す、すいません。気をつけます」


 以前、ウェルシーさんにも散々釘を刺されたな……。

 ……怒られてしまったけど、とりあえずはこの技は十分に使える技だってことは分かった。

 効果自体は単純に掌の上で圧縮した魔力を爆発させるだけで、威力自体も人を軽く吹き飛ばす程度しかないし、その範囲も一、二メートルくらいしかない。

 だけど、地面に放って自分の体を浮かせたり、身動きの取れない状態で使ったり、相手に打ち込んだりと、治癒魔法弾並の用途がある。

 あとはそうだな……治癒魔法本来の使い方として、怪我をした人の全身を一瞬で治せることが利点かな?


「でも、前に試したときは、手が傷だらけになって大変だったんですけど、今じゃ籠手があるので十分に実戦で使えるんですよっ。ほら、魔力も一瞬で溜められますし!」

「どういう発想で魔力の暴発を利用するという考えに至るのか、不思議でならない……」


 肩を落としたレオナさんは、僕の肩から手を離した。


「ウサト、アルク殿、模擬戦の邪魔をしてすまなかった」

「別に構いませんよ。ウサト殿との戦いに、私も熱が入りそうになっていましたから。止めてくれて幸いでした」


 申し訳なさそうにしているレオナさんに、爽やかに笑うアルクさん。

 涼しい顔して怖いことを言うなぁ。

 でもアルクさんの場合、本気になれば本当に熱が入りそうなんだよね。ネアに操られているときに見せた、あの炎。系統強化ではない、普段抑えている彼の本来の魔法。

 正気を保っているアルクさんがあの炎を使えば、僕も本気でいかなければならないけど、彼の力は氷を操るカロンさんと戦う上では頼もしいことこの上ない。


「ウサト殿、籠手を使ってみた所感はどうでしたか?」

「びっくりするほどしっくりきました」


 アルクさんの言葉に満足気に頷く。

 初めて籠手を用いた戦闘ともあって最初こそうまく扱えるか不安があったけれど、この籠手はまるで元から存在していたかのように、僕の戦い方に組み込まれた。

 流石は、僕専用の籠手といったところだ。


「慣らす必要があると思いましたけど、それも必要ないかもしれません」


 僕の新しい戦い方。

 それは回避と防御を両立させた近接戦。

 治癒魔法弾と破裂掌での魔法を駆使し、相手の不意を突いて最大の一撃を叩き込む。

 ……今までと変わらないんじゃないか? と言われればあまり否定はできないけどね……。

 そう考えて、苦笑していると、僕とアルクさんの会話を聞いていたレオナさんが顎に手を当てる。


「と、いうことは、これでカロンと戦える準備が整ったか」

「ええ」


 レオナさんの言葉に僕とアルクさんが頷く。

 動きの無駄を省いた回避術。

 籠手を用いた防御。

 耐性の呪術で冷気に対する耐性を付与。

 この三つで、ようやくカロンさんと真っ向から戦える条件が揃った。


「結界を維持しているノルン様も限界が近い……ウサト、アルク殿、今夜、カロンと戦うための作戦を考えよう」

「……ノルン様は、大丈夫なんでしょうか?」

「平気な顔を装っているが、限界に近いだろう」


 昨日、治癒魔法で体の疲労は癒やせたけど、疲れ切った心は全く癒やせていない。

 僕達が来る前までも不眠不休で結界の維持に努め、今日までそれを続けていると考えると……いつノルン様が倒れてしまってもおかしくはない。

 僕の武具が完成し準備が整った今、次にするべき行動は決まっていた。


「分かりました。今夜、作戦を考えましょう」


 カロンさんとの戦いが近い。

 それを意識すると、自然と籠手が嵌められた手に力が入ってしまった。



 一通りの訓練を終えた僕は、自身の籠手を見つめながら訓練場を離れていた。

 訓練場から城に入るあたりで、僕に一羽の黒色のフクロウ、ネアが飛び乗ってきた。


「ん? ネアか。今まで見ていたのか?」

「……ええ。退屈だったけど、見ていたわ」


 どこか不機嫌な様子でそう言ってきたネアに苦笑した僕は、右腕の籠手に“戻れ”と念じ、鉄製の腕輪に変える。

 昨日どうやって戻そうか悩んでいたけれど、僕の意思でいつでも戻せるのは地味に便利だと思った。

 やろうと思えば、左腕にも装備できるし、わざわざ籠手のまま持ち歩く必要がないのもかなりいい。

 あと、かっこいい。

 リングル王国に帰ったら先輩に籠手装着シーンを見せつけてドヤ顔したい。


「僕の新しい籠手はどうだった、ネア?」

「貴方にぴったりなんじゃない?」


 先輩の反応を想像しながら、ネアに籠手について聞いてみると、そっけない言葉が返ってきた。


「その場にいなかった私は知らないけど、ね!!」


 語尾を強めて、ぐりんとこちらを睨み付けたネアに呆れて溜息が漏れる。

 ネアは、昨夜、僕の籠手が完成したときに起こされなかったことを怒っているのだ。

 彼女は、自分だけのけ者にされた、だとか、自分だって僕の籠手が作られる瞬間が見たかった、などとプンスカと怒りを僕にぶつけたあとに、今の今までふて腐れていた。


「起こさなかったことについては謝ったじゃないか」

「気持ちが全ッ然籠もってなかった。というより、私だけ仲間はずれってどういうこと?」

「だって起きなかったじゃん」

「もっと気合いいれて起こしなさいよ! 私だって勇者の刀が籠手に変わるところを見たかったのに!」


 気合い入れて起こすってなんだよ。

 デコピンでも叩き込んでやればいいのだろうか。……それはそれで文句言ってきそうなのだけど。


「元はといえば、君が寝るの凄い早かったからじゃないか。いつも思うけど、君って人間的に言えば健康な生活をしているけど、夜の魔物としては不健康な生活を送っているよね」

「ぐ、そ、それは……夜は誰も話し相手がいないから……」

「え?」

「なんでもないわよ!」


 ボソボソと呟いたり、真っ赤になって怒ったりして忙しい子だなぁ。

 でも、楽しみにしていた手前、起こさなかった僕が悪いからもう一度謝っておこう。


「まあ、本当に悪かったよ」

「……分かればいいのよ」

「でもまさか、君が早く寝る理由が一人じゃ寂しいからだとは思わなかったよ」

「~~!!」


 耳元でボソボソと呟かれたら嫌でも聞こえる。でも意外にも、ネアにも子供っぽいところがあるんだなぁ。

 翼でべしべしと僕の頭を叩いてくるネアに微笑ましい気持ちになりながら、城の中を歩く。

 城を歩くのも慣れたもので、迷いなく自室までの通路を進んでいく。しかし、突然耳鳴りが聞こえたことで足を止めてしまう。


「―――っ」


―――貴様に、話がある。


 耳鳴りと共に聞こえた声は、ファルガ様の声であった。

 僕が頭を押さえて立ち止まったのを見て、ネアが声をかけてくる。


「ウサト、今なにかされたわね? 一瞬だけ貴方の魔力が乱れたわ」

「……ああ。ファルガ様の声が直接頭の中に……僕になにか話があるようだ」


 今日の作戦会議に関する話だろうか?

 それなら僕にではなく、ノルン様に話をかけるはずだけど……。

 僕を直接呼んだってことは、誰にも聞かせたくはない話でもするつもりなのだろうか?


「ネア、僕はファルガ様のところに行くから……」

「私も行くわ。昨日置いて行かれたんだから、今日こそは付いていく」


 根に持っているなぁ。

 このまま部屋に戻そうとしても無理矢理ついてきちゃうか。ま、ネアが一緒でもファルガ様は許してくれるだろう。

 強情な彼女に苦笑しながら、元きた道を引き返した僕はファルガ様の元へ通ずる道がある広間へ向かうのだった。

カロンとの戦いはすぐそこまで迫っていますね……。


本日第四巻が発売されましたが、それに際して重大発表(?)のようななものを活動報告にて書かせていただきました。

興味のある方は是非、活動報告を覗いてみてください。

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