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治癒魔法の間違った使い方~戦場を駆ける回復要員~  作者: くろかた
第五章 水上都市ミアラーク
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第百十二話

お待たせしました。

第百十二話です。

 僕の武具が完成した。

 ファルガ様からの知らせを聞いた僕とアマコは、まず自室で休んでいるアルクさんとネアを呼びにいった。アルクさんは起きていてくれたけれど、ネアは部屋の扉を叩いても一向に出てこなかった。

 不思議に思い、ドアノブを回すと鍵がかかっていなかったので、入ってみると、彼女はベッドで四肢を投げ出して爆睡していた。

 サマリアールでも見たことあるぞ、と内心で不用心な彼女に呆れた僕はこの状態の彼女を起こすことは難しいと判断し、彼女に布団をかけてから部屋を後にした。

 結局、僕、アマコ、アルクさんの三人で再び玉座のある広間にやってくることになった。

 玉座に待っていたのは、ノルン様一人だけだった。レオナさんは? と質問すると、彼女は先にファルガ様の元へ行っているらしい。

 僕達も広間に到着次第すぐに地下へ向かう。

 広間の中央の床に立ち、最初と同じようにエレベーターのように地下へ降りていく。数分ほどで地下に到着すると、ファルガ様の大きな体と、彼の前に立つレオナさんの姿が見えた。

 なにかを話していたのだろうか?

 地下へと降りてきた僕達を一瞥したファルガ様は、彼らしくない深い溜息を吐くと、若干うつむいているレオナさんに話しかけた。


「レオナ。今の話をゆめゆめ忘れるな。貴様がそうしたいのならすればいい。だが、それは唾棄すべき手段だということを理解しろ」

「……はい」


 話はそこで終わったのか、無言でお辞儀をし、こちらへ振り返った彼女は少し無理をしているようにも見えた。

 僕と同じことを思ったのか、ノルン様が心配そうな表情でレオナさんに声をかけた。


「レオナ、ファルガ様となにを話していたの?」

「次のカロンとの戦闘についての話です。先ほどは、不相応なことを言ってしまい、お叱りを受けていました。これからする話には影響はありませんので、心配はいりません」

「……そう」


 カロンさんとの戦闘について、か。

 嘘はついていないのだろうけど、なんか引っかかるな。

 ノルン様もどこか釈然としなさそうだし……。


「待っていたぞ、ウサト」

「お待たせしました。それで、僕の武具が完成したと聞きましたが……」

「正確には完成ではなく、その一歩手前。完成させるのは貴様だ」


 え、僕が?

 まさか技術的なことが必要になるのだろうか?

 自身を指さし驚いている僕に、ファルガ様は続けて言葉を紡ぐ。


「心配せずとも、貴様がすることはそう難しくはない。重要なのは、明確な意思だ。どのような力を求め、またそれをどのように扱うか、その思いを核にして武具は形となる」


 ファルガ様の口から、銀色の球体が飛び出て彼の周りに浮遊する。

 恐らくあれが僕が渡した勇者の小刀だったもの。

 球体はファルガ様の前で停止すると、ふわふわと僕の前にやってきた。それを右の掌で受け止めた僕は、形の定まらない球体に、不思議な感覚を覚えた。


「僕の武具って、どういう形になるんだろうなぁ……アマコはどんなのだと思う?」

「棍棒、槌、モーニングスター、鉄球」

「どうして鈍器なのか教えてくれないかな? ねぇ?」


 アマコが僕にどんなイメージを持っているのかよく分かった。

 確かに鈍器関係はしっくりきてしまうと自分でも思うけど、まさかそれをイメージするほど僕は野蛮じゃないぞ。


「ははは、ウサト殿は盾とかも合いそうですね」

「彼の俊足を生かした武具も考えられるな……。うーむ、ウサトは考えられる武具の候補が多いから、どんなものがくるか予想できないな……」


 一方でレオナさんとアルクさんは真面目に僕の武具を予想してくれている。

 実際、僕がどのような武具を望んでいるかは、僕自身よく分かっていない。イメージはあるけど、それが僕にとって正しい武具なのかが判断できないんだ。


「ファルガ様、この後は……」

「ただ念じろ。貴様の在り方を、貴様のこれまでの道筋を。そうすれば、自ずと我が断片は貴様に最も適した形に変わる」

「僕の、道筋……」


 掌の上の球体の存在を感じながら、僕は目を瞑る。

 僕のこれまでの道筋、その始まりは犬上先輩とカズキの勇者召還に巻き込まれたその日から始まった。

 この世界にやってきたその日に、救命団に入った。

 ローズに鍛えられて、リングル王国の為に戦う人達の為に戦場を駆け抜けた。救命団員としての僕の根底には、傷ついた人を助けたい、誰かの死で悲しむ人がいないようにしたい、ローズに認められたい……そして、犬上先輩とカズキの助けになりたいという思いがあった。

 ルクヴィスではナックと出会った。

 ミーナの虐めで苦しんでいた彼に、僕は救命団への道を指し示した。それは、僕がローズにこの世界でするべきことを教えてもらったのと同じだった。

 サマリアールへの旅の途中で戦った邪龍。

 今回の一件の原因にもなった邪悪な龍の復活は、一時は多くの命が危険に晒される大事件になりかけた。最後は、アマコ、アルクさん、ブルリンと力を合わせて邪龍を倒して、誰一人の命も奪われることなく解決することができた。

 そして、サマリアールの呪い。

 サマリアールの姫、エヴァの体を蝕んでいた呪いを破壊するために奮闘した。全ては、勇者という存在に魅入られてしまった魔術師が原因だったけれど、最後は呪いに囚われていたサマリアールの民と王族の魂を解放し、エヴァの奪われた肉体を取り戻したことで解決した。

 長いようで短い道のりだったと思う。

 大怪我もして、精神が壊されそうになってと、普通じゃ考えられないほどに波乱に満ちた異世界の生活だったけれど、不思議とそれが辛いものだとは思わなかった。

 なにせ、この世界で僕は沢山の人に出会ったからだ。

 頭に浮かぶだけでも、数え切れないほどの人との縁は、僕のこれまでの道のりが無駄じゃないという証なんだ。

 だから、その縁を僕は大事にしていたい。

 誰かを傷つける力や、倒す力が欲しいんじゃない。

 僕は、守るための力が欲しい。僕の手が届く限り、どんな脅威も撥ね除けることができるような、そんな力が。


「……ウサトの手の球体の形が変わっていく……」


 アマコの声に僕は閉じていた目を開く。

 見れば、僕の掌の上にのっていた球体は、僕の肘から先を覆うように流動し輝いていた。普通なら驚いてしまうような光景だけど、僕は不思議と落ち着いていた。

 十秒ほどかけて、肘から先を隙間なく覆った光は虹色の光を放つと、はじけ飛ぶように宙へ霧散した。僕の腕に残っていたのは、銀色の籠手。

 ファルガ様の鱗のような文様以外に派手な装飾はなく、ほぼ隙間がないが、動かしにくい感じは全くなかった。


「これが、僕の……」


 武具というより鎧みたいなものだけど、この形はある意味で予想通りだった。

 試しに手首をぐるぐると回してみるけど、やっぱり見た目以上に動きやすい。


「……やはり、貴様はあの若造とは違っていたな」

「ファルガ様?」

「どれ、その腕を見せてみろ」

「は、はい」


 どこか感慨深そうな視線を向けてきたファルガ様に、右腕の籠手を見せる。

 彼の瞳に魔術の文様らしきものが浮かび、籠手を明るく照らした。

 数秒ほど籠手を凝視していると、ファルガ様の表情が僅かに歪んだ。なにか問題でもあったのだろうか? と不安になっていると、瞳の魔術を消したファルガ様が大口を開けて笑い出した。


「フ、ハハ、ハハハハ!!」

「!?」

「嘘!? ファルガ様が笑った!?」


 地下に響くほどの大声で笑っているファルガ様に、僕達は勿論、彼のことを知っているレオナさんとノルン様までもが驚愕する。

 ひとしきり、ようやく笑い声を押えたファルガ様は、僕達を見下ろして愉快気に声を発する。


「すまぬな。あまりにも予想外だったので堪えきれなかった。我が大口を開けて笑うなど本当に久しぶりだ。最早、心まで枯れ果て、笑うことなどないとばかり思っていたが、いやはや、何が起こるか分からんな」

「あ、あの、なにかマズいことでも……?」


 どうしよう、神龍を爆笑させてしまった。

 邪龍はげらげらと下品に笑っていたけど、まさかファルガ様を驚かせるばかりか爆笑させてしまうとは思わなかった。

 もしかして、これは結構よくないことなのではないか?

 不安になる僕に、ファルガ様はやや上機嫌に僕の籠手を指さした。


「貴様が創造させた籠手は、何物も通さない無類の堅さを誇るものだ。高熱、冷気、魔術でさえもこの籠手を通すことができない。簡単に言えば、とてつもなく硬いだけの籠手。それだけだ」

「すっごい簡単に言いましたね!?」

「普通ならば、出来損ないの烙印を押される武具だ。それも当然だ。ただ硬いだけの籠手など用途が限られすぎているからな。だが、扱う者が貴様なら話が違う。レオナ、ウサトと戦った貴様ならば分かるだろう?」


 ファルガ様の声に、レオナさんが神妙に頷く。


「まさしく、これは貴様の為の籠手だ。卓越した動体視力と反射で脅威を察知し、強力な力にも己が膂力ではじき返せる貴様ならば、これを十全以上に扱うことが可能だろう」


 ……ようやく、僕の戦い方が分かってきたような、気がする。

 この籠手は攻撃に用いるのではなく、相手の攻撃を弾く盾だ。

 あらゆるものを通さないと言うことは、カロンさんの冷気を纏う斧の刃さえも掴み取ることができる。

 何よりも、この数日間の訓練に問題なく組み込むことができるのがいい。


「ということは、これの能力はあらゆるものを通さない無敵の籠手、ということでいいんでしょうか?」

「勿論それだけではない。籠手に魔力を込めてみるがいい」

「? はい。……!?」


 ファルガ様の言うとおりに籠手に治癒魔法の魔力を込めて、すぐに違いを理解した。

 魔力の操作が前よりもスムーズになってる!?

 治癒魔法弾を作ってみれば一秒とかからずに作れるし、相当量の治癒魔法だって掌に込められる。

 あれ? これって魔力操作を工夫していけば、色々できるのではないか?

 緊急回避用の治癒魔法破裂掌とか、集団戦用の治癒魔法乱弾だとか。


「言っただろう? 貴様の為の籠手だと」

「でも、地味じゃないですか……これ?」

「不満がある訳ではないだろう?」


 確かに、そうですけど。

 魔力の操作を補助してくれる、ただ硬いだけの籠手か。

 なんだか、治癒魔法しか扱えない僕らしいな。


「今まで、我が肉体の断片を与えたものは皆、強力な武具を創造していった。若造はあらゆるものを封じ込め、解放する一対の刀。暴走したカロンが手にし、形に変えたのはあらゆるものを凍結させる斧。それなのに貴様は、全くの攻撃力すらないただ硬いだけの籠手を創り出した。これが笑わずにはいられないだろう」

「え、えーと……」

「貴様を貶めているわけではない。むしろ、貴様の在り方に賞賛すら送りたいとすら思っているのだ。竜となったカロンを前にして、傷つける為ではなく、守るための武具を創り出した貴様には、我が武具を持つべき資格が確かに備わっていたということだ」


 そこまで大仰に褒められるような考えは持っていないのですが……。

 ただ、自分が強い力を持つイメージがなかっただけというのもあるし……。


「まあ、僕が大それた武器なんて持っても宝の持ち腐れにしかなりませんし、多分……使うことを躊躇してしまいます。それなら、やっぱり僕らしく殴った方が断然いいかなって……」

「うん。確かに、その方がウサトらしい」


 しまった、墓穴を掘った。

 僕はそこまで褒められるようなことはしていないと主張しようとしたら、アマコに隙をつかれてしまった。

 しかも、僕の傍らにいる彼女は、言い淀んだ僕を見て不思議そうに首を傾げている。


「我が欠片を任せる。元は勇者の品だが、今は貴様のものだ」

「はい」

「貴様のこれからの旅路に我が欠片を連れていくがいい。我が認めた人間の行く末を見守るのも、一興だ」


 一度、自身の籠手を見た僕は、はっきりとファルガ様に頷く。

 ファルガ様も満足そうに目を瞑ると、静かな声で僕達に口を開く。


「ならば、話は終わりだ。今日はもう休むがいい」


 その言葉を切っ掛けにして話を終わらせたファルガ様。

 僕達も彼の言葉の通りに、地下から地上に戻るべく移動する……のだけど、僕は右腕の籠手を見て暫し固まった。

 数秒ほど、籠手を見て黙り込んだ僕にアマコが首を傾げる。


「ウサト、どうしたの?」

「ごめん、ちょっと戻る」

「え!?」


 小走りで、泉の中に戻ろうとするファルガ様の元へ戻る。

 後ろから僕の様子を心配したアマコ達も追いかけてくるが、それに構わず僕はこちらを振り向いたファルガ様に、右腕の籠手を見せる。


「あの……すいません。これ、どうやって外すんですか? 普通に外れる気がしないのですが……」

「我が言うのもなんだが、締まらぬな貴様は……」

「ウサト、それはないよ……」


 腕とほぼ一体化している籠手を見て、ずっとこのままだったらどうしよう、と不安になっていた僕にファルガ様と後ろのアマコは呆れた視線を向けるのだった。

あらゆる脅威も通さない無敵の籠手(すごく硬いだけの籠手)

ウサトの武具は籠手になりました。

感想欄にて、私の想像を超える予想を挙げてくださり、皆様の発想力の高さにある意味で恐々としていましたが、なんとか彼の武具を出すことができました。

新しい武具を手にしたウサトの活躍にこうご期待を。


練習として、二万字ほどの作品を書いてみました。


『セカンドチャンス~七度の滅びを迎えた世界で、救済を目指す~』


シリアスと戦闘描写の練習の為に書いた作品ですが、二万字も書いてお蔵入りにするのもあれなので、作品として出してみました。


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