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治癒魔法の間違った使い方~戦場を駆ける回復要員~  作者: くろかた
第五章 水上都市ミアラーク
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第百二話

お待たせしました。


第百二話です。

 ミアラークの城で僕達を待っていた人物は、ポーションを暴飲する女王であった。

 最初こそは面を食らっていた僕であったけど、彼女と国を取り巻く状況を考えれば、無理の無い話であった。

 そんな彼女に治癒魔法をかけた後、改めて自己紹介をした僕達は先程と同じようにノルン様の前にいた。


「失礼な態度を取ってしまって申し訳ないわ」

「いえ、状況が状況ですし、僕達も気にしていません」


 先程の疲れきった表情から、満ち足りたような顔に変わったノルン様。

 治癒魔法が余程効いたのか、まだ隈は残ってはいるもののくたびれた感じは完全に消え失せていた。


「だけど、治癒魔法とは盲点だったわ。まさかこれほどまでに有益な魔法だなんて想像していなかった……これさえあれば、不眠不休で働き続けられるんじゃないかしら? この騒ぎが終わったら治癒魔法使いを集めて……」

「体は治せても心までは治せません。どれだけ体が動けても、それを支える精神が疲労しきってしまったらいずれは倒れてしまいます」


 その治癒魔法は体に優しくても、心には優しくない。

 治癒魔法で無理矢理体を癒やして、不眠不休で仕事し続けたら、頭がおかしくなってしまうだろう。

 僕の言葉に女王は残念そうにすると、傍らにあるポーションを掌で弄んだ。


「もうポーションに頼らなくてもいいと思ったけど、まだ必要みたいね」

「ノルン様。貴方様はまず治癒魔法使いを探すよりもポーションから離れた方がいいです」


 ノルン様の後ろに控えていたメイドさんが忠告するも、ノルン様は一切耳を傾けずポーションを大事そうに懐にしまった。

 この人、本格的にポーション中毒に陥っていないか?

 ポーションを置くのではなく、懐にしまったあたりで結構手遅れな気がするけど。


「さて、貴方達はリングル王国からの使者でいいのよね?」

「はい。私達はある目的を持って、ミアラークにやってきました。……それでは、ウサト殿」


 アルクさんに促され、懐から書状を取り出した僕はぎこちなくも、ノルン様にそれを渡す。

 書状を開いた彼女は無言で書状に目を通すと、小さなため息を吐いた。


「……魔王ね」


 恐らく、今回ばかりは協力を取り付けるのは無理だろう。断られるとかそういうのじゃなくて、この国はそれどころじゃないからだ。

 だけど、魔王の脅威が近づいていることは伝えておこうと思い、書状を渡した。


「白い服を纏った少年が訪れる……彼の言った通りね」

「……え?」

「この答えは保留にするわ」


 保留? 断らないのか?

 予想ではすぐに断られるとは思っていたのだが、どういう意図を以て保留にしたのだろうか。

 隣を見れば、アルクさんも困惑しているようだ。


「私達は今、ミアラークの危機に立ち向かっている。そんな時に貴方達が訪れてきたのは偶然じゃない。貴方達は来るべくしてここにやってきた。そして、私も貴方達が来ることを知っていた」

「……!」

「しかし、私は信じてはいなかった。彼が外で暴れている今、ミアラークに入ろうなんて思う者がいるはずがない。いたとしても、今頃氷づけにされ息絶えているだろうから」


 彼女の言い方だと、僕達がここを訪れる前から来ることを予期していたような言い方だ。

 しかも、予期したのは彼女自身ではなく、別の誰かに聞こえる。


「それでも貴方達はここまでやってきた。だからこそ、私はここまでやってきた貴方達に語らなければならないわ。この都市に起きた災厄の始まりを、龍の力を持った男に突如として襲いかかった悲劇を―――」


 そう言葉にしたノルン様は、続けて言葉を紡ぎ出す。


「外で暴れている者は、元はミアラークの騎士よ。名前はカロン。……その表情から察するに、この話は既に彼女から聞いているようね?」


 彼女? ああ、メイドさんの話か。

 そう思い至った僕はノルン様の言葉に頷く。


「大まかな説明は終わっているのね。なら、まずは彼のことを詳しく話しましょうか」


 ふむ、と頷いた彼女は説明を再開させる。


「彼は、つい最近まではあのような龍の力を持っていないただの青年だったの」

「普通の人間だった、ということですか?」

「それは違うわ。彼は普通の人間では無いの。ただの青年であっても、その出自には複雑な事情があったの」


 複雑な事情?

 曖昧な言い方だな……。


「彼は優れた騎士だったわ。武力に優れ、思慮深く、いずれはこの都市の勇者にすらなれる可能性すら秘めていた。実際に、彼ともう一人選ばれた候補、どちらに誉れある勇者としての名を与えるか騒ぎにもなったわ」


 勇者になるはずだった、というレオさんの発言はここからきているのか。

 でも、そこまでの実力者だったのなら、どうして暴走なんてしたのだろうか?

 首を傾げていると、ノルン様が続きの言葉を紡いだ。


「そんな時に、彼に異変が起こったの―――何かに耐えるように頭を押さえた彼は、近くにいた騎士に怪我を負わせてしまうほどに錯乱してしまった」

「それで牢に?」

「ええ、数人がかりでも押さえつけられない彼を閉じ込めるのに、かなりの時間が掛かりはしたけど、それでもなんとかミアラークの最も頑丈な檻へ幽閉することに成功したわ。でも、その檻も結局のところ……時間稼ぎにしかならなかったの」


 丁度二週間前―――一ヶ月前から幽閉されているとしたら、半月でカロンさんはミアラークを脱獄してしまったということか。


「牢を抜け出た彼は、まるで何かに引き寄せられたかのように宝物庫に向かっていったわ。そこで彼が手に取ったのはミアラークの宝―――魔王を打倒した勇者が扱っていた剣に匹敵する力と潜在力を秘めた、この世で最も強く、自由な武器」

「勇者の武器と同等……!?」


 無意識に腰に差してある勇者の小刀に手を添える。

 今でこそ、果物を切ったり、怨霊の額に突き刺したり、あんまりな使い方だけど、これの本来の使用者の戦い方は知っている。

 サマリアールの怨霊に見せられた勇者と邪龍の戦い。

 先代勇者は、自分の体に小刀を突き刺して自身を強化していた。しかも、どういう原理かそれだけの強化で全盛期の邪龍の力を上回るほどの怪力を見せていた。

 そんなとんでもない力を発揮する武器を、カロンさんが持っているのか……。


「あの斧が、そうなのか……」

「あれは斧では無いわ。彼が使っている時は斧の形に変わっているけど、本来の形はただの棒よ。作り手曰く―――『これは弓であり、剣であり、鞭でもある。担い手の最適な形として姿を変える氷の『杖』である』と」

「斧では無く、杖」


 今の斧の形は、それが今のカロンさんにとって最も適した形の武具だということか。

 あの力なら納得だ。生半可な剣や槍よりも、力任せにたたき割ろうとする斧の一撃は僕の肝を冷やした。


「本来は、杖が選んだ担い手にしか扱えない武器を彼が扱うことは素晴らしいことなのだけど、肝心の彼があんな状態じゃ喜びようも無いわ。逆に、手がつけられなくなってしまった」

「それでは、ミアラーク周囲の水は彼が凍らせたのですか?」


 アルクさんの質問にノルン様は頷く。

 あれだけの質量の水を凍らせるほどだ。僕とレオさんが戦っている時に出されなくて良かった。その規模のものを真正面から受ければただでは済まなかっただろう。

 ……いや、もしかしたら、カロンさんの体が変身した後、繰り出された吹雪のような攻撃がそうなのか? だけど、それは湖を凍らせるほどの威力では無かったはずだ。


「都市周囲を凍らせたのは彼本人よ。しかしそれは、彼が持て余した力があふれ出した結果に過ぎないわ。普通に暴走している内は、あれほどの力を振るうことはないはずよ。……彼の力が次の段階に解放されなければ、の話だけど」

「……あの……」

「まあ、”彼”の目算では半月ほどの余裕があるから、まだ大丈夫なんだけどね」


 安心しなさい、とばかりに微笑むノルン様に僕達は顔を見合わせる。

 多分、僕と戦っている時―――彼に角と尻尾が生えたことを、次の段階に解放されたと見てもいいだろう。吹雪の威力が周囲の水を凍結させるほどの威力じゃ無かったのは、その前に僕達に大量の氷柱を放っていたからだと考えれば辻褄が合う。

 ……だけど、凄く言いづらいなぁ。

 僕が治癒魔法をかける前まで、あんなにやつれていた彼女に、カロンさんは既に次の段階に覚醒しています、なんて言うのは凄く気が引ける。


「ウサト、言いなさい」

「ウサト、言ってあげて」

「ウサト殿、お願いします」


 僕の仲間はここぞと言うときに丸投げしてくるから辛い。

 アルクさんは、戦った僕が報告すべきだというのは分かるけど、ネアとアマコは完全に面倒くさがっている感じだ。


「ノルン様」

「はい? なんでしょう? ウサト、そんな神妙な顔をして」

「カロンさんは既に覚醒を果たしています。現在は、頭に角、腰に竜の尾を生やしていました。だからその……かなりまずい状況かと」

「……え?」


 ピシリと固まったノルン様は、悲しいくらいに声を震わせる。


「も、もう覚醒してしまったの?」

「はい」


 僕が頷くと、彼女は頭を抱えた。


「落ち着け、落ち着くのよノルン。まだ大丈夫。まだ手がつけられないレベルじゃないはず。それまでに彼をどうにかできれば、まだ立て直せるわ……」


 ブツブツと何かを呟き始めたノルン様からは、妙な哀愁が漂っているように感じた。

 だけど、彼女だけではなく僕らもヤバいことには変わりない。この国に居るにしろ、出るにしろ、カロンさんとの衝突は避けられない。

 そうなった時、一つ上の段階への覚醒を果たした彼を相手に僕は立ち回れるのか?

 加えて、彼の手には勇者の武器に匹敵する武具がある。

 一応、僕にも勇者の武器があるけど、これの担い手はそもそも僕じゃないから意味が無い。

 いや、それよりもノルン様の話には不明瞭な点が多い。

 そもそものカロンさんの力はどこから来ている? 彼の魔法は、最早一人の魔力で補える範囲を超えたものだ。吹雪を引き起こし、周囲の水を全て凍らせるだけの魔力は、僕の知っている規格外―――犬上先輩やカズキも上回るほどの力があった。


『―――騎士レオナ、遅くなりましたが、戦場から帰還いたしました!』

「……ん?」


 大広間の扉から、聞き覚えのある声が響いた。

 その声を聞いたノルン様は、俯いた顔を上げると、扉の外の人物を迎え入れるかのように微笑を漏らした。


「入りなさい」

『ハッ』


 静かに扉を開け放ち、入ってきた人を見て僕は少しばかり混乱した。

 声からしてレオさんかと思ったのだけど、予想を裏切り、入ってきたのは女性だった。

 腰ほどまでに伸ばし、一つに結った綺麗な金髪と、鷹のように鋭い目が印象的な女性。

 軽装の鎧と丈の長いスカートを合わせた服装で広間に入ってきた女性は、礼儀正しく、自然なお辞儀をすると僕達のところにまで歩み寄ってきた。


「フッ……」

「?」


 彼女は笑みを浮かべ僕の肩をポン、と叩くとそのままノルン様の座す玉座の前まで歩み寄り膝をつく。

 突然、肩を叩かれた僕は、訳も分からず首を傾げる。

 なんだろう、随分とフレンドリーな人だな。まるで友人に挨拶するかのような気軽さだった。

 この都市ではそれが普通なのだろうか?


「無事に帰ってきてくれて嬉しいわ」

「勿体なきお言葉」

「カロンを相手取れる騎士は貴方だけよ。今、貴方を失うことがあれば、彼と戦える者はいなくなる。よく、帰ってきてくれました。騎士レオナ」


 レオナさんっていうのか。

 カロンさんを相手にしていたってことは、相当に強い騎士なんだろうな。

 ……ん? ついさっき、カロンさんは僕とレオさんが相手取っていたはずだけど、この人も戦っていたんだろうか?


「彼は、力の覚醒を果たしました」

「ウサトから聞いたわ。貴女の目から見て、カロンはどれほどの強さに?」

「覚醒前よりも凶暴性が増し、相応に膂力が増していると思われます。……申し訳ありません、覚醒直後に一瞬で意識を飛ばされてしまったので、正確な情報は流石に……」

「貴女ほどの騎士が一瞬で……これはマズいわね」


 レオナさんの報告を聞き、顔を顰めたノルン様。

 膝をついたままの、顔を上げたレオナさんは、一瞬だけ僕を一瞥する。


「正直に申します。私では、覚醒前のカロンにすら防戦一方を強いられ、敗北を喫しようとしていました」

「それほどまでに、彼は強く?」

「ええ、私が生きてここに立っていられるのは、ここにいる彼―――ウサトのおかげです」


 ん?

 なんでレオナさんの口から僕の名前が飛び出してくるんだ?


「彼のおかげって、どういうことかしら? 彼は治癒魔法使いのはずだから、戦える手段はないはずだけど……」

「いいえ、彼は治癒魔法と己の身体能力のみでカロンと渡り合い、気絶してしまった私すらも助けてくれました」

「……ウサト、それは本当……ウサト?」


 ノルン様がこちらに話しかけているが、混乱したままの僕の頭は彼女の言葉を認識できなかった。

 混乱した頭のまま、レオナさんの方を見る。

 僕の視線に彼女は首を傾げた。


「あの、レオさん……ですよね?」

「む、なんだ今更―――」

「女性、だったんですか?」

「……」


 レオさんの前にいたノルン様とメイドさんが、呆けたまま固まった。

 レオさん―――レオナさんも、笑顔のまま表情を硬直させた。

 暫しの無言の末、ゆっくりとこちらへ近づいてきたレオさんは、思い切り僕の肩を掴んできた。


「まさか、私のことを男と勘違いしていたのか? 今の今まで?」

「え、あの背が高かったし、鎧越しで声もくぐもっていたからてっきり……」

「背が高ッ……わ、私のことをレオと呼んだのは?」

「そ、それが名前だと思っていたからです」


 そう言うと、レオさん―――レオナさんは力なく肩から手を離す。

 とりあえず、最初に謝ろうと思い声をかけようとすると、彼女は肩を震わせながら声を絞り出した。


「いいんだ。ウサト」

「いや、あの……」

「勘違いしたのは私だ。そうだ、そうだな。君より背が高くて、全身鎧に身を包んでいれば男と勘違いするのも無理は無い。しかも、こんな女らしくない口調で、男勝りな性格だからな……。だから、謝る必要は無い。そうだ、舞い上がっていたのは私だけなんだ。フ、フフフ、二十歳にもなって、童のように舞い上がっていたんだ」


 斜め下を見て、泣きそうな顔で卑屈に笑っているレオナさんにどんな言葉をかけていいか分からない。

 悲しいことにこの情緒不安定な反応で、この人がレオさんだと確信してしまった自分は悪くないと思う。

 心なしか、ノルン様とメイドさんの視線が厳しくなったような気がする。

 後ろを見れば『え、気付いて無かったの?』的な視線を送ってくるネアとアルクさん。

 そして―――、


「アマコ、知っていたな?」

「うん」


 知っていたなら教えてくれよ……。

 いや、悪いのは勘違いした僕なんだけどさ。

 この場全員の視線に晒された僕は、まずはレオナさんにどう謝ろうか、思考を巡らすのだった。


レオさんはレオナさんだった……!(迫真)

彼女は、行動と言動は男前ですが、精神的にはかなり打たれ弱い性格の人です。


用事も一先ずは終わりましたので、更新速度の方を元に戻したいと思います。

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― 新着の感想 ―
読み直し中!そうなんだよなぁ…レオナさんはこの頃凄い残念な騎士さんだったんだよなぁ…
2025/12/04 22:24 ラブコメ好きの黒猫
うーん、それはちょっとねぇ、世間は許しちゃくれやせんよ。
[良い点] レオナさん可哀想可愛い 今回ウサトは〜1つ,名乗りでレオナをレオと聞いてレオさんと呼んでも訂正されない 1つ、男の自分より高身長のフルプレートを着てるのは男性と思うのは仕方が無い  今回は…
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