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第五十八話







 1936年2月26日、その日もあの時と同じく雪の降る東京だった。陸軍皇道派の青年将校達の影響を受けた各部隊は東京に集合した。部隊は近衛歩兵第二連隊、近衛歩兵第三連隊、歩兵第一連隊、歩兵第三連隊、歩兵第五七連隊、騎兵第1連隊、騎兵第15連隊、野砲兵第一連隊野戦重砲兵第七連隊らの一部将校が史実より大きく異なる4932名の下士官兵を率いて総理官邸等を襲撃したのである。

 しかし、雪の中を行進する反乱部隊を見ている者がいた。


「隊長、あれはまさか……」

「くそ、陸軍め。やりやがったな!! 直ちに海軍省に伝令!! 陸軍のクーデターだ!!」


 反乱部隊を見つけたのは将和私邸の護衛交代に向かう途中の陸戦隊一個中隊だった。襲撃事件があったので海軍は横須賀鎮守府から陸戦隊を派遣し海軍省、軍令部、将和私邸に駐屯させていたのだ。(各一個中隊で計三個中隊)

 そして将和私邸の護衛交代での一個中隊が向かう途中に行進する反乱部隊を発見、幸いにも吹雪いていた事、夜明け前だった事もあり反乱部隊が陸戦隊を発見する事はなかった。陸戦隊は伝令を走らせると駆け足で将和私邸へ向かった。


「(やっぱりか。しかも今回は数が旅団規模とはな……)鈴木侍従長と渡辺総監に電話する。警戒態勢だ」

「了解!!」


 将和から電話を受けた鈴木侍従長は変装して九段下方面へ回り込むようにして逃走。渡辺総監も変装してから私邸を出て行方を眩ましたのである。

 海軍省では陸軍のクーデター騒ぎに大慌てだった。


「直ちに横鎮に連絡!! 陸戦隊二個大隊を各駆逐艦に移乗し芝浦に上陸させよ!!」

「砲艦でもいいから東京湾に侵入させて砲口を麹町方面に向けろ!! 民間人への誤射は目を瞑るしかない!!」

「警視庁より連絡!! 特別警備隊一個大隊が総理官邸に向かいました!!」


(……死ぬなよ、三好君……)


 部下からの報告を聞きながら宮様はそう思った。





「行くぞ!!」


 約1000名の襲撃隊が総理官邸に現れたのは0510頃、しかし正門にはある部隊がいた。


「中尉!! 正門に警視庁の特別警備隊が展開しています!!」

「何!?」


 特別警備隊、それは内務省警視庁に設置された警察部隊であり集団警備力として1933年に設置されていた。

 その特別警備隊は正門前に一個大隊800名が陣取り、自動式拳銃や警杖、サーベル、更には陸軍から譲り受けた十一年式機関銃、三十年式歩兵銃を構えていた。


「おのれ、高々警備隊風情が陸軍に叶うわけない。機関銃小隊は援護しつつ全隊は突撃!!」

『ウワアァァァァァァァ!!』


 栗原中尉が突撃命令を出し、機関銃小隊が射撃を開始する。


「隊長!! 叛乱部隊が突撃してきます!!」

「機関銃は射撃を開始!! 各個で応戦せよ!! 白兵戦用意だ!!」


 特別警備隊も機関銃が射撃を開始し小銃や自動式拳銃で応戦を開始する。しかし、僅かな小銃や拳銃では対抗しきれなかった。


「駄目です、取り付けられます!!」

「クソッタレ!! 全員覚悟を決めろ!! 掛かれェ!!」

『ウワアァァァァァァァ!!』


 特別警備隊も突撃を開始、正門前で白兵戦が展開されたのである。

 一方、総理官邸に襲撃する五分前の0505頃、高橋大蔵大臣私邸には中橋中尉らの部隊約500名、斎藤内大臣私邸には坂井中尉、高橋少尉らの部隊約500名、0510頃には鈴木貫太郎侍従長官邸に安藤大尉の部隊500名が襲撃した。しかし……。


「何!? いないだと!?」

「は、斎藤内大臣がおりません!!」

「ぬぅ、読まれたか!!」


 高橋大蔵大臣私邸を攻めた中橋中尉は部下からの報告に舌打ちをする。


「……やむを得まい。安藤大尉殿と合流して第二計画を発動だ!!」


 中橋隊は斎藤隊、安藤隊と合流して主力が攻める私邸――三好将和の私邸へ向かったのである。一方の渡辺錠太郎教育総監私邸を0600頃に襲撃した安田少尉と高橋少尉の部隊約400名も空振りだった。


「くそ!! 勘づかれたか!! 直ちに安藤大尉殿と合流する」


 0630頃、将和の私邸正門前に駐屯していた海軍陸戦隊約二個中隊は合流して戦力を増強した安藤隊約2000名と交戦していた。


「ちぃ、陸軍どもめ!! 何で海軍の三好中将のところなんだよ!!」

「裏で五・一五の馬鹿どもとつるんでいたんだろ!!」

「手を休めるな!! 重擲弾筒は撃ちまくれェ!!」

「擲弾撃ェ!!」


 中隊長は陸軍から供与してもらった八九式重擲弾筒を操作する隊員にそう告げる。擲弾筒を操作する隊員は擲弾を連続発射をし叛乱部隊に叩き込む。


「奴等、擲弾筒を保有しています!!」

「構うな!! 少人数だ、数で押しきれ!!」


 指揮官の安藤大尉はそう指示を出し重機、軽機が射撃を開始する。

 そして将和はというと、私邸の部屋にて夕夏達を落ち着かせていた。


「お父さん……」

「大丈夫だ紫。ほら、レティも」


 震える紫とレティを将和は抱き締めて落ち着かせている。更に加賀と長波も抱き締めてくる。そこへ夕夏との三男である将永が11年式軽機を抱えて入ってきた。


「親父、皆は地下室に避難させた。後は加賀ちゃん達だけだ」

「ん。ほら、皆も将永に付いていきなさい」

「御父様」


 将和の言葉にレティはヒシリと将和に抱きついたがそれを引き離したのはターニャ自身だった。


「やめなさいレティ。御父様は貴女のために戦うのよ」

「……ごめんなさい」

「そんな事はないよ。さぁ涙を拭きなさい、可愛い顔が台無しだよ」


 将和はそう言ってハンカチを出して涙を流すレティの顔を拭き取る。そして頭をポンポンと軽く叩いた。


「大丈夫、直ぐに収まるさ」

「……うん……」

「さぁ行きなさい」


 加賀達は将永を先頭に地下室に向かう。そこへ入れ替わりに将治が入ってきた。


「陸戦隊の援護としてマキシムは屋上に設置してきたぞ親父」

「ん。将治はミハイロ(ターニャの長男)とマキシムで援護射撃。無茶はするなよ?」

「合点承知!!」


 将治はニヤリと笑い部屋を出る。そしてシャーリーに視線を向ける。


「シャーリーは麗蓮と共に地下室へ。皆を安心させてくれ」

「あいよ」

「一杯奢ってもらうからね」

「夕夏と美鈴。二人は無茶せずに負傷者の手当てな」

「勿論よ」

「はい、お任せください!!」


 そして将和達は駆け出す……が、何故か将和のところに川島芳子もちゃっかりといたのである。


「危険だぞ」

「戦場が危険なのは上海で学んできたよ」

「ならいい。無茶はするな」

「あぁ」


 将和はMP18に弾倉を付けて引いていた槓桿を戻して9mmパラベラム弾を薬室に装填し鉄帽を被り銃撃戦をする正門付近まで腰を落として向かう。その間、屋上にマキシム機関銃を取り付けた将治とミハイロが射撃をしていた。


「ミハイロ撃ちまくれ!!」

「分かってるよ兄ちゃん!!」


 ミハイロが引き金を引くマキシム機関銃は.303ブリティッシュ弾を銃口から吐き出し突撃してくる叛乱部隊に叩き込む。録な防御力が無い叛乱部隊は瞬く間に兵士が倒れていく。


「クソッタレ、俺が殺したって試験の時は言わないでおくか」

「なーに、バレたら樺太に行きゃあいいさ兄ちゃん」

「そうなったらノンナと会えないだろ!!」


 二人はそう言いながらもマキシム機関銃を撃ちまくるのである。その支援射撃の元で将和と芳子は正門付近の陸戦隊陣地に到着する。


「戦況は如何に!?」

「三回目の突撃を防いだところです!! ですがこのままじゃあジリ貧ですよ!!」

「援軍が来るまで持ちこたえるしかあるまいよ!! 手榴弾投擲しろ!!」

「はい!!」


 数名の陸戦隊員が手榴弾を投擲する。物陰に隠れていた叛乱部隊の兵士達は慌てて手榴弾を投げ返そうとするが将和はそれを読んでおりMP18を叩き込み叛乱部隊の兵士達が倒れて数秒して手榴弾が爆発、更に10数名の兵士達が空へ飛ぶのである。


「今度は野砲でも用意しておきますかな!?」

「戦車にしておくよ!!」


 そして陸戦隊が再び射撃を開始するのである。一方で安藤大尉達は総理官邸に向かった栗原中尉達の部隊からの伝令に驚愕する。


「何!? 栗原達が戦死しただと!?」

「はい、増援に来た近衛歩兵第一連隊が我々の後方から攻撃をしてきたため部隊は敗走。特別警備隊に捕縛されるか近衛歩兵第一連隊に捕縛されるかになりました……」


 漸く近衛師団配下の第一連隊が総理官邸に到着、叛乱部隊を敗走させたのである。この戦闘で栗原中尉、対馬中尉らが戦死。更に池田少尉や林少尉らは特別警備隊員に取り囲まれ激しい格闘戦の末、捕縛されるのである。

 此処に到り安藤大尉は昭和維新の失敗を悟った。


「最早これまで……此処からは部下達の生命を如何にして救うかが肝要である」


 だが安藤大尉の説得を他所に警視庁制圧から合流した野中大尉らの青年将校達は突撃を選択、1032に再度将和邸に向かっての突撃が開始された。


「クソッタレがよ!!」

「くゥッ!?」

「川島!?」


 モーゼルを撃っていた川島が左肩を抑えて倒れる。将和が服を破いて傷口を見るが骨は砕いておらず貫通銃創だった。


「大丈夫だ、死にはしない」

「だと良いがな」

「アホ。お前は死なさん」

「……………」


 冗談で言ったつもりの川島だったが将和は真顔で返した。その表情に川島は不覚にも黙ってしまう。そして川島の表情は何気に嬉しそうだった。


「あの親父、また落としやがったよ」

「いつもの事だよ兄ちゃん」


 弾切れしたマキシム機関銃に再装填した将治とミハイロはそう言いつつ射撃をする。なお、この射撃で野中大尉が戦死した。これにより交戦継続の空気は薄れ安藤大尉はまだ逸る青年将校達を抑えて後退を開始したのである。


「中将、奴さんら引いていきます」

「……周囲を警戒しつつ奴さんが遺棄した死体と負傷者を収容するぞ」

「了解です」


 陸戦隊中隊長はそう頷くのである。そして邸の庭は宛ら野戦病院のようであった。


「畜生、出血が止まらないぞ!!」

「ほら、止血はこうするのよ!! 軍医は銃弾の摘出を早く!!」

「包帯の替えを!! 急いで下さい!!」


 負傷者の救護に夕夏が活躍していた。美鈴も包帯を持ちながら患者の周りを走り回っている。


「俺達……何をしていたんだろうな……」

「あぁ……」


 その様子を頭に包帯を巻いた二人の陸軍兵士は負傷して横たわる兵士達を見つめながらそう呟くのであった。








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