第五十二話
本日四話目
上海事変後、将和の第一航空戦隊は1月21日に上海沖に到着した。野村吉三郎中将の第三艦隊から先行し護衛の駆逐艦も僅か4隻の一個駆逐隊程しかなかったが時間が惜しかったので将和は野村に直訴をし野村も承諾した事が幸いだった。
「三艦隊が到着するまで上海の制空権は一航戦のモノとする。各員、死力を尽くせ」
将和はそう訓示をし攻撃隊を発艦させた。十九路軍は上空を乱舞する日の丸を付けた飛行隊を確認して混乱状態に陥った。
「馬鹿な日本軍だと!?」
「我が軍の航空隊は何をしている!?」
十九路軍からの要請に国民党軍も航空隊を派遣し上海上空で一航戦と空戦を展開する。しかし、一航戦は将和によって鍛え上げられた猛者達であり国民党空軍の敵ではなかった。あっという間に国民党空軍機は瞬く間に蹴散らされ、多数が撃墜された。
この撃墜されたパイロットの中にアメリカ退役軍人のロバート・ショート中尉が含まれており村井上海総領事がアメリカ総領事に抗議をする程だった。なお、上海租界に関しては十九路軍が租界入口まで後300mまで迫っていたが一航戦の航空隊による爆撃で撤退していた。なおこの時、ハンナが四試特殊爆撃機(史実六試特殊爆撃機)を『鳳翔』で運用しており250キロ爆弾を搭載して十九路軍陣地を急降下爆撃を何度も敢行する程だった。
「ハハハ、やはり急降下爆撃は最高だな」
野砲を吹き飛ばす光景を見ながらハンナはニヤリと笑うのである。なお、この戦訓を元に防弾装備を取り入れた92式艦爆として採用されるのである。(94式までの繋ぎとも言われる)
それはさておき、一航戦の猛攻で上海は陥落する事なく三艦隊が1月24日に到着、載せていた陸戦隊と機械化部隊を上海に投入するのである。
だがそれでも戦局は有利にはならなかった。
「日本軍の新戦力だと? クソッ原め。撤退は嘘か」
南京で報告を受けた蒋介石は眉を潜める。
「直ちに増援を出せ。奴等の屍を上海に築かせろ!!」
国民党軍は増援として約二個師団、約二個旅団を形成した第五軍(指揮官張治中軍長)を派遣したのである。張は総攻撃を仕掛けるも制空権は日本側であり数は国民党軍が多いものの海軍陸戦隊は機械化部隊を有効に活用し防衛していた。
日本政府(原)は停戦の道を模索していたが米英に仲介してもらう事にしたのだ。
「事は急を要します」
「上海の事態は判る。しかしだね……」
「無論、我々もタダでは言いません」
「ほぅ?」
「上海にある日本租界を二国に譲渡したいと考えています」
「ふむ、租界を譲渡すると?」
「はい。ただし此方も居留民の再移住先や説得に時間が掛かると思うので譲渡するのはまだ先になると思います」
日本が二国に自身の租界を売却する手段に出た事で米英も日本から攻撃してきた事ではないと理解(中国側は日本側から攻撃してきたと主張)し停戦の仲介に乗り出すのである。
2月8日、米英の仲介により上海は停戦に至った。この時、国民党軍は更なる軍勢を用意していたが停戦により派遣は無くなったのである。
そして上海停戦協定が3月3日に調印され成立したのである。また日本は米英と協議して上海租界からの撤退を1938年までに行い租界地跡を米英に譲渡すると決定し米英もこれを承諾するのであった。
「何とか逃げ道を作る事には成功しましたな」
「はい。しかし、気になるのは今回の事変です」
「田中は?」
「軍法会議で予備役にさせています。ただ……」
「ただ、何だ?」
「あくまでも未確認ですが石原莞爾と接触していたようです」
「あのクソ戯けめ」
憲兵隊総司令官に就任して内局等を探る阿部信行からの報告に東條は眉を潜める。石原莞爾は満州事変の前に予備役に編入させておりその芽を紡いではいたが田中と石原の接触も怪しげなものであった。
ちなみに満州帝国と言えば清王朝最後の皇帝愛新覚羅溥儀が有名であるが将和らが満州事変の首謀者である石原莞爾、そもそもの第一次上海事変のきっかけの一つである日本人僧侶襲撃事件を要請させた田中隆吉が予備役に追いやられているので溥儀は天津市で引き続き住む……ではなく旅順にいた。
というのも天津の日本租界も日本は引き払い中華民国に返還しており立憲政友会の犬養らの仲立ちもあり旅順に新しく居を構えていた。無論、正室と側室の確執も何とか深まる事はなくそのまま暮らしている。
「暫くは上海から目を離せそうにないです」
「証拠が揃ったら必ずしょっぴいてやる……」
(東條、ちょっと怖くないか?)
(相変わらず石原とは犬猿の仲だからな……)
闇堕ち化している東條を他所に将和と杉山らがヒソヒソと話す。
「それはさておき……重化学工業への転換はどうなっています?」
「何とか出来つつはある。まぁ前回と比べたら下地は出来ていたからな」
なお、今回は前回と比べたら+四倍の速度で重化学工業化へ転換しており史実と比べたら九倍であった。だが、それでも大国アメリカの工業力には到底及ばないのは事実である。
「カタピラ車の懸架方式もシーソー式のが開発出来たからな。何とか間に合いそうだ」
杉山らは原乙未生らを支援してケツを叩かした。これによりシーソー式が早期に開発され92式軽装甲車(史実94式)が開発配備されるのである。
「取り敢えず1940年くらいまでには何とか……だな」
「満州帝国もありませんからソ連と当たらないのが難点ですがね」
「ノモンハンか」
「まぁ機体に防弾装備を取り入れる事は厳命しておけば……それに冬戦争もありますし」
日本はフィンランドに対し内々に接触をしていた。
「ソ連は貴国に対しても領土意欲を示している」
「それは我々も承知している。日本は何を望む?」
「我が国は貴国に武器を提供します」
「ほぅ……」
日本側の代表としてヘルシンキに飛んだ畑俊六は会談で騎兵大将である カール・グスタフ・エミール・マンネルヘイムにそう告げるとマンネルヘイムは目を細めた。
「武器……ですか。成る程成る程……」
「リストは此方に」
畑はそう言って書類をマンネルヘイムに渡す。
提供武器
モシン・ナガンM1891(6,500丁)
三八式歩兵銃(30,000丁)
四四式騎銃(3,000丁)
三十年式歩兵銃(30,000丁)
マキシム機関銃(200丁)
MG08重機関銃(100丁)
二九年式速射野砲(30門)
三六式野砲(200門)
他各種重砲類
航空機
戦車
「こ、これは……」
「本来であればモシン・ナガンをもっと譲渡出来ると思いましたが、シベリア帝政にも譲渡していたのでそれくらいしか出せなくて……」
「いや、しかし……これ程を譲渡してもらえるとは……」
「いえ、まだ一部の予定です」
「い、一部!? これで一部ですと!!」
畑の言葉にマンネルヘイムは思わず腰を浮かせた。
「実は野砲等は今現在、後継砲を生産中であり配備はしてはいるんですが工業力が弱くて全てを更新出来ていませんので……。なので揃えば野砲も譲渡は出来ます。それにこの野砲、元はフランスの野砲をライセンス生産した砲なので砲弾をフランスに要請したら案外貰えるかもしれません」
「成る程……(日本……信じてみるか?)」
マンネルヘイムは幾分か悩んだが日本に賭けてみる事にし譲渡契約にサインをする。そして契約は実行される。数ヶ月後、フィンランドの港に日本からの輸送船が到着し積み荷を確認したマンネルヘイムは確信した。
(日本を信じよう……)
日本からの積み荷は武器だったからである。その後、日本はフィンランドに対して冬戦争が勃発するまでに大量の武器弾薬を提供するのである。
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