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第四十七話






 結局、蒋介石が和平に傾いた事で国民党軍も南京での戦闘を停止した。

 和平交渉は上海にて行われ、国民革命軍は賠償金は取られずに新たに青島に日米英の租界を作る事で一先ずの合意をしたのである。


「邦人保護及び内陸部租界から退去のため、漢口に陸戦隊と歩兵一個大隊を派遣する」


 南京事件が全面的になったので漢口事件はまだ発生してはいなかったが念のためとして原は軍を漢口の租界に派遣したのである。蒋介石も漢口租界から退去するならと軍の派遣を容認して六月頃には漢口からは日本人が全て退去したのであった。

 なお、遣支艦隊から帰還した将和は夕夏とタチアナにお土産を渡すのであった。


「上海の服屋でチャイナドレス買ってきたんだけど着ない? 後、亡命者も紹介するよ」

「超麗蓮だ。まぁ宜しくな」

「………」

「ほらね?」


 ウキウキしながら二人にチャイナドレスを渡す将和と自己紹介をする麗蓮を見ながらアナスタシアは溜め息を吐いたのであった。なお、夜戦はちゃんと行われた模様である。

 数日後、将和らはとある小さな料亭に集まっていた。


「南京事件までは予想出来た。しかし今回、柳条湖と張作霖の爆殺は無かった」

「その代わり、三好君のが増えたけどね」

「それは言わないでください……」


 原の言葉に将和らは頷く。


「まさかとは思うが……コミンテルンで何かあって誘発したわけではあるまいな?」


 原の言葉に将和は反論した。


「それは否定出来ません……が、もしかしたら此方を疑心暗鬼させてその隙に何かやらかす……その可能性も捨てきれません」

「むぅ……」

「我々陸軍も関東軍の動向には注視していますが今のところ暴挙には出ていません」


 板垣の言葉に東條らが頷いた。ちなみに東條達も前回の記憶持ちであり将和らに協力をしていた。特に東條は「私はヴェルダンで漸く救われた……是非とも今回も協力して靖国の庭に胸を張って行きたい」と言うほどであった。







「……そうか。蒋介石は引いたか……」

「ダー。同志スターリン」


 モスクワのクレムリンにある執務室にて連邦共産党書記長のヨシフ・スターリンは報告を受けていた。


「よろしい。下がっていい」

「ダー」


 部下が執務室から退出すると一人残るスターリン。


(やはり張作霖を爆殺すれば良かったか、そうすれば日本が動く筈だからな……)


 柳条湖事件と張作霖爆殺はスターリンがコミンテルンを通じて中国共産党に指示した事であった。しかし、途中で将和暗殺を思いつき変更させた経緯がスターリンにあったのだ。


(ならば息子に急ぎ毒酒を飲ませるようにするか。満州で暴発を誘導させれば恐らく日本は満州に深入りするはず。その隙にシベリアに侵攻する機会はいつでもある。逆に満州を取ってからシベリアに侵攻しても良い。豚を食うなら肥えた豚が良い……)


 クックックとにやけるスターリン。


「……暫くは面白くなりそうだな」


 そう呟くスターリンだった。そして再度部下を呼び出した。


「張学良に急ぎ伝えろ。満州の王に、中華の王になりたいのであれば予てからの計画である『中華作戦』を決行せよとな」


 そう指令を出すスターリンだった。また、この南京事件にて史実のような中国人が日本人を見下す事まではいかなかったものの、更に数日後に後味が残る結果となる。漢口事件は発生しなかったが張作霖が暗殺された張学良は発表した。しかも張学良は暗殺したのは日本の仕業と決めつけて奉天軍は易幟しその脚で国民党軍に降伏したのである。奉天軍の降伏に気を良くした蒋介石は張学良の降伏を受け入れた。

 これにより国民革命軍はほぼ無傷な奉天軍を迎えいれ戦力の増強が図られたのである。そして中国は形式的には国民政府により統一されたのであった。


「やられた……でごわすな……」


 山本権兵衛の言葉に将和はゆっくりと口を開いた。


「……まさかとは思いますが……」

「三好君、君には張作霖暗殺に心当たりがあると?」

「まだ確定したわけではありませんが……ソ連では無いのでしょうか……?」

『ソ連だと!?』


 将和の言葉に部屋は俄にざわつき始めるがそれを原は手で制して場を治める。


「……前回は中国共産党を通じて爆殺と柳条湖がやられたが……今度は違う手でと?」

「……でしょうな。あのグルジアの髭親父ならやりそう……いややるでしょう。なので本命は赤い熊ですな」


 将和は深い溜め息を吐きながらそう告げた。


「取り敢えずは暗殺については否定するしかないな」

「関東軍に万が一に備えての増援を送りますか?」

「馬鹿、そうなれば奴等の……ソ連の思う壺だ」


 板垣中佐の具申に東條はそう反論する。


「……『史実』が終わり、『歴史』が始まる……か」


 不意に将和がポツリと呟く。


「それは……どういう意味で?」

「……まぁ前回もそうだが……二つの事件が早期に起こった事で対中の歴史は史実から離脱し新たな歴史を歩み始めた感じだな」

「『歴史改変』してきたが『歴史創生』になった……というわけか」

「はい」


 山本権兵衛の言葉に将和は頷いた。


「ククク……こうも我々の思う通りに事は運ばない……やはり歴史というのは楽しいものだ」


 ポツリと将和は呟くがその目は笑っていた。その様子に原達の背筋はゾクリとするも将和の戦後を知る者達は(あぁ……やっぱアカ赦すまじだよなぁ)と思うのである。


「それとまだ分かりませんが、場合によっては……」

「よっては?」

「大東亜戦争の時期も早まるかもしれません。前回も同じ12月8日でしたがポーランド侵攻と同時に真珠湾が起きる可能性も0ではありません」

「むぅ……」


 将和の言葉に東條らが唸る。


「……これは新型戦車の開発も急がねばならんな」

「うむ」

「ちなみに陸さんはどのような戦車を開発するつもりで?」


 将和は何となく聞いた。


「前回と同じく軽戦車でやろうと思う。三好大佐で言うM3軽戦車だな」

「だが砲は47ミリだろう?」

「まぁな」

「成る程」

「その後に本命のチハ車だ。時代を先取りして史実のチリのような形になるがな。砲は八八式野戦高射砲を元に50口径を試作中だな。ついでに色々と魔改装してやる」

「……前回は成功してますし大丈夫ですね」

「試作を繰り返すし何とかやりたいのが本音だな。それにそろそろ騎兵用の装甲車も出来上がるだろう」


 そう語る東條であった。そして今回の事件は日本には実際痛い出費だった。満南京で居留民がやられて、漢口租界は放棄して青島へ……四個師団は元より陸海軍も急な出兵だったのだ。しかし、軍としては戦車隊、空母の経験値は増えたので内心は喜んでいたりする。

 更にそうだと思い出したとばかりに杉山は口を開いた。


「準軽機関銃として持ち込んだチェコ機関銃は評判が良かったな。あれを元に試作機関銃も開発する」


 今回の派遣で四個師団には準機関銃として輸入したブルーノZB26軽機関銃が30数庁配備されており十一年式軽機関銃と比較実験が行われていたのだ。

 そして実験はZB26軽機関銃に軍配が上がっていたのだ。


「チェコ機関銃のが威力や射程で勝っている。それに十一年式はホッパー式給弾機構では挿弾子が保護されていないから砂塵や泥濘に弱く、今回も突込・送弾不良といった故障が頻発して使い物にならなかった……がチェコ機関銃は故障知らずで動いていたという事だ。それに三年式機関銃でも歯が立たないとの報告もある」

「やはり6.5ミリ弾ではな……」


 杉山の報告に板垣はそう呟く。隣にいる畑や岡村らが頷いているのを見ると恐らくは現地で確認したのだろう。


「暫くはチェコ機関銃を輸入して準機関銃として部隊に配備、その間に新型軽機関銃を開発するしかないな」

「成る程。陸さんがそれなら海軍も口を挟むつもりは無いな」


 宮様はそう言うのである。1927年六月、南京事件の終わりが見えた事で日本に平穏はそれなりに戻った。しかし、国民党に降伏した奉天軍が怪しい動きを見せているので軍は政府の決定で関東軍に更なる増強する事で対処する事になった。関東軍には一個旅団、一個戦車中隊が新たに配備される事になる。

 関東軍は戦車の速度に若干の不満を持ち(それでも時速27キロ)、騎兵用若しくは偵察に使用出来る軽戦車、軽装甲車の開発を上層部に具申していた。

 また騎兵聯隊も軍縮によって削減された軍馬の代わりとして装甲車の配備を求めており陸軍は騎兵聯隊用として装甲車の開発に乗り出したのである。この装甲車が後に八九式重装甲車となるのであった。

 また、八六式中戦車の活躍を耳にしたシベリア帝政国も輸出してほしいと陸軍に話を持ち掛ける事もあったりする。

 だがまだ配備が僅か二個中隊しかない状況だったがライセンス生産を許可し八六式中戦車の増産を決定するのであった。

 そして将和であるが将和はこの時も同じく、フランスに向かっていたのであった。


「フランスで鋼索横張り式の着艦制動装置を搭載した空母が完成した。職員は派遣していたがやはり着艦をしての現場の者が見た方がいいと判断した。短期出張で悪いが出来ばえを見てきてくれ」


 上層部から直々の命令に将和は頷き、客船にてフランスへ向かっていたのだ。なお、将和の来仏にフランス政府は厳重態勢を敷いていたりする。


「はぁ、また外国か。何か語学がドンドン増えてる気がするな……」


 七月上旬、フランスに到着した将和は盛大に歓迎されながらも就役したばかりの空母『ベアルン』にて着艦訓練が行われたのである。なお、着艦にはイギリスから借りたソッピースキャメルで使用された。


「どうでした大佐?」


 十回程着艦して飛行甲板に降りた将和に連絡員が聞く。


「うん、この着艦装置は実に良いぞ。直ぐに日本に言ってこの着艦制動装置を取り入れるように連絡してくれ」

「分かりました!!」


 縦張り式より横張り式のが着艦しやすい。将和はそう判断して(元から思っていた)上層部に具申した。上層部も将和の具申に首を縦に振り横張り式のが建造中である『加賀』『赤城』(『天城』が優先されてまだ就役していない)への導入が決定された。

 また、五月に就役したばかりの『天城』にも導入が決定される。なお、『天城』が就役した事で『妙義』も横張り式に改装されるのでドック入りとなる。

 そして短期出張から帰還した将和は就役したばかりの空母『天城』を旗艦にして『鳳翔』と共に第一航空戦隊を編成するのであった。それに伴い、将和は少将へ昇進した。


「将官か……まさか此処にまでなるとはなぁ……」


 タチアナの長女レティと夕夏の長女紫と遊びながらそう呟いた。ちなみに夕夏とタチアナはそれぞれ第四子と第二子を妊娠していたりする。

 なお、八月二四日には島根県美保関沖にて行われた第八回基本演習(夜間無灯火演習)にて軽巡『神通』と第二七駆逐隊の駆逐艦蕨が衝突して駆逐艦『蕨』が沈没した。更に衝突を避けようとした軽巡『那珂』も第二七駆逐隊の駆逐艦『葦』と衝突して『那珂』は艦首を、『葦』は艦尾を大破してしまう事件が起きた。

 美保関事件と呼ばれる事件は『神通』艦長の水城大佐が判決前に自決してしまうが聨合艦隊司令長官の加藤寛治大将にも責任の一部はあると判決が下り加藤は司令長官の座を追われたのであった。


「そうですか、水城大佐はやはり自決を……」

「済まぬ。我々が無闇に発言すれば水城大佐を擁護していると逆に追い込まれてしまう危険もあった」


 九月、会合の料亭で将和の言葉に山本はそう陳謝した。


「いえ、ですが加藤を更迭しただけでも御の字かもしれません。それにこの事件を期に早期救助に救命胴衣の全艦全員分配備を急がせるのも手です」

「第四艦隊事件か?」

「はい。特に駆逐艦に早期配備し演習時に着用すれば犠牲者も減らせる可能性はあります」

「ふむ、それは検討しよう。兵は一朝一夕で出来やしないからな」


 宮様がそう言って頷いた。これ以降、特に駆逐艦には救命胴衣が全員配備されるのであった。




「それと来年一月には岡部金治郎がマグネトロンの特許を取得します」

「その前後に岡部に接触して官民一体のプロジェクトチームを発足してしようと思う」

「妥当な線ですね」

「やはり技術力は必要だからな」


 原の言葉に将和は頷いた。なお、このプロジェクトチームの発足により後に八木・宇田アンテナを発明した八木秀次、宇田新太郎を迎えて特許の取得に成功。前回と同じくレーダー技術は一部を除き海外流出を防ぐ事になる。

 宮様の言葉に原や将和達は強く頷くのであった。そして1928年一月、岡部金治郎がマグネトロンの特許を取得する前後に政府は海外流出を抑えるのであった。

 そして五月、済南事件は発生……しなかった。そもそも済南に日本の居留民は居なかった。その理由として前年の南京事件が絡んでいたからである。原内閣は青島に出来る租界に居留民を移動させていた。

 済南にいた日本人居留民は政府の方針に最初は反対していたが「南京事件を忘れたのか? あいつらはその気になれば平気で手のひら返しをして骨の髄までしゃぶり尽くすぞ」との言葉に漸く受け入れたのである。

 この行動に蒋介石は特に気にしなかった。彼等にしてみれば自分らの土地が勝手に返ってくるわけだ、このため第二次北伐をしていた蒋介石は北伐を完遂させる事に成功した。

 だがこの北伐も地方の軍閥勢力を残存させたままでの妥協的な中国統一なので凝りが残されたのである。一方、海軍では新たに空母『赤城』と『加賀』更に『妙義』型の『羽衣石』『赤石』の四隻が就役して三個航空戦隊を編成していた。

 第一航空戦隊は司令官を将和が留任、旗艦を空母『加賀』に変更、僚艦は『赤城』である。第二航空戦隊は航空畑を関わりがある高橋三吉少将が就任。旗艦を『天城』にして僚艦は『鳳翔』であった。

 第三航空戦隊には枝原百合一少将が就任、旗艦を『羽衣石』とし僚艦を『赤石』にした。

 八月、フランスのパリにてパリ不戦条約が締結された。なお、この時に日本は蒋介石の中華民国正統政府と認める動きをした。日本は中国の権益を何れ放棄する予定にしていたからだ。その代わりの権益はシベリア帝政国に向けられていた。

 十一月十日、昭和天皇の即位の礼が挙行、十四日には大嘗祭が行われた。そして十六日、将和は帝国ホテルにて陛下と対面していた。


「……久しいな……三好よ」

「はっ」

「祖父の代から国のために全身全霊で尽くしていた事、真に感謝致す」

「勿体無き御言葉です」

「朕も天皇になったからには全力を尽くそう。これからも宜しく頼む」

「ははっ」

「……無理はしないでくれ。またあの事件で三好に一時会えなかったのは朕の痛恨の極みである」

「……勿体無いです」


 昭和天皇の言葉に将和は今までの事を思い出し、泣きながら頭を下げるのであった。


「それで、来年は世界恐慌……か」

「はい。代案かはどうかは分かりませんが……」

「やはり前回と同じかね」

「そうなります」


 陛下をも含めた会合が始まる。将和の代案という言葉に達磨こと高橋是清が反応した。そして1929年一月、ヨシフ・スターリンがレフ・トロツキーを国外追放させた。これによりスターリンの独裁体制が完成するのである。

 三月には現首相官邸が竣工したり九月にダイヤ改正が行われたりしたが十月二四日、ニューヨーク証券取引所で株価が大暴落をしたのである。

 世界恐慌の引き金であった。









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