第十五話
「はぁ、まためんどくさい事になりそうだな……言霊って本当にありそうだなぁ」
1915年八月、将和は第一特務艦隊旗艦『生駒』に乗せてもらっていた。第一特務艦隊は旗艦を『生駒』にして『八雲』『春日』『筑摩』『矢矧』『須磨』『対馬』『新高』『神風』型駆逐艦十二隻の陣容で輸送船団を護衛していた。輸送船団は海軍航空隊のパイロット及び整備員と従軍看護婦達の看護隊である。
なお、陸軍は派遣軍を二個師団としていたが、兵器生産の遅れ(そんな事はない。欧州の戦線を出来るだけ研究してから派遣するつもりである)の都合で海軍航空隊が先に出発したのだ。
「てか従軍看護婦達も乗っているけど……やっぱいるなぁ……」
看護隊は二十名の看護婦がおり、輸送船に乗っている。将和が思ったのは将和が前回、愛に愛した女性がいるかもしれないという事だ。
「ま、どうなるかは分からんしな……案外、いないかもしれないし……」
そして将和達先遣隊がフランスに到着したのは秋の到来を告げる9月5日であった。
「そろそろフォッカーの懲罰が来るな……」
将和の読み通りにフォッカーアインデッカーによるフォッカーの懲罰が始まり連合国の全ての偵察機が戦線付近から駆逐されたのである。
そのためフォッカーの懲罰に焦る連合軍はフランスに派遣された日本海軍航空隊に目を付けるのは無理もなかった。連合軍は即座に海軍航空隊にフォッカー駆逐のため出撃を依頼してきたのだ。
「やっぱ前回と同様に空戦か……」
その将和達は現在、ドイツ軍のフォッカーE1七機と交戦をしていた。十四年式戦闘機と比べると十キロはフォッカーが速いがそこのところは想定内である。
「貰った!!」
十三年式機関銃の七.七ミリ弾がE1の左翼をもぎ取り墜落していきE1が地面に衝突する。将和の欧州での初戦果である。
「さて、まだまだ数を伸ばすか」
その後、将和は更にもう一機を撃墜した。部隊としては四機落としているのでまずまずの戦果である。しかし、偵察機を落とされまくっていた連合軍は海軍航空隊の戦果に狂喜乱舞した。
「日本の航空隊は此方の数が揃うまで粘ってもらおう」
それは事実上連合軍のために捨て石になれと言う事だった。将和達海軍航空隊は連日に渡りドイツ軍と航空戦を繰り広げた。いくら精鋭の航空隊でも連日――史実のラバウル航空戦並――の航空戦を続ければ落とされる者もいる。
「野崎と大東は帰らなかったか……」
飛行場の隅で将和は戦死した二人の小さな墓を建て墓石に酒を注ぐ。
「済まんなぁ……」
煙草は吸わない将和だが酒は飲む。というか飲む。そのためか深酒を度々するようになる。そして前回も酒で失敗しているのにも関わらず危惧する危険が現れる。
「!?」
12月の空戦中、部下の叫びが聞こえたわけではない。だが将和は不意に感じた直感で後ろを振り返る。そこには今まさに機銃を撃とうとするフォッカーE1がいたのである。
「クソッタレェ!! ブッ飛ばしてやらァ!!」
将和はそれを確認するや否や左フットバーを蹴飛ばして左旋回して逃れようとする。しかし機銃弾は無情にも将和の十四年式戦闘機に降り注いだ。
「ガァッ!?」
軽快な音を建てた機銃弾が将和の左腕を掠り、将和は急激に発生した痛みで呻き声をあげる。銃弾で機体の破片が吹き飛ぶが幸いにもエンジンに当たる事はなくエンジンは軽快に動いていた。
「この野郎ォ!!」
将和は左腕の痛みに耐えつつフォッカーE1の後方に回り込んで機銃弾を叩き込み、発動機から火を噴かせて撃墜させた。その後、将和は傷に耐えながら基地に戻り医務室に運ばれた。
「銃弾が掠るだけだから肉もあまり削がれてはいない。まぁ擦過射創だな。三日は念のために入院してもらう。何せ今のあんたは撃墜王だからな、死なれたらエライことだよ」
軍医は将和を見て笑う。今、将和の撃墜数は40に近づきつつあった。
「久しぶりの休暇と思ってくれたらいい」
「はい、ありがとうございます」
山崎司令にそう言われた将和は野戦病院の宛がわれた個室で久しぶりに飛ばない日を送る。
「……のどかだな……」
将和は窓から外の様子を見ていた。木々の葉が風に揺られている。そこへ扉をノックする音が響く。
「三好さーん、昼御飯ですよー」
そこへ一人の従軍看護婦が昼御飯と共に花瓶に花を入れて持ってきた。
「ッ!?」
花瓶と昼食を持ってきた看護婦を見て将和は驚愕した。あの時と同じくーーそこには将和が愛してもやまない女性がそこにいたのである。
「……ッ………」
将和は一瞬、手を伸ばそうとしたが不意に前回の事を思い出して口を開いた。
「あの……これは……?」
「ノースポールという花ですが?」
「いや、そうじゃなくて……」
「あら、私が折角買ってきたのに文句を言うんですか?」
「……何かすみません」
「……フフ、面白い人ですね。普通は気味が悪いと思うのに」
「いやまぁ買ってきたのなら受け取るのが道理だからね」
「……そうですか」
看護婦はそう言って部屋を出ようとするが将和は呼び止めた。
「あの……」
「はい?」
「好きな花は向日葵……だよな……夕夏?」
「………ッ……」
将和の言葉に看護婦はビクッと身体を震わせた。そして走りだそうとした看護婦だが将和は咄嗟にベッドから飛び降り、看護婦の左手を掴み逃走を阻止させた。
「夕夏……だよな……?」
「………」
ゆっくりと看護婦が将和に振り返る。そこには目に涙を溜めた風原夕夏がいた。
「やっぱり夕夏だな」
「貴方……ッ!?」
その言葉に夕夏は将和に抱き付き我慢していた嗚咽を漏らす。
「やっぱり……やっぱり……貴方だった……ッ……」
「ゴメンなぁ……輸送船団に従軍看護婦がいるのは知っていたけど夕夏がいるという確証は持てなかった……夕夏はいたかもしれないけど、前回の記憶を持っているとは思えなかった……だから……ゴメン……」
「良いの……良いのよ……誰であろうと……貴方は三好将和なの……」
遂には抑えきれなくなった夕夏は将和の胸に顔を埋める。ついでとばかりに涙と鼻水だらけの顔を将和の服に擦り付ける夕夏である。
相変わらずの夕夏の行動に将和は苦笑しつつも口を開いた。
「いつ以来だ……?」
「戦国の世からだから……500年ちょっとぶりね……」
「そうだな……何れは美鈴達もかな?」
「そうなるかもね。何せ皆、三好将和を愛しているんだもの」
夕夏はそう言って微笑むのである。微笑む夕夏に将和はその唇に吸い付いた。
「ん……んんっ……ちゅるっ……ちゅるるるっ……」
吸い付いただけではなく、そのままディープキスに突入する将和と夕夏である。そして幾分かの時が過ぎ、満足したのか互いに離れるがこつっと額を合わせる。
「ククッ……」
「フフッ……」
二人は苦笑しながらも抱き合うのである。なお、調子に乗ってそのまま夕夏を押し倒して夜戦(意味深)を三回戦もする将和と夕夏であった。
「……やっぱ夕夏のお兄さんは戦争で?」
「……えぇ、旅順で戦死したわ」
「……ゴメン……変な事を聞いてしまって」
「いいのよ……過ぎた事よ」
「前回こそはと思っていたけど……無力だな俺……」
そんな事をしている二人だった。ちなみに前回と同じく将和の深酒は夕夏が止めさせた。
「前回もだけどね貴方……酒は……飲み過ぎは良くないからね?」
「は、はひ……」
なお、薙刀で首元に添えられている状態である。(いつもの事である)
「あの……何故薙刀があるので?」
「近所に剣道場があったから習っていたのは前回に言ったでしょ? 師範越えは前回よりかは早かったわ。早苗師匠もいるから美鈴も覚醒したらそのうち来るんじゃないかしら? ちなみに万が一に備えての薙刀配布もだけど拳銃の射撃も出来るわ。後、看護婦だけどこれでも二等兵曹待遇だからね」
「そう言えばそうだった気が……」
そんな光景を部下達は安堵していた。
「漸く隊長にも嫁の貰い手が……」
「隊長が独り身だと既婚者の我々が……な?」
「そのためには隊長を何としても敵機から守らなければ……」
「まぁ大抵は落とすけどな……隊長が」
「デスヨネー」
安心する部下達である。それはさておき、将和達の部隊にも新型機が配備された。無論それはフランスのニューポール11戦闘機である。
(まだプロペラ同調装置が無いからなぁ……もう少しの辛抱だな)
配備された戦闘機を見ながらそう思う将和だった。
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