■10 冒険者ギルドで正体がバレました
街中を駆け抜け、私達の乗った荷車は冒険者ギルドの建物の前に停車した。
そこで私とガライだけ下りる。
「じゃあ、行ってくるよ」
「うん、後でまたここに戻って来て」
イクサとブッシは、医者を呼びに向かう。
エンティアに引き続き荷車を引いて走ってもらい、彼等は街中へと消えていった。
「よし」
改めて、私とガライは冒険者ギルドの扉を開けた。
夜だけど、ギルドの中はまだまだ多くの冒険者達で賑わっている。
「おい、聞いたか? サイラスの奴の話」
そして、彼等彼女等の会話は、今はサイラスの事で持ちきりだった。
「獣人共の集落に行って、ほぼ制圧したって」
「命乞いされて、仕方なく見逃してきたとか言ってたが……」
「あいつ、そんな性格か?」
「いや、報復に来たら返り討ちにするだとか言って、騎士達を連れて街の入り口に陣を張ってるそうだな。そっちが狙いだろ」
「気に入らない奴だが、また名前を上げるな」
「もしかしたら、Sランクに昇格なんてことも……」
あらら、サイラス、こちらの予想通りの事をしていたらしい。
だとしたら、目論見は失敗したという形だろう。
残念。
「あ、あなたは……」
と、ギルドの入り口に立っていた私達のところへ、一人の女性が歩み寄って来た。
三つ編みの受付嬢、コルーさんだ。
「だ、大丈夫でしたか!? その、あなた方が出ていった後、すぐにサイラス様達が集落の獣人達を叩きのめしてきたと戻って来られて――」
「大丈夫だよ、ありがとう」
私は、コルーさんに微笑みかけると――。
「すいませぇぇん!」
ギルド内の冒険者達に向かって、大声で呼び掛けた。
「襲われた集落の獣人の人達を助けたいので、呪いを解く力を持っている魔法使いの方がいたら、協力をお願いしたいです!」
いきなり轟いた私の大声に、皆がシンと静まり返る。
「今……何だって?」
そして、徐々にざわめきが起き始めた。
「獣人を、助ける?」
「獣人って、サイラス達が潰して来たっていう集落の獣人の事か?」
「助ける? なんで?」
「そういう任務が入ったのか?」
「いや、そんなわけないだろ」
「じゃあ、あの女が勝手に言ってるのか?」
「獣人の仲間か?」
ざわめきは大きくなり、皆が私達の方に胡乱げな視線を向けて来る。
無論、私達は臆さない。
仕方なし、もう一度私が叫ぼうとした――そこで。
「あー、その獣人っていうのは、街外れの集落の獣人の事か?」
冒険者達の中の一人が、私にそう問い掛けて来た。
「はい」
「いや……その、なんだ、奴等は討伐任務が出ていた悪党だ、助けるなんて……」
「承知の上です」
困ったように頭を掻くその冒険者に、私は即座に言う。
時間が惜しいのだ。
「その上で、助けて欲しい……ううん、助ける手助けをして欲しいんです」
「あ、その、こちらの方は……」
そこで、コルーさんが私達の側に立って、言葉の続きを紡いでくれた。
ありがたい。良い人だ。
「先程、サイラス様に襲撃され、傷と呪いを負った獣人の方々の治療をお願いしたいのだと、その、思います……」
「いやいやいや! あんた、何言ってんだ!?」
また別の冒険者が立ち上がった。
「あんた、この街に来たばかりの冒険者か? だったら教えといてやるが、この街の外れの集落に住む獣人共は、まず助けなくちゃいけない理由がないんだよ! どうせ今頃、この街に報復に来たところを待ち受けてるサイラス達に返り討ちに――」
「た、大変だ!」
と、そこで。
私達の背後、ギルドの玄関に、一人の冒険者が駆けこんで来た。
「サイラス達がやられた!」
そして発した言葉に、再びギルド内がどよめきに包まれる。
「なに!? どういうことだ!?」
「獣人共にやられたのか!?」
「それが、いきなり人間の女と男と魔獣が襲撃してきたって、何故か騎士団も棒立ちで」
焦りながらも、何とか情報を伝えようとするその冒険者。
「女の方は、見た目は普通だが魔法を使って、獣人に味方するような事を言ってたって、男の方は、身長がでかくて強面で、拳一発で城壁の門を吹っ飛ばして……」
喋っている途中、その冒険者は不意に、横に立つ私とガライの姿に気付く。
そして、上から下まで視線を流し……。
「……あああああ! こいつ等だ! こいつらが情報と合ってるぞ!」
「なに!?」
瞬間、皆が殺気立つ。
一気に、私達を危険人物の類と判断したようだ。
仕方が無い、こうなったら……。
「お前、一体何者なんだ!」
「冒険者ギルドだし、これを見せればいいですか?」
私は、ポケットからバッジを取り出し、掲げて見せる。
この街に来る前、ベルトナさんから受け取った、冒険者ライセンスのバッジ。
皆が、そのバッジを見て――その形を見て、一瞬で絶句したのがわかった。
「は? ……え、おい、あのバッジ……」
「え、Sランク?」
Sランクを示す形状に、全員が目を見開いて困惑し始めた。
うーん、何だろう。
なんだか、水●黄門にでもなった感じだ。
「な、え! Sランク冒険者なんですか!? では、あなた達が!」
そこで、声を荒げたのは、他の誰でもない横にいたコルーさんだった。
口に手を当てて、「はわわ」といった感じで目を丸めている。
「知ってるのか、コルー!?」
どこかの少年漫画よろしく、冒険者達がコルーさんに問い掛けた。
「は、はい。事前に王都の冒険者ギルドのベルトナさんという方から、書簡が届いていました」
コルーさんは自身を落ち着かせながら、そう説明を開始する。
「Sランク冒険者が二名、近々この観光都市バイゼルを訪れる予定で、おそらく、この冒険者ギルドにも顔を出すはずだと……」
ナイス、ベルトナさん。
ファインプレーです。
「待て、二名って……」
皆の視線が、私の横のガライに向けられる。
ガライも髪を掻きながら、ポケットからSランクのバッジを取り出して見せた。
「やっぱり! お二方が、お伺いしていた最近Sランクに昇格された二名の冒険者だったのですね!」
「お、おい、そういやぁ聞いた事があるぞ」
興奮した様子のコルーさんの一方、動揺する冒険者達の中の一人が、不意に口を開いた。
「つい先日、Sランクに昇格した冒険者が一気に二人現れたって……」
「ああ! 俺も聞いたぞ!」
「あれ、本当だったのか!?」
「馬鹿! 国内のギルドに出回った情報なんだから、当然だろ!」
「一人は、かつて王都の闇ギルドに所属し、裏の世界に名を轟かせていた存在。邪竜殺し、テロ組織の殲滅、他国スパイの除去……国が表沙汰にできない、表の実力者でも手古摺るような汚れた案件を、ただ黙々と隠れて処理してきた伝説のエージェント。《鬼神》――ガライ・クィロン!」
冒険者は、ガライを指差し叫ぶ。
そして次に、私の方を指差す。
「そしてもう一人! 素性、経歴、一切不明! だが、王都の冒険者ギルドへ現れてからたった数日、ドラゴンの襲撃、悪魔族の出現、黒狼の群れ等の難案件を次々に解決した敏腕魔法使い! 様々な魔法効果を持つ金属を生み出す異色の魔法を操る事から、付いた異名は《黒鉄の魔術師》! ホンダ・マコ!」
「………」
えーっと、ご説明ありがとうございます。
え、っていうかごめん。
いつの間に、そんな二つ名がつけられてたの?
「そ、そんな高名なSランク冒険者が、一気に二人も……」
「サイラス如きとは格が違うじゃねぇか、負けて当然だ」
私達の正体が明らかになった結果、空気的に追い風が生まれて来た。
改めて、冒険者に対するランクの及ぼす影響力を思い知る。
「ごめんなさい! 時間が無いんです! 私達の仲間が今、お医者さんを呼びに行っています! どうか、呪いを解く力を持ってる魔法使いの人! 協力してくれませんか!?」
もう一度、呼び掛ける私。
「な、なぁ、流石にSランク冒険者の判断となれば、それなりに正当性はあるんじゃないのか?」
「ああ、獣人共を助けるのにも、何か事情があるんじゃ……」
好意的な空気は生まれている。
しかし、やはり皆、腰が重い。
そもそも、ここに解呪が使える魔法使いがいないのかも?
(……どうしよう……本当に時間が――)
「……あの」
そんな中、声を上げる者が現れた。
ギルドの中のテーブルの一つに座っていた、一人の女性だった。
見た目は、教会のシスターのような、白い修道服を着ている。
よく見れば、同じテーブルには彼女の他にも数名、同じ格好の女性達が着いていた。
「あなた達は……」
「わたくし達は、プリーストとして冒険者の活動をしている、聖教会の関係者です」
聖教会?
どっかで聞いた事のあるようなワードだ……。
疑問符を浮かべる私の前に、彼女達は移動してくる。
「失礼ですが、今されていたお話は本当でしょうか?」
「本当、っていうのは?」
「あなた様が、ホンダ・マコ様ご本人なのですか?」
グッと、どこか圧の有る視線を向けながら、プリーストさん達は私に身を寄せて来る。
「あ、はい」
「ああ! では! あなたがお話しに聞く、あの《聖女》様なのですね!?」
「え? せ、《聖女》?」
目を輝かせ始めるプリーストさん達。
そういえば、王都にいた頃そんな話もあったような……。
悪魔を倒した一件で、私が聖教会に《聖女》ではないかと噂されていたとか何とか……。
「ああ! まさかこうしてお会いできる事になろうとは! これも、聖神様の思し召し……」
胸の前で手を合わせ、祈りを捧げるように瞑目するプリースト達。
な、なんだろう、この状況……。
「あ、あのー……」
「《聖女》マコ様、わたくし達に何なりとお申し付けください!」
私が恐る恐る声を掛けると、先頭に立つプリーストさんが目を開け、そう言った。
「わたくし共は、聖神様より賜りし奇跡により、解呪と治癒を行う事が出来ます。獣人の方々の呪いや傷の治療、わたくし共がご協力致します」
お、おう……これは思わぬところで、凄い助っ人が現れてしまった。
聖教会のプリーストの皆さんのキラキラした目を向けられながら、私は少し戸惑いながらも答える。
「な、なにはともあれ、ご協力よろしくお願いします」
「「「「「はい!」」」」」
ちょうどそこで、ギルドの前に何かが停車する音が聞こえた。
もしや、と思い私達が外に出ると、思った通り、そこに居たのはエンティアの引く荷車だった。
見ると、イクサとブッシの他に、三名程のお医者さんの先生と思しき人達が乗っている。
「すまない、走り回って声を掛けてみたんだけど、協力してくれる医者は三人しか見付からなかった。そっちは?」
「あ、この人達が」
苦い表情で言うイクサに、私はプリーストの皆さんを紹介する。
するとイクサは、一瞬驚いたように目を丸めた後、ニッと笑みを浮かべた。
「流石、マコ。協力してくれる医者が少ない上に時間が無かったから、イチかバチか治癒を使える魔法使いをスカウトしようかと思って来てみれば、既に解呪も治癒も扱えるエキスパート、プリーストを仲間にしていたとは」
いやぁ、全くの偶然です。
何はともあれ、彼女達にも急いで荷車に乗ってもらう。
「さぁ、皆さん、行きますよ!」
「「「「「はい!」」」」」
呆気に取られているお医者さん達も連れて、私達は《ベルセルク》の集落へ向けて再び発車した。




