■4 建設を始めたら難癖をつけられました
翌朝。
「よし、じゃあみんな! さっき言った通りの役割分担に分かれて! オープンまで、頑張って行こう!」
かくして、私達の店作りが始まった。
店舗の大きさは、私達の家よりも当然大きい。
と言っても、二倍くらいだ。
あの時作った間取りに、更にスタッフルームや倉庫とかの存在を考え、幾つかの小部屋を組み入れた。
大体の流れは頭の中で想定可能なので、私は現場監督として皆に指示を送る。
《ベオウルフ》18人と、ガライがメインになり、マウル達、女性・子供組が雑用をするといった布陣だ。
「そこそこ暑いし、小まめに水分補給もしてねー」
「「「おーう!」」」
……しかし……。
私は、敷地の外に視線を送る。
流石に建設作業中という事もあって、通行人の人達が結構見て来る。
そもそも交通量が多いので、注目度はかなりのものだ。
そしてやはり、獣人という点が別の意味で目を引くのだろう。
《ベオウルフ》達やマウルやメアラに向けられる視線の中には、決して好意的なものとは言い難いタイプのものもあった。
しかし、それに関しては、みんな我慢してくれているのか、無視してくれているのか、特に気にする素振りも見せずに作業を進めている。
このまま、何も起きなければいいんだけど……。
「おい」
と思っていたら、なんか嫌~な感じの声が聞こえた。
私は振り返る。
敷地の外に三人、若い男達が立っていた。
何やら、しっかりとした制服を着ている。
「はい、どういったご用件でしょうか」
私は即座に、営業モードに入る。
「我々はすぐそこの料亭、『黄鱗亭』の者だ」
料亭……と言っても、日本食などあるわけがないので、おそらく意味するところは高級飲食店とかだろう。
若干、険悪な空気が伝わってくる。
正直、彼等がどんな意図でここに立っているのかは、なんとなくわかるが……。
そんな私の考えを、そのまま証明するように、彼等の中のリーダー格の男が言った。
「なんで獣人なんかが王都にいるんだ? ここは人間の暮らす場所だぞ」
彼の発言に、《ベオウルフ》達が動きを止めた。
「別に、獣人が王都に入ってはいけないというキマリは無かったはずですが」
私は事務的な口調で答える。
「ハッ、国王のお膝元のこの街で、よくそこまで不遜な事が言えたな。まぁ、そんな事よりも、だ」
そこで、そちらの方が本題だとでも言うように、彼は私の後方の《ベオウルフ》達を指差した。
「お前等、何をしてるんだ?」
「出店予定の店の店舗を建設しています」
「おいおい、ここはウィーブルー家の経営する青果店の新店舗ができる場所だぞ?」
呆れたように、男は溜息を吐いた。
「我々も、ウィーブルー家には毎度、質の良い野菜の仕入れで随分世話になっている。それゆえ、無法者のお前等をきちんと取り締まりに来た」
なるほど、ウィーブルー家の扱う青果は、飲食店等にも卸売りされているのか。
納得する私の一方、男はビシッと決め顔で言った。
「勝手に店なんか建てるな、薄汚れた獣人共が。市井警備の騎士団に通報するぞ」
「許可なら貰っていますよ」
即座、私は男達へ言い放った。
「なに?」
「こちらが証明書になります」
私は、この王都へ入って来た時に門番達にも見せた書状を、彼等の目の前に広げる。
胡乱げな顔をしていた彼等も、それを見ると、驚いて目を丸めた。
「……ふ、ふん、あのウィーブルー家当主も、随分と奇特な事をされたものだ……」
ちょっと動揺を見せながらも、取り繕うようにリーダー格の男は言う。
「獣人が王都で店なんぞ出して、上手くいくわけないだろうに。そもそも、お前達が迎え入れられると思っているのか?」
そこで彼は、私を指さす。
「お前も、何で人間のくせに獣人と一緒に居るんだ」
「そんなに珍しいですか?」
「珍しいに決まってるだろ。悪い事は言わない、どんな事情があったかは知らないが、獣人なんぞとはつるまない方が良い。それに、店舗経営だって甘いものではないぞ?」
男は両腕を鷹揚に広げる。
「ここは、王都でも人気店が犇めく一等地だ。こんなところで、ペーペーのお前等如きが店を出したとして、やっていけるはずがない」
更に、声を低く落とし、ドスを利かせて。
「それに、場合によっては、過激な思想の奴等に何をされるかわからないからな」
「脅しですか?」
「警告だよ。そもそも、獣人を下に見る意識は王族や上位階級民の中にこそ根強くある。ここは王都。王の居城と、貴族達の住処。そんな城下町で、無事でいられると思うのか?」
「それなら大丈夫ですよ」
私は続いて、イクサからもらった方の書状を開く。
「かのイクサ王子が、私達の出店経営を支援してくれておりますので」
「イクサ王子ぃ?」
すると男は、小馬鹿にしたような声音になって鼻白む。
「まぁ、あの方も一応は王位継承権所有者だ。私だって悪く言うつもりはないが、王族の資産を使って遊び惚けている放蕩王子と噂されるような人柄だからなぁ」
いや、凄い言ってる、めっちゃ失礼な事言ってる。
「そんな方に比べたら、第三王女のアンティミシュカ様の方が、現国王に対する忠誠心も高く……」
「お、おい」
そこで、仲間の二人の内の一方が、慌てて彼に声を掛ける。
「そのイクサ王子だが、なんでもアンティミシュカ王女を倒し、彼女の所有する権力のほとんどを受け継いだらしいぞ」
「え」
それを聞き、リーダー格の男の表情が固まる。
「そ、そんなわけ、だってイクサ王子は……」
「本格的に王位継承競争に参戦する構えだとか。その挨拶代わりとして、アンティミシュカ王女を血祭りに上げたと聞いている」
血祭りに上げた事になってるんだ。
流石に、そこまで残酷な事はしてないですって……。
「だから今、第三位の称号を持っているのが、イクサ王子だ」
「………」
リーダー格の男の額から、冷や汗が溢れ出している。
一瞬の沈黙。
直後、彼は俊敏な動作で私の方に振り向くと。
「ま、まぁ、せいぜい頑張れよ」
それだけ言い残して退散しようとした。
「あの、また後でお邪魔させてもらいますね」
そんな彼等の後ろ姿に、私は笑顔で言い添える。
「へ?」
「お店の名前、わかってますから」
さっき名乗ってたからね。
男達の表情がさぁっと青褪めた。
「昼食の際には、利用させていただきます」
「………」
かくして、男達は無言のまま去って行った。
「ふぅ……」
私は嘆息を漏らす。
そこで。
「……やっぱり、嫌われてるんだな」
《ベオウルフ》の一人――バゴズが、そう呟いた。
彼は出発前から、一番その事を気にしていた一人だ。
今の状況に、他の皆も、マウルもメアラも、不安そうな顔をしている。
「みんなの事を嫌いだって言う人達を、頑張って好きになる必要はないよ」
そこで私は、彼等に言う。
「100人中95人をわざわざ相手にしなくたって、後の5人ときちんと交流を深められれば、生きるのに難しくはない。100人くらいいれば、5人くらいは理解を示してくれる人もいるからね。これって商売でも一緒でね、そのたった数人がお金を出してくれれば、案外商売って成立するものなんだよ」
だから、気にしなくていいよ、と、私は皆に微笑みかける。
「そうか……そうだな」
その言葉に、《ベオウルフ》達は顔を上げる。
「嫌いな連中を相手にするくらいなら、好きな人のために……って事か」
「そうだな」
「少なくとも、その好きな相手のために、頑張ればいい」
そう言うと、皆が私の方を見詰めて来た。
「うん?」
「おっしゃ、頑張るぞ!」
そう言って、《ベオウルフ》達は更にテキパキに動き始めた。
なんだかわからないけど、気合が入ったようでよかったよかった。
その後、作業は順調に進み、骨組みが出来上がって来る。
私は《錬金》の力を用い、〝足場材〟を次々に錬成。
それを組み上げ、高所での作業も行えるようにした。
これで、作業効率は更にアップできたはずだ。
※ ※ ※ ※ ※
さて、その後。
約束通り、私達は先程やって来た男達の働く料亭――『黄鱗亭』を訪問した。
なるほど、中々しっかりとした佇まいだ。
料理のクオリティも結構良い。
従業員達が、どこかビクついた態度をしているようだけど。
「そういやぁ、例のあの件ってどうなったんだ?」
皆で食事をしている最中だった。
たまたま近くの席に腰掛けていた二人組の男達の会話が、耳に入った。
「王都の近くの農場や牧場が、最近現れた〝黒い狼〟の群れに襲われてるって」
……〝黒い狼〟?
その話が気になり、私は聞き耳を立てる。
「ああ、ここ最近突然な。だから、農場主や牧場主達も相当参ってるそうだ」
「ふぅん、冒険者ギルドにでも相談した方が良いんじゃないのか?」
「ああ、それで遂に主連中も、冒険者ギルドに依頼を出したって話だ。だが、それでも手に負えてないらしい。任務を請け負った冒険者達が、次々に返り討ちに合ってるんだと」
「どうせ下級ランクの冒険者ばかりだろ? まぁ、そんな任務のためにS級やA級の冒険者が動くはずもないもんな」
「ああ、だから相当困ってるらしいぜ」
……ふぅん。




