第0話の参 希望を抱きながら絶望していたあなたへ
「合格……?」
存在「ナニカ」は鷹揚にそう言った。
いったい俺は何に合格したというのだろうか。
『とてもいい。キミはやはりそういう人間だ。ボクはそういう人間が大好きでね』
「そう、なのか」
どうやら好意的に見てもらえているらしい。
でもそんなのは後の祭りだ。今の俺はどうやら死んでいるらしいし。
『そこで提案がある。キミ、日本を――いや、日本のような国と言った方が正しいかな? かの国の敗戦の運命を変えることができたのなら……もう一度、キミがキミとしてやり直せるチャンスをあげようと思う。端的に言うとそうだな。ボクの頼みを聞いてくれるなら、キミが高校生くらいの時からもう一度人生やり直してみませんかって話さ』
チャンスと聞いて黙っていられる俺ではない。
自殺などという俺の結末を変えられるのなら、全然ありだ。
だが――問題は国の運命を変えるなどということが俺にできるのかという一点に尽きる。
ただでさえ訳の分からないままここまで話を聞いているのだ。それくらい詳しく聞きたい。
「詳しく教えてくれ」
『うん。例えるなら、キミたちの地球で言うところの日本。その第二次世界大戦に当たる大きな時代のうねりを、キミの手で捻じ曲げて欲しい。もちろん、そのためのバックアップ――まぁいわゆるチート能力やこなすべき目標を随時教えたりしてあげる。強大な敵国を負かして、世界の覇権をこれから君が行く国が取れば、その時点でボクとの契約は達成されたと見なそう。成功報酬は、キミを、契約達成時の記憶を保持したまま16才に戻そう』
異世界転生ならぬ現代転生だと……?
売れなさそうな物語だな……だがこれは現実。
訳の分からない超常存在に、俺は条件付きとはいえ、もう一度人生をやり直すチャンスを与えてくれるというのだ。
ここで首を横に振る選択肢はない。
断ったら――なんてこと、聞きたくもないしな。
「概ね理解した。だが、聞きたいことがいくつかある」
『あは☆ いいね。話が早くて助かるよ』
「まずは国を救うことについてだ。どういう世界で、どの時代なんだ。俺はどんな立場でそこにいくんだ?」
『うーん、説明が難しいんだけど、戦時中の日本に魔法とダンジョンを足したような感じかな? まぁ魔法とダンジョンはその世界に出現してから日が浅いから、解明するのにその国は躍起になっているって感じだねぇ。あとは行ってのお楽しみかなぁ。全部説明してたら時間なくなっちゃうからね。じゃあ、契約成立ってことで』
「時間――?」
『そ。キミがここに居れる時間さ。キミとボクの契約は成立した。あとは随時指令をキミに送っていくから、それ以外は好きに生きるといいよ。――ってわけで、いってらっしゃーい☆』
「おいちょっとまていくらなんでも説明がテキトーすぎんだろ!!??」
『気を付けてね☆』
その瞬間、俺は意識が遠のき――
凄まじい浮遊感に包まれた違和感で目を開けると、視界に広がっていたのは――輝いている新世界!!
のはずだったのだが。
「うおわああああああああああああああああああああ!!!??」
状況は、高度3000メートルからの自由落下。
ヒモなし、命綱なし、安全性皆無の地獄行きバンジージャンプの真っ最中だった。




