第0話 絶望しているあなたへ
俺、白井宗一郎はおっさんである。
空から女の子が降ってくることとか、夜中に美少女が冷蔵庫漁っててそこから異世界からの侵略者を倒す世界を守るための戦いになるとか、布団を干そうとしたらベランダに教会の服着た女の子が引っかかってたりとか。
そんなことを夢見ながら過ごしてきた。
バカだと思うだろう?
いや、実際にバカなのだろう。
現実から目をそらし、そんなこんなで夢を見続けた俺は、人生の伴侶もなく、対して親しい友人もなく、漠然と妥協で就いた仕事をこなしながら薄給で日々を過ごしている。
今日の夕飯の支度をしながら、俺は何度目になるか分からないため息を吐いた。
「この年で独りでいるのなんて俺くらいなものだろうな・・・」
別に結婚したいわけでも、子供を作りたい訳でもない。というか貯金がないのでどうしようもない。
ゲームをやるか小説を読み漁るだけの生活に、ただの漠然とした不安が俺を襲う。
夕飯の野菜スープを作っている最中、手持無沙汰になったので、ポケットにいれていたスマートフォンを取り出して、Y〇UTUBEを起動する。
対して面白くもないショート動画や、AIが作ったであろう動画を流し見していく。
ふと、広告が流れる。
いつもならすぐにスワイプして広告はスキップするが、今日はなんだか広告も見たくなったのだ。
画像編集したであろう、とてもキレイなスタイルのかわいい女性が、ぱっとしない感じの小太りの男と腕を組んで幸せそうに笑っている。
『私たちは、このアプリで人生の伴侶を見つけました!』
マッチングアプリの広告だ。
こういう広告の大体は嘘で塗り固められている。今時のマッチングアプリなんてサクラ(架空の女性とマッチングさせて、登録者をだまそうとする者のこと)がいるから、あてにすらならないと聞いていた。
でも、昔の同級生はこのマッチングアプリ(通称マチアプ)で結婚したと報告を聞いた時には、かなりの衝撃を受けたものだ。ああいうものは詐欺でしかないと思っていたから。
それでも俺は出会いを求めることはしなかった。なんかダサいような気がして。
今でも抵抗感はかなりある。
「はっ、俺のこの年で彼女って・・・」
失敗する勇気も行動力もない俺は、なにも動くこともせずにその広告を飛ばそうとした。
でも――少し、思ってしまった。
もし、彼女がいたなら。
もし、今からでも結婚できるのなら。
もし、俺の趣味を一緒に楽しんでくれたり、受け入れてくれる人がいるなら。
それはなんて、理想的な夢物語なのだろうか。
「……登録だけ、してみるか?」
そのアプリの広告をタップして、インストールする。
アプリの名前は「イセカップル」。
レビュー表示は読み込みが遅いのかなかった。
出来上がったスープの火を止めて、俺はアプリの操作をする。
どうやらメールアドレスで登録するタイプのようだ。
メール認証を終えて、いざ、登録画面へ。
名前を入力し、「次へ」ボタンをタップする。
その直後。
俺は、異世界ものの小説で多用されているベタな『真っ白い空間』に立っていた――




