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基地内に戻った私は、羽場と共にマスドライーバー施設の隣にある彼のオフィスに向かい、撮影した動画を隅から隅まで検分していく。
私の見たもの、全てが鮮明に記録されている。羽場はCADソフトを起動し、映像からわかる範囲でUFO型輸送船の構造を落としていく。この辺、羽場は変人とはいえ、システム設計のプロだ。破損した外殻から覗く僅かな映像から、内部構造をどんどん推測していく。
「どう考えても、生命維持装置を入れるスペースがないよ」彼はディスプレイ上の線を辿りつつ、云った。「完全に遠隔操作、じゃなきゃ自律稼働を前提とした宇宙船だね。ヒトが乗り組むようには出来ていない」
そして彼はカメラ映像を参照しつつ、更に宇宙船の内部に装置類の枠を入れていく。
「例の宇宙人型ロボットは、十体ほど格納される仕組みらしい。この外殻が開くと、するっと滑り出られるような構造だ。最近、SF映画で良く見るよ、こういうドローン運搬船」
「それってネズミーが、実際に作ってる宇宙船のアイディアを。映画に利用してるってことですかね」
「あぁ。そうに違いない」
「この下部の、格納庫みたいなエリアは何です?」
と、私は未だに空白になっている部分を指し示した。円盤型の構造の下に、不格好にくっついている突き出たエリア。羽場は曖昧に唸りつつ、図面とカメラ映像を何度も見返した。
「ちょっとこの部分はわかんないなぁ。かなりの容積だから、爆弾でも積んでるんじゃないかな?」
そうか、武器庫が必要だった。
そう得心している私に対し、羽場は更に唸り声を上げていた。
「でもさ、他にもちょっと、不思議な点があるんだよね。推進力だよ」
「エンジンのことです?」
尋ねた私に、彼は背もたれに寄りかかりつつ、大きな溜息を吐いた。
「そう。エンジンはこの部分に収まってると思うんだけど、全体の質量から考えて、どう見ても小さすぎるんだ。とても核パルスエンジンなんか積める容積じゃないよ」
「ふむ」と唸りつつ、よくわからないながらも図面を覗き込む私。「てかだいたい、核パルスエンジンなんて、まだ実用化されてないじゃないですか。核爆発で宇宙船を推進させるんですよね?」
「そう。そうね。でもさ、冥王星を侵略するなら、それくらいの物がないと」
「でもニュー・ホライズンズだって、スイングバイとかの活用で十年くらいで行ってますよね? 有人ならまだしも、ロボット宇宙船なら十年くらい」
「そうじゃないんだ。いい? これは冥王星を攻撃しようとしてる宇宙船だよ?」と、円盤型宇宙船の映像をコンコンと叩く。「ニュー・ホライズンズは史上最速で冥王星に到達したけど、冥王星は掠めただけで、そのまま外宇宙へすっ飛んでった。何故だかわかる? 減速させる手段を持たなかったからだ」
そこで思い出した。クラークの〈2010〉でも、似たような状況を描いていた。木星に向かった宇宙船は、木星の大気を利用して減速していた。
けれども冥王星には、木星ほどの濃い大気は存在しない。
「そう。冥王星を攻撃しようとする宇宙船は、冥王星に対してほとんど停止するくらいの減速を行う必要がある。けれどもコイツには、それだけの逆噴射を行う能力は。ないよ。他に冥王星まで行く手段としては、イオン推進エンジンとか、ソーラーセイルを思いつくけれども、そのどちらも容積的に難しいとしか思えない」
「ソーラーセイルってアレですよね? 太陽風を帆で受けて進むっていう」良く見る宇宙帆船のイメージ映像を思い出し、私は少しニヤリとした。「あれ、ロマンがあっていいですよね! イカロスとか、実用研究も成功してるじゃないですか」
「太陽の風~背~に受けて~」羽場もニヤリとして歌ったが、すぐに慌てて辺りを見渡す。「あ、やばい。これ以上変な組織に絡まれたら、たまんないや」
「何の話しです?」
「いやいや、何でもない。でもさ、そりゃソーラーセイルとかでのんびり向かえば、減速のためのエネルギーも少なくて済むけど。それだと何十年かかるか、わかったもんじゃないよ。ロボットだって宇宙船だって、運用が長ければ、それだけ故障する確率も高くなる」
「その辺は、数でカバー出来るんじゃ?」
「かもね。でもさ、冥王星人は地球にスパイを送り込んでるような超テクノロジーを持ってるんだよ? そんな連中相手に、こんな輸送船とロボットで。本気で戦えると思ってるのかな」
「それは、試作機とか?」
「あぁ、成る程」羽場は感心したように云った。「確かにそれなら、話はわかるや。ネズミーに操られてるアメリカは、月面で冥王星侵略のための攻撃機を開発している。でもまだ試験中だったから、月面におっこちちゃったんだ」
それでだいたいの、話は通る。
「それで、どうします、これ?」
尋ねた私に、羽場は真剣な表情で目を向けた。
「とにかくボクの方で編集して、なんとかネズミーの支配下にある連中にばれないように、地球に送れないか。考えてみるよ」
「大丈夫です?」
「どうかな。運営は殆ど握られちゃってるけど、こっちにはチクリンがいる。彼に頼めば、上手いことやってくれるかもしれない」
途端に私は、微妙な表情を浮かべざるをえなかった。
「いやぁ、あの人は。どうなんでしょ」
「考えてみたんだけどさ、そもそも彼があんな妄想を抱くようになった原因って何? 彼もゴッシーと同じ病気にかかってるんだから、何らかの形で冥王星人と接触があったに違いないんだ。そこで記憶操作されたとかさ。考えられるじゃん」
「まぁ、その可能性は。なきにしもあらず」
「でしょ? なら、上手く味方に付けて。使うのが良策だよ」
イマイチ心配ではあったが、動画の編集には数時間かかるということで、後のことは羽場に任せ、私は居室に戻った。
そして、たいして眠れないまま迎えた翌日。うつらうつらとしていた私は、半ば夢遊病状態で食堂へと向かう。そして決まりきったご飯と納豆という食事を無意識のうちに胃に流し込んでいると、例によって私の同僚である、岡と殿下が同じ席についた。
「おっす」
威勢良く声をかけてくる岡に、私は半分寝ながら、おはようございまふ、と頭を垂れる。そこまではいつも通りの朝だったが、そこでふと、岡はニヤニヤしながら明るい声を投げかけてきた。
「ゴッシー、聞いたかよ」
「へ? 何をです?」
「羽場さん、とうとう謹慎処分だってよ。これから一週間、居室監禁生活」
何、だって?
声も出せず大きく瞳を見開いた私に、殿下が溜息を吐きつつ云った。
「まったくあの人は。今度は何をやったんだ?」
「さぁな」と、相変わらず楽しげな岡。「まぁ今までが今までだからな。イエローカードの累積でレッドカードなんじゃね?」
「確か三十越えてるだろう、あの人も。あの調子で、いつまで続ける気なんだか」
呆れた風な殿下。
こうしちゃ、いられない。
「あ、ちょっと、用事を思い出したんで。お先に失礼!」
私は素早く立ち上がって、怪訝そうにする岡と殿下には構わず食器を片づけると、床を蹴って羽場の居室に向かった。
一応幹部の彼は個室を与えられてはいたが、今はその前に椅子が置かれ、でんと佐治の部下が腰掛けている。手元のパッドで暇つぶしをしている彼を恐る恐る流し見しつつ通り過ぎると、再び床を蹴って方向転換し、マスドライバー施設へと向かった。
監禁とはいえ、生命の危機はなさそうだ。
けれども彼は、決定的な証拠を手にしている。UFO型宇宙船、そして宇宙人型ロボットの映像だ。
アレが奪われでもしたら、元も子もない。
そう考えた私は、半ば飛ぶようにして羽場のオフィスへと向かう。
外見は、特に封鎖されている様子もない。それでも中に入った私は、恐る恐る辺りを見渡し、監視カメラなどがないのを確認してから、昨日のカメラを探す。
引き出しの中、棚の上。そしてようやく備品置き場にそれを見つけ、慌てて手を滑らせつつ内部メモリーを確認しようとしたが、何かエラーが出て反応しない。
まさか。
私は脇のスイッチをスライドさせ、内部を確認する。
空っぽだ。昨日撮影した記録が入っているはずのソリッドメモリーは、何者かに、奪われてしまったのだ。




