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月でウサギを飼う方法  作者: 吉田エン
未知との遭遇 一章:あっ、宇宙人だ。
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4

「月面通信で、小学生から質問を集めたじゃないですか。その中に結構な数、〈宇宙人っているんですか?〉っていうのがあって。どう思います?」


 そんな口実を作り上げて、私はマスドライバー付近に席のある羽場の元に向かう。それは彼からエイリアンだ何だという話は聞いたことがなかったが、どうもあの性格的に、詳しくないはずがないという気がする。しかし彼の素っ頓狂な性格からして、あまり実のある答えが期待出来ないのも確かだ。「ボクもキミも宇宙人!」とか、「いるわけないじゃん。馬鹿じゃない?」とか、どんな答えも予想できてしまうからだ。


 けれども彼の答えは、私の予想の、遙か斜め上だった。


「宇宙人? 友だちにいるよ?」


 こいつ、やっぱ頭可笑しいんじゃないか?

 そう、私は眉間に皺を寄せ、半ば口を開け放ちつつ、羽場の背中を眺める。


「へ、へぇー」


 辛うじて云った私に、振り返りもせず作業を続ける。彼はアームストロング基地で撮影した動画の編集作業をやっている所らしかった。グリグリとフレームを動かし、カットインやフェードアウトを挟みつつ、何のことはない、という調子で続ける。


「ハゲのオッサンの下にいる、阿部ちゃんって知らない? あの子、冥王星から来たプルート帝国のスパイなんだって。大変だよね、あんな遠くから」


「冥王星なんて、ヒトが住めるはずないじゃないですか」


「ヒトはね。彼は実際、メタンを呼吸に使用する嫌気性生物から進化した種族らしいんだ。それでヒトに化けてるってワケ。通りでヌルッとした顔、してると思わない? それに近づくと、なんかメタンっぽい臭いがするし。どうする? まだ尺が余ってるから、彼の話でも取材する?」


「いや、小学生にはちょっと、難易度が高いかと」


 小学生どころじゃない、私にも難易度的にベリーハードだ。


 けれども羽場は酷く暇らしく、いいからいいから、と、パソコンに繋いでたカメラを取り外し、私の腕を掴んで工場に飛んでいく。


 阿部さんは、私も何度か話した事がある。確かに特徴の捉えづらいつるんとした顔をしていて、黒縁眼鏡の表情は少し気が弱そうで、よく上井克也に怒鳴られている。とても自分が冥王星人だなんて法螺話が出来るような人には思えなかった。


 けれども羽場が彼を工場の隅に引っ張っていって話を切り出すと、彼は慌てて辺りを見渡し、次いで私が構えるカメラに苦しげな表情を向けてきた。


「いいだろう。そろそろ私も、来訪の目的を明かす時が、来たかもしれない」


 参ったな、関わりたくないな。

 そう思いつつカメラを覗き込む私に、彼は椅子に腰掛け、両手を握りしめつつ、云った。


「実はプルート帝国は、地球人を仇敵と考えている。何故だかわかるか? 冥王星の二重惑星とも云われる、衛星カロン。人類はそこを起源としているんだ。今でこそカロンは氷の惑星だが、遙か以前は激しい地核活動の影響で、なみなみと水に満たされた美しい星だったんだ」


「へ、へぇー」


「我々冥王星人は平和的な種族だった。しかしカロンの急激な寒冷化に襲われた人類は、冥王星のメタンをカロンの温暖化の為に利用しようとしたのだ。


 しかし我々はメタンなしでは生きられない。結果、果てしない星間戦争が始まった。数百年の戦闘の末、我々は辛うじて勝利したが、数千人の人類は地球へと逃亡してしまった。


 それから数十万年かけ、彼らは地球原住民である原始人を、自分たちと交配可能なクロマニヨン人へと遺伝子改造し、同化し、支配し、こうして月にまで来られるほどの力を取り戻したのだ。彼らの狙いは、我々が占領した彼らの母星カロンを取り戻すこと。我々はそれを防ぐため、こうしてスパイとして潜入しているのだ」


 参ったな。何て云おう。

 そう考えている私の脇で、羽場は酷く興味深そうにフンフンと頷いていた。


「そっか。それは大変だね。でもさ、ボクらは全然、冥王星を襲おうだなんて考えてないんだけどな。キミら、心配しすぎなんじゃない?」


「羽場。キミの事は大好きだし、人類最大の友人だと思っている。だが、キミは。それに日本は、アメリカは、想像もしていない巨大な力によって、知らぬ間に支配され、動かされているんだ」


「強大な力? それってひょっとして、イルミナティとか、フリーメーソンとか?」


 阿部は額に汗を浮かべ、苦しげに頭を振った。


「違う! ネズミーだ!」


 途端に私と羽場は、顔を見合わせた。

 ネズミー? あの、ネズミーランドの?

 その様子に阿部は苦笑し、再び頭を振った。


「ほら、その調子だ。誰も自分たちが、彼らに支配されているとは。考えてもいない。しかし彼らは自分たちが作る作品に、巧妙なサブリミナル効果を忍ばせている。だから誰も彼も、あの邪悪なネズミーランドに熱狂するのさ! あれはいわば、強力な集団催眠施設なんだ。一度行くと、何度でも行きたくなる。あの手この手を使って彼らはキミらを洗脳し、支配下に置き、愛と夢と希望で、人類を宇宙へと、そして未知への侵略へと駆り立てているのさ!」


「べ、別にネズミーの作品は。そんなのじゃないと思いますけど」


 辛うじて云った私に、彼は物凄い勢いで。それこそ唾を飛ばし、叫んだ。


「そう思うか! キミもそう思うか! あぁ、なんてことだ。シンデレラは明らかな下克上だし、美女と野獣は異質なものへの支配欲をかき立てさせる! そんな事も理解できないだなんて!」


 目眩がしてきた。だが羽場は得心が行ったように、ぽん、と拳を手に打ち付ける。


「そうか、あの馬鹿馬鹿しい夢物語には、そんな意図があったのか」


「そうだ。キミは理解してくれると思っていた。だからキミには、本来明かせない事も打ち明けていたんだ」そして阿部はカメラに瞳を戻し、云った。「いいか、人類の本当の敵は、人類の内にある。このままキミらがネズミー漬けにされ続ければ、冷静な判断力を失い、更に彼らに、強力に支配されることになるだろう。スターウォーズの版権がネズミーに行った時点で、アメリカは終わった。そして次は、日本だ。あのジブリでさえ、半ばネズミーに支配されようとしているんだぞ? 私はそれを、何とかして防がなければ」


「アメリカは、もう終わり? それって、どういうこと?」


「彼らは既に、プルート帝国侵略の具体策を練り始めている。〈プロジェクト9〉と呼ばれるのがソレだ。その全貌は未だ不明だが、アームストロング基地。あそこで何が行われているか、キミは知っているか? 彼らは、アームストロングに潜入していた四人の同胞を捕らえ、残虐な方法で拷問し、一人、また一人と命を奪いつつあるんだ!」


「な、なんだってー!」


「キミは云っていたろう。彼らがPS7を欲しがるのは不思議だと。だがアレは、本星と潜入部隊との間で行われる暗号通信を解読するため、どうしても必要だったのだ。彼らはそれを手にし、暗号を解読し、信号を受信しているスパイを突き止めたのだ」彼はこぼれ落ちる涙を拭うため、眼鏡を取り外した。「その中には、私の妻もいた。トトゥリリゥという名だ。美しい茶色の肌、大きな黒い瞳。すらりとした尾。三百年も連れ添った、かけがえのない人だったというのに。それを彼らは拷問し、切り刻み、最後には剥製にして、ハリウッドに送るつもりでいるらしい。どうも新しく作る映画の小道具にするようだ」


「な、なんて酷いことを! 許されないよそれは!」そして羽場は、泣き崩れる阿倍の手を取った。「ごめん。本当に、ボクが云っても仕方がないと思うけど。ボクが人類を代表して謝るよ。それでボクらは、ネズミーの野望を砕くために。どうしたらいい?」


 阿部は袖で涙を拭い、元通り眼鏡をかけ、じっと、羽場を見つめた。


「まず、ネズミーの製品を買わないでもらいたい。私の娘には困ったもので。部屋中ネズミーなんだ。あれに私の苦難の月面出張報酬がそそぎ込まれていると思うと、我慢がならない。何だって云うんだ! ただの紙やプラスチックにインクを塗ったものが、五千円や一万円もするんだぞ? だっていうのに、私がガンダムのマスターグレードプラモデルを買って送ってくれって妻に云ったら、あっさり却下だ。あり得るか?」


「あれ、奥さんは拷問されてるんじゃあ」


 呟く私など、まるで視界に入ってない。羽場は大まじめで頷いて、云った。


「わかった。それはあり得ないよね。ボクがネットを駆使して、何とか不買運動を盛り上げてみるよ。何しろ相手はネズミーだ、物凄く危険だけど、やれることはやってみる。他には? どうにか奥さん、助けられないかな?」


「いや、それは危険すぎる。不可能だ。それに私は彼女を見殺しにしてでも、冥王星のために任務を続けなければ。ヤツらは既に、かぐやにもスパイがいることに気づいている。だから来週にはここを離れなければならない」


「何だって! 冥王星に帰っちゃうの?」


「いや、地球。冥王星遠いじゃん。親はたまには顔を見せろって云うんだけど、最近帰るのメンドクサくて」


「そ、そっか。でも、じゃあ、尚更じゃん! ボクは月面で何をしたらいい? ここじゃないと出来ない事は?」


「いやいや、ホントに危険だからマジで。洒落になんないし」


 ワケのわからない押し問答が始まった所で、遠くから叫び声が響いてきた。


「おい阿部! 何やってんだ! サボってると地球に帰れなくなるぞ!」


 羽場曰くハゲのオッサン、克也の声だ。途端に阿部はころりと表情を変え、明るい声で叫び返していた。


「はいはい! すぐに行きます!」


 そして椅子から立って、去り際に、彼は羽場の耳元に、こう囁いていた。


「Lv10だ。そこに全てが、隠されてる」


 そしてポンと床を蹴り、去っていく阿部。羽場はそれを見送りつつ、首を傾げていた。


「なんだろLv10って。何かの隠語かな?」


 私は言葉が出てこなかった。

 Lv10。

 すぐに記憶が戻ってくる。私が入り込んでしまった不思議な部屋。あの扉には確かに、赤々とした字で、Lv10、と書かれていたのだ

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