八十六話
少しずつ余裕を取り戻していく話。ってことで、今回も短め。
協会の人達が資料を漁りながら〝無の森〟について調べてもらっている間に、出来る限りオークの狩りをしておいた。
そうして集めておいたオーク肉で、盛大にパーティーをするみたいだ。
「で、パーティーの理由が、地上奪還成功祝いって……随分と時間たってるよな」
「まぁ、忙しかったからのう。外での調査が行き詰っておるから、気分転換も合わせてじゃな」
やれる事が減っている状態だと、精神的に病んでしまう。
今回の計画は、そういったケアも含めてのようだ。とはいえ、この間遊技場作って遊びまくった事を考えれば、ただの理由付けな気がしてしかたないが。
「言いたい事は解るがのう。村から出れん者は変化が少ない生活じゃし、外に出る者は出る者で戦闘によるストレスじゃ。そんな生活から目を反らす手段は多いほうがいいじゃろ」
「その件に関しては、遊技場の事で嫌と言うほど解ったけどね。それでも、もっと良い理由付けはあったと思うんだけどなぁ」
「ま、外に出れた時にお祝いが出来なかったんじゃ。区切りとしてやっておきたいんじゃろうて」
そんな風に言ってるが、爺様も楽しみたいのだろう。オークを調理する手が何時も以上に早い。周りの人達も、解体所や調理場を駆け巡って……うん、やっぱりこの村の人達は皆で暴走するのが好きみたいだな。
夕方ぐらいまで総出で準備してから、夜にわいわいと楽しみ出す。
しかしこれ、こんな盛大にやったら今日が地上奪還した日とかって、将来伝わっていくんじゃないだろうか?
「お兄ちゃんなに難しい顔してるの? このお肉さん美味しいよ!」
「兄さん、このジュース何で出来てるのかな?」
「ねぇねぇ! この果物って何!!」
妹達と一緒に他のちびっこ達も騒いでるようだ。
こういう時一緒に居るってことは、学校で仲良くやってるんだろうな……うん、子供側の方は問題が無いようで良かったよ。
ちなみに、外の警戒は交代制。こういう時に交替も無しだとテンション下がるからな。とはいえ、交替する人達は酒成分は取らないようにと徹底している。
飲んだ人は……まぁ、罰則が厳しいらしい。まぁ、らしいってのは俺は飲めないしな……一応法律とか、もうブレイクされてる状態だけど、それでも皆守ろうとしている。というか、寧ろ厳しいぐらいだ。
まぁ、罰則するシステムが破壊されたからこそ、一度緩んでしまったらグダグダになったり、力こそ全て! みたいになるからって事みたい。ここら辺は大人達が頭を悩ませながら色々と考えたようだ。
「そうじゃ、石川の婆さんが話しがあるそうじゃぞ?」
「ん? ……何か新道具でも出来たのかな」
「どうじゃろうな。まぁ、何か新しい案でもあるのやもしれんの」
ふむ……婆様側の話だとすると、瘴気関連で何かあるのかもな。
「美味い! オークの肉は熊や猪と違うな!」
「酒が進むぞ。そうだ! この間ゴブリンの巣を潰したんだがな……」
爺様と話をしてたら、そんな会話が聞こえきた。
よく聞いてみると、どうやらゴブリンの巣に一匹上位種がいた。とはいえ、一パーティーでゴブリンの上位種を狩れたらしい。……戦闘班の能力が凄まじい速さで上がってる気がするんだが。
もう少ししたら、オークも定期的に狩りに行ってくれるパーティーとかも出来るんじゃないだろうか? まぁ、その為にはあの〝無の森〟は何とかしたい。あの環境が横にある以上は、問題が色々とおきそうだしな。
「お兄ちゃん! お祝いなんだよ。難しい事考えすぎて無いかな」
「あー……悪い。つい癖で考えてた」
「美味しいもの食べて、一杯楽しむんだよ!」
「まぁ、そうだな。今は楽しむか」
一人だけ暗いかとか難しい顔をしてたら駄目だよな。うん、何かして無いと考えてしまいそうだし、ちびっこでも集めて、ゲームでもしておくか。
――二つ目のシェルターの人達――
「はぁ……家族の元に帰りたい」
「えー! そんな事言われても無理ですよ!」
男が家族に会いたいと愚痴るが、現状ここのシェルターで指揮を取っているのは彼だ。
元・自衛隊や警察の人達に関しては、殆どのメンバーが外へと調査へと出て戻ってくることがなかった。
現状シェルターに残ってるメンバーで戦闘出来るのは、外に調査へ出る事を許可されなかった人員だ。
「だからって、どうして私が指揮を執ることになったんだ」
「的確に暴動を阻止したじゃないですか……今抜けられたら困りますよ」
レベルだけなら、今話をしている相手の男の方が高い。彼も、調査に出る事を許可されなかった人員とはいえ、元・警官だった男だ。過去にダンジョンを潜った事だってある。
「それに、自分は指示を受ける側でしたから……上手く組織運営なんて出来ないんですよ」
「はぁ……とりあえず、現状の再確認をしていいか?」
「そうですね……理由はわかりませんが、シェルターを封鎖してた瓦礫が撤去され、手紙がありました」
「手紙か、そうだとすると外に調査へと出て行った人達じゃないという事だな」
もしその彼等が帰ってきたのであれば、手紙を残して消えるなんて事は無い。そうである以上、生存する人達が他にも居るのだろうと、彼等は思考する。
「で、手紙の内容はどうなんだ?」
「えっと……内容に関しては〝生きているだろうか? シェルターが埋まっている様だったので、期待はせず手紙を残しておく〟的な事から始まり、街の周辺状況と現状下手に外へ出て調査しないほうが良いっと書かれてますね」
「外は危険という事か」
オークと村側での名称〝無の森〟に何か強敵のテリトリーと思われる場所だ。下手に外へと出ないほうが生存率が高いのは間違いない。
「オークに謎の森が二つか……君達はオークを狩れるか? 狩れるなら食糧問題が少しはマシになりそうだが」
「そうですね……オークは問題ないと思いますが、他が心配ですね」
心配は尽きない。何せ調査に出たメンバーが全滅している可能性が高いからだ。
結果だけなら、あのオーガが街で暴れたからなのだが……そして、その暴れたオーガが討伐された事に関しても、彼等が其れを理解する事が無い。
しかし、元・自衛隊と警察のチームであればオーガぐらいなら倒せたはずだ。ただ、其処で問題になるのが〝無の森〟になる。
ただ、原因の片割れが既に居ないので、外に出ても大丈夫ではある。〝無の森〟に関しても近づきせず踏み込まなければ現状は問題が無い。
「とりあえず……外からのアクションを待つだけじゃだめだろうな」
「訓練に関しては結構すんでるので、時期を見て外を見てみますか?」
「……全員で話し合ってからにしよう。こういう時だからこそ、強権ではなく話し合いで決めておきたい」
そう決まると、すぐさま全員に集まる様に連絡を取り出す。
彼等の動き次第では、此処の人達が村と最初に接触するかもしれない。
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