八十四話
朝食を済ませ出発の準備をした後は、メモ帖を取り出し昨夜書いておいた街の詳細を確認する。
街からは十字に道が分かれており、今回向かう方向は進んできた道から見て左側。他のルートも何があるか気にはなる……何せどっちのルートを進んでもダンジョンが在る場所へと続くからだ。
他のダンジョンも瘴気に囲まれてるのか知りたいんだけど、調査には関係ないので今回は我慢するしかない。
そんな訳で、メモ帖に一筆書いておいてから調査の再開。
「この道を進むと何処にたどり着くんだったっけ?」
再開したのは良いけど、地理に関して随分と忘れてしまったな。とりあえず、川にたどり着くのは解ってるけど。
「あ……しまった。手紙が回収されたか見るの忘れてた」
まぁ、今回の手紙には返事を求める文は記入してなかったし、時間があればまた来るとだけ書いたから、戻って確認する必要もないだろうな。
それに、次ここに来るとしたら、それは違うダンジョンがどうなっているか調べる為だろうし、急ぐ案件でもない。
「もしかしたら、この〝無の森〟関連で来る事になるかもしれないけど、可能性は低いかな」
〝無の森〟に隣接してるからな、この街。何か被害があるとすれば……この街が最初だ。まぁ、幾ら地上部分が崩壊してるとは言え、シェルター内に生存者がいるならば問題が出るかもしれない、何かが起こるその前に対処したいもんだね。
それにしても、今回も反対側は普通の森のようだ。これだとモンスターが飛び出てきてもおかしくないと思うんだけど。
「俺の探査には引っ掛からないし、イオはどうだ?」
「ミャン!」
森を見てから首を横に振った。ふむ、イオにも見つからないって事か。
襲ってこないのは楽だからいいけど、潜んでいるのならどんなモノかぐらいは知っておきたい。
「兎に角、何かありそうだったら教えてくれな」
「ミャー」
頼られて嬉しいのか、尻尾を振る速度が上がっている。まぁ、そんな嬉しそうなイオが現状頼りだからな……機嫌が良い時のスペックは高いし、楽しそうだから問題はないな。
といっても、本当に〝無の森〟は反対側に周っても何も無い。
雀蜂みたいに獲物を集めているのだとしても、その集めてる存在すら確認できないからな。もしかして雀蜂の時みたいに、空かと思って見上げてみても何も無かったし。地面の下だとしても、おかしな穴とかも無いからなぁ……まぁ、見落としてる可能性は十分にあるけど、外周部分に一切無いからな。
「やっぱり中心部まで見に行かないと解らないかな」
「ミャ! ニャンニャン!」
中心部の言葉に反応したイオが思いっきり否定をしている。ふむ、イオは行きたくないというか、行くなって言ってるみたいだけど……何とかしないと、〝無の森〟は街やダンジョンに近いからな。
「兎に角、今はマッピングだけだから。奥には行かないよ」
「……ミャン」
あからさまにほっとするか……一体なにを感じ取ったんだろうな?
途中激しいほどのイオの拒否があったものの、移動は順調に進み川の前まで到着した。
「到着したのは良いけどさ……橋が崩壊して使えないな」
目の前に嘗てあったはずの橋は、ものの見事に粉砕され、流されてしまっている。
この先の行き来が出来ないとなれば、村側から真っ直ぐ進むルートだけど、昔あった道は森の中だ……橋か道を作れって事か。
まぁ、今回は川を渡る予定は無いから良いけど、そのうち考える必要が出てきそうだな。
とはいえ今回は、川沿いに上流へと向かって進む先を変更。そしてある程度進んでから、ふと気がつく。
「そういえば、さっき通ってた道。一切モンスター出てこなかったな」
あの右側の森も……恐らく厄介なことになってる気がしてきたな。雀蜂タイプが獲物を集めまくってる可能性。うん、テリトリーになってるかどうか調べるべきだった。まぁ、これも要報告だろう。
メモ帖に二重丸をつけながら一文を記入しておこう。
現状、確認できたモンスターはオークだけだ。廃墟と化した街でキャンプをした時も、一匹のモンスターも出て来て居ない。
「縄張り争いか、はたまた〝無の森〟の所為なのか。気がついたら沸いてるモンスターが出ないのって、おかし過ぎる話だよなぁ」
まぁありがたい話なのは、川に水棲のモンスターが未だに入り込んでない事だろうか? 今もイオが楽しげに水遊びしてるよ。
「……ん?」
何か、シュルルって音が聞こえたきがする。周囲を見渡してみるが、特に何も無い……。
「イオ、何か聞こえなかったか?」
「……ミャン」
ふむ、川に居たイオには聞こえなかったか……確か聞こえたのは森の方だったけど。
武器を手に警戒。イオも川から上がって森の方を睨みつけている。
川の流れる音以外が無くなり、周囲の気配もイオと俺だけの状況。〝無の森〟で〝何か〟が居るであろう事は確かだ。何せ、イオの警戒度が尋常じゃないほどに上がっている。
シュル……。
足元近くで、何かの音。バックステップをしながらハンマーを地面へ叩き付ける! が、何かを潰した手ごたえがない。
「一体なんだったんだ? 蛇とかだとしても多少は手ごたえはあるはずなんだが」
ポールウェポンを持ち上げて、ハンマーで潰した後の地面を見るが、そこには砕かれた石や草があるのみ。何かを潰した形跡も、血痕すらもないか。
「イオ……何だと思う?」
「ミャ!」
おっふ……イオに警戒を怠るなと怒られた。いや、敵の存在を聞いただけで、警戒解いたわけじゃないんだけどな。
シュ……。
「ミャン!」
頭上から一瞬音が聞こえ、それと同時にイオが飛び掛り爪で切裂く一撃。だが、落ちてきたのは葉っぱと枝だ。
「化かされてるのか? それとも、バカにされてる?」
今のイオの一撃は、間違いなくタイミングがぴったりだったはずだ。そうであるのに、其処には何も無かったかの様な結果。
幻覚や幻聴といった類か? だが、それなら魔法の反応も無しにいつの間に掛かった? 〝無の森〟に接近したらそうなるのだろうか。いや、そもそも……。
「ミャン!」
「おっと、悪い。少し思考に入り込みそうになった」
うん、イオの言うとおりだな。考えるのは後回しだ……今は、攻撃を受けているだろうこの状況を如何にかする必要がある。
そうだな……今は村にもどって、お姉さんにでもそういったモンスターが居るか聞いてみるか。
「そうと決まれば……撤退するぞ」
「……ミャン」
見えない敵の動きを窺いながら、ゆっくりと後ろに下がる。
ある程度さがると、足元が濡れ始めた。……よしここだ!
「イオ一気に後ろ!」
「ミャ!!」
バックステップをして川へと飛び込む。どんな法則なのか解らないが、道や川でその領域が決まっているなら、ソレを利用するだけだ。
こいつは川まで追いかけてこないはず! 保障がある訳じゃないが、何と無くそう確信したから川へと飛び込んだ。イオも恐らく同じ考えだ。
そして、それは正しかったようで、川の中にまで攻撃が来る気配がない。
「ふぅ……装備つけたまま泳ぐの面倒だ!」
「ミャン!」
つい愚痴を口にしつつも対岸に泳ぐ。その最中にイオが寄ってきて掴まれと体を寄せて来た。
「おー……イオありがとう!」
「ニャンニャン」
犬かきならぬ猫かきをしながら、猛スピードで対岸へと泳ぎきるイオ。……うん、本当にあっという間だったよ。速すぎるって。
岸に上がってから、枝などを集めて火をつける。後は、濡れた服や体を乾かしつつ休憩。
とはいえ、反対側なので森には恐らくモンスターが居るだろう。まぁ、ここの森ならイオの警戒で寄ってこれないタイプのモンスターだ。ある程度なら大丈夫だろうな。
「さてと……それにしても、あの音と気配は何だったんだろうな?」
「ミャー……」
まったく……厄介な敵が存在しているだろう事しか解らない。
とはいえ途中で川に飛び込んだけど、今回の目的の九割は完了したからな。後の一割は……まぁ、確認できなかった残りの直線ぐらいだ。
それ以上に収穫も在ったとも言えるし、後は協会に報告した後に資料調査と対策だろうな。
さてさて……幻術を使うモンスターとか、その様なめんどくさい敵じゃ無い事を祈りますかね。
……とりあえずイオさん。川が気に入ったからって、泳いで魚取ってこなくても良いんだよ? え? 壺抜きして塩焼きにしろって? 焚き火があるから丁度いいはずだ? あぁ、お腹すいたのね。うん、わかったから少しまってな。
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