八十二話
今居る場所は森の中。それも、未探索エリアだ。
今の所だが、ダンジョンに関して良い手が見つからないので、それならばと周囲の探索をしつつ、マッピングを広げようと未探索エリアへと足を運んだ。
まだ見ぬ場所に何か良いものがあるかもしれないから、そんな期待もあるしな。
そんな訳で、調子よく森の中をイオと共に踏破していく。
調子が良いといえば、大人達の暴走による産物は予想以上の効果を発揮した。
たまった鬱憤や、戦闘によるストレス等、目に見えないところで積もっていたマイナスのモノを、遊戯で一気に解放したのか、様々な場所で仕事の効率が上がっていった。
「多少は変わると思ったけどさ、これは劇的すぎないか?」
「あはは……特に外にでて狩りをしてる人達は凄いよねぇ」
などと、美咲さんと会話をしながら活性化されていく人達を眺めてみる。
戦闘班に至っては、何処まで探索をしているかまでは解らないが、取ってくる魔石やら肉やら植物の数が倍近くになっている。
確かに精神的な作用は戦闘にて大きな役割があるけど、此処まで変化するほどマイナスの感情が溜まってたのか……まぁ、実は魔石を大量に集めてまた遊びたいだけかもだが。
閑話休題
現状探索している場所は、前回ダンジョンまで来た時に一切モンスターが出てこなかった……あの、ゴブリン達が居たのと逆側の場所だ。
美咲さんを連れて来なかったのは、其処にもし面倒な敵が居た場合の為。俺とイオならば、大抵のモンスターなら逃げ切れる。其れこそ、オーガやゴブリンの巣の討伐で能力が向上してるし、身体強化魔法で一気に走り抜けれるはず。
「とはいえ……イオ何か居るか?」
「……ミャァ」
首を横に振るイオ、ふむ……何も居ないらしいな。
まぁイオに任せっきりと言う訳でもない。俺のサーチには何も引っ掛からないので、イオに対してちょくちょく聞いて見るが、答えはNOだ。
「本当に謎空間だな。強いモンスターも居なければ、人が制圧してる訳でもないか」
「ミャン」
イオも実に不気味と思っているみたいだ。それこそ居ないのはモンスターや人だけじゃない。動物や虫も一切その姿を見せていない。気配も音も……何も無い世界だ。あるのは、俺とイオの会話と歩く音のみ。
あたり一面の空気も、瘴気もなければ澄んでいる感じもない、本当にただの森なんだよなぁ。
「だからこそ、逆に気持ちが悪い」
言うなれば、日常に命が無い世界。切り取られたような、取り残されたような、そんな感じに思考に陥ってしまう。目的も無くイオが居ない状況でこの場所に入り込んだら……発狂するかもな。
「なぁ……これは退却したほうが良いと思わないか?」
「ミャン!」
奥に進むにつれ、何も無いのに嫌な感じが増していく。この感じは何処かで味わったことが有る気がするんだが……はて、どこだったか。
まぁ、イオも嫌な顔をしているし撤退かな。よし、そうと決まれば後ろに向かって全速前進だ。
とりあえず、この森に関しては問題があると言う事で間違いないだろう。モンスターも入らない森……うん、きっと奥に何かあるはず。
とはいえ、調査するにしては不安が多すぎる。……先ずは、この異常な森がどれだけ広いかを調べるべきか。
雀蜂の巣を攻略する前に、そのテリトリーの大きさを測った方法。あれで、この森の広さを調べるとしてもだ……調査には下手したら数日掛かるだろう。
ならば、キャンプセットや食料なども今の量では心許無い。一度村に帰ってから、お姉さんと相談だな。
「よし、イオ一旦帰るよ。調査はまた今度だ」
「ミャン!」
イオの鳴き声と共に、敗北が決まっているレースを開始。身体強化で走っても、イオの速さには追いつけるわけが無い……というより、明らかにイオのスピードって出会った頃より上がってるよね!
日が落ちる前に村へと駆け込み、協会へどダッシュ。この時間帯になれば、狩りに出た人達が戻ってきて、協会も随分と賑やかになっている。
「白河君お帰り。勢いよく入ってきたけど、何かあったの?」
「ただいまです! 何かあったというより、相談事ですね。っと、その前に今日の獲物を出しておきますね」
まずは、道中に遭遇したモンスター達の魔石等を提出した後、本日のメインに移りたいけど人が多くてそれどころじゃないな。
「といっても、人多いですし出直した方が良いですかね?」
「あー、大丈夫よ。どうせ待機中だったり、受付が終わった人達は酒場に行くんだから」
「おぅ! 白河の坊主。重要な案件なんだろう? なら、俺達の事は気にするな!」
酒を片手にしたおっさんからお許しがでる。まぁ、彼の言うとおり割と重要になるかもしれない話ではあるな。それなら……。
「でしたら、お言葉に甘えさせてもらいますね。ありがとうございます」
お礼をしっかりとして甘えさせてもらおう。彼以外の人も丁寧にお礼を言ったからか、お酒で乾杯しながら賑やかに宴会を再開しだした。うん、選択は間違えなかったようだ。
「さて、一体何があったのかしら?」
「そうですね……先ずは……」
前回ダンジョンへ向かった時、その森が異常だと思った事は報告してある。
だから、今回はその異常を調べる為に少し森に入って行き、その内容を説明していく。そんな風に話をすると、お姉さんは少し頭を抱えてしまった。
「はぁ……何その森。モンスターが溢れた世界よ? なんで何も無いのよ」
「おかしいですよね……しかも、奥に進めば進むほど不安感だけが増すんです」
「まるで、ダンジョン五層の出口が見えないトンネルみたいな感じね」
あ……そうだ、それだ! あの良いようのない不安は、出口が解らないソレを強化したようなものだ。
とはいえ、その強化具合が異常すぎるけどな。比率にすると十倍以上と言った感じか? 戻った時点でだから、更に奥まで進むともっと増えるかもな。
「で、白河君は如何するつもりかある程度決めてるのよね?」
「あー、解っちゃいますか。そうですね、先ずは森の広さを測ろうと思ってます」
「それは……時間が少し掛かりそうね」
「はい、ですので物資の方を先ずお願いしようと思いまして」
お姉さんが物資について了承をすると、さらさらっと請求用紙を用意。手続きをさくっと終わらせて話を再開する。
「で、一人でいくの? 美咲さんとか他の人は必要?」
「イオと二人で行こうと思ってますよ」
「あら……足手まといって事かしら?」
「違いますよ! あそこって、反対側がゴブリンの巣なんですよね……女性がいると面倒というか」
「あー、戦闘になって測量を停止されたくないという事ね。白河君とイオちゃんだけなら、ゴブリンも無茶をして寄って来ないか」
あいつらってどうも女性がいると、強引に攻めてくる習性があるみたいだからな。
これは、あの遊戯施設を作ってる最中に調べたから間違いない。イオと俺だけなら攻めない限り隠れて出て来ないのに、美咲さんを連れて行くと押し寄せてきたからな。
幾つか事例が欲しいから、他の戦闘班の人にも手伝ってもらったけど。結果は同じだった。
なので、ゴブリンの巣を攻める訳でもない今回の調査というか、測量ならばペアの方が良いという訳だ。
「ま、そういう事なら他の人達も行かせない方が良いわね。……いや、寧ろゴブリン討伐をさせて、邪魔にならないように手配するべきかしら?」
「えっと……そこ等辺の采配は任せます」
森の大きさ次第では数日掛かるかもしれないからな。その間ずっと戦闘させる訳にもいかないだろう。まぁ、お姉さんならそこ等辺は上手く調整してくれるはずだ。……きっとゴブリンの魔石を、大量GETだなんて考えてる訳じゃない筈。
「さて! それじゃ色々と準備するわね。白河君はゆっくり休んでおいてね」
お姉さんはポンっと両手を胸の前で叩いてから、話をしめる。其処から慌しく動き出して……うん、邪魔にならないように、言われたとおり休んでおくか。
さて、それにしてもあの森には一体何があるんだろうな? モンスターを寄せない結界装置的な物だったら良いけど……何か面倒なモンスターやダンジョンとかがあるとなれば、攻略できるだろうか。
とりあえずは、詳細を少しずつ探っていかないとな。
――戦闘班所属の人――
「イヤッハーーーーー!」
「すっごい、調子が良いわ!!」
森の中で、熊を相手に暴れているパーティー。彼等は、あの逃走劇の時に村へと移住して来た、元・ダンジョン探索者だ。
そして、今は何故か物凄いハイテンションで熊と戦闘を繰り広げている。
「お前ら! 体が楽だからテンションが上がるのは解るが、少しは慎重になれ!」
「でもリーダー! まるで羽が生えたみたいなんですよ!!」
「煩い! 香川はもう少し落ち着け!」
リーダーと言われた男が、香川という男性を特に注意する。
それも仕方ないだろう。この香川と言う男は、先ほどから熊の前をノーガードでちょろちょろとしているのだ。
「一発でも喰らったら如何するんだ! 木島もフォローしてやってくれ!」
木島と呼ばれた女性。彼女は彼女で執拗に熊の後ろに回ろうとしている。
背後に回るのは良いが、なぜか、木の上をぴょんぴょんと飛んで回り込もうとしたり、無駄に空中で回転しながら、熊の頭上を飛び越えてみたりと、まるで曲芸披露をしている。
「えぇ! 団長だって、超軽いんですよぅ!! 見てください、この華麗な回転!」
「団長って! お前は何時からサーカス団員になったんだ!!」
リーダーの突っ込みが冴え渡る。まぁ、こんな戦闘をしながらも熊は順調にその体力を削られ、リーダーの鬱憤による突きを急所に受け倒れてしまう。
「はぁ……怪我もなく倒せたから良いが、お前らの何がその行動をさせてるんだ」
そう呟くも、原因はこの間できた遊技場だと予測をつけるリーダー。
あそこで、彼等は思いっきり騒いだ。それこそ、今までのストレスを全てぶち込むかのように歌い、踊り、泳ぎと騒ぎに騒いだ。
結果、彼等は心身ともにリフレッシュ。お陰で、今まで表に出て居なかった身体的スペックが、ひょっこりと顔を出した。
そう……出してしまったのだ。そうなると、最早その身体能力に心や思考が振り回され、面白おかしくなりハイテンションへと導かれる。
結果……リーダー以外の彼等は黒歴史を生んだ。
テンションが落ち着いた後、酒場で遊技場でと様々な場所で、彼等がリーダーから弄られる運命は逃れられない。
それはもう盛大に頭を抱えるだろうが……今の彼等はソレに気がつかない。なぜなら、テンションが振り切れ、現在進行で黒歴史を生み出しているから。
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