八十一話
大人達の悪乗り回
「お兄ちゃん! 遊べるものが少ないと思うの!」
ゆいのそんな発言を聞いたからか、大人達は膝を付き合って頭を悩ます事になっている。
「たしかに、やる事が多かったからそういった物は、後回しになっておるのじゃが……」
「しかし、娯楽がなければ休みの時に暇を持て余してますからねぇ」
「あー……俺達も殆ど酒場でカードをしながら賭け事だな」
現状はシェルターに逃げる時、たまたま持ち込んだトランプが幾つかと、ゆいが逃げる時こっそり持ち出したスーパーボールぐらいしかない。
そして、トランプは大人達が酒を楽しみながら使っている分と、学校で子供たちの為に置いてある分で全てだ。
「まぁ、建築関連も一通り終わりましたし。少し手が空いた人達で何か作ってみても良いのでは?」
「戦って、酒を飲んで、カードで博打だけじゃ、そのうち疲れきってしまうやつも出てくるだろうしな」
「そうじゃのう……時間がある時にでも色々と作ってみるかの」
元々の世界では娯楽が溢れていた。それこそ室内で遊べるゲームから、総合遊技場なんて一種のテーマパークみたいなものまで、多種多様にだ。
とはいえ、現状であればテレビゲームやらカラオケ等と言った電気を使うものは無理と言える。
「とりあえず……木工で作れるものでいいじゃろ」
「なら、オセロや将棋やらチェスあたりですか?」
「サイコロだ! サイコロは必要だろう!」
「ルーレットもですかね? 盤ゲームなら家族で楽しめますし」
こんな時に何を言ってるんだ? と思う人もいるかもしれないが、こんな時だからこそ皆で楽しめるものが必要と言える。
殺伐とした世界に変化してしまった、日常でも余裕が余り無い。それでは精神が病んでいってしまう。少しでも笑顔を取り戻せ! という事で、一大プロジェクトとも言うべき勢いで、娯楽を求め大人達が悪乗りしていった。……うん、見ていて目が血走っていて怖かったよ。
そして、計画を開始した当日。村の一角でソレが始まっていた。
「おら! 其処、水平になってねぇぞ!」
「すんません! いや、中々大変っすよこれ!」
「そこは湾曲させるのよ! あぁ、ラインがずれてるじゃない!」
「てめぇ! 駒だからって手抜くんじゃねぇ! 良いか馬の形ってのはな!」
……なんだこの熱気。てか、手が空いたらとかじゃなくて、村総出状態でつくりだしてるじゃないか。
トンテンカンカンと、大工が建物を作り、老若男女問わず何かを作り上げる。それは駒だったり、球体のものだったり、机だったりと何を作ろうとしているのか解らない物まで。
「……兄さん、何だか凄いことになってるね」
「あー、確かゆいの発言からだからなぁ」
「ゆいの発言力が……こんな事に……」
ゆいが隣で微妙に落ち込んでいる。本人としてはちょっとした遊具が増えれば良いな! 程度だったんだろうな。
それはきっと、学校の皆で少しでも遊べる何かが欲しかっただけの発言。
しかし、状況は大人達の悪乗りによる、大規模な事業へと変化してしまった。
「えっと、あれだよ! ゆいちゃんは悪くないよ!」
美咲さんが必死にゆいを宥めているが、ゆいの目が遠くを見つめて戻ってくる気配がない。
「あー……なんだ、大人達も娯楽に飢えてたんだ。時間の問題だったってやつだよ。なら、出来上がったら精一杯楽しめば、皆も大満足するさ」
「そ、そうだね! 兄さんの言うとおりだよ。ゆいはあんまり自分を責めなくて良いよ!」
「そ……そうかな?」
うん、大人の悪乗りが過ぎただけだからな。とはいえ……本当に何を作り上げているんだろうか。
俺達の思いとは裏腹に、日々出来上がっていく建物。うん、村で一番大きい施設になりつつあるんだけど、娯楽施設に本気になりすぎじゃないかな? というよりも、なんで研究班まで混ざってるのかな? 俺達の装備は整備終わってからやってるんだよね!?
「本当……村全体が祭りの準備みたいになってるじゃないか」
そんな風にみんなに聞こえるよう呟いてみるけど、全員が顔を逸らしてから作業を再開しだす。
「クックック……仕方ないじゃろ。シェルター生活も合わせれば二年以上じゃ。鬱憤も相当溜まっておるじゃろうて」
石川の婆様が後ろから声を掛けてくる。まぁ、言ってる事は解るんだけどさ……。
「預けた装備どうなってます?」
俺としては、先ずそっちが最優先事項なんだよな。狩りや調査に出かけるにしても、予備の装備は予備だから、余り使いたくない。
「おー……あやつら渡すの忘れてたんじゃろうな。仕上げは昨日終わらせてるぞい」
「終わってましたか。まぁ、それなら良いんですけど」
「お主も少しは余裕を持った方が良いのじゃよ? 上手くやっているつもりじゃろうが……結構、焦っておるのが丸分かりじゃ」
む? 俺が焦ってるって……そんなつもりは無いんだけどな。
しかし、婆様がこうやって苦言を言ってくるって事は、何処か焦ってる部分があるんだろう……さて、何処だろうか。……思いつかないし聞いてみるのが早いか。
「それって、どこら辺が焦ってるようにみえますかね」
「そうじゃのう……回復薬に母親や妹達のために父親を見つけたい。そんな想いが渦巻いておるじゃろ」
「まぁ、それは当然ありますけど」
「現状じゃと先に進んでるようにみえる。が、ダンジョンには入れない、シェルターから返事はない。行き詰った結果しか目にしておらんのじゃ。内心、次の手が解らん状態で思考がいっぱいな状態なんじゃろ?」
……確かに。あの瘴気を渡ってダンジョンに入らなければ、上級ポーションを取りに行くなんて出来ない。父親も、シェルターに居るかどうかを先ず確認しないと。
確かに、今は次にするべきことが解らないんだよな。……その事実が無意識の内に焦ってたのか。
でも、如何したら良いんだろうな。どれから手をつける? 瘴気に関しては…………。
「ほれ! まーた焦りに飲み込まれそうになっておるぞい」
「あ……たしかにまた答えが出ない思考に嵌り出してました」
「恐らく今は、時間を待つ時じゃ。それならば、お主もあやつらに混ざって何か作って来い!」
婆様に言われて、とりあえず今はものづくりの手伝いをして行く。
って、なんで此処に魔石が置いてあるんだ! 何に使うつもりだよ! 数が足らないって言ってるじゃないか……。
色々な物を作るようになってから、十数日。その間、戦闘班は外にでて狩りをするのと、建築やら創作の手伝いを交互にしながら過ごした。
農業をメインとしてる人たちも似たような流れだが、研究班……婆様以外の全員が色々な物を悪乗りで作り出してるんだよなぁ……何が出来上がるか怖いんだけど。
まぁ、そんな訳で出来上がった巨大な建物。うん、アミューズメントパークなのかな? てか、電力はどうするんだこれ! エネルギー問題がまた大変な事になる!!
とりあえず、中を見てみると……悪乗りしすぎだろうという施設が一杯だ。
ボーリング・カラオケ・ビリヤード台・卓球台・ダーツ他にも盤ゲームをするスペース。
「一体何を考えてこんな施設にしたんだよ! ビリヤードや卓球はいいとして、ボーリングやカラオケって! 電力どうするのさ!」
「あー……そこはほら、月に数回開放的な感じで!」
「研究班が居たからいやな予感してたけど、あれ魔石燃料でしょ! 魔石の量どうするんだよ!」
「ふふふ……其処は徹底的に省エネ化に成功したのだよ!」
眼鏡をクイクイとさせながら、研究班の一人が高らかに宣言する。……てか、娯楽で本気だしやがった! というよりも、もっと早くに省エネシステム作り上げて欲しかった!!
「ま、まぁ其処はモチベーションというやつでして……一応、省エネに関しては前々から研究はしてたんですよ?」
「むしろ研究して無かったらぶん殴ってるわ!」
まぁ、省エネシステムについては、今後に役に立つから良いんだけど。それでもやっぱり解せないよね。
「……おっほん。それで、どうですこの素晴しい程の……温水プール!」
うん……施設の一角にお風呂とプールまであるんだよね。幾ら省エネが開発出来たからといって、これは燃料食いすぎるだろ。
「で? この施設……一日稼動するのに魔石はどれだけ使うんだ?」
「えっと……熊の魔石を……五個ほど……」
「使いすぎだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! お姉さん、監督しておいてこの結果はどういう事!」
「あ……あはは。えっと……ごめんね?」
テヘペロじゃない! 熊のモンスターとか一日に一匹狩れるわけじゃないんだから……もう少し自重して欲しかったんだけど!!
「せめて、コレだけの施設を稼動させるつもりなら、魔石を計画的に入手できるようにしてからが良かったんだけど!」
「ま……まぁ其処は毎日稼動させるわけじゃないから! うん、皆で騒ぐ日を決めてやるから!」
くそう……出来上がったものは仕方ないけど、魔石の為に遠征する計画でも立てるべきか……。
「まぁ落ち着くんじゃ。魔石が不足がちなのは解っておるんじゃ。ならば、全員が其れこそ入手の為に動くじゃろうて」
「爺様……そうだよね。きっと皆が遠征にツキアッテクレルヨネ?」
ふっふっふ……ゴブリンがいる場所への遠征計画を立ててやる。さらにその奥の奥までだ。きっとオークとかも居るに違い無い。
あのダンジョンからは間違いなくオークも出てきてるはずだからな。
「えっと……白河君……お手柔らかにね?」
「えぇ、解ってますよ。もちろんですよ、皆が頑張ってくれるなら問題ないですからね」
ゆいが伏せてしまわないように、全て大人の所為にしてる。うん、これは内緒だ。じゃなければ、ゆりもゆいも思いっきり遊べないだろうからね。
とはいえ、これで戦闘のストレスや、モンスターが居るから遠くに行けない人達のストレスが、緩和されれば良いよね。
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