表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/889

八十一話

大人達の悪乗り回

「お兄ちゃん! 遊べるものが少ないと思うの!」


 ゆいのそんな発言を聞いたからか、大人達は膝を付き合って頭を悩ます事になっている。


「たしかに、やる事が多かったからそういった物は、後回しになっておるのじゃが……」

「しかし、娯楽がなければ休みの時に暇を持て余してますからねぇ」

「あー……俺達も殆ど酒場でカードをしながら賭け事だな」


 現状はシェルターに逃げる時、たまたま持ち込んだトランプが幾つかと、ゆいが逃げる時こっそり持ち出したスーパーボールぐらいしかない。

 そして、トランプは大人達が酒を楽しみながら使っている分と、学校で子供たちの為に置いてある分で全てだ。


「まぁ、建築関連も一通り終わりましたし。少し手が空いた人達で何か作ってみても良いのでは?」

「戦って、酒を飲んで、カードで博打だけじゃ、そのうち疲れきってしまうやつも出てくるだろうしな」

「そうじゃのう……時間がある時にでも色々と作ってみるかの」


 元々の世界では娯楽が溢れていた。それこそ室内で遊べるゲームから、総合遊技場なんて一種のテーマパークみたいなものまで、多種多様にだ。

 とはいえ、現状であればテレビゲームやらカラオケ等と言った電気を使うものは無理と言える。


「とりあえず……木工で作れるものでいいじゃろ」

「なら、オセロや将棋やらチェスあたりですか?」

「サイコロだ! サイコロは必要だろう!」

「ルーレットもですかね? 盤ゲームなら家族で楽しめますし」


 こんな時に何を言ってるんだ? と思う人もいるかもしれないが、こんな時だからこそ皆で楽しめるものが必要と言える。

 殺伐とした世界に変化してしまった、日常でも余裕が余り無い。それでは精神が病んでいってしまう。少しでも笑顔を取り戻せ! という事で、一大プロジェクトとも言うべき勢いで、娯楽を求め大人達が悪乗りしていった。……うん、見ていて目が血走っていて怖かったよ。




 そして、計画を開始した当日。村の一角でソレが始まっていた。


「おら! 其処、水平になってねぇぞ!」

「すんません! いや、中々大変っすよこれ!」

「そこは湾曲させるのよ! あぁ、ラインがずれてるじゃない!」

「てめぇ! 駒だからって手抜くんじゃねぇ! 良いか馬の形ってのはな!」


 ……なんだこの熱気。てか、手が空いたらとかじゃなくて、村総出状態でつくりだしてるじゃないか。


 トンテンカンカンと、大工が建物を作り、老若男女問わず何かを作り上げる。それは駒だったり、球体のものだったり、机だったりと何を作ろうとしているのか解らない物まで。


「……兄さん、何だか凄いことになってるね」

「あー、確かゆいの発言からだからなぁ」

「ゆいの発言力が……こんな事に……」


 ゆいが隣で微妙に落ち込んでいる。本人としてはちょっとした遊具が増えれば良いな! 程度だったんだろうな。

 それはきっと、学校の皆で少しでも遊べる何かが欲しかっただけの発言。

 しかし、状況は大人達の悪乗りによる、大規模な事業へと変化してしまった。


「えっと、あれだよ! ゆいちゃんは悪くないよ!」


 美咲さんが必死にゆいを宥めているが、ゆいの目が遠くを見つめて戻ってくる気配がない。


「あー……なんだ、大人達も娯楽に飢えてたんだ。時間の問題だったってやつだよ。なら、出来上がったら精一杯楽しめば、皆も大満足するさ」

「そ、そうだね! 兄さんの言うとおりだよ。ゆいはあんまり自分を責めなくて良いよ!」

「そ……そうかな?」


 うん、大人の悪乗りが過ぎただけだからな。とはいえ……本当に何を作り上げているんだろうか。




 俺達の思いとは裏腹に、日々出来上がっていく建物。うん、村で一番大きい施設になりつつあるんだけど、娯楽施設に本気になりすぎじゃないかな? というよりも、なんで研究班まで混ざってるのかな? 俺達の装備は整備終わってからやってるんだよね!?


「本当……村全体が祭りの準備みたいになってるじゃないか」


 そんな風にみんなに聞こえるよう呟いてみるけど、全員が顔を逸らしてから作業を再開しだす。


「クックック……仕方ないじゃろ。シェルター生活も合わせれば二年以上じゃ。鬱憤も相当溜まっておるじゃろうて」


 石川の婆様が後ろから声を掛けてくる。まぁ、言ってる事は解るんだけどさ……。


「預けた装備どうなってます?」


 俺としては、先ずそっちが最優先事項なんだよな。狩りや調査に出かけるにしても、予備の装備は予備だから、余り使いたくない。


「おー……あやつら渡すの忘れてたんじゃろうな。仕上げは昨日終わらせてるぞい」

「終わってましたか。まぁ、それなら良いんですけど」

「お主も少しは余裕を持った方が良いのじゃよ? 上手くやっているつもりじゃろうが……結構、焦っておるのが丸分かりじゃ」


 む? 俺が焦ってるって……そんなつもりは無いんだけどな。

 しかし、婆様がこうやって苦言を言ってくるって事は、何処か焦ってる部分があるんだろう……さて、何処だろうか。……思いつかないし聞いてみるのが早いか。


「それって、どこら辺が焦ってるようにみえますかね」

「そうじゃのう……回復薬に母親や妹達のために父親を見つけたい。そんな想いが渦巻いておるじゃろ」

「まぁ、それは当然ありますけど」

「現状じゃと先に進んでるようにみえる。が、ダンジョンには入れない、シェルターから返事はない。行き詰った結果しか目にしておらんのじゃ。内心、次の手が解らん状態で思考がいっぱいな状態なんじゃろ?」


 ……確かに。あの瘴気を渡ってダンジョンに入らなければ、上級ポーションを取りに行くなんて出来ない。父親も、シェルターに居るかどうかを先ず確認しないと。

 確かに、今は次にするべきことが解らないんだよな。……その事実が無意識の内に焦ってたのか。

 でも、如何したら良いんだろうな。どれから手をつける? 瘴気に関しては…………。


「ほれ! まーた焦りに飲み込まれそうになっておるぞい」

「あ……たしかにまた答えが出ない思考に嵌り出してました」

「恐らく今は、時間を待つ時じゃ。それならば、お主もあやつらに混ざって何か作って来い!」


 婆様に言われて、とりあえず今はものづくりの手伝いをして行く。

 って、なんで此処に魔石が置いてあるんだ! 何に使うつもりだよ! 数が足らないって言ってるじゃないか……。




 色々な物を作るようになってから、十数日。その間、戦闘班は外にでて狩りをするのと、建築やら創作の手伝いを交互にしながら過ごした。

 農業をメインとしてる人たちも似たような流れだが、研究班……婆様以外の全員が色々な物を悪乗りで作り出してるんだよなぁ……何が出来上がるか怖いんだけど。


 まぁ、そんな訳で出来上がった巨大な建物。うん、アミューズメントパークなのかな? てか、電力はどうするんだこれ! エネルギー問題がまた大変な事になる!!


 とりあえず、中を見てみると……悪乗りしすぎだろうという施設が一杯だ。

 ボーリング・カラオケ・ビリヤード台・卓球台・ダーツ他にも盤ゲームをするスペース。


「一体何を考えてこんな施設にしたんだよ! ビリヤードや卓球はいいとして、ボーリングやカラオケって! 電力どうするのさ!」

「あー……そこはほら、月に数回開放的な感じで!」

「研究班が居たからいやな予感してたけど、あれ魔石燃料でしょ! 魔石の量どうするんだよ!」

「ふふふ……其処は徹底的に省エネ化に成功したのだよ!」


 眼鏡をクイクイとさせながら、研究班の一人が高らかに宣言する。……てか、娯楽で本気だしやがった! というよりも、もっと早くに省エネシステム作り上げて欲しかった!!


「ま、まぁ其処はモチベーションというやつでして……一応、省エネに関しては前々から研究はしてたんですよ?」

「むしろ研究して無かったらぶん殴ってるわ!」


 まぁ、省エネシステムについては、今後に役に立つから良いんだけど。それでもやっぱり解せないよね。


「……おっほん。それで、どうですこの素晴しい程の……温水プール!」


 うん……施設の一角にお風呂とプールまであるんだよね。幾ら省エネが開発出来たからといって、これは燃料食いすぎるだろ。


「で? この施設……一日稼動するのに魔石はどれだけ使うんだ?」

「えっと……熊の魔石を……五個ほど……」

「使いすぎだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! お姉さん、監督しておいてこの結果はどういう事!」

「あ……あはは。えっと……ごめんね?」


 テヘペロじゃない! 熊のモンスターとか一日に一匹狩れるわけじゃないんだから……もう少し自重して欲しかったんだけど!!


「せめて、コレだけの施設を稼動させるつもりなら、魔石を計画的に入手できるようにしてからが良かったんだけど!」

「ま……まぁ其処は毎日稼動させるわけじゃないから! うん、皆で騒ぐ日を決めてやるから!」


 くそう……出来上がったものは仕方ないけど、魔石の為に遠征する計画でも立てるべきか……。


「まぁ落ち着くんじゃ。魔石が不足がちなのは解っておるんじゃ。ならば、全員が其れこそ入手の為に動くじゃろうて」

「爺様……そうだよね。きっと皆が遠征にツキアッテクレルヨネ?」


 ふっふっふ……ゴブリンがいる場所への遠征計画を立ててやる。さらにその奥の奥までだ。きっとオークとかも居るに違い無い。

 あのダンジョンからは間違いなくオークも出てきてるはずだからな。


「えっと……白河君……お手柔らかにね?」

「えぇ、解ってますよ。もちろんですよ、皆が頑張ってくれるなら問題ないですからね」


 ゆいが伏せてしまわないように、全て大人の所為にしてる。うん、これは内緒だ。じゃなければ、ゆりもゆいも思いっきり遊べないだろうからね。

 とはいえ、これで戦闘のストレスや、モンスターが居るから遠くに行けない人達のストレスが、緩和されれば良いよね。

ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング

宜しければ下記のリンクもお目を通して頂ければ幸いです

新しい話をアップしていきますよヾ(*´∀`*)ノ:孤島で錬金術師~修学旅行中に孤島に飛ばされたから、錬金術師になって生活環境を整えていく~
― 新着の感想 ―
[一言] 子供と大人の悪ノリならなまじ知識や技術がある分大人の方がたち悪いわな(笑)
2021/02/07 23:16 退会済み
管理
[気になる点] 五階層の主との対話は行ったのだろうか? まさか、放置はしてないですよね。
[一言] おい、大人! 青年に負担をかけすぎるな! って、言いたくなるよね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ