八十話
休息回
装備をメンテナンスに出している間は休息の期間だ。一応、予備の装備はあるけど、それは緊急事態に備えての物で、実際に使う事は殆ど無い。
なので今日はまったりと、村を探索してみている。
「それにしても、随分と村も変化したなぁ」
周囲を見ながら思わずそんな言葉が口から出てしまう。それだけ地上に戻ってからの変化が早い上に、基本的に俺は村の外に出てる事が多いから、村全体を見るなんて事は早々無いからな。
それに、休みの時は何時ものパターンだと、妹達の遊びという名の訓練に付き合ってるけど、まぁ今日は学校らしいから、時間が出来たのでぶらぶらと出来る訳だ。
「田畑が増えてるな、研究班が色々開発したから、一気に農機を動かせる様になったのは大きいね」
動かす為に石油燃料じゃなく、魔石燃料とでも言えば良いのか? そのシステムを作り出したお陰で、様々な物が一気に近代化したんだよなぁ。まぁ、魔石も消耗品だし数が足らないから、色々と後回しになってる事も多いけど。
装備品から日用品など、なんにでも使うから本当……大量に手に入れれる状況にしたいのは、全員の願いだろうな。
ふらふらと歩いていくと、実験農場が目に入る。
ここは、俺達戦闘班が外に出て、森の中等で集めてきたサンプル品を育てたりしている場所。
よく見ると……昔ダンジョンの中でとって来た植物もあったりする。
「まぁ、見たところで何が如何いうものか解らないけどな」
食べれる実をつけるものや、毒草に薬草の類まであるって婆様は言ってたけど……どれが何なのかまったく理解出来ない。
そういう場所だから、安易に入れないようにバリケードが張ってある。……まぁ、子供が入り込んで口にしたら不味いからな。
後、ここで実験して増やすことに成功した薬草が、地味に村全体を支えている。何せ、その薬草で初級ポーションが造れるようになったから。傷から病気まで多用できるポーションは、薬が調達できない環境において、救世主といえる物となるのは当然だろう。
「とはいえ、まだまだ初級クラスだから婆様達も満足してないんだよな」
いつか上級ポーションすら造り上げて、欠損や難病まで解決してみせるつもりらしいが、上級ポーションは研究した事が無いので、ダンジョンで手に入れてから分析するんだろうな……一体幾つ必要になるんだろうな。
果物に関してもこの農場で育て方を発見した後は、人が食べても大丈夫だと解ったものは、果樹園か畑の方で育てるようになってるみたいだ。
偶に知らない果物とかが食卓に並ぶから、吃驚する時があるけど……大抵は此処の試験をパスした物なんだけど、出す前に説明は欲しい。
そうそう食といえば、研究班がレポートを上げていた。内容はモンスター食いと身体能力向上についてだ。
色々と調査した結果、モンスターの肉以外にも地球になかった新種の食物であれば、身体能力を上げる為の効果が発見されたみたい。そして、それは副作用とかもないので、このまま食べて身体を強化していくべきだ! と研究班は断言している。
外に出て以来、その手のものばかり口にしてから運動してるからな……妹達のあのハイスペックな動きは、当然と言う事なんだろう。
とは言ってもダンジョン内で戦ったり、モンスターを討伐したりするよりも、その成長スピードは遅い……遅いのか? まぁ、遅いから最終的に強くなりたければモンスターを倒せって事になる。
その結果が、戦闘班の異常なスピードの成長なんだろう。ゲーム的に考えたら……モンスター食いは獲得経験値アップって効果に近いんだろうな。
「そういえば、村の中が安全って解ったのかな? 人間に害をなさない程度で、虫やら鳥やらがこっそり紛れてるな」
犬や猫やタヌキといった動物は恐らく外で発見した誰かが、集めてきたんだろう。鳥や虫は……まぁ何処にでも侵入するからな。
さり気無く、日本蜜蜂やらもいて、蜂蜜の回収も出来てたりする。しかもだ……新種の花から蜜をとって来てる。それはある意味、モンスター肉と同じ様な効果がある蜂蜜の出来上がりだ。そして、そんな蜂達は異常な程に賢くなっていて、完全に共存体制を作っている……なんで、蜂自ら人間用の蜜って分けてるんですかね? 魔石が出来てるとか、霊獣ならぬ霊虫と言われても驚かないぞ。
「ただなぁ……村の中でそんな生き物増えてるよね」
何処からか木の実を集めてくる鳥。植物の受粉を手伝ってくれる虫。モンスターの警戒をしてくれる動物。
ある意味、異常事態のはず何だけど……皆受け入れてしまっている。まぁ、そんな生き物達だが、彼等の死骸からは魔石なんて見つかっていない。今の所はだけどな。
「それでも、モンスター化したとしてもだ……イオみたいに仲良くやっていけそうな気はするな」
なんだか凄く楽しげな雰囲気だけは感じるからな。きっと、彼等にとってもこの村は理想郷なんだろう。なら、敵対しないように上手く付き合っていくだけだ。
何と無く始めた村の探索を終えて帰宅する。
まだ、妹達は帰ってこない時間だし、爺様は上役の集まりか農作業、母さんは婦人会の集まりで服か何かを作ってるだろう。
「ふむ……って事は一人だな」
静寂の中ふと思う。こんな風に一人の時間を、ぼーっと過ごすのは何時振りだろう? と。
後ろなんて特に見ずに突っ走ってきたからな。前の探索でダンジョン前まで行って、ある意味一区切りの心境なんだろう。
そんな風に考えてると、次々と見ないようにして来た思いが湧き出てくる。
父さんは無事だろうか? 協会の支部長は何処かでその手腕を奮ってるだろうか? 話をする様になったクラスメイト達は無事だろうか? あのおっさん共は……無理だろうけど、彼等の指摘した部分は、今だとどう見えるんだろう? うん、こんな時は騒がしい妹達に早く帰宅してきて欲しくなるな。
「むむむ……もう一度外に出るべきだろうか? 立ち止まったら余計な事を考えそうだ……よし、イオの所にでも行くべきだな」
廻ってる思考を飛ばす為にあえて口に出してから、ブラシとおやつを持って家から飛び出す。
イオの小屋が見える場所まで歩いて行くと、どうも先客がいるようだ。まぁ、見知った後ろ姿なんだけど。
「美咲さんもイオと遊びに来たんだ」
「うん、休みでしかも妹ちゃん達が居ないとなると……ね」
似たような感覚に陥ったんだろうな、何せあの帰宅に使った道はシェルター生活をする前に、皆で逃走した道だからな。
しかも、おっさん達は其処で殿をしたんだ。きっと思い出してしまったんだろう。
その後は特に話をする事も無く、イオを構い倒して時間を潰した。というか、今の状態で会話なんて出来るわけが無い。
まぁ、そろそろ学校も終わる時間だし、後は妹達を……と言うより、妹達に巻き込まれて騒いだ方が良いな。
あの二人が揃うと、こういった時の雰囲気ブレイクが上手すぎるから。……まぁ、天然で楽しんでるのかもしれないが。助かってるので良いだろう。と思ってると、終業の鐘の音が聞こえる。
「お? そろそろ二人が帰宅するな。戻ったらスーパーボールだのバランスゲームだのと、遊びの誘いがくるだろうな……まぁ、どう見ても特訓だけど」
「あ……たしかに。あれ、訓練だよね」
「美咲さんも付き合ってくれる? 集中砲火が容赦なくなってきてるんだよね」
「いいけど……私も妹ちゃん達に加勢するかもしれないよ?」
「おっと、それは勘弁」
これで彼女も少しは気が紛れるだろうな。というか、俺がすっきりとした気分になりたいだけでもあるけど。
さて、では美咲さんを連れて行きますかね。遊びの戦場へ。
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