七十九話
協会への報告回
太陽も傾き、三時ぐらいになった頃に村へと到着した。大丈夫だとは思いつつも、周囲の警戒しながらのダッシュは移動速度が落ちるからか、予定より遅くなってしまった。
村についてからは、イオを先ず寝床に連れて行ってから水や餌を与えておき、その後は自由にさせる。まぁ、本獣は少し休んだ後にでも、森にマーキングしにいくだろうな。
そして、俺達がやる事といったら、まずは協会での報告だ。武器防具の整備依頼もあるけど、そっちは帰宅前で良いだろう。
そんな訳で美咲さんと、報告する内容を纏めながら協会まで歩いていくんだけど、道中で皆のお帰りコールが絶えない……うん、返信してたら纏めの話し合いが一向に進まなかったよ。
協会の扉を開けると、一斉に皆がこっちを見る。まぁ、この時間に協会に来る人は少ないからな。
来る人がいたとしたら、緊急事態で駆け込んで来る人か、予想以上に仕事が早く終わった人達ぐらいだ。
そんな訳で、皆が何かあったのか! と思って入り口をどうしても見てしまうみたい。
「えっと……ただいま」
「戻りましたー」
「あら、二人共おかえりなさい!」
お姉さんが代表して返事をしてくれた。ただ、其処に含まれているのは、今すぐにこちらで話を聞くわよって事だ。
とりあえず、二人して誘導されるようにお姉さんの前へと進んでいく。
「それで、調査結果の報告よね。どうだったのかしら?」
先ず説明するべきことは、村から街までの状況だろう。順序的にも内容的にも当たり障りの無い話だ。
モンスターの縄張り等で特に変化が無い話でもあるしな。
「……まぁ、そんな感じで街までのモンスターは、特に問題がありませんでしたね」
「そう、なら今後は直ぐ街まで行っても大丈夫そうね」
「とはいえ、雀蜂みたいな飛行系モンスターも居るでしょうから、色々と注意と調査は必要かと」
「……そうだったわね、確かに飛行系なんて来たら厄介だわ」
豆柴以外の懸念事項といえば、現状思いつくのは飛行系が来ることぐらいだから、その点をとりあえず言っておけば大丈夫だろう。
「次にシェルターですね、これに関してはお手紙を貼り付けて置きました。とりあえず、同じ内容の物を用意してあるので渡しておきます。因みに、現状返事はありませんでしたが、手紙自体は恐らく読んでもらってると思います」
「おそらくとは?」
「貼り付けた後は調査の為離れましたから。村へ戻る前に様子をみて、手紙が無かった事を確認しただけですので……限りなく可能性が低い話ですが、モンスターが持っていったか風に飛ばされた、等と言ったことが無ければと」
「なるほど、では後でその手紙の内容は確認させてもらうわね」
同じ内容の手紙をお姉さんに渡しておく。後の事は丸投げだな。もし、何かやるとしてもだ、それはメッセンジャーとしてお手紙を届けるぐらいだろうが、村から街までの道のりが比較的安全であると報告したし、次は別の人達で調査等もするだろう。
そうなれば、お手紙を届ける人も俺達じゃなくても良いという事になる可能性が高い。うん、寧ろそっちの方が面倒な話をしなくて済むな。
まぁ、そんな思考をしてるというのは顔に出さないようにして、次の話題だ。
「手紙を貼った後の行動ですが、そのままダンジョンの方へと足を運びました。その道中がとんでもない悪路でしたが……まぁ通れない事は無いといった感じでしたね」
「あぁ、ダンジョンの方まで行ってくれたのね。期待はしてたけど、調査としか言ってなかったから……二人が村から出た後に、やっちゃったって思ったぐらいだったのよ」
「物資の量をみたら、恐らくそうだろうなとおもったので。それでですね、悪路に関してなんですけど……」
あの悪路についての説明だ。現状であれば道路整備なんて出来ないから、足場の悪い状況での戦闘訓練が必要である事が上げられる。まぁ、この村の戦闘班であれば、そういった訓練は結構しているから大丈夫だとは思う。
次に、モンスターがあの状況を作った可能性が高い事と、隆起や断裂があるためか、モンスターの種類によっては足を踏み込みにくい事も告げておく。
「そう……ゴブリンがその悪路の向こう側にいて、奴等は悪路を渡ってくる事が苦手なのね」
序に、何故踏み込みにくい奴等が居るかの説明のために、ゴブリンが居た事とそいつ等が、悪路を苦手とした事も添えておく。
「ゴブリンについては、後で戦闘等について説明があるので少し流します。とりあえず現状において悪路は利用するべきかと」
「そうね……天然のバリケードみたいなものよね。解ったわ、ダンジョンまでの道のりだからといって、新しい道を作ったり整備したりといった事は、しない方向でいきましょう」
整備や道作成なんてやったら、デメリットの方が多そうだからな。ゴブリンが流れ込んできたり、ゴブリンが居なくなった場所を穴埋めするように、違うモンスターも来る可能性がある。
お姉さんも同じ結論なんだろう。すぐさま、悪路を利用する方向で話を決めてしまった。
「で、そのゴブリンはどうだったの?」
「行きに十匹前後での編成で十数回ほど襲撃されましたね。まぁ、ただのゴブリンでしたから問題はありませんでした」
「そう……ところで、ゴブリン相手に美咲ちゃん大丈夫だった?」
「あ、はい! 最初はちょっとって感じでしたけど、弓をつかって遠距離なら!」
「そうなのね。まぁ、戦力低下にならないから村としてはよかったかしら。でも、何かあったら直ぐに言うのよ? 後になって気分が急に悪くなったりとかもあるみたいだから」
「はい!」
文明が崩壊する前によく話題にあがってたからな。人型との戦闘および討伐の嫌悪感。ネットどころかテレビや本にもなってたからな、協会職員としても色々聞いてるだろうから、美咲さんの精神状態を気にしてるんだろう。
まぁ、後で妹達に頼んでおこう。色々巻き込んでワイワイと騒げば、何かが引っ掛かってても大丈夫だと思う。
「少し話を戻しますが、実はダンジョン側までいったんですよ。……ただ、ダンジョン入り口までは行けませんでした」
「あら……其処までいったのなら、白河君ならダンジョンに入りそうなんだけど?」
「謎の信用ですね。まぁ、其処で思わぬ再会をしまして、色々と話を聞いてきたんですよ」
という事で、今回の本題であるズーフとの再会。
彼との話は正直な話、頭がパンクしてしまうのではないだろうか? そんな事を考えてもどうしようもないので、纏めて話を進めていく。
ダンジョンの入り口周辺が瘴気という毒のようなもので覆われている事。そして、その瘴気は一定ライン以上のモンスターに変化を起こす可能性がある事。さらに、その瘴気の中を移動する方法が無い事。
次に、魔法は本からしか習得できないという話。まぁ、これは予想の範囲なのだろうか、逆に納得した顔をしている。
そして、ダンジョンの外に出てるモンスターについてだ。実はオーガクラスが外に出ている事はおかしな話で、瘴気で変化した何かだろうという点。正直こんな話は謎しか残らないけど、報告しなくてはいけない、された方も困るけどな。
豆柴に関しての話では、霊獣や聖獣なんてものが居るという事。ただ、なぜダンジョンの外にそんな存在が居るのかと言う謎が残ってるけど。
最後に二年前の存在とダンジョンについて。あの謎の存在は地上どころかダンジョンにも居ない。ダンジョンについては、実際は二年以上前の時にも説明はしている。
まぁ、あの存在を倒せる強者を作る為と、今の状態で言われたら納得してしまう。現実は間に合わなかったわけだが。そして、訓練のためにできたダンジョンにとっては、あの存在は敵だという事だ。
「はぁ……何と言うか。とんでもない情報の数ね」
「時間も時間でしたので、これぐらいしか話を聞けませんでした。ただ、だいたい一週間のサイクルで遭遇できるようなので、また質問があればまとめておくと良さそうです」
「そう、私のほうでも何かあったら書き留めておくわね」
「さて、とりあえず今言えるのは……豆柴に関しては現状維持でよさそうね。敵対しなければ問題は無いでしょう。次に、瘴気よね……サンプルとか取ってたりしない?」
「無理でしたね。少し試してみましたが、腐って溶けていきますから」
瘴気に耐えれる器って何かあるのだろうか? 考えてみても想像がつかない。地面と瘴気の間に何かある気もするけど……周囲を掘ったりしたら大惨事になりそうだしな。
とはいえ、ダンジョンにはいる為には何か手段が欲しい所だ。……他のダンジョンを目指すか? なんて考えもしたが、恐らく全部同じ状態の気もするんだよな。
「それにしても、魔石が欲しいのにダンジョンに入れないのね。如何しましょうかね」
「ダンジョン前までの安全を確保してから、瘴気の調査をするしかないかと思いますが」
「そうねぇ……その為には、街とダンジョン前に拠点が必要よね」
ただし、村には人手が足りない。やっぱりあのシェルターの人達と、色々交渉する必要があるんだろうな。
彼等は恐らくだが、守る為に返事を渋った。であれば、守る事を第一にしてくれるのであれば、中継地点および拠点の防衛に丁度良いのでは? と、そんな考えが出て来る。
「白河君が何を考えてるのか何と無くわかるけど……それは私達がやるから、貴方達がやることは、報告をして休む事よ?」
「あー……はい」
うん、顔に出てたのか。考えてる事が読まれてしまったみたいだな。
兎に角、今は切り替えてゴブリンの戦闘についての話だ。
あの時も感じたが、ゴブリン達の夜襲時における行動は謎があった。何が何でも突撃を繰り返してたからな。
もう少し直進的じゃなく、奇襲を仕掛けようとしたり、囲むように広がったりしてくる物だと思うが。全員がただただ真っ直ぐに走ってくるだけという行動。
「それは……人型モンスターらしくないわね。狼達でも、もう少し戦いにくい攻め方をしてくるわよ。しかも足場が悪かったのでしょう?」
「はい、あの悪路で足踏みしてましたからね」
「……そうね、お話とかにあったような習性でもあったのかしら?」
お姉さんが言っているゲームや小説のゴブリンの習性といえば、女性に対してのソレである。
たしかにあの場には美咲さんが居た。そして、トラップやイオに見向きもせず、一目散にこちらへ直進する。
「……捕まったら最悪じゃないですか」
うん、美咲さんが嫌な顔をするのも解るな。現状において、その手のサブカル的な物を現実化したような状態だ。であれば、奴等の習性もまた……同じ可能性が高い。
「ゲーム脳だの何だのと言って、夏の時の事件とかを引き起こしたテレビとかを責めたけどさ……割とゲームやら小説やらと同じ点も多いよね」
「まぁ……ね。ただ、命やら大怪我については違いすぎるから」
ゆりの件もあるからな……一緒だとは思わないけど、一緒の点があるのがまたムカつく話だ。どうせなら、回復魔法とかも一緒にしておいてくれよと思う。何度も思ったし、言っても仕方ない話だけど。
「とりあえず、ゴブリンについても要注意ね。女性がいるパーティーには特に警告をしておかなきゃ……さて、これぐらいかしら?」
「そうですね、抜けてる事は無いと思います。後は、今後どうするかでしょうけど」
「今は良いわよ? 二人とも戻ってきたばっかりだし、ゆっくり休んでおいてね」
まぁ、お言葉に甘えてゆっくり休む方針でいきますか。
まずは、道具の返品と素材や魔石の提出をして、次に協会を出たら……装備のメンテをしてもらわないと。
それが終わったら……美咲さんの首根っこ掴んで、妹達と戯れさせますかね。って、休む暇あるかなこれ?
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