七十八話
夜の襲撃はあの一度だけだった。まぁ、何度も襲撃されると心身共に休まらないので、一度の襲撃で終わった事は良かったといえる。
出発の準備が朝早くから出来た上に、朝食も既にとった後だ。そろそろ出発しても良いだろうという事で、美咲さんとイオに準備が出来たかを聞いてみる。
「さて、そろそろ出発しても大丈夫?」
「私は問題ないよ。イオちゃんはどうかな」
「ミャン!」
両者共準備が完了しているようなので、歩きながら村までの帰路について話を纏めていく。
「まずは、シェルター前を見ていく予定だけどいいかな」
「そういえば、お手紙書いてたよね。それがどうなったかって事?」
行き成り会うよりは良いだろうと、手紙を書いたときに返事は手紙で、扉に貼り付けて置いてくれって書いたんだよね。
まずは、アポを取る……と言うのも今の世界だと変な話だけど。必要以上にお互い警戒しなくて良い方法と言えば、先ずは連絡を手紙でやりあう事だろう。
その手紙も、自分が書いたのは写しがある。返信があれば其れと共に、後は協会や村の運営者に任せる……というか投げる。
モンスターについてや奴等に対抗する為の武器、他にも色々な情報を持ち合わせていて、其れを相手に情報提供したとしても、此方の話を全て信用してもらうのなんて無理だ。
長い時間をかけて話しあう事になるだろうな……お兄さんかお姉さんが。
「兎に角、面倒な事は上に任せるから、今はメッセンジャーとして行動するって事だな」
「そうだね、お手紙が有ると良いね」
「まぁ、有っても無くても後は任せるだけだし。とりあえず、手紙の有無をみた後は村まで一気に帰宅かな」
「了解。っと、もしシェルターの中から人が出て来てたらどうするの?」
「その場合は前の予定と変わらないよ。挨拶だけしておいて、話の内容次第では上に判断を任せますで帰る」
前の時にあった指令は撤回されて無いからね。相手の要望とかに対して絶対に〝はい〟と言わない。面倒な案件だろうが、簡単な案件だろうが、一度村に持ち帰る。これは、徹底するべきだ。
「ま、そういう事で現場判断は戦闘以外は無し。さっさと帰って調査内容を報告しないとね」
話をしながら移動をするが、森の奥からは猿の気配。ただし、攻めて来る事が無い。というか、前より距離置いてる気がする……何度も戦闘を繰り返したからか、イオの存在が強化されてるのだろうか? あの猿達は、イオをチラっと見たあと一目散に逃げてるよな。
「ふむ、イオが強くなったのかな」
「ミャ? ミャーン!」
行き成り名前を呼ばれたからか、イオが何? という顔を一瞬したが、言われた事をすぐさま理解したのか、凄い喜びようだ。尻尾をブンブンさせながら、「ミャンミャン」とご機嫌に歌っている。
「……イオちゃんがご機嫌だね。ただ、そのお陰かモンスターの気配が一気に引いたよ」
「まさかの効果だな。奴等からしたら、今のイオは恐怖の対象か」
そんな楽しげなイオを追いかける事数分、シェルターの位置が見え出してきた。
シェルター付近には人の気配が無く。また、モンスターが再び占領したというような事も無いようだ。
それならば、問題なくシェルターに近づけるかもしれないが、念には念をという事で、手紙があるかどうかを双眼鏡で覗いて見る。
「ふむ……俺達が貼っていった手紙は回収したみたいだな」
「読んでもらえたって事かな? 風とかでは飛ばされないようにしたはずだし」
モンスターが偶々やって来て、手紙だけを引きちぎるなんて事は無いだろうし、風で飛ばされるような貼り付け方はしていない。しては居ないが……。
「返信は無いようだな」
「あら……やっぱ信用して貰えないって事かな」
「さて、どうするかな。もう一通書いて貼っておいても良いけど」
「手紙を返すぐらいは即断即決してほしいよね。こんな状況だもん」
沢山の命が掛かってるからな、悩むのも仕方ない話だ。しかし、今回ばかりは、何でも良いから一言返事をくれと書いて出したからな……返事が無いと言うのは、少し拍子抜けとも言える。
「まぁ……中が全滅してました! なんて事が無い方向で、確率が上がった事は良い情報だったと……そう報告するしかないか」
「うーん……仕方ないのかな?」
美咲さんは解せないって感じだな。それに、即断即決が出来るのなら……シェルターから既に出て、外で数人が拠点の強化とかしてても……って思うけどね。
「それじゃ、此処からは一気に村に戻りますか」
「収穫は一杯あったしね! まぁ、良い報告も悪い報告もあるけど、早く報告して皆を驚かせないと」
そんな訳で、少し駆け足で帰宅開始だ。
二人と一匹で道中を駆け抜けていると、ふと気がついてしまう。
「あれ? 前よりスピードもスタミナも上がってる?」
「ミャン!」
美咲さんまで平気な顔どころか、悠々とついて来ている速度だ。前なら少しは顔に出てたはずなんだけど。
ゲームみたいにレベルなんて見れないけど、大量の猿やゴリラにゴブリンとボスゴブリンに討伐で、そういったモノが上がったのかな。
ダンジョン外だとモンスターを討伐しても、身体能力の向上って其処まで上がらなかったからな……大量討伐のお陰なんだろう。
むしろ、ダンジョン内の上昇率がおかしい話でもある訳だが……何か理由がありそうだな。
「まぁ、これならもう少し速度あげても問題なさそうだな」
「ちょっと! 確かに調子は良い感じだけど、今のままのペースで良いと思うよ!! 村までの距離を考えればこれ以上はちょっと辛いかも!」
ふむ、確かにまだまだ距離はあるからな。何時戦闘になっても良いように余力も必要だし、ここは美咲さんの言うとおりにペースを維持するか。
しかし……一体どれだけのスピードでてるんだろう? 今度計ってみるのも面白い気がするな。
――シェルター内部――
リーダーと呼ばれている男が一通の手紙を前に頭を捻っていた。
それもそうだろう、手紙が来たという事は自分たち以外にも生存した人が存在し、既に外で活動している……そんな人達が居るのだ。
「……如何したら良いと思う?」
彼は横に控える男に、つい問うてしまう。はっきりいって、彼は色々と追い詰められている状態だ。
シェルター内部のバカの処分に、地響きからの戦闘。そして、調査ではバカにでかい人型の足跡。そして、今回の手紙だ。考える事が多すぎて今にも爆発しそうな雰囲気である。
「そうですね、一言返事を書いてくれ……ですから、罠ではないと思いますが」
彼等が心配している事は、何処かのシェルターの人達が外に出るようになった理由が、食糧不足で違うシェルターを襲う可能性だ。
そして側に控えてる男は、もしそのつもりであれば手紙のやり取りからするといった、回りくどい方法は取らないだろう。そんな考えを元にした発言。
「もし……攻めてきたのだとすれば、耐えれるか?」
「普通に戦えば耐えれるでしょう。しかし……魔法の使い手が居たとすれば解りません」
穴倉に潜む相手ならば、魔法を使えば簡単に倒せる。水を大量に流し込んでも良いし、入り口を火で攻めても良い。風魔法を使って毒を撒いても良いだろうが、この場合は食料に被害が出る可能性があるのでやらないと思うが。それでも、手段を考えれば幾らでも出てくる。
「今は……返事をせずに様子を見るでもいいのでは?」
「そうだな、手紙を受け取ったのは確認するだろう。であれば、シェルターの中に人がいる可能性に行き着くはずだ。とはいえ、念の為だ警戒の強化はしておくべきだろうな」
もしも……などという事は無いが、それでも、もし彼等のシェルターにバカが居なければ、そしてモンスターが地上を占拠していなければ、彼等は返事をしない判断をしなかっただろう。寧ろ、直接会話を試みようとしたかも知れない。
だが残酷な事に、彼等にはバカが存在し、地上はモンスターに占領されていた。その結果、彼等は必要以上に外に対して警戒をする様になった。
こうして、シェルターの彼等と村の人達との接触は、また先へと伸びていく。
しかし、彼等の食料も既に無くなりつつある。外でモンスターを狩り生息地を整えなければ、あっという間に大量の餓死者を生んでしまうだろう。
良いタイミングと言うべきなのだろうか。この手紙は彼等の思考と行動を少しずつ変えるのだが、それはもう少し先の話。
ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございます!!
元・自衛隊や元・警察で編成されたリーダー達は、物語的に主人公寄りの目線でみれば優柔不断に見えてしまいますが、彼等の本分は戦えない人達を守る事です。ですので、どうしてもこういう風になってしまうんですよね。




