七十七話
行きはヨイヨイ帰りは怖い。なんて歌があるけど、今の所だと帰りは問題が無い。
ダンジョンに向かう最中にあれだけ戦闘をしたゴブリン達は、現状奥の方で息を潜めている。
「まぁ、逆に何を狙ってるのか気になるけどな」
「ゴブリンは襲撃してくる気配ないよね。何だか、監視してる感じ?」
本当、不気味な感じだ。イオも先頭を進みながら、ピリピリとしながらも周囲を警戒中。森の奥からの視線が気持ち悪いみたいだ。
とはいえ、時間も結構過ぎて来ている。夜通しで村まで走っても良いけど、街灯は無く月明かりしかない上に、道は昔みたいに整備されてるわけじゃない。転んで大怪我なんてことは無いと思うけど、安全と体力を考えるなら、一気に悪路の所まで行ってから、キャンプの準備をしたほうが良さそうだな。
「それじゃ、色々うざいし、日も随分と傾いてきたから……スピード少しあげようか」
「ミャン!」
「イオちゃんは全力じゃなくても良いからね!」
「……ニャン」
そんな訳で目的地の悪路地帯までダッシュだ。
纏わりつく視線を受けながらも、目的場所までたどり着いた。
しかし、本当にあのゴブリン達は何を考えているんだろうか? 行きの時に殲滅しまくったから慎重になってるのだろうか。もしくは……っと、今はとりあえずだ、ご飯や休む為の準備だな。
「って事で、美咲さんはご飯の準備お願い。こっちは簡易テントでも作っておくから」
「まぁ、焼いたり水を沸かして暖めるだけ何だけどね」
「楽でいいじゃないか」
日が落ちる少し前に全ての準備が終わり、ゆっくりと食事をしながら夜についての会話。
「とりあえず、火の番というか見張りは交替しながらかな」
「そうだね、私が後で寝る順番でいいのかな?」
「疲れを取ってから移動したいだろうし、それでいいよ……まぁ、問題があるとしたら今も偶にくる視線だろうけど」
「夜襲でもするのかな」
十中八九来るだろうな。とは言え此処は悪路で、奴等はその悪路を越えて村どころか街まで来れなかった。なら、防衛するには持って来いの場所だろう。
その為に街側じゃなくて、ダンジョン側に近いほうでキャンプを張った訳だしな。反対側なら猿型達だから、悪路を気にしないだろうと言う点で少し面倒になる。
「まぁ、モンスターが襲って来たら、そこの管を叩けばいいよ」
「これ? 如何いう物なの?」
美咲さんが、管をコンコンと叩きながら質問。
まぁ、コレって寝てる人の枕の部分に繋がってる。叩けば音が頭の下で響く仕組みだ。これなら、熟睡していても目が覚めるだろう……寧ろ、これで覚めない人はドレだけ鈍感なんだと、そういう話になりそうだ。
「そういう仕組みだから、夜襲されればイオが大声で鳴くだろうし、一緒にこの管を叩けば嫌でも目が覚めるだろうね」
「はぁ……頭の下で響くのかぁ。うん、嫌な目覚めになりそうだね」
「モンスターが襲ってきてる時点でよろしくは無い目覚めだよ」
さて、説明も終わったし後片付けも済んだ。後はいつ襲撃があるかだろうケド……なるべく早いタイミングがいいかな。それではお休み。
イオの鳴き声が聞こえたかと思ったとほぼ同時に、頭の下でグワァァァンと空気や枕が震える。
「……思ったより早い襲撃だな」
そんな事を口にしながらも、装備は着けたまま寝たので、武器だけ持って外に飛び出る。
「ふむ……やっぱりゴブリン達は悪路が苦手か」
「そうみたい! 結構一方的に攻撃できるよ!」
まぁ、それもそうだろうな。イオに関しては四足でしなやかな筋肉の持ち主だ。悪路なんて意味がないだろう。
美咲さんの場合は、前から悪路での戦闘訓練をしてたからな……隆起が激しい状態でも、バランスを取り移動しつつの戦闘は出来る。やってて良かった自主訓練ってやつだな。
「しかし数が多いな……集落が奥にあって、其処から総出で攻めてきたのか?」
「どう……だろうね! もしそうなら、ボス的なの居るかも」
鉄串と矢を放ちつつ、二人で会話をしながら、状況について意見を詰めていく。
イオは上手い具合にピョンピョンと飛び跳ねながら、ゴブリンの首や胴体を、自慢のツメで切裂いていっている。……って、尻尾でゴブリンを弾き飛ばしたりもしてるな……あの尻尾は鞭かい。
「森からワラワラ出てくるから、総数も解らないし……ボスゴブリン的なのが居るなら、さっさと出て来て欲しいけど」
「量で押すとか……思考が人のソレだよ」
とはいえ、此処は天然の要塞みたいなものだ。奴等が悪路を制覇する前に殲滅するのは楽。ならどうして、この押し寄せる作戦を取った奴は手段を変えない? 今までの流れからみて、知恵はあるはずなんだけど……。
「側面や後ろからは……気配は無いか。本当どういうつもりだ?」
「案外、目の前に久々の人間を見つけたから、思考停止してとりあえず突撃とかだったりして!」
……其れは何というか、今倒れていってるゴブリン達が哀れ過ぎないか? 消耗戦を仕掛けるにしても、もっとやり様はあるだろうに。
鉄串もストックが切れ、投石や魔法で攻撃をするようになっている。
もう、ゴブリンの討伐数が三桁をそろそろ超えるんじゃないか? と思っていると、森の奥で「グガァァァァァァ」と叫び声。
「思うように行かないから、リーダー的なのがヒステリックでも起こしたかな」
「それだと、直接乗り込んでくるかもね」
「ミャァァァァァァァァァァァン!」
おっと、イオが触発されて吠えたな。とはいえオーガの可能性は、コボルトのズーフとした会話で可能性がほぼ無いと判明してる。ならば、この遠吠えは昔ダンジョンで戦ったボスゴブリンの可能性が高い。
「何匹いるかが問題だろうけど、ボスでも悪路は苦手なのかな?」
「たしか、奇襲やトラップを駆使して五匹ぐらい討伐してたんだっけ」
「そうそう、今回はイオが居るし足場は天然トラップだからな、ちょっと細工だけして置けば良いと思う」
ちょこちょこと魔法を駆使して細工を施す。その間に、ボスゴブリンの足音がだんだんと近づいてくるが……ふむ、足音の数からして四匹ぐらいか。
「兎に角イオには……側面から奇襲してもらう感じかな? 俺と美咲さんは……初手は遠距離のつもりだけど、矢足りる?」
「矢はまだまだ有るから大丈夫だよ」
「それならイオの反対側をお願い」
中央部分のニ匹は……魔法と足場で何とかしよう。まぁ、結構一方的になりそうな気もするが……何が有るかわから無いからな、用心だけはしておこう。
勢いよく草が割れると、其処から四匹のボスゴブリンが飛び出して来た。……そういえば、協会情報でボスゴブリンってなってたけど、四匹いて全員がボスってのも不思議だよな。
まぁ、その疑問は横に置くとしてもだ。やっぱり四匹だったか……それなら、予定通りの戦い方で良いだろうな。
「それじゃ……射撃開始!」
土魔法で石玉を作って中央部分に飛ばし、モンスターを二手に分ける。
そこに、美咲さんが矢で狙撃。イオはこそこそと移動しながら……あぁ、後ろから襲うつもりだな。
それにしても……ボスゴブリン達は戦術も何も無く、一心不乱に突撃してくるな……なんでだ?
「とりあえず、どんどん攻撃! 手を休めず撃ち続けて!」
「了解!」
石玉が体中に当たり、矢もどんどん突き刺さっているのに、その突進を止める事をしない……まるでゾンビみたいだな。
「結弥君! 全く止りもしないよ!」
「だな! 何か欲しいものでもあるのか!?」
止まる事の無いボスゴブリン達が、悪路の部分へと足を踏み入れる。
まぁ、でも其処って……仕掛けを沢山用意した場所だ。どういった対処をするのかな? そんな風に思っていると、一匹目が目の前の亀裂をジャンプで飛び越えてくる。
「そのジャンプって、予想してたからなぁ。問題は着地地点だろうけど、ボスゴブリンのジャンプは前にみてるからね」
着地地点の足場は、ツルツルとしている上に斜めになっていて、更に水で濡れている。結果はもちろん……踏ん張れるわけも無く、後ろに向けて盛大に転び、後頭部を強打。
「……前も思ったけど、本当コントをしてるみたいだ」
「なんだか少し可愛そうに思えちゃうね」
とはいえ、相手はモンスターだ。手早く止めを刺すべきだろう。魔法と矢の連射を喰らわせて、転んだ一匹を仕留めておく。
そうすると、あれだけ血走ったかのように突撃してきたボスゴブリン達が、「え? マジで?」みたいな顔をしながら、様子を窺ってきている。
「見せしめみたいになったのか? あいつ等動きをやっと止めたな」
「それなら今のうちに攻撃かな」
美咲さんが、番えた矢を放ち唖然と固まっていたボスゴブリンにヘッドショットを決める。
隣に居たボスゴブリンは、ソレを見た瞬間に吠え、気合で悪路を進もうとするが、後ろからイオのバックアタックを受け、綺麗に首が落ちていく。
「後は一匹いた筈なんだけど、消えた?」
「逃げたのかな? でも、何時?」
「ミャン!」
イオが首を横に振る。よくよく見ると、ボスゴブリンを討伐した場所が一箇所不自然に盛り上がっている。
「あぁ……夜だから見にくかっただけで、イオが既に一匹討伐してたのか」
「さすがイオちゃん。しっかりと奇襲成功させてたんだね」
「ミャァン!」
どうだ! と楽しげ鳴きながらも、尻尾をふりクネクネするイオ……うん、鳴き声と態度が合ってないぞ。とはいえ、これで夜襲は凌いだか。
「……一応だけど、イオ周囲に何か居るか?」
「ウミャ? ……ミャン!」
ふむふむ、居ないみたいだな。なら今回はもう大丈夫だろう。しかし、あのゴブリン達の行動はなんだったのか……その疑問が残ったな。
少し調べてみるとしてもだ。今は問題がある……うん、俺の寝る時間が減ったよ。今は兎に角、少しでも寝て休まないと!
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