八百七十話
やられた! そう俺は心の中で呟く。
今は声を出せない。と言うか、出してはいけない。何せ式の真っ最中だ。
しかも……俺の隣ではソラの奴がニヤニヤとこちらを見て笑ってやがる。この野郎、綺麗に人様を嵌めやがって。
そして、そんなソラ口がパクパクと動いた。
えっと何だ? 〝トラップメイカーと言われているけど、はめられた気分はどんな気持ち?〟だと? くそう。こいつ、式の真っ最中に「ねぇ? どんなきもち!」をやってやがる。
ソラは気分が良いだろうな。あれだけ俺が煽ったお返しがコレとか……やりすぎにも程があるだろ。
てな訳で、現在進行系で式を進行中。
そして俺もその主役の一人に祭り上げられてしまったしまったという訳だ。……周囲の気配を探ると、やはりというか何というか殆どの人が共犯みたいだな。
ゆいや母さんに美波さんはしてやったり! と言わんばかりの気配をモロに出してるし。
あ、でも爺様と父さんはちょっと違うか。どちらかと言うと同情的な気配がする。
あぁもう……俺は全く覚悟も何もしていなかったというのに。どうしろていうんだ。
そんな事を考えていると、美咲さんから小声で「もう流れに身を任せちゃおう」と言う言葉が。
……君も知ってたんだろう? と思いつつ、ソレしか無いよなと。何事も諦めが肝心って事か。
さて、式に関してだけど……うん。どうあがいても普通で済むはずがなかった。
何せ斎主さんがフリーズしてしまう出来事が当たり前の様に起きるのだから。
「まぁ……こうなるよな」
「皆来ちゃうよね」
皆とは? そんなのこの状況で考えれば、普通に予想できるはずだったんだけど……俺はソラに嵌められた! という思いで思考が締められていたいたからな。
だからその事に思い至らなかった。
『ガゥ!』
『落ち着け。突然我々が現れたらこうなるのも当然だろう』
そう。〝ウォル〟と〝ロード〟が顕現した。それも今から斎主さんが祝詞を述べるというタイミングでだ。
斎主さんも困るよね。今から祝詞を述べる相手が、述べる前に「やぁ」と声を掛けてきたのだから。
いや、現れたのは〝ウォル〟や〝ロード〟だけじゃない。
なにやらこっそりと太刀を抱えている子がいる。いや、子と言っては失礼か柱だな。
あの柱は、関ヶ原にて結界を破壊する時に突然現れた存在。ただ、いつの間にかに消えていたんだけど……何やらこちらをみて手を振った後、またもや目を一瞬だけ逸した瞬間に消えていた。
ソレだけじゃない。何かと声を掛けてくれていたあの〝模倣体〟も薄っすらと。
あれ? 俺達があの空間から時計を使って帰還した後、消えたんじゃなかったの? それに、その後は一切声を掛けられてなかったんだけど……一体どういうことなんだ? と思ったんだけども。
『しー。今回だけ特別だよ』
と、口の前に人差し指を立てながらウィンクをしてきた〝模倣体〟さん。
なんだかこのノリの軽さも懐かしいなぁ。
ただな? 皆のその気配で普通の人は気絶してるんだよ……もうどうしたら良いんだよ。
あぁ、斎主さんも立ったまま白目を剥いた状態だし。巫女さん、ちょっと危ない姿になりかけてるから……あぁ、美咲さんが巫女さんの着崩れを直してくれたか。うん、これなら彼女が目を覚めても大丈夫だろう。
しっかし……。
「これ、どうするよ」
「式が崩壊しちゃったよね」
「こうなる可能性があるから、俺は〝化身〟の社でってのが良いかなぁって思ってたんだよな」
4人顔を合わせて苦笑する。
そりゃそうだよな。3人はこんな風になるとか考えてなかったわけだし。
俺は何となく考えていたけど、少し前に言ったようにソラの策略にやられた! って事で思考が埋まってたからなぁ。これまた忘れてしまってたんだよな。
まったく……これは普通とは違う意味で印象に残る結果になったなぁ。
しかし、これで結婚したって事になるのか。
もうはちゃめちゃすぎるんだけど、なんなら柱達がわちゃわちゃしすぎて、なんの式かもはや訳が分からなくなってるし。
ぐったりとした感じで家に帰宅。
式とかもうね……斎主さんも苦笑いで一応進行してくれた。まぁ、周囲で〝化身〟や〝ロード〟にロードの眷属であるスライムたちが踊りまくってたけど。
一体どんな式なんだよ。
こんなのどうしたら良いの? って感じで、ぶっちゃけ他の宗教の人達も様子を見に来ていたんだけど、もうね……彼らも絶句してたんだよね。
マジで神といえる存在が現れた訳だし。いや、相手によっては我らの神じゃないから! とか思ってたかも。
あ、ちなみに、ゆいはゲラゲラと笑ってたな。一応は声を抑えていたんだろうけど……体が思いっきり震えていたし、声も微妙に漏れてたからな。
後あれだ。普通の人は気絶したわけなんだけど、それらはゆいが連れてきてたモンスター達がサッと支えていたりする。モンスターがイケメンすぎるんだけど。
「今後何が有るかわからないから……って説得されたけど、何かが式でおきるなんて考えて無かったよ」
「あー……美咲さんはそういって説得されたのか」
「そうそう。こうサキとソラ君がメインで、ゆいちゃんとお母さんと柚子お義母さんに囲まれてね……」
「それは圧が強そうだ」
まぁ、でもいいタイミングでは有ったんだろうなぁ。
覚悟はしてなかったけど、もうそろそろではあるんだろうなぁってのは考えていたし。
「とは言え、やっぱりソラにしてやられたのはなぁ」
「根に持つね」
「そりゃ、俺には俺のタイミングってのが有るからな。それに、嵌めることだけ考えすぎて、その結果がどうなるか全く想像してなかったみたいだしな」
「それは……でも、鏡を見る必要があるんじゃない? 結弥君も忘れたでしょ」
「このやろーって考えてたからなぁ」
その点は自己嫌悪かな。もう少し冷静になるべきだったと反省だな。……まぁ、今後また有るようなイベントではないから、気をつけるようなことは無いだろうけど。
「ま、とりあえず今日はお疲れ様。これから宜しく?」
「えっと、宜しくおねがいします? と言っても、余り変わらないよね」
「変わんないよなぁ……」
生活自体になにか変化があるかと言われたら……多分無い。
これからも今までと同じどおり、あちらこちらへと協会から指名クエストを受けて飛び回ったり、湖のダンジョンに行っては龍と一緒に採掘にいったり、X-1・シシオウ君と模擬戦をしたりする日々だろうし。
違いが有るとしたら、名字が一緒になった事とか、寝る〝部屋〟が一緒になった事か。一応……夫婦だから夫婦そういう夜生活も必要になるけど。うん、ソレ以外は今まで通りだな。
「これからは余り変化が少ないだろうしな」
「私生活が?」
「いや、村とか協会の動き。周囲の争いとかは随分と収まったし、これ以上手を広げようと思ったら現状の戦力じゃ全く足らないから」
「あー……ガーディアン計画が進むまでは無理に行動しないって事?」
「そそ。それこそ、龍やワイバーンが現れた時みたいなことがない限りね」
漸くというか、本当に少しだけ最初に願ったひっそりとする生活が出来そうかな。
ただそのためには、湖の拠点や龍に関しても交代出来る人を用意をする必要があるけど。ソレ以外だと、今の行動範囲を維持するだけなら、ゲートも出来たから問題は無いはず。
「村でモンスター達とゆっくり過ごすぞー!」
「出来ると良いよね」
ま、そこは〝化身〟や〝ロード〟達にでも願っておこうかな? 今回の主役の一人からの願いなので……どうか此処は一つお力添えをという事で!
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普通の結婚式になるはずがない。




