八百六十七話
必要な素材を手に入れた俺達は、その素材を直ぐに研究所へと持ち込んだ。
ソレにつられて集まってきた研究員達だけど、皆は目の色を変えて一気に素材の加工を開始し始めた。……待ちきれなかったんだろうなぁ。
そんな中、素材を持ってきた俺達に一人の研究員が声を掛けてきた。
「神鋼の在庫がもう無かったからね」
「あー……新しい物を作ろうにも作れないと?」
「それもそうだけど、ゲートの改良やガーディアン計画には必須の素材だからね」
戦力の水増しプロジェクト……と言っても、純粋な力としてみたら探索者よりも遥かに強い。
そんなガーディアンの試作型であるX-1・シシオウが存在しているんだけど、シシオウとガチで戦ったら、それこそ精霊憑依を全力でぶつかって行かないといけないレベル。
実際、データ取りという事で、リアルでもシミュレーターでも模擬戦をやっているんだけど、大抵の場合はある程度の戦闘をこなした後にストップが入る。
リアルだと俺が死ぬかシシオウが壊れるかって状態になりかねないし、シミュレーターだと……シミュレーター機が熱を上げちゃうからな。なので、現在絶賛改良計画中らしい。
そんな事を考えていた俺だけど、どうやら研究員もシシオウの事を考えていたのか、話題のネタはシシオウがベースになった。
「あー……でも、次から作るのはシシオウ程の性能はないと思うよ」
「え? 折角アレだけの性能があるのにですか?」
「ほら、試作型ってのは採算度外視で何処まで出来るかと挑むからね。後はデチューンして量産化」
「あぁ、俺達が普段使っている武器と同じって事ですか」
「そうそう。数を作ろうと思ったらシシオウクラスの性能にするのは厳しいから」
あいつはハイスペックすぎるからなぁ。そして、それだけのスペックを誇るという事は、稼働に使うエネルギーも大量にいるという訳で……ソッチの方面からしても、もう少し安価といえる機体に仕上げないと使い物にならない。
「フルで神鋼は厳しそうですね」
「それをやったらシシオウレベルになってしまうよ」
それにしても不思議な話だよな。省エネルギーにするためには神鋼が必須。だけど、フルで神鋼にすると、今度は逆転現象が起きてしまい、普通よりも大食らいになってしまう。
バランスというものが大切だというのは分かるけど……どうしてフルだと其処まで大食らいになるのやら。もしかしてエネルギーロスが出ているとか?
「いや。ロスは出ていないんだけど、全ての出力が異常なほど上昇するからね。破壊力・防御力・スピードとそれら全てが、神鋼の量を増やすことで一気に右上がりのグラフが出来上がるんだよ。ソレはもうとんでもないグラフだよ? それこそ、誰も登ることが出来ない坂みたいな感じかな」
グラフにするとV字みたいになるらしい。
ある程度まではエネルギー消費量が減っていくけど、ある程度のラインを超えると一気に上昇していく。なんてピーキーな素材なんだ! と思わなくもないけど、しっかりと比率を理解出来ればと思うよな。
「因みに。エネルギー消費量が減っている段階でも、スペックは上がっていってるんだけどね。まぁ、消費量が増加する辺りからは、そのスペック向上も恐ろしいレベルであがるから。使い分けを行えばこれほど優れた素材はないだろうね」
なんだかとっても楽しそうに話をするなぁ。
きっと彼の脳内では、既に神鋼を使ったガーディアンが。それに、ゲートや装備などのイメージが湧いているんだろうな。
あぁ、でも武器の更新は流石にないかな? 何せ現在、俺や美咲さんが使っている武器だけど、全てが神鋼を使用した試作武器だからな。
となると、既存の物を神鋼にするというわけではなく、本当に〝新作〟の武器でって事になるんだけど……何か良さそうな案でもあるのだろうか。
「思うんだけどさ。研究員の事だから、神鋼製のチェーンソーとかドリルとかパイルバンカーを作りそうじゃない?」
「美咲さん……流石にソレはと言いたいけど、遣りかねないよなぁ」
ロマンだ! って言い張って作る未来が想像出来る。
チェーンソーなんて、それこそ対ゾンビでは最強の近接武器だったり、神を殺すようなRPGもあるからなぁ。
「あ、でもソレを言ったらガーディアン計画でだけど、全身ドリルなガーディアンをって言い出す人が出てきそうだな」
「腕にパイルバンカーとか?」
美咲さんとお互いにありそうだよなぁと思いながら会話をしていると、何やら微妙な表情をした研究員が口を開いた。
「あの……それ、もう既に議題に上がってるよ」
俺と美咲さんは、研究者の発言を聞いた後、再びお互いの顔を見合わせた。
そして、とても叫びたいとお互いに思っているのだろう。少しプルプルと震えている美咲さんの姿があり、そんな美咲さんの目には俺が少しだけ震えている姿が写っている。
やっぱり考えてるじゃねーか!! って、声高らかに言いたいよな。うんうん、俺達の予想は間違ってなかった。
なんならあれだろ? 三体作って合体させようなんて言っている研究員も居るんだろう? いやいや、言わなくても分かる。絶対に居る。
だって此処って、真面目に不真面目。実用性があるロマンの塊。と、全力で制作物に対して真剣に遊ぶ人達が多いからな。
「兵器な工具とかも作ってそうだよね」
「銃よりもカッターが強くなりそうだなぁ……」
いや、しっかりと強化さえすれば銃は強いんだけど……色々と慣れとかもあってカッターが使いやすくて仕方ないという。
「丸鋸を飛ばす武器ならありますが?」
ソレもすでにあるんかい! てか、俺達は一度も試したことがないんだけど。
「えっと、確か誰だったかな? 探索者さんのオーダーメイドだったような……」
「もしかして、その探索者さんは工具を大量に頼んでいませんでした?」
「えーっと……そう言えば、最初はネイルガンだったような」
もしかしたらそんな彼は、溶接用保護面に似たフルフェイスの頭装備も頼んだのではないだろうか。
そして、研究員達も悪ノリをして……。
「エンジニ……げふんげふん」
「モンスターの腕や足を解体してるのかなぁ……」
コスプレはコスプレでも、ガチのプレイが出来るからな……実に恐ろしい話だ。
「ネタと言えば、ソードウィップやロケットランスを頼む人も」
「うわぁ……どう考えても使うのが大変やつだ」
ソードウィップはまだいいけど、ロケットランスとかどするんだろう? 持ったままランスと一緒に突撃するのだろうか。それとも、ランスを投擲でもするのだろうか。
「それにしても、昔よりそういった武器に走る人が増えたんですね」
「魔法やら素材の研究も進んで、作れるモノがそれだけ増えたからね。要望に答えられてしまうというのがまた問題なんだろうけど……」
問題と言いつつ問題と思ってない顔をしてるな。
それもそうか。こうして色々と会話をしてくれている研究員だけど、この人もあちら側の人間だ。この研究所で努めている時点で、既に手遅れな人なのは間違いない。
ただまぁ、それもまた新しい技術の下地になったりもしているから、何がどう転ぶのやら……。
とりあえず。神鋼が大量に生産されれば、此処からは一気にガーディアン計画も進むはずだ。
そうなると、防衛という意味では一気に各拠点が厚くなるはず。
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