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八百六十五話

 龍を調き……味方に付けたことで、一つ大きな変化が起きた。

 その変化と言うのは、龍が今何処にいて何をしているのか? という事が重要な事になってくる。


 龍が今何処にいるのか? それは、湖のダンジョンだ。

 その湖のダンジョンで何をしているのかと言うと、〝ショゴス・ロード〟に監視をされながらだが、次の堕ちた龍が現れるまで自由気ままに生活をしている状態だ。

 そして、その気ままな生活の中で、龍には一つの仕事をこなして貰っている。


「本当に龍なのか? って思うような姿になってるけどなぁ」

「龍だからこそじゃないかなぁ……」

「なんだかとっても情けないの」


 双葉の口からそんなワードが出るのは何故か? それは、俺達は湖のダンジョンにある島へと来ており、その島では龍がクラーケンを咥えながらグースカと寝ている姿があるからだ。


 うんまぁ確かに、龍は四六時中監視されているという気が休まらない状況下に居る。その上で、クラーケンやクラゲの間引きをやらせ……頼んでいる状態だ。

 そりゃ確かに狩りをしてバテて寝てしまうことも有るだろう。


 だからって、食ったまま寝るとかどうなのさ?


 格で言うなら、ダンマスになったワイバーンよりも上だし、それこそ〝ロード〟や〝化身〟達と同レベルクラスだろうに……。

 こんな姿をしているとか、威厳もなにもあったもんじゃないな。



 そんな事を考えながら龍を見ていると、ぎょろりと目玉が大量にあらわれたではないか。


 目から怪光線が龍へ向かって発射される。

 ビリビリバリバリと音を響かせながら、怪光線は龍と龍が咥えているクラーケンにダメージを与えていき……いや、龍自体には直接ダメージはあまり無いみたいだけど、咥えているクラーケンが怪光線により変化をしていて……。


「美咲さん、双葉、マスク着用」


 スッとガスマスクを着用する俺達。

 なぜなら、変化をしたクラーケンだけど、まず色が毒々しい紫色になった。そして、その紫色の表面がコポコポと泡? が出来ては弾けるという、明らかに食べ物が起こしてはいけない現象が起きている。

 そして一瞬だけ異臭を感じた。だからマスクを着用した訳なんだけど……その異臭というのが、強烈なアンモニア臭になりそうな予感がする臭いだった。



 さて問題です。この変質したクラーケンは、一体誰が何処でどうしているでしょうか?



 うんまぁ、答えは簡単過ぎるよね。そう、龍が寝ながら咥えているんだよ。


 では、そんな寝ながら咥えているクラーケンが変化している訳だけども、龍のお口は大丈夫なのか? という疑問が湧いてくる。

 いや、口だけじゃないか。異臭問題もあるんだ……あの龍の口内は、とてつもない臭いで充満しているのではないだろうか。


「あ、龍の目が開いた」

「大きなおメメなの」

「……いや、アレは開いたとか大きいって言うより、見開いたが正しいかと」


 そう。口の周囲で起きている異変を感じ、龍はクワッ! と目を大きくしてしまっているんだよな。

 ただそうなるのも当然で……龍は急いで湖に向かって行き、湖の水を大量に飲み始めている。……余りにも不味かったのだろうか。


「ぐぉぉぉ……臭い、臭いぞぉぉぉぉ! 口から胃のあたりまで変な違和感がある……一体何が有った……」


 そんな事を叫びながら、龍は大量の水で口と胃の中を洗い流している。……余り考えたくないな。あのクラーケンが口や胃の中に入っていたとか。


 因みにだが、そのクラーケン。咥えていたのだから、当然だけど食べていない部分もあった。あったんだけど、今はもうその姿が無い。

 と言うか……まるで溶けるように小さくなっていき、地面に紫色の液体を撒き散らしていった。そして、最終的には完全にその姿が消えてしまった訳だけど……。

 地面には間違いなく其処にクラーケンが居たという証拠が残っている。地面が紫色になっているんだよなぁ。



 ただ、そんな龍とクラーケンを見て満足したのか、目玉達はウンウンと頷くような動きを見せた。

 何というか、この目玉達は楽しんでないか? と思えてしまうな。手足など無いというのに、動きだけでどういった事を考えているのかなんとなく分かってしまう。


 てか、その動きがなぁ……左右にゆらゆらと揺れたり、くるくると回転している目玉も居るからな。

 これはあれだ、悪戯成功! とか、ドッキリ成功! と伝えあっているに違いない。何気に「テケリ・リ」という音も、前に聞いたときより弾んで聞こえる。



「うぐぐ……まだ口内に異臭があるように感じる」


 災難なのは龍だろうか? いやまぁ、あんな姿で寝ていたんだ。元々やらかしているのは龍だから自業自得な訳なんだけど。

 ただ、疲労でやっちゃった事なんだろうけどさ。でも、監視されているっての分かってたよな? なんで、監視されている事を忘れたような行動が出来たのやら。


「……む? 何だ来ていたのか。はっ!? まさかお前らがこんな事を!!」

「いやいや。俺達には無理ですから。ってか、普通に考えて周囲に浮いている目をみれば分かるでしょ」

「ん? あぁ……言われてみれば。っと、してこのダンジョンは封鎖されておるはずだが、一体何用だ?」

「……くちゃいの」

「く、くちゃい!?」


 双葉の言葉に精神的ショックを受ける龍。

 何というか、ガーン!? と言った音が聞こえそうなほど、龍は地面へと崩れ落ちていった。


 あ、その……その臭い原因になったクラーケンが溶けていった場所なんだけど……これ、龍の体にも臭い液体がたっぷりと付着してしまったのではないだろうか。


 と言うより、ガスマスク越しでも感じる臭いってなんなんだ? かなり臭いをカットしているはずなんだけど、微かにアンモニア臭を感じるんだよなぁ。

 てか、このガスマスクは研究所製で、どんな毒だろうが臭いだろうがカット出来る代物だったはずなんだけど。あれ? なんで臭いを感じているのだろうか。



 とまぁ、その事は後で研究所に報告を入れておくとしよう。今は目の前の龍の方が重要だ。


 ただ、その龍が復活しない。臭いと言われたことで地面でゴロゴロと不貞腐れている。……てか、そんなに転がったら臭いが全身に着いてしまうんだが。


「初見での威厳はどこへやら」

「よくある味方になった強敵は弱体化するやつ?」

「いや、ソレとは全く違うと思うけど」


 違うけども、言いたいことは何となく分かる。

 実際に、威厳とか迫力といった面で言うなら、小物になってしまっている雰囲気を醸し出しているからなぁ。実力自体は落ちていないだろうに……。



 それにしても。龍がこの状態だと話を進める事が出来ないな。


 俺達が今ここに来ている理由は、海の中にいるクラーケンやクラゲの状況を聞きたいからなんだよな。

 そしてその状況から、海中にある洞窟でファンタジー鉱石を採取出来るかどうか判断したいんだけど。……これ、当分の間は龍から話が聞くことが出来なさそうだなぁ。

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