八百六十二話
美波さんが居るというのは、美咲さんの精神的にとっても良いことのようで、彼女は随分と明るくなったと言うか……美波さんの前だと子供っぽくなったか? と思う部分が多々ある。
ただソレは良いんだソレは。
実は問題があって……いや、美咲さんに問題がある訳じゃない。かといって、美波さんが悪いというわけでもないんだけど……。
「ダンジョン内で男女のみのパーティーが野営……何も起きないはずがなく 」
「いや、起こったことはありませんから」
「えぇぇ……ヘタレさん? あ! もしかして童帝さん!?」
とまぁ、実にノリが良いと言うかなんというか。
誰が悪いという訳じゃない。そう、ただ問題があるとすれば。ノリが良くて……良すぎて、俺がよく被弾して大ダメージを追うということだ。誰が童帝だ! あってるかもしれないけども、帝王じゃないっての。
そもそも! 以前判明したことだけど、俺達はゆいやゆり達が安心して過ごせる状況を作るって事で、自分達の事を自ら呪っていたという過去があった。
その呪いによって……不能になっていた訳なんだけど。まぁ、不能の事は横へ置いておくとして。
守るべき人達の生存圏を広げる為にと、やるべき事に集中していただけなんだよ。……約十年近く掛かったけどな。いや、ここはソレだけの時間で済んだといったほうが良いのかもしれない。
「って事で、俺は別にヘタレじゃないです」
「美咲ちゃんが待っていたかもしれないというのに……よよよ」
「いや、あの当時は私も私でそんな事は後回しだったから」
「ふ、二人揃って男女間の事をスルー!? あ、あなた達って本当に人間?」
あー……一応人間だけど。
一度人間を辞める事になりそうではあったけど、人間でいられるように頑張ったし、その後の選択もしっかりと人の道を選んだからな。
だから、妖怪やモンスターでもなければ、神でも聖人君子でもない。……どちらかと言えば呪われた人だな。ただ、先程も言ったように、呪ったのは自分自身だけど。
「難儀な性格をしてるわねぇ……あ! でも今はもう大丈夫なのよね?」
「呪いは解けてますね。ですが、美波さんの事も関係していますが、色々と忙しく動いていましたから……結局の所、そっち関連の話とかは無いんですよね」
「ブラックなのね?」
「ブラックというか、やらないと死ぬみたいなのが隣り合わせなので」
村にいる間も、何気に重労働だったからな。
魔力を作ってゲートを開いては物を輸送。風が何かを発見したら、ゲートを開いて遠隔射撃。と、毎日を限界まで魔力を使い切ってばったんきゅうと眠気が襲うといった状況。
コレでどうやって、仲を深めるような状況が出来るとでも?
ゲートポートが開通したらしたで、その後はワイバーン戦などが直ぐに起きた訳だしな。
何かあったという話で言うなら、一番の出来ごとは妹に図られたEDからの復活事件ぐらいだろうなぁ。
「なんというか……不憫ね」
「そうでもないですよ? おかげで上の妹であるゆりの結婚式を見ることが出来ましたし」
「妹に先を越されてるじゃない……」
「妹が先でも別に良いじゃないですか。それに、結婚式を挙げられるような状況を作ったことに目を向けてくださいよ」
「結婚式は凄かったよね。なんか屋台が出店したりとかしてたし」
「何で結婚式に屋台なのよ」
「何で」と言いながら腹を抱えている美波さん。よほどツボったようだ。まぁ、普通に考えたら結婚式に屋台なんて出る訳がないもんな。
とは言え、そこはモンスター達が蔓延っている世界かつ地上を奪還後、初めての結婚式だからという事を踏まえて欲しいものだ。
「ごめんなさいね。私っていきなりこの時間に来たわけじゃない。皆の苦労を知らないのよね……ただでも、屋台って」
「お母さんの言葉を文字にしたら、絶対にwがいっぱい付いてるよ」
「草生えるってやつか」
「大草原になってそうだよね」
言葉の芝刈り機を用意したほうが良いだろうか? いや、楽しんでいるのだからこのままの方が良いか。別にそれでなにか問題が起こると言う訳でもないし。
でもそうだね。美波さんは突如として此処に来てしまった。いわゆる浦島太郎状態。
ただその事で悲観することはしていないようで、あちらこちらから情報を収集して何が起きたのかとかを調べては居るみたい。……まぁ、美波さんにとって空白と言える十年は相当濃いモノがあって、調べるのに時間がかなり掛かっているみたいだけど。
「おおよその事は美咲ちゃんから聞いているんだけどね……でもそれって美咲ちゃんの主観じゃない。探索者じゃない人とか協会が記録している内容とかも調べているとね」
「そこまでやってるんですか」
「それはそうよ。さっきも言ったけど、私はみんなの苦労を知らないのよ? そうなると、何がタブーのワードか分からないもの。そうである以上、世間話にすらビクビクしないといけないわ」
なるほどな。そう言われると確かにと思う部分はあるかな。
俺達は気にしていないつもりでも、無意識の内に避けている内容だって沢山あるかもしれない。今はぱっと思いつくものがないけど……ってか、だから無意識にだよな。言われて初めて胸に刺さる内容とかはあるだろうし。
そして、そんなワードを避けるために、この十年という莫大なデータを調べている……というのは、なんというか尊敬に値するというか。
ぶっちゃけ、そんな事など気にせず突っ込んでいく人の方が多いと思うしなぁ。
それで、そんな地雷を踏み抜いたら「知らなかった。ごめんごめん。次から注意するよ」という言葉でその場を収めるだろう。……その後、本当に注意するかどうかで、その人の評価ががらりと変わるわけだけど。
ただ、この事から分かるように。大抵の人は直接的な死につながらない限り、一度のミスぐらいは笑って許すんだよね。
それはこの国の人だからっていうのもあるかもしれないけど、そもそもこんな世界になったから、下手に人手は減らせないという理由もある。まぁ、小さなミスや失言ぐらいで目くじらを立てるよりも、他に重要なことが沢山あるからなんだけどね。
「だから其処まで必死になって調べなくてもって思うんだけどなぁ」
「やらないよりはやっておいた方が良いでしょう? それに、まさか美咲ちゃんの立場がここまでのものとは思ってなかったから」
「え? 私はただの探索者兼テスターだよ?」
「もう少し自分の事を見つめ直しましょう? 美咲ちゃん達って結構有名人よ」
何というか……美咲さんって自己評価が低いからなぁ。
彼女が言うには「自分は復讐の為に行動していたような部分があるから、褒められるような事はしていない」って話なんだけど。
最初の理由が何にしても、魔王討伐を筆頭に割と大きな事件の中心地にいて、常に解決してきているからな? そりゃ、探索者内でも有名にはなっているのはある意味当然な流れなんだけど。
だけど美咲さんは「そんなの過剰評価だよ! ないない」って、めっちゃ謙遜してるんだよな。
ただ、コレに関しては俺も気持ちがよく分かる。だって俺達って、あの撤退時に殿を努めてくれた人達のおかげで、今こうして生きているという思いが、心の深い場所に根を張っているから。
どうしても比べちゃうんだよね。そういう英雄と言える人達には到底追いつけない壁があるって。
「ふーん……それでも成した事は成した事だと思うわよ? もう少し自分自身を認めてあげても良いんじゃないかしら」
「ソレも分かってはいるんですけどね」
俺は理解している。居るけども、美咲さんの場合はまた状況が違うからなぁ。
その殿に父親がいたというのはまた大きな話であるわけで。その思いを俺が理解するなんてことは無理がありすぎる。なので、コレばかりは手の付けようが無い話だと思う。
ゆっくりじっくりと、長い時間を掛けて、意識を改革すると言うか。ソレ以前に、たっぷりと幸せを感じるような生活を送るのがベストじゃないかな。
「ま、その幸せの為にも、もう弊害は殆どないわよね?」
「えー……あー、そうですかねぇ?」
「あらあら。この話になると口数が減るわね。もしかして、やっぱりヘタレ?」
ヘタレというか、慣れてないだけです! とは言え、本当にそろそろ覚悟を決めるべきなのだろうか? なんかこう、じわりじわりと外堀を埋められていると言うか、毒のように染み込んできているんだけど。
もしかして……後なんてない状況なのか?
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という事で……カウントダウンに入っていそうですよね。さぁ、年貢を納めるがよい。




