八百六十一話

　いやはや……まさかまさかだよ？

　あの〝化身〟と龍によるブレスのビーム砲が盤面を動かすなんて想いもしていなかった。

　と、言うのも。

　協会にて聞いたお話。

　どうやら、宗教関係……いわゆる過激派とか狂信者とか僧兵とかそういった類の人達以外なんだけど。

　非戦闘員であるただの信者さんになるのかな？　もしくは穏健派。そんな彼らが、空を貫くビーム砲をみたのか、その時になにかを感じたのか、なんと彼らの拠点から脱出したそうなんだ。

　それで、伊勢やら忍者の里へと保護を求めて人の波が押し寄せてきたのだとか。それも、過激派とかそういった人達が迷宮教の拠点を攻撃して、拠点内に人が少なくなっている最中に。

　保護を求めてきた人たちが言うには、自分達は武装を放棄する。むしろ戦う術など無い。拠点内の一角でいいので、ほそぼそと信仰さえさせてもらえればソレでいい。と、そういう事を言ったそうだ。なので、一応人道的にという理由で受け入れることにしたんだとか。

　ただ、それでも今まで戦っていた相手が一箇所に固まるのは……という事で、ある程度バラけさせて当分の間監視することになったようなんだけど。

　たださ……非戦闘員とは言え、拠点で何もしていないわけでなく、家事やら生産やらをやっていたんだよね。って事は、いわゆる縁の下の力持ち的な事をしていた訳で……。

　今頃、戦闘に明け暮れていた人達がかなり困っているんじゃないか？

　どれだけ迷宮教の戦力を落としていたとしてもだ……自分たちの基礎と言える部分が崩壊しているのでは、今後何かをする事なんて出来ない。

　だって戦う為の物資が全くなくなるのだから。

　これ、事実上だけど、迷宮教以外は完全に無効化の状態に近い事になったんじゃないかなぁ。

　下手をしたら、迷宮教からの逆撃で殲滅される可能性だってある。

「まぁでも安心はしてほしいよな。一応だけど、かなり規模は小さくなるが宗教としては残るわけだし」

「皮肉すぎない？」

　他者に監視されつつ、纏まる事が出来ない状況下にされながら、その上でほそぼそと信仰が許される。そしてまた、信者を増やそうにも……正直厳しい現状はモノがあるからなぁ。

　だってそうだろう？　伊勢と言えば神道のお膝元。村やソレに属している場所は、既に神道やお寺が充実している。

　なんなら〝化身〟を主体とした精霊達のための神社もあちらこちらに建っているわけで。しかもそれらは、探索者御用達と来ている。なにせご利益がたっぷりと目に見える形であるからな。

　そしてそんな〝化身〟の神社は熱田や伊勢とも手を組んでいるわけで……お互い分社があったりと。

　さて、この状態で他の宗教が付け入る隙があるとでも？　無いよなぁ。

　少しぐらい勧誘に乗る人も出てくるかもしれないが、それでもある程度数を増やすのは次世代より後の話になるだろうなと思っていたりする。

　それにしても本当にどうするんだろうな？　今まで戦闘に熱を上げていた勢力の人たちは。

　

　あれか？　足らなくなった人達を補う為にも、他宗教同士で固まったりするのかね？　とは言え、全員が戦闘狂いだらけと言ってもいい存在だった訳だから、生産やらなにやらはどうするんだって思うけど。

　それでもまぁ、戦うだけには困らない数が集まるのではないだろうか。

　最悪。その数をもって迷宮教へと押し寄せて、迷宮教の拠点を制圧し、其処に居る生産者の人たちを確保すれば……まぁ、わんちゃんあるかなぁ？　ってぐらいじゃないかな。

「あれだな。あちこちで一気に物事が動きそうな気がする」

「狐さん達も鳴りを潜めたって言ってたしね」

　そうなんだよね。豊川にいたコンコン勢力もあの神気を感じ取ったのか、静かになったそうなんだ。

　いやソレだけじゃない。狐達の中にはこちらへと近づいてくるモノ達も居るのだとか……人間と大差ねぇな。ただ、人と違って見た目が可愛いので、ころっとやられて保護というかペットみたいにしている探索者とかも居るらしい。

　もふもふウラヤマ……っと、家には既に狐さんも庭で遊んでいるけどな。昔から。

　あ、一応言っておくけど、モンスターだからかな？　エキノコックスの心配はなかったりする。

　魔力は寄生虫を殺すのだろうか？　まぁ、安全であるというのだから特に気にする必要も無いけど。それに、そういった事を調べるのは研究所の役割だからな。今頃、研究者が調べていたりするんじゃないかな。

　それにしても。一気に敵対していた勢力が減ったり弱体化した。

　これも神の力による戦闘の結果という事なのだろうか？　因みに、その神様の中にはお目々たっぷりなスライムみたいな神もい居たのですけど……まぁ、こちらは信仰してくれなくて良いとか言っている。

　〝ロード〟はなぁ……スライム達の信仰を浴びているわけだし、それにダンジョンを一つ確保しているからなぁ。

　なんならそのダンジョンには龍もいるからな。彼が力を振るうためのエネルギーは十分に確保出来る。

　てか〝ロード〟よりも〝化身〟だよな。

　あの神気のビーム砲によって〝化身〟へのお祈りパワーが以前よりも増したらしい。その為なのか〝化身〟の神々しさが増したんだけど。

　これ、間違いなく力も向上してるよなぁ……なんなら、元々ウォルと一つだって事もあって、微妙にウォルの力も上がってない？　って感じるレベル。まぁそれは仕方ないよな。ウォルって現状は〝化身〟の使徒みたいな感じだし。もしウォルに鑑定が出来るのであれば、間違いなく〝化身の加護〟が付いてるよ。それも特大のやつ。

　とまぁ……戦力アップと敵の弱体化が行われたわけなんだけど。これ、当分平和に過ごせるって事でいいのかな？　良いんだよな。まぁ。外敵に関してはだけど。

　内面的にはなぁ……私事ではあるけど、平和とは言えないからな。美咲さんのお母さん。あなた押しが強すぎですよ！！　と叫びたいよ。