八百六十話
「そんな訳で、どうやら〝ニーズヘッグ〟にも色々と可能性が思いつくみたいで、真実の追求はお手上げといった感じかな」
「そっかぁ。それじゃぁ仕方ないよね」
俺は美咲さんへと何があったかという話をしている。勿論、話した内容は根の向こう側で見た内容は語らずに。
美咲さん相手なら別に良いんじゃないか? と思わなくもないけど、一人に話せば他も良いだろうなんてハードルが下がっていっちゃうからな。なのでここは徹底しておくことにする。
ただ、実は色々と面倒で話ができない内容もあるんだよ。と、含ませながらの会話だけどね。
美咲さんも美咲さんで、同じ探索者だからか秘匿しなくてはいけない事があるというのを理解している。なので、話の内容に関しても「仕方ないよね」と返してきたわけだ。
とは言え。別に嘘をついたり騙したりしている訳じゃないからな。
〝ニーズヘッグ〟と話をして、彼が言っていた内容を、ある程度穴あきの状態で説明をしただけだし。それでもしっかりとポイントは抑えた内容だからな。
ブレスのビーム砲や神気に時計が作用したのだろうと言うのは話して、IFか幻の世界か過去なのかと言うのは省いた感じかな。
とりあえず。そんなブレスが奇跡的に潜水艇へクリティカルヒットした為に起きた現象だろう。という事は話しておいた。ぶっちゃけ、ある意味それが全てだしな。
「ブレスが時を超えたのかなぁ……」
「そうかもな。あの時計の力がさまよっているらしいし。空間や時間軸に異常が起きていてもおかしくないだろうな」
「次元の狭間っていう、異空間自体も謎が多いしね」
まぁ、これだけのキーワードから考えられる事と言えば。
ブレスが魔力の海へ突入した後、濃厚な魔力と神気を孕んだブレスの効果で歪んだ空間から狭間へと転移。転移されたブレスはそのまま時計の効果で現実世界へ転移するが……そこは過去の地球だった。
過去の地球で顕現されたブレスは深海を移動していた潜水艇へと直撃。直撃してしまった為に、ブレスの神気が弾けた事で再び狭間の世界へと扉が開き、その扉へと潜水艇が引き込まれ……といった内容を予想するぐらいしか出来ない。
とは言え、この発想自体も美咲さんや、美咲さんと共にあるラーナや魔剣達だからこそ思いつく内容なんだけどね。
「ま、予想は予想で確定している訳じゃないからなぁ」
「だね。でもそうなると、結構なレベルで大変なんじゃないかな? だって、龍のブレスがぶつかり合って空を貫いたら起こり得るんでしょう?」
「あー……それについては現状だとって感じかな? そのうち時計の力が消えるそうだから、同じようなことは起こらないみたい」
「そっか。それなら一安心かなぁ」
実際はその時計の力で、根の向こう側の空間が変化し、IFだか過去だか幻と言えるモノが出来上がっているわけなんだけどね。
嘘はいってない嘘は。事実を一つ語っていないだけで。それに美咲さんに言ったように、時計の力は残照だからな。そのうち消えるというのも〝ニーズヘッグ〟が観測している。なのでもう一度……嘘は吐いていない。
「ただそんな訳だから、美波さんを元いた場所に戻してあげるのは無理かな」
「それは仕方ないよね……うん、過去の私には我慢して貰うしか無いかなぁ」
流石にどうしようもない話だもんな。
美波さんは神気を浴びた事で、この世界の住人になってしまった。なのでもし帰ろうと根の向こう側へと連れて行っても、彼女も俺と同じで誰にも気が付かれる事のない、透明人間的な存在になってしまうだろう。
帰らないのではない。帰る事ができないんだ。そこはもう……上手く美波さんを説得してもらうしか無い。美咲さんがんばれ。ただこの内容は口に出して言えないけどな。
「どうしたの? そんな生暖かい目で見て」
「いや、あれだ。美波さんへの説明と説得がんばってって感じかな」
「むぅ……私だけだと難しいから、結弥君にも協力の要請をするよ!」
「まぁ〝ニーズヘッグ〟と直接会話をしたのは俺だからな。でも俺はフォローするだけにするからな? こういうのは家族にやって貰うのが一番だろ。もしくは、組織のトップ……この場合だと品川さんになる訳だけど、彼女に頼むかだな」
「あー……それは少し思うところがあるかなぁ。今でも問題を抱えて頭を痛めてそうだし、その所為で時間の余裕もなさそうだもん」
それは間違いない。
とりあえず今度、胃痛用のポーションでも差し入れしておこうかな? って思うレベルで頭とお腹を抑えていたからな。
ただ、そんな会話をしていたら……丁度と言って良いのかな? 美波さんが俺達を見つけたらしい。
「おやおや? 娘のデートに遭遇しちゃった?」
「お母さん……デートって、ここは普通にパーティーの会議みたいなものって考えるでしょ……。結弥君とは探索者仲間で一緒に組んで行動してるって昨日話しをしたじゃん」
「確かに聞いたわよ。でもね、お母さんアレから色々と調べたのよ。何やら異性同士のパーティーはそういう事もあるそうじゃない! と言うか、殆どが恋人関係で落ち着いているってデータもみたわよ」
「あー……あの協会が公表している謎データか。確かに、八割ぐらいはくっついちゃってるって書かれてたなぁ」
ただ、アレってちょっとしたジョーク的なものなんだよなぁ。だから少し盛って書かれていることも多いと言うか。面白おかしくしている部分があるんだよなぁ。
ハーレムや逆ハーレムに関してのデータも出てたしな。
「あ、そうそう。挨拶が先よね。美咲の母で美波といいます。いつもこの子が世話になって……」
「ご丁寧にどうも。白河 結弥です。俺の方こそ色々と手を貸してもらっている感じですので」
ほのぼのとした挨拶をして、そのまま笑顔で談笑を……という流れになるはずが無いんだよなぁ。うん、分かってた。
「で、この子とはどこまで? もう十年近い関係なのよね。だとすると結婚とかそういう話も? あ、責任は……」
とまぁ……こういう話になるのは、母親が相手だからなのだろうか。
ただ一つ言っておこう。俺は美咲さんへ一切! 手を出していないぞ。ちょっとしたアクシデントはあったけども! それは事故というか妹たちによる陰謀だったしな。
「ちょっと!? お母さん何言っちゃってるの!!」
「えー……でもあなた達もいい年なのよ? それにほら、サキちゃんは結婚するって話じゃない」
「たしかにそうだけども!」
うわぁ……かなり珍しいんじゃないか? めっちゃ美咲さんがテンパっている。
確かにこの手の話は今まで追求される事は無かったからなぁ。どちらかと言うと、ソラやサキさんがされているのを見て、ニヨニヨとしながら眺めていたって感じだったし。
いやはや……まさか絶対に起こらないだろう内容が、今こうして降り掛かってくるとは。
あぁでも、美咲さんが楽しそうにしているな。てんぱりながらイヤと言いつつ、私幸せですというか、楽しんでます的なオーラが漂ってきている。
そりゃそうだよな。家族を感じるってのも数年ぶりな話。確かにあのマッド野郎討伐時に父親と会話をしたと言ってはいたが、あの時は戦闘中だったからな……余裕をもって会話など出来るはずも無い。
それに母親と限定するなら十年ぶりか。楽しくない訳がないよな。
「結弥君? 何他人事みたいな表情をして眺めてるのかな?」
「え、あ、ごめん。何の話をしてたんだっけ」
「それはね。私がお宅へ挨拶しに行く必要があるわねって話かしら。美咲がいつもお世話になっているものね。だからしっかりと礼儀は通さないと」
……必要か? 必要なんだろうなぁ。でも、そこで少し前までの話を出されるのは。
爺様に父さんと母さんは大丈夫だとは思うけど……家にはゆいと愉快なモンスター達が居るからなぁ。絶対に悪乗りをしそうで怖い。
あぁ、これがソラ達が感じていたモノか。ソラすまん……俺や美咲さんには絶対に無い事だからって、少し楽しんで見てたのは間違いだったよ。
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