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八百五十九話

「白河君。私を胃痛ポジションか何かだと思っているのかしら?」


 そう呟きながら睨みつけてくるのは、言うまでもなく品川さんだ。



 俺は〝ニーズヘッグ〟への挨拶もそこそこに、海を脱出し、大樹を登った後、重力の反転を感じ、大樹を例のスカイダイビング方式で降りていった。双葉とプルはバンジー方式だな。

 地上へと着地すると、心配そうな小さいやつや大樹相手に大丈夫だよっと落ち着かせ、少しだけ世間話をし、タイミングを見計らって彼らに「また来る」と告げて森を脱出。

 しかしあれだな。小さいの達はついでとはいえ、大樹を守るのと同時に守ったことをしっかりと覚えていてくれているらしい。かなり心配そうにしてたからなぁ……口は悪いけど。あれか? ツンデレさんなのか? 小さい球体がチカチカと光りながら喋っているだけだから、萌! とかそういうのは無いけどな。


 そんなこんなで村へとダッシュで戻って来たら、次は直ぐに協会へと駆け込み「大切な報告がある」と品川さんにアポを取った。

 そして、見たままの内容を全て報告したという訳なんだけど……。



「あぁ……入谷君が恋しいわ……」


 と、空を見つめながら黄昏れている品川さんが出来上がってしまっている。


 ただまぁ、これは仕方ないよね。空の上の更に奥がへんてこな世界になっていた訳だから。

 そりゃ恋人の温もりが欲しくなるのも当然というもの……って、あれ? そう言えば入谷さんと品川さんって結婚してたっけ? もう随分と前にお付き合いを開始していたと思うんだけど。


 あれ? これって口に出して聞いていいことなのか? 結婚やお子さんはまだですか? って。いや、これ結構地雷ワードな気がするぞ。うん、触れないほうがいいよな。


「えっと……それでですね。とりあえず上の事は現状は害が無いかと」

「え? あ、あぁ。そうね。確かに聞いた限りだと、あの龍のブレスが2つ以上重なって空を貫き、その上で海にある何かを貫かない限りは、此方側へ物が落ちてくることは無いのよね」

「そういう事になりますかね。なので潜水艇が落ちてきたのは本当に奇跡的な状況だったかと」


 本当にどんな確率だよ! って話だよね。

 だって〝化身〟と龍のブレスがぶつかり合ったことで増幅された神気。そんな神気が空を貫き、たまたま海を探索していた潜水艇に直撃した。

 しかも、そのうちその力が無くなるだろうと思われる時計の力が漂っている状態でだ。力の残照とか言っていたしな。


 もし少しでも時間がずれていれば、空を貫いたあのブレスによるビーム砲は宇宙空間へと飛び出していただけかもしれなかった。

 もし少しでも角度がずれていれば、潜水艇に直撃する事は無く美波さんが此方側へと来ることはなかっただろう。

 あれ? その場合だと過去で美波さんが死亡した事も無くなったのだろうか? あれ、これはパラドックス的なモノにぶち当たって、考えれば考えるだけ思考がぐるぐるとしそうだな。……うん、頭が痛くなりそうだからやめておこう。


 とにかくだ。

 そんな確率で言えばとんでもない数字になりそうな状況が重なり、美波さんを乗せた潜水艇は此方側へとやって来た。

 はたしてそんな奇跡は何度も起こり得るだろうか? という話なんだけど、そうそうないよねって考えるのが普通だよな。


「それに〝ニーズヘッグ〟も言っていましたが、この現象は今だけの事だそうで。そのうち根の向こう側にある空間というか世界とは繋がらなくなるとか」

「それは朗報ではあるのだけど……白河君、この事は絶対に誰かへと話したらだめよ? もし研究者にでも聞かれようものなら……」


 あぁ、それは実に恐ろしい。

 絶対に連日連夜、彼らは俺たちに対して根の向こう側へ連れて行け! と押し寄せてくるはずだ。

 そもそも、美波さんが降ってきた時点で、空の上がどうなっているのかみたいと騒いでいるというのにな。その空の上は飛んで行くのは無理だ。ペガサス達は絶対に一定以上の高度より上には行かないしな。それに大樹を研究者に登れとか、どう考えても不可能だもんな。


「無茶というか無謀過ぎますよ。空の上にある海だって普通には向かえませんし。更にその先にある海を潜って根の向こう側まで連れて行くとか……自殺志願者ですかね?」

「死んでもいいからと言い出す研究者って普通に居るのよねぇ」


 あぁ……確かにそれは。

 ロマンの為ならば! と、全てを研究へ全振りしているような人が多いからなぁ。そんな彼らに対して、命は大切だ! と説いても、何を今更言っているんだ? そんな事よりも研究をだな! なんて切り返しをされるのは十割以上確定している事実。

 なので、下手に話が漏れないようにする必要がある。


「だから双葉達も絶対に周囲で漏らさないように」

「分かってるの! 双葉のお口チャックは完璧なの!!」

「ぷる!」


 大丈夫なのか? 大丈夫だよな。何やらドヤァと胸を張りながらそんな顔をしているから、逆に心配になってくる。

 自信が無いのもどうかと思うが、ありすぎる奴もなぁ……大抵どちらも口が軽くなってしまうタイプが多いってのは、俺の偏見かな? でも、物語だとあるあるだよな。


 とりあえずアレだな。双葉の口には果物やグミでも詰めておけば大丈夫だろう。

 それに、そのうち違う話題で頭の中がいっぱいになるはずだ。



 ただなぁ……あの二人に対してはどうするかが問題だな。


「品川さん。美咲さん達にはどう説明しましょう? 真実を話すか、それとも隠して誤魔化すのか」

「それも頭が痛い話なのよねぇ。彼女達……というか、美波さんは張本人だものね。真実を知る権利があるわ」


 ただ、その真実は隠しておきたい。だから、少しでも知っている人は減らすべきだ。

 隠し事というのは、それを知っている人が少なければ少ないほど、その秘匿性が増していくのだから。そもそも本気で隠すのであれば、俺は誰にも告げずに胸の奥にしまっておけって話なんだけどね。……まぁ、すでに双葉やプルが知っているわけだし、報告義務があるから品川さんを巻き込みはしたけど。


「まぁ……美波さんには権利はあっても義務はありませんから」


 うん。義務は無い。だから知る必要も無い。なので教える必要だってない。と言うわけで、知っている俺たちが黙っちゃってもいいんじゃないかな。

 なんて思ったんだけど、なんともじっとりとした目を品川さんから頂いてしまった。


「結構な腹黒発言よね」

「そうですかね?」


 いやだってねぇ。これだって美波さんを守る為の口実だよ?

 なにせ下手に彼女へ起きたことが知れ渡ったら……流石に人体実験はないだろうけど、彼女もまた研究者の獲物となる訳だから。そう考えると、知らないほうが良いよねって思うよな。


 ほら。そう考えると、彼女へ真実をオブラートに包んで話すことで、秘匿性は増し、彼女の安全性も向上する。どう考えても一石二鳥じゃないかなって思うんだよ。


「物は言いよう……と言いたい所だけど、間違ってはいないのよね」

「モルモットにする研究者はいないと思いますが、それでも身体の調査とかは徹底的にやりたくなるでしょうから」

「そうなると休む時間も無くなるわよね」

「そうですね。アレは結構地獄ですよ? 何時間もエンドレスで実験のお付き合いをするとか」


 武器・魔法・身体能力とかなりの調査協力を行ってきたからな。だから嫌というほど大変だということは知っている。

 そしてまた、俺がその調査を切り抜けることができたのは、ダンジョンアタックやモンスター討伐でスペックが向上していたからだ。

 でも美波さんは俺と違って、素のままの人と言っても良い。そんな人に彼らの徹底とした調査を切り抜ける事が出来るのか? といえば、間違いなくどこかのタイミングで倒れてしまう。


「なので、何が何でも隠しましょう。そもそもある程度の調査協力は既に終了したんでしょう?」

「そうよね。体に異常が起きてないかなどの検査はしたわよ」


 だったらもう良いじゃないって話なんだけど、もっともっと! と思うのが研究者だからな。


 とにかく。今回の件は俺と品川さん。それに双葉とプルの胸の奥へとしまっておくとしよう。

 それで全てが平和的に解決するのだから。




「やっぱり私に胃痛を起こせって言っているわよね……」

「まぁそういう役職ですから」

「はぁ……ストレス解消のために入谷くんを呼び戻そうかしら」


 なんて会話があったけど、品川さんは責任感が強いからなぁ。どうせ入谷さんを呼び戻すような真似はしないんだろうな。

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新しい話をアップしていきますよヾ(*´∀`*)ノ:孤島で錬金術師~修学旅行中に孤島に飛ばされたから、錬金術師になって生活環境を整えていく~
― 新着の感想 ―
[一言] 品川さんに各種メーカーの胃薬を買い占めて送ってあげたい。
[一言] 神様レーザーで貫かれたことでダンジョンが発生するのが向こう側の世界の出来事だとすれば、こちらの世界の美波さんも別のダンジョンが発生した未来の世界に落ちたと言うことになってパラドックスは起きな…
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