八百五十四話
空の落とし物。
そういうと何やらロマンチックな響きに聞こえるが、間違いなくそれは落とし物だった。……そう色々な意味で。
落とし物とは? それは、誰かの手より落下し紛失してしまった物。
なので大切なものはしっぱりとポケットにないないしておきましょう……と、まぁどれだけ仕舞っておいても落としてしまう事はあるのだが。
今回のこの空から降ってきた人工物についていえば、誰がどれだけ気を付けていても仕方なかった物に入る。
と言うのも、この人工物についてなんと言えばいいのだろう。とにかく開いた口が塞がらないというか何というか……どうしてコレは空から降ってきた!? と言いたくなるような物。
とりあえず地面に衝突させるのも不味いので、精霊憑依をし、一気に空へと飛びあがった後にソレにマナシールドを展開しながら突撃。
軽く衝撃を与えてしまったものの、速度的にはそれで破壊されると言ったモノでも無い。なのでその後はそのままソレを下から抑えつつ、風魔法で微調整しながらゆっくりと地上へ落下した。
で、そんな人工物だけど、なんか見たことあるななんて思っていたんだけど……当然、俺にはソレが何か理解することはできなかった。
ただ、当然これだけの物が落ちて来たとなると騒ぎにもなる訳で。沢山の人がわらわらと集まってきており、その中には協会や研究所からも人が来ている訳で。
「あら……それ、潜水艇ね」
「そうじゃの。しかし何でまた空から?」
品川さんと婆様が現場にてこんにちは状態。
品川さんは思わず声に出してしまったのだろうけど、婆様がそれを肯定し、その後に二人が顔を見合わせたようで……あぁ、頭をぺこぺこと下げあってる。
それにしても……潜水艇とな?
潜水艇ってあれだよな。こう、深海とかを調査するアレ。潜水艦のミニバージョンみたいなやつ。そういえば、海底に沈んでいるお宝とか軍艦を探すのにつかわれていたような気がする。
でもなんでまたそんなのが? あ、でもそうであるなら、もしかしたら中に誰かいるのだろうか。
結果を言おう。
誰か居るのか? では無く、誰かが居た。それもとんでもない人物が居た。
ここで唐突になんだけど、藤野 美波さんと言う人がいる。……いや、正確には居ただった。
名前から分かるように、彼女は美咲さんの関係者。というか言ってしまうとお母さんだ。
俺は今まで彼女に彼女のお母さんの話を振ったことが無い。と言うのも、昔に一度話を聞いた時に、病気だか事故だかで亡くなったという話を一度だけ聞いたからだ。
そしてその時の悲しげな表情から、俺はそれ以降は踏み込んで聞くような真似をしなかった。
で、今なぜそんな美波さんの話をしているのかと言うと……まぁお分かりだと思うんだけど。
「うわぁ……世界がめちゃくちゃな事になってるのね」
俺達の目の前で感動というか驚愕というか、そう言ったものがごちゃ混ぜになったような声を上げた女性。それが美波さんだったりする。
「え、あ、なんで? どうして?」
そして思いっきり混乱しているのが美咲さんだ。
まぁ当然だろう。だって死んだと思っていた人がいきなり目の前に現れた訳だし。
「えっと、美咲さん。少し整理しようか?」
「う、うん」
「まず、美咲さんはお母さんの話をどういう風に聞いていたのかな?」
「えっと……たしか……」
ゆっくりと息を整えながら口を開く美咲さん。そしてその内容と言うのは……。
美咲さんのお母さんである美波さん。彼女は何でも有名? な潜水艇乗りだったのだとか。
ただ、子供を産んでから引退していたのだけど。運悪くと言えばいいのか……以前の仲間から人員が足らないから今回だけ手を貸してほしいと相談があったのだとか。
そして、美波さんはというと、子供である美咲さんも大きくなった事だしと、半ば仕方ないなぁと言った感じで仲間を手伝う事にした。
と、ここまでなら美談で済んだだろう。
問題はこの潜水艇で海へと潜った時期。
本来であれば何事もなく終わるはずだった。そう本来であればだ。しかし、美波さんがこの話を受けたのが、そう……最初にダンジョンが発見される数週間前。
もう何があったかわかるだろう。
潜水艇は海中にて、ダンジョン化した海に巻き込まれてしまった。ただし、当時はまだそんな事など分かっていなかったので、連絡が急に取れなくなり行方不明という扱いになっていた訳だ。
そして、おそらく潜水艇が破損し、海底へと沈んでいったと思われていた。
美咲さんは全く理解が追い付いていない。いやまぁ当然なんだけども。なので先ほどから常に語尾が「なんで?」だったりする訳で。
「私もそう思っていたんだけど……なんで?」
「んー……まぁ、何でってなるよなぁ」
海底に沈んだはずの潜水艇が目の前にあり、その潜水艇から美咲さんのお母さんである美波さんのみが出て来た。
俺としてもというか、誰しもがこの話を聞けば何で!? となるような話。
「そうね。私も何でって感じなのよね。だって、潜水艇の中に私しかいないってのも変な話でしょう?」
「他の人は何処へ行っちゃったんでしょうね」
「さっき目が覚めたばかりだから何とも言えないけど……たしか、気絶する前ってどうだったかしら? そうそう! 海底の方からすごい光が見えた気が」
海底から光? ダンジョンが発光でもしたのだろうか。もしくはモンスターが何かやったとか? どちらにしても、その光が何かしらの現象を起こしたという事なのだろう。
「それにしても……美咲ちゃんが大人になってる」
「えっと、お母さんは若いままで?」
そうそう。もう一つの何で? は、この会話からわかるようにってか、最初から分かっていたんだけど……時間軸が狂ってるんだよね。
美咲さんからしてみれば、美波さんの身に起きた事故は数年前の話。もしかしたらもう十年ぐらい前になるのかな? 何せダンジョンが一般に開放される前の話だから……高校に入る前だったはず。
でも、美波さんからしてみればつい先ほどの話なんだ。
「浦島効果?」
「何が何やら……ちょっと謎が多すぎるわね」
「空には一体なにがあるのじゃろうか?」
婆様……空の上には海があります。ってか、その話は知っているでしょう?
「って……海か」
「そう言えば空の上って……でもそれってどうなのかしら?」
「そうじゃのう。これは一度詳しく調査する必要がありそうなのじゃが……」
空の上に研究者を連れて行くことはできない。というか、探索者であっても無理だと言えるんだよな。
大樹を丁寧に上って初めて行けるような場所だ。そして、大樹に近づく事は禁じられている訳で……うん、これは俺達にお仕事が回ってくる話だよな。
おかしいな? 時間的に余裕が出来たからソラ達の結婚式をって話だったハズなんだけど。
「白河君頼めるかしら?」
「えーあー……まぁ良いですけど。でも今回は俺だけで良いですかね?」
「どうしてかしら……とは言えないわね。藤野さんは動けるわけないものね」
当面は親子の再会を満喫させるべきだろう。なのでその邪魔は出来ない。……どうしようか? 他に誰か連れていくか? でもなぁ……連れていける相手が居ない。
あー……此処は双葉とプルにでも協力を頼むか。イオは流石に木を登って、そのあと水の中だから厳しい物があるだろう。なのでイオはお留守番かな? まぁ子供たちの面倒を見る必要もあるだろうから、イオにはそっちを任せるとしようか。
それにしても、一体上では何があったのやら。てかこれ、解明する事ってできるのか?
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とんでも展開に。
空の上の海の謎が深まっていますが……さて、一体どんなモノが待ち受けているのやら。




