七十五話
朝早くから村を出て順調に移動していく。やはりと言うべきか、モンスターの姿は見えない。気配は多少するものの、襲ってくる事が無いのはイオがいるからだろう。
「橋までは前と同じだったね」
「たしか、橋を渡った先から警戒するウルフライダーが出たんだっけ」
「ミャー!」
最初に橋を渡った時の事を思い出しながら、どう進んでいくかの話し合い。
街を拠点にしていたモンスターを排除したから、恐らくだけど、巡回してる奴等は居ないと思うが……万が一という事もあるから、少し様子を見てから進む。
むしろ、あのオーガと同等クラス以上のモンスターが出てこないか、そっちのほうが心配なんだけどな。
橋の中央付近から様子をみて一時間ほど、美咲さんから声がかかった。
「そろそろ一時間だけど、巡回は無いのかな」
「前の時にサイクルを確認してなかったからね。やっぱり拠点潰したから、巡回も無くなったのかもしれないな……イオなにか気配は?」
「……ミャン」
横に首を振ったか……イオも何かが動いてるとは思えなさそうだな。それなら、移動を開始しても良さそうだ。
「よし、イオの検索範囲にも問題なさそうだし、行こうか」
「ミャン!」
威勢よくイオが鳴く。うん、二人揃ってついつい笑ってしまった。
とりあえず、これ以上此処に居ても無駄だろうし、シェルター付近までは進みたいものだね。
道中は猿型モンスターが木の上から様子をみているが、拠点が無くなったからだろうか? 見てた後はすぐ森の奥へと去っていく。
去った先にゴリラが居るのだろうか? と思い、イオに聞いて見るが特に問題がないようだ。
「とはいえ、少し不気味だな。こっちが調べられてるみたいな気分になる」
「あれかな? あの殲滅戦時に偶々拠点から離れてて、そのまま森の奥に移動したとか?」
「都落ちって事? 拠点に戻ったら誰も居ないし、崩壊もしてるから放棄した……うん、ありそうだ」
あのゴリラ達は、罠に嵌ったりしたものの、知恵があるような行動をしてたからな。
となれば、生存の為に危険地帯から離れて、猿を使い様子見をさせるなんて行動は、あるかもしれないな。
「まぁ、そうなると奇襲されないように気をつけないとな」
「森の中だと、彼等の方が戦いやすいしね」
最初に猿にあった時は、ゴリラどころかウルフも居なかったからな。
もし、ゴリラが統率する猿軍団だったら……森から撤退しなきゃいけなかっただろうな。
とはいえ、現状が静かに奥地にいるだけなら、道中を通るには問題ないな。森の中を避ければ良いだけの話だ。
「あ……街が見えてきたよ」
「ふぅ……オーガとかも遭遇しなかったし、何事も無く辿りついてよかったよ。さて、イオ周囲のチェックを一緒に頼む」
「ミャーン」
イオがキョロキョロと街を中心に周囲を見渡す。俺と美咲さんはこの先への道や後方を警戒。
「ミャン!」
数分時間を掛けてにおいや気配が無いかを、確認したイオが鳴く。この反応なら、街は安全地帯のようだな。
「さて、如何するかな」
「如何するって?」
「あぁ、街に入ってシェルター付近を調べるか、このまま道を先に進むか。前の戦闘の事を考えると……シェルターの中に人が居たとして、刺激しない方が良いかもしれないし」
「あー……外の異常事態は気がついてるはずだしね」
たしか……品川お姉さん曰く。シェルター内部には外を確認できる、そんな装置が設置されているとか。
それなら……手紙でも書いて扉の辺りに貼り付けておくか? 案外良い手かもしれないな。警戒してる人を刺激する必要も無いだろう。
「よし、ちょっと周囲警戒しておいて、お手紙書くから」
「手紙? あぁ、シェルターに人が居る時のために!」
「そうそう、戦闘が起きた後だからね。行き成り攻撃されても嫌だし」
手早く手紙を書いてから、扉へペタリと貼り付けてその場を後にする。
一応、中に人がいる前提で手紙に気がついてもらえるように、ノックをしてから手紙を掲げて見せてからだ。
「さて、これで反応があれば良いけど……まぁ、手紙を受け取るにしても、距離を俺等が取ってからだろうな」
「じゃぁ……このまま少し先を調査?」
「そうだね。帰る時にでもちらっと様子をみるとして、今はダンジョンまでどうなってるか調べよう」
此処からダンジョンまでは、徒歩だと結構時間がかかる。まぁ、前に通った時は護衛を兼ねてだったから、相当時間がかかったけど。それを差し引いても、距離がある……前なら電車かバスを使ってた距離だったからな。
「道も……なんかめちゃくちゃになってるし、移動が大変だよ」
「二年で此処まで崩壊するとはねぇ……暴れるモンスターのパワーってのは、種族によっては重機以上って事か」
アスファルトは捲れ上がり、コンクリートは砕け、地面は波を打つなんてモノじゃなく、場所次第では数メートルの段差や亀裂が入っている。
まぁ、オーガがあの破壊力を見せたからな。その為か、この光景も何と無くは受け入れてしまえるが……それにしても、何が通ったらこんな風になるのやら。
「警戒は最大だな。これを成したモンスターが何処かに居るかも知れない」
「オーガとか其れレベルかぁ……この悪路だと逃げるのも大変そうだね」
イオは……悪路を楽しむかのように、ピョンピョンと移動してるな。まぁ、それなら現状問題ないか。
しかし、揺れる尻尾がかわいいな……っと、余所見は駄目だな、こんな道だと転んでしまう。
「あっ……イタタ」
「……美咲さん、何躓いてるの」
「あはは……ちょっと段差を見逃しちゃってて」
……あぁ、イオを見てたな。楽しそうだからな、思わずほっこりと見てしまったか。……うん、躓いたのが俺じゃなくてよかった。
「そ……それにしても、モンスターが来ないね」
話をそらしたな、ただまぁ、それは気になってたな。追求する必要も無いし話に乗っかるかな。
「道の所為かもな。今まで見たモンスターから考えたら……弱いやつらに空を飛べるやつ、後は悪路にも強そうな猿系だ」
「弱いのは地形が変わる前に、空を飛べれば道は関係ないか、猿も木をぴょんぴょんと? あれ? ゴリラとオーガは?」
「ゴリラなら木にぶら下がる事もできるから、地面を走ってジャンプした後に、枝を利用して勢いのまま飛び越えたりとか? オーガは一歩一歩の幅が広いからな……それに破壊したのがオーガかもしれない」
昔から山や川とかで生態系が変わるのはよくある話だからな。この地形が境界線になってても不思議じゃない。
となれば、地形が緩やかになってからが問題になりそうだな。……一体何が出るのやら。
街から離れて一時間ぐらいだろうか? 悪路を抜けそうな景色が見え始めた。
「イオは警戒をお願い。美咲さんは……バックアップね。俺は少し先の様子を見るから」
そう告げてから、先ほどの考えもあるので、双眼鏡を取り出して周囲を確認していく。
「……見えるモンスターは、あれは懐かしのゴブリンじゃないか? たしか小鬼と言ったっけ、そうなるとオーガが居る可能性も?」
「え……ゴブリンが居るの?」
「あぁ、ほら双眼鏡を貸すから。あっちの方角」
ゴブリンが此処で出てくるか。オーガが出るなんて嫌な予感は当たってほしくないけど。
ダンジョンに近づいてるからだろうな、となれば何処かにオークの集落もあるかもしれない。
しかし、やつらが此処に居るなら、どうしてゴブリンとオークは、村側のほうに来てないのだろうか。てっきり、違う方向へと進んだと思ってたんだけどな。
「本当にゴブリンって居るんだ……はぁ」
「人型相手になるからね。駄目そうなら、待機してもらっても良いけど?」
「えっと、大丈夫だよ? とりあえず接近はせずに弓でやるから」
大丈夫といいつつ少し顔が青いからなぁ。とりあえず、今回は様子を見てもらうか。
「そっか、でもあれだよ。今回は様子見しつつオーガが出ないか待機してくれる?」
「えっと、オーガが出るの?」
「小鬼って言うぐらいだからね。オーガが何処かで率いてるかも知れないし」
「そっか……じゃぁ、警戒しておくね」
これで良いだろう。顔が青い状態で遠距離攻撃しても当たらないだろうし、避けれるけどフレンドリーファイアとかは困る。リズムが崩れるからな。
先ずはゴブリンとの戦闘を見せて、其処からどうするか決めてもらうべきだろう。最悪……村で防衛に回って貰う事になるか。まぁ、あのおっさんの娘で姪っ子な美咲さんだ、乗り越えれると思うけどな。
「さて……それじゃイオ、殲滅戦と行きますか!」
「ミャン!」
戦闘するための距離まで接近してから、何時もの様にポールウェポンを地面に刺す。そして鉄串で先制攻撃の準備。
ダンジョン時はソロでやってたが、今はイオがいるからな……眼前の数はたった十匹だし、あっけなく終わるだろう。
「それじゃ、戦闘開始!」
「ミャァァァァン!」
イオの叫びと同時に、鉄串を投擲。流れるように、ポールウェポンをもって、イオが突撃したのと逆方向にダッシュ。
「ミャン!」
鉄串が敵を貫くと同時に、イオがそのツメで一匹のゴブリンを切裂いた。相変わらずとんでもない速度でのダッシュだな。これで、鉄串とイオの攻撃により三匹。
「あらよっと!」
まだまだ硬直しているゴブリンに接近して、斧部分で払うようにその首を切り落す。勢いを其のまま乗せて、近くにいるゴブリンに蹴り。
「ありゃ……蹴りの威力高すぎ?」
思ったよりもダメージが大きかったようで、蹴りで胴体の上が飛んで行ってしまった。
「とはいえ、これで四匹! って、イオが六匹討伐してるだと」
「ミャァーン!」
イオの勝ち! と叫んでるようだな……ふむ、何か御褒美でも上げなければいけないか。
遠距離攻撃で開戦したはずなのになぁ、イオの移動速度が凄いんだろうな。まさか、同数にもならないとはね。
「さて……美咲さん大丈夫?」
「うん、大丈夫。というより……ゴブリン弱すぎ?」
少し青いのが収まってるけど、人型タイプとの戦闘を見るのも初めてだろうしな。
それでも、最初にでる言葉はゴブリン弱いなのか……結構毒されてる?
「まぁ、上位種とかいるから。それに、弱く感じるのはイオが強すぎるのと、武器防具が揃ってるからだろうね」
「あ……そうか、えっと、次は大丈夫かな? 弓ならいけると思うよ。ありがとうね」
ありゃ? わざと様子見にしたのばれてるか。まぁ、顔色も落ち着いてるし次は遠距離で試してもらうか。
とはいえ……ゴブリンを倒したけど、オーガは出なかったか。まぁ、あの一匹が特殊だったなら良いんだけど……ダンジョンまでは、まだまだ距離があるから気をつけないとな。
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