八百五十三話
龍との闘いにて、咆哮によるビーム砲が空を貫いた事があった。
その時に問題が起こるような事は無かったのだが、やはり空の上には海があるという謎空間が作り出されているという事もあり、「本当に大丈夫なのか?」という心配があったのも事実。
何せ空にある海からはモンスターが地上へと降ってくる事もあるからな。
しかし、そんな心配を他所に空は実に穏やかなもので……もしかして、あのビーム砲にモンスター達は恐怖してしまったのでは? なんて可能性もあるかもしれない。
もしそうだとしたら、あんまり気にする必要もないのでは? なんて思っていたのだけど……。
ソラとサキさんがじわりじわりと追い詰められていた。
龍の問題も落ち着いたという事もあって「次の問題が起こる前にさっさとくっついてしまえよ!」という話が、なんとサキさんのお父さんから飛び出した。
これにはソラとサキさんも思わず苦笑い。
ただ、桜井さんの言いたいこともよく分かる。
こんなモンスターが溢れている世界だ。しかも、戦国さながらと言ってもいいのでは? と思うレベルで人が纏まっていない。
流石に俺達側に手を出すのは問題か? と思ったのか、伊勢より西側からの襲撃はかなり減ったと報告があったのだが……それはこちらに来ていないというだけで、実際には小競り合いが続いている状態でもある。
忍者達の里では、侍達を制圧してしまったお陰で襲撃そのものはなくなった。なんなら、面倒な話だけど忍者達の領地が増え、領地運営で彼等は叫んでいるのだとか。
岐阜側の話をするなら、そちらは山脈に阻まれている為に行き来すること自体が大変だ。
ペガサスや牛達がどうやってか山を超えて来たけど、山越えがいかに大変かは……モンスター達が山を制圧しているという事で理解できる話。
実際、岐阜側で確保している場所と言えば、各務ヶ原・岐阜市・大垣といった愛知側に近い地域だ。一応少し手を伸ばして、関・美濃加茂・多治見あたりの様子も見ようなんて話にはなっているらしいけど。
そんな訳で、富山方面側の状況は全く分からないんだよね。ペガサスがいるから行けない事はないかもしれないけど……防衛戦力を減らす訳にはいかないので、ペガサスライダーによる出向にゴーサインが出る事はないと思われる。
もし動きがあるとすれば、ワイバーンの赤ちゃんが育った後、そのワイバーンに騎乗が出来る事が確定してからだろうな。
で、最後に三河。
ワイバーンの巣を制圧したという事で、防衛用に作った砦をしっかりとした拠点へと変更しているらしい。何せ巣があった場所にはダンジョンがあるからな。ポチ君の運営能力が上がれば……と期待も込めて整備されている。
問題があるとしたら豊川だろうか? あそこ、キツネ型モンスターの聖地になってるんだよな。しかもそんなキツネ達は幻術魔法の使い手もいる。
敵対している勢力もあれば、こちらに愛嬌を振りまいて近づいてくるキツネも居るそうで……結構面倒な土地だったりするらしい。
現地の人と協力関係にあるキツネもいるそうなので、とりあえずどの勢力を叩けばいいのかという情報収集をしている段階なんだとか。
見た目そっくりだろうから「ぶっちゃけ、違いがわかるか!!」と探索者達は叫んでいるそうだ。
周辺の現状がこのようになっているという事で、今俺達は嵐の小休止状態。
なので、この小休止状態の内に色々と出来る事をやってしまえ! なんて話が出るのはある意味当然なんだよね。
だって、次に問題が起きたらいつ終わるかわからないし。
なんなら、ソラのお仕事が丁度終わっているというタイミングでもあるしな。
ゲート開通しちゃったもんなぁ。まぁ、色々と改良すべき点は残っているそうだけど。
「で、本人たちそっちのけ?」
「あー……僕は放置されてるかなぁ。ただサキが乗り気になっちゃってる」
「タイミングがやっぱり問題って感じ?」
「そうだね。これを逃したら次はいつになるんだろう? って言葉にやられちゃったみたい」
やっぱりそういう話には敏感になるよな。
実際、俺達のやってる仕事というのはかなり不安定と言える。ソラは探索者というよりも研究者側にどっぷりといった状態なんだけど……いや、研究者の方が時間に自由がないか。彼等は年がら年中と研究漬けだしなぁ。
そしてソラはそんな研究者達に直ぐ捕まってしまう訳で……お人よしすぎやしないか?
「次の仕事が入る前にって感じか」
「次の仕事はもう決まってるけどね。ゲートを改良していかないといけないから」
「運用データをとって、それを基に改善点を探すって流れって事か? でも、そもそもが改良する為には素材が足らないって話じゃなかったか?」
確かゲートの魔力消費を抑えるためには、神鋼が大量に必要となるという話だったはずだ。
なので、現状だと改良する為にも資材が足らない。足らない以上は手が出せない。
「資材はどうしようもないよね。ただ、それが無くてもできる事はあるよ」
「へぇ……まぁよくわからないけどがんばれ?」
「興味なさすぎじゃない?」
興味が無いというか、説明されてもよく分からないってだけなんだけどな。
何せ俺が使っている時空間魔法とか、半分以上が感覚のみでやってるし。理論だとか原理だとか言われてもねぇ……。
だから俺は、ソラみたいに符を書いたりとか、それを使って沢山の術を発動させるとか、そう言ったことは全くできない。あれはもはや、魔学と言ってもいいレベルだからなぁ。
「テレビのチャンネルを変える為に必要なのはリモコンのボタンを押す事であって、リモコンの作り方を知る必要はないのだよ」
「うわぁ……確かにそうだけどさ。もう少し興味を持とうよ」
戦い方とかそういう話なら興味がある。というか知らないと生き残れないんだけど、そっちの学問的なことはできる人に任せるのが一番だよな。
「とりあえず。そんな話よりも、今はサキさんまで乗り気だって事の方だよな? ソラはそれで良いのか?」
「あ、思いっきり話を逸らしてきた……。と、そうだね。良いか悪いかで言えば、悪くはないかなぁ」
「おや? 実に曖昧な返事だな」
「そりゃそうだよ。まだ早いかな? って思っているけど、このタイミングを逃したらってのもよく分かるから」
妥協か? 妥協なのか?
ただ、俺やソラって特にだけど慎重すぎる部分があるのは事実だからな。周りに合わせて勢いに任せるなんて状況も必要な時はあるだろう。
もしかしたら、結婚とかは特にそんな後押し的なものが必要なタイプなのかもしれない。……まぁ、それでいいのか? って話ではあるけど。
「それにさ。ワイバーン戦とかドラゴンの咆哮とかで皆の気分が不安定になってる部分もあるよね? それを吹き飛ばすには良いニュースが必要だし」
「……自分のおめでたい話を利用するんかい」
「あ、因みにこれはサキが言ってたんだけどね」
「サキさん!?」
確かにソラを説得するには、一番通用しそうな内容だけどな。
なんと言うか、既に尻に敷かれ始めている? うんまぁ、ソラが良いのならって話だけど。
しかしソラ達がねぇ……前からプッシュされて来ていたとはいえ、もう少し粘ると思ってたんだけどなぁ。
もしかして、この事で色々な人が触発されたりしないだろうか? 前回も結婚ブームが来てたしな。割とあるかもしれない。
なんて話をしていたはずなんだけど、どうしてこうなったという状況になっちゃったんだよなぁ。
何で空から人工物が落ちてきているんですかね? とりあえず、あの落下物が衝突しないようにしないとな。
一つ言えるとしたら、結婚式の最中とかじゃなくて良かったという事だろうか。準備の前の話し合い中だったからな。とは言え……問題が起きちゃったな。
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