八百五十二話
ちょい短めです。
さて、ワイバーンのポチ君だが、彼はダンジョンのボスだ。それも、ダンジョンコアを取り込んだダンジョンマスターと言っても良い。
では、そんなダンジョンマスターともいえる存在が、ダンジョンから離れてリッチの元へ居て大丈夫なのか? といえば、実は大丈夫だったりする。
もしこれが、ズーフ達みたいな試練のダンジョンのマスターであれば話は別だ。彼等はダンジョンの管理以外にも、お客さんをおもてなしするという役割がある。
試練のダンジョンらしく、探索者達の壁としてダンジョンに入ってきた者をフルボッコにするという役割が。
だがワイバーンのダンジョンは試練のダンジョンでは無い。俺達が勝手に言っている〝高難易度ダンジョン〟のダンジョンマスターだ。
そして高難易度ダンジョンのダンジョンマスターやボスについて。以前に話したと思うが、彼等はダンジョンを守る為にダンジョンが呼び込んだモンスター達。
呼び込まれたモンスターは、ダンジョンに入り徐々に自我が失われていき、次第にダンジョンコアの操り人形になる。……例外的に逃れる存在がいるけども。
ただ、この事からわかるように、高難易度ダンジョンのマスターやボスのお仕事は、ダンジョンの維持と管理だ。
これ、維持と管理さえできれば、別にダンジョン内に居なくてもいいんじゃね? ってなるよな。
そんな訳で、ワイバーンのポチ君って実は偶にダンジョンへと通って維持と管理の作業さえ行えば、別にどこへ行っていようと問題ないという事だ。
そもそも守るべきコアを彼は取り込んでしまっているしな。
そんなわけで、ポチ君はリッチ先生の元でダンジョンコアを操る方法や、自我を奪われ洗脳されない為の術を学んでいる。
ポチ君もかなり必死よ。そりゃ、自我を奪われてしまえば敵対するのは確定だ。それも、同じ頂上的存在ではあるが、遥かに格が上と言える存在達との。
なんなら、今は師匠としていろいろと教えてくれているリッチ先生も居るからな。
「〝ロード〟と〝化身〟に加えて〝リッチ〟とも戦うとか。どう考えても悪夢だよな」
視線の先では、リッチ先生がポチ君にコアの使い方はどういうものかと徹底的に叩き込んでいる。
そして、そんな様子を俺達はワイバーンの赤ちゃん達と戯れながら眺めていたりする。
「ワイバーンって雑食なんだね。果物をおいしそうに食べてるよ!」
「ほわぁぁぁ。双葉があげたリンゴを直接食べてくれたの! って、それは双葉の蔦なの! 食べちゃダメなの!!」
いや双葉さんや。それは食べている訳じゃなく、どう見ても甘噛みというやつだぞ。
齧っているように見えて、ハムハムと咥えているだけ。ただの愛情表現だよなぁ……まぁ、蔦が涎でべっとりした状態にはなるけど。……肥料として良いんじゃないかな?
「ぷぎゃ!」
ダメと言われたからか、双葉の方を向いて一鳴きしたワイバーンの赤ちゃん。
ただ、これ伝わって無いんだろうなぁ……再び蔦をハムハムと咥え始めた。あれか? おしゃぶり的な感覚なのだろうか。
そんな赤ちゃんに双葉は諦めたのか、それともそれで赤ちゃんが安心するのならいいと考えたのか、蔦で赤ちゃんをやさしく包みながら、蔦はそのまま咥えさせておく事にしたらしい。
「お姉ちゃんは大変なの」
ただ、そんな一言を告げながらだが。……双葉さんや、アナタはワイバーン達のお姉さんにもなるつもりなのか。
因みに、イオとプルはこの場にいない。
彼等は今、子供たちの相手をする為に、何時もの孤児院……いや、今は他の子も預かっているから、保育園でもあるか。あれ? 幼稚園の方があってるのだろうか。んー……どっちだろう。まぁ、そんな孤児院から拡張された施設へと出向いている。
本来であれば、双葉もイオ達と一緒に行く予定ではあったのだけど、今回はワイバーン達の様子を見るという事で、通訳として双葉に同行してもらった。
ただどう見ても、今は赤ちゃんワイバーンと戯れているだけの状態なんだけどね。
「来て早々に双葉の仕事は終わっちゃったしなぁ」
「びっくりなの。ワイバーンさん達は皆同じことしか言わなかったの」
ワイバーン達が語った内容。それは〝ワイバーンのボスであるポチ君についていくだけ〟という事だった。
一応他の話も聞いてみたが、彼等は現状に満足しているらしく特に欲しいモノとかも無いらしい。
赤ちゃんについて、触れ合っていても大丈夫か? という質問についても「これからは必要だろうから、自分達には気にせずかかわってやってくれ」という事らしい。
そんな訳で、ワイバーン達から大義名分を貰った! と言わんばかりに、美咲さんと双葉はワイバーンの赤ちゃん達ときゃっきゃっうふふと遊んでいる。
しかし、この様子を見ていると、ワイバーン達を村とかで見ても良かったような?
「いや無理か。大人のワイバーン達はポチ君に付いて行くと言っている訳だし。ポチ君はリッチ先生の下で学ぶ必要がある訳だから……」
「流石に親と赤ちゃんを離れ離れにする訳にもいかないしね。こうして様子を見に来た時に係わっていくしかないよ。それに、ワイバーン達の居住区も用意出来ないし」
ま、ワイバーン達のサイズを考えれば、今ある拠点に住まわせるのは無理があるよな。
これが数匹から十数匹程度なら問題ないけど……この場に集まっている数は三桁は居る訳だし。どう考えても無理がある。だから現状が一番最適の答えなんだろうな。
とりあえずだ。このまま赤ちゃんワイバーン達にはすくすくと育ってもらいたいものだ。
そしてポチ君もしっかりとリッチ先生から沢山のことを学んでくれることを祈ろう。ワイバーンのダンジョンを第二のリッチダンジョンとする為にも。
「にょわぁぁぁぁ! 皆ダメなの! それは双葉の葉っぱなの! ぺっしなさい! 下手したら口の中を切っちゃうの!!」
……なんか双葉とワイバーンの赤ちゃん達が楽しそうだなぁ。これは本当に双葉を連れてきて良かったな。
「楽しいけどちょっと違うの! ますたーも赤ちゃん達を剥がすの手伝ってほしいの!! あ、蔦を咥えるのはもう諦めるけど、齧っちゃだめなの! 蔦から出るのは猛毒なの!!」
叫ぶ双葉。
さてさて、確かにちょっと毒なんてワードが出たから少し気に掛ける必要があるか。
「とりあえず解毒薬は用意しておくか」
「いや、その前に赤ちゃん達を剥がしてあげようよ」
んー……楽しそうだしなぁ。あれも赤ちゃん達の愛情表現な訳だから、滅多なことにでもならないなら放置で良いと思うんだけど。
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