八百五十一話
ワイバーンと竜の事件は、おおよそ俺たちの考えたような形となった。
まずはワイバーン。
彼はリッチ先生の居城にて、リッチ先生に「ポチ」と呼ばれながら過ごしている。
なんでも、まさに犬! といった感じで、かなり従順なのだそうだ。……それでいいのかダンジョンボスで頂上的存在。
まぁそっちのほうがお互いに良いんだけどね。俺たちとしては驚異が無い。ワイバーンとしてはまったりゆったりと生活できるのだから。
ただ、ここでちょっと予想外の事が。
このポチ君の元へと逃げきることが出来たり、巣の奥にあるダンジョンに隠れていたワイバーンが集ってきた。
最初こそ「なんだこのワイバーンの移動は!」とか「なんか城が包囲されている!!」なんて話題になったものの、ワイバーン達が何も攻撃もせず、一切の敵対行為を見せなかったために様子見を……となったところで、リッチ先生とポチ君の登場。
そして二体とワイバーン達との会話が行われた結果。ワイバーン達はリッチ先生の城内にあるポチ君ゾーンの一角に居候することになったそうだ。……まぁリッチ先生が言っていたけど、ダンジョンとしてはワイバーンからあふれる魔力を吸収することができるから儲けものらしい。
そんな感じで、ちょっと問題が起きそうな場面こそあったものの、ポチ君とワイバーン達の事は何事もなく決着がついた。
因みに。
俺や美咲さんは、偶にワイバーン達の様子を見に行ったりしている。
何故俺たちがワイバーン達の様子を見れるのかというと、リッチ先生がしっかりと教育しているために、俺たちと敵対する様子は一切なく、むしろかなり友好的な態度をとってくれるしね。
なので、最初こそ念のためという確認程度だったんだけど……。
ワイバーンの中には赤ちゃんワイバーンも居たりして、実に愛らしい姿を見せてくれていたりするんだよね。
言っておくけど、ただかわいいから見に来ているというわけじゃない。この赤ちゃんワイバーン達に人は仲間だよ! と慣れさせる為という意味も含めている。
そうする事で、もしかしたら将来的にワイバーンライダーなんて探索者が誕生するかもしれない。というか、少し俺自身も乗ってみたい。
……既に大きくなったワイバーンは、友好的ではあるけどその背を許してくれるような気配は一切ないからね。まぁ、今まで敵対なりなんなりしていた相手な訳だし。ワイバーンも流石に無防備な背は晒せないという事なのだと思う。
ワイバーンに関してはこんな感じだろうか。
次に龍がどうなったかだけど。こちらも住んでいる場所は俺達の考えていた通りだ。
龍は今頃、大量の目に囲まれて湖のダンジョンにある孤島か、その地下にある洞窟にいるとのこと。……まぁこっちは確認することができないから、全てが〝ロード〟から聞いた話なんだけどな。
なんでも龍は、湖に出てはクラーケンやクラゲなどを食らったりしながら過ごしているらしい。
それは良い。実に健全的な生活をしていると言える。ただ、ちょっとどうなの? と思うような行動もしているらしく……。
龍は何やら目玉達に話しかけたりしているらしい。……目玉にだ。
これ、ついに発狂したのか? と思ってしまったが、〝ロード〟が言うには何の問題も無いらしい。
え? どういう事? って話になるんだけど、あの龍は最初こそ大量の目玉に囲まれている事に対して居心地が悪そうな様子を見せたらしいが、それも次第に慣れていったのか、もしくは愛着でも湧いてしまったのか、龍は目玉に対してフレンドリーな態度を見せるようになったそうだ。
……返ってくる言葉があったとしても、それは「テケリ・リ」だけだろうに。
それと、傍から見ればどう考えても発狂しているようにしか見えないと思うんだけどなぁ。
とまぁ、龍はそんな感じで目玉達に対して語りかけながらも、湖の獲物を狩りつつまったりと生活しているらしい。
一応言っておくが、この状況は彼が役目を果たす為の待機状態でもあったりするけどね。
堕ちたドラゴンを狩るのは人には無理だ。かといって、毎回〝ロード〟や〝化身〟が出撃する訳にもいかない。というか、彼等にその気がない。
なので、これは監視を兼ねつつ龍が安全に身体を休める場所を提供するもの。
一種の契約だな。人や人の生活圏に一切手を出さない代わりに、ちょっとSAN値が減るかもしれないけど安全な場所を貸しますよという。……まぁ、SAN値が減るどころか目玉に語り掛けるようになっちゃったけど。
もしかしてあれか? この龍はさみしがり屋なのだろうか。返答が一辺倒な目玉と会話をしようとしている訳だし。そういえば、俺達とワイバーンの群れが戦闘をする前まではずっと寝てたんだよな? これも実は寂しさを紛らわす為だったりして。
そして現在。
俺達は協会にて龍とワイバーンの現状を報告しに来ていたりする。
「と、そんな感じで龍もワイバーンも問題なく過ごしてる感じですね」
「一時期はどうなるかと思ったのだけど……何事もなく無事解決されたようで良かったわ」
一安心といった具合で体の力を抜く協会の長である品川さん。
そして画面越しには、他の拠点にて支部を任されている人たちの顔。彼等もまた安心したのか「ほっ」という声が出ているような態度や表情を見せている。
『それにしてもワイバーンの赤ちゃんか……もし彼等に騎乗することが出来るようになればと思ったが、それはペガサスの騎乗とは違いがあるのかな?』
「あー……ペガサスは基本一人での騎乗ですね。一応二人で騎乗することもできますが、それ以上は無理かと。ですがワイバーンであれば、大きくなればですけど一パーティーぐらいは乗せる事が可能かと」
『ふむ……となると、ワイバーンを操舵する者以外にも乗せることが出来るという事か』
ペガサスに騎乗できない探索者は多い。というか騎乗できる人数って一割いるかいないかだからな。だから、基本的に探索者はペガサスに騎乗できないと言ったほうがいいと思う。
今でこそゲートによって長距離移動が出来るようになったけど、そのゲートの移動も拠点間の移動で、さらに言うなら移動に使う魔力は膨大な量となる。
では移動に関して、もしワイバーンが育った後にその背に乗ることが出来るようになったらどうだろうか。探索者たちであればワイバーンに乗る方が良いんじゃないかな? って話になるんだよね。
何せゲートは先ほども言ったように〝拠点間〟の移動用。なので、目的地であるダンジョンや森の中などの探索はそこから徒歩で行く必要がある。
逆にワイバーンを使えば、その場所まで空からダイレクトに移動することが可能。それも一切の疲労も無くだ。
このことから、ゲートを使った場合だと移動時間は少なくて済む。ワイバーンを使った場合は、ゲートに使う膨大な魔力の消費をカット出来るし、目的地までの消耗が無いと言えるだろう。
そしてそれぞれのメリットデメリットを考えると、ワイバーンを使った方が良いと思われるって話になるんだよね。
そんな話を会議で行っている訳だけど……良いかな? まだ騎乗が出来るかどうかは分からないし、その可能性があるワイバーンもまだまだ赤ちゃんな訳なんだけど。
一体どれだけ先の話を前倒しで決めようとしているのだろうか。
まぁでも、男の子が多いもんね。そして、男の子であればドラゴンに騎乗するというのは夢だからね。そう考えると、ワイバーンであれその背に騎乗するという話が盛り上がっても仕方ないよなぁ。
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