八百五十話
さて、龍のお役目についてだが……よく考えて欲しい。ここには龍と同格の存在が居る。それも二柱だ。
しかも今回はベースがワイバーンだ。その結果は火を見るよりも明らかと言うモノだろう。
「まぁ、どう見ても俺達だと倒せ無さそうなワイバーンだけどな」
「普通とは全く違った見た目だもんね」
全身が黒い鱗で覆われていて、体の大きさも普通のワイバーンの三倍以上。
頭にはカーバンクルみたいな宝石の様なモノがあったけど、あれは恐らくダンジョンコアだろう。ふむふむなるほど、これが堕ちたドラゴンの一例と言う奴か。……まぁ、恐らく最弱レベルなんだろうけど。
「ま、ワイバーンからの変化だから。堕ちたというより昇ったって感じだろうけど」
「格的にはそうだよね」
そんなワイバーンなのだが、現在は龍と並んで仲良く縛り上げられている。
龍はそんな状態に、何やら絶望していたりする。かすかに聞こえる声から、恐らくお酒が飲めないのが余程堪えているのだろう。……うん、『酒が……交渉したら飲めると思ったのに……』って聞こえてきているんだよなぁ。
で、一方ワイバーン。
こちらはもう死んだ魚というか、まな板の上の鯉というか……〝ロード〟と〝化身〟にフルボッコにされ、精神的に撃沈されていたりする。
格の違いというのを見せつけられたと言っても良いだろうな。何せ最初は〝化身〟が単体でポコポコと遊ぶようにワイバーンを捻っていたし。
俺の目には横たわっているワイバーンの大きさが、ダンジョンから出てきた時に比べて一回りぐらい小さくなったように見える。
『しかし、捕まえたは良いが……どうするか』
『がぅ……』
確かに対処に困る話だよなぁ。
一応だけど、龍の方は話が出来る存在。そしてワイバーンはと言えば、捨てられた子犬の様に大人しくなっている。
さらに付け加えるなら。よくネタにされる「僕悪いモンスターじゃ無いよ」と言わんばかりの目をしている。
うるうるとした目で「暴れないからたすけておくれよ」と訴えて来るワイバーン。
ただ、そんなワイバーンだけど、ダンジョンを支配してしまっている存在であるのは間違いない。なので、放置をしたらかなり問題になる。その事はリッチの能力を見ていれば分からない訳がない。
ん? リッチ?
「あぁ、そうだ。このワイバーンはリッチにプレゼントしてしまえば良いのでは?」
名案では無いだろうか。
リッチは既にダンジョンを二つその手に収めていると言っても良い。そしてまた、格自体も〝ロード〟達と同じ。なので、この黒いワイバーンでは勝てない相手でもある。
あれだな。同じ超常的存在になったと言っても、その差はピンキリとか月とすっぽんといったレベル。黒いワイバーンはいうなれば、超常的存在の赤ちゃんみたいなモノだろう。
『ん? あぁ、あの御仁か。確かにその案であれば問題は無いだろう』
ダンジョンの扱い方もしっかりと仕込んでくれるだろう。……ふっふっふ。これでまた、新たに人と友好的なダンジョンをゲットできるな。
そして内部を大改造して……んー……場所的にはモンスターホイホイにしても良い気がするかも。
そんな俺達の話を聞いているワイバーンは、自分の身に何が起こるのか不安でしかたないのか、キョロキョロソワソワとしている。
なんだろう。本当に動きが子犬みたいになってやがるな。……大きさは化物クラスだというのに。
ま、悪いようにはしないから安心して貰いたいね。
とにかく、協会とリッチに連絡をしてワイバーンを引き取ってもらうとしよう。それでワイバーンの事は解決だ。
問題は龍だよなぁ……。
こいつは放置して良いのだろうか? 役目的には果たして貰わないといけないのだけど。
寝起きの度に八つ当たりをしたり、暴れられたりでもしたらたまったものではない。
『あ、暴れぬぞ? 悪い龍では無いぞ?』
縛り上げられている龍がそのような事をのたまう。……いや、ほざくと言った方が良いだろうか。
寝起き最悪。アルコール中毒の可能性あり。そんな超常的存在が、悪い龍じゃないと? こう言ってはなんだが、DV野郎の言い訳にしか聞こえないんだけど。
『こいつはなぁ……扱いが難しいな。居なくてはならんが、居たら居たで問題を起こしてしまうだろう』
『ガゥ』
力だけは〝ロード〟や〝化身〟と同レベルだからな。
むしろ、休眠をしっかりととり完全に体調を万全にしていたら、〝ロード〟や〝化身〟よりも上なのでは? 単体での戦いであればだけど。
だからこそ、余計に放置するのは出来ないって話なんだけども。
「食べちゃうとか?」
『そ、そんな!?』
「素材にしちゃう?」
『ひ、人に優しい龍だよ?』
『天災の間違いだろう?』
『こ、殺したりはした事などない……』
『ガゥ!』
『み、未遂じゃないですか! 今回の事は。やだなぁ……』
ミスをして槍玉に挙げられる哀れな取引先の人みたいだな。
頭の汗をハンカチで拭きながら、ペコペコと謝罪をしているシーンが脳裏に浮かぶんだけど。
「とりあえず……龍は〝ロード〟達に任せた方が良いよね」
「手に負えないよね。食べるとか素材にするなんて言ってみたけど、そもそも人が食べたら死んじゃうだろうし、素材として扱うにしても……」
ヒュドラーは何とかなったけど、あれは俺達が〝模倣体〟のお陰でブーストされていた状態とは言え、自分達で倒せた相手だったからな。
ヒュドラーの格をいうなら、黒いワイバーンよりも少し下といったぐらいだと思う。
でだ……この龍はそんな存在よりもはるかに上。
そんな龍の素材を、人の手で扱えるのか? と言われたら、無理なんじゃないかなぁ? やるとしても、あの鱗をそのまま盾にしてしまうとか?
とにかく。扱いが難しい存在であるのは間違いがないというか、人の手には余る。
『……湖のダンジョンにでも連れて行くか』
「あぁ、あそこなら人の立ち入りが禁止されているから、丁度良い場所ではあるかも」
そんな訳で、龍とワイバーンはそれぞれの扱いが決定された。
ぶっちゃけ……どちらも飼い殺しみたいな判断なんだけどね。ただまぁ、ワイバーンはその雰囲気からリッチにしっかりと教育さえしてもらえば、かなり友好的になるのでは? と思わなくもない。
龍? それは知らん。
人の事を〝地を這うモノ〟とか虫のような扱いをして来ていたしな。今は凄く情けない姿を見せているけど、心の奥ではどう考えているのやら……。
ま! 〝ロード〟が連れて行く湖の奥地で、〝ロード〟の出す大量の目に囲まれながら過ごしてください。
しかしまぁ、今回の件だけど……〝ロード〟や〝化身〟が居なかったらどうなっていたのやら。
ただのワイバーンだけなら対処出来たけど、龍や黒いワイバーンはなぁ……ぶっちゃけどうしようもないレベルだし。
とりあえず! 今はこの二柱に感謝しつつ、何か良いお酒でも容易しておくとしようか。
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出オチすらないワイバーン君。カワイソス。
まぁ、戦力が揃っている状態だからしかたないよね。うん、むしろリッチのペットになれるのだから幸せな未来が待っているでしょう。




