八百四十八話
目の前には何とも口にしがたい光景が……。
「えっと、目があるロープで縛り上がられる龍?」
「さ、さっくっと言っちゃうのか……」
美咲さんが気にせず見たまんまを言ってしまったが……実際にその通りなんだよな。
巨大な龍が、〝ロード〟から延びるスライム状の綱によって、ぐるぐると縛り上げられている。それもいたるところに目玉のある綱だ。
龍の口もブレスなどが吐けない様にと、べっとりと目玉のあるスライムが纏わりついている。……一応、鼻の付近は空気穴が用意されているみたいだけど。
そして、そんなドラゴンの頭上には、〝化身〟が何時もの小型犬状態でチョコンとお座りをしている。
これはあれか? 勝利宣言とか、「おらおら、図が高いんじゃ!」みたいな感じで上から押さえつけているとか、そんな感じの行動なのだろうか。……見た目が見た目だから可愛いだけんだが?
『して、八つ当たりをした理由を述べよ』
グルルルルルと唸って何も言わない龍。
顔を動かそうとしたり、目でアピールはしている。口の拘束を解け! とでも言いたいのだろう。だが……。
『念話が出来るだろう? 拘束を解く必要性など全く無い。寝言は寝て言え……っと、そうだった。お主は寝起きだったか?』
寝起き……。
寝ていた所を起こされて八つ当たりしたんだもんな? と、口には出さない〝ロード〟だが、間違いなく龍に向かってそういった意味を含めた言葉を投げかけている。なんなら、目がめっちゃ挑発的だ。
ただ、それでもぐぬぬ……と、何も言わない龍に対して、〝ロード〟は目玉のロープを更に締め上げ始めた。
ギチギチギチギチと、龍の鱗が悲鳴を上げ始める。
どこかの鱗からピシリと言う音も聞こえる。そんな音が響くと、龍は『この程度で!?』と言わんばかりの驚愕を感じたのか、大きく目を開いていたりするんだけど……。
そもそも呪詛でも同じようなダメージを受けていたでしょうが。それの大元が直接縛り上げているのだから、これぐらいは当然だよな。と思うんだけど、龍には信じられないらしい。
一つ。また一つと鱗がピシリと音を上げていく。
更には……パリン! ととうとう絶叫を上げる鱗も発生してしまう。
縛り上げられている状態で、ばらばらに砕ける鱗。さて、そんな砕けた鱗は一体何処へと向かうでしょう?
「あ、龍が悶絶してる」
拘束されている体を無理やり動かそうとして、更にダメージが入っているんだけど、それでも龍はその体を動かそうとしてしまう。
それもそうだよな……自分の鱗が、砕けた事で鋭利な状態になり、自らの身に突き刺さってしまっているのだから。
とまぁ、何処へ行ったかの答えは、自分の体を刺してしまっているって事なんだよな。
〝ロード〟が作り出したロープが、龍の鱗を取り込もうとしない限りロープ側に鱗が刺さったりすることも無いからな……。となると、逃げ道は一ヶ所しかないもんなぁ。
「龍の目にも涙」
「それを言うなら鬼だし、そもそも意味が違うから」
鬼の目にも涙は、鬼にも情があって涙する事が有る的な意味だけど、この龍の場合は激痛によって涙しているだけだから……。
「そう言えば〝役目〟って何なんだろうね?」
「それに拘ってたもんな。八つ当たりの理由もそれか?」
美咲さんと二人で龍の言った〝役目〟とは何だろう? と話をすると、どうやらその会話が龍にも聞こえたのだろう。
龍はくわっ! と目を見開いて、〝役目〟というワードに食らいついてきた。
『そうだ! 我にはやらねばならぬ事が有る!! その為にこの拘束を解け!!』
『いや、ここまで暴れたのだ。拘束を解いたら何するか分からぬ。そうである以上は、そうそう解く事は無理というものだ』
『うぐっ……ならば、約束しようではないか。地を這うモノに手は出さぬと!!』
約束しよう。この言葉を人が言っているのであれば、絶対に「嘘だ!」と返していただろう。
でも言っているのが超常的存在なんだよなぁ。〝化身〟や〝ロード〟達もなんだけど、その発言する内容には何らかの誓約が掛かるのか、嘘をついたり騙そうとしたりする事が出来ない。
それは恐らくだけど、超常的存在達の魔力とかそう言ったモノが大きすぎて、言葉一つ一つに意味と言うか呪いみたいなのが掛かってしまうのだろうと思われる。
そんな存在が言う〝約束〟は、もはや自らを縛る〝契約〟とか〝命令〟だったりする。……自分で自分に命令してしまうとかどうなんだ? って話だけど。
そしてそんな〝約束〟は絶対に破る事が出来ない。特撮とかで〝ヒーローが変身中には攻撃をしてはいけない〟のと同じぐらい、OYAKUSOKUとして拘束力を持っている。
……この龍はドMなのかな? そんな縛りプレイを自ら宣言するなんて。
ふとそんな事を思ったけど。よくよく考えたら、この〝ロード〟に縛り上げられて音を上げたのだから、ドMでは無いよな。
『ならばその〝役目〟とやらが何かを言え』
『むぐぅ……ソレはだな。むむむむむ……』
難しい顔をする龍。
あまり話したくないのか、はたまた実はただの口実だったのか? いや、ただの口実にしてはその〝役目〟を心の支えにしていたりしたしな。
そもそも、先ほど言ったように超常的存在達は嘘が付けない。口実とは言え無いモノをあると言えばそれは嘘になる。と言う事は、無いモノである以上は〝役目〟なんてワードは口に出来ないはずだ。
そう考えると……やっぱりあまり内容を語りたくないという事なのだろうか。
『お前は敗者だ。敗者がだんまりを決め込めるわけが無いだろう? さぁ言え。言わぬと拘束は解かぬぞ』
『あぁ……仕方がない……』
〝ロード〟の言葉に、元々折れていた心は完全に砕け散ってしまったのだろう。
龍は完全に諦めた表情をしながら、役目についてぽつりぽつりと語り始めた。
龍の役目。
それは、堕ちてしまった龍を狩る事にあるらしい。
いやいや、お前が堕ちかけてるじゃん。とかそう言う話は一旦置いておいて。
この〝堕ちる〟と言うのは、超常的存在からただのモンスターにとか、ワイバーンなどの竜種が何らかの拍子で変質し、その力をもって暴れ出すなどと言った意味が含まれる。
そして、この龍が眠りについていたのも……とんでもない力を持った龍が堕ちた事で、激戦を繰り広げた結果らしい。
そんな龍の話を聞いて……俺は「ん?」と引っ掛かるものを感じた。
「もしかして、あのビルが溶けた跡とか、ドラゴンの骨や魔石って……」
「激戦の結果って事? もしかして、あのドラゴンの死骸ってその堕ちた龍ってやつ?」
『ん? おぉ……そう言えば、死骸は放置してしまったような……はっ!? そう言えば、魔石はどうなったんだ!? あれは落ちた龍の欠片だからな。下手に扱うと大変な事になるぞ!!』
えっと……ウォルが取り込んでとんでもパワーを手に入れた後、魔王との決戦で猛威を振るって、最後にはウォルと分離して神様になりましたが? えっと、今はアナタの上で優雅にポーズをとっておられますよ?
『はっ!? そうか。だからこやつから知っている気配を感じたのか……それに、その精霊からも』
ふむ。分離したとはいえ、完全に離れたという訳では無いという事なのだろうか。
ウォルには微かにだが、龍の力が残っていると……それもそうか。よく考えたら〝風〟の精霊だったのに、今は〝全属性〟の精霊だからなぁ。
『しかし……そのな地を這うモノよ。お前はよくそんな存在を受け入れる事が出来ているな? 分離前であれば、間違いなくお前にも変化があって可笑しくないはずだと思うが……』
んー……きっとそれは、あの龍頭のお陰だろうなぁ。本当に、あの〝模倣体〟の人達には感謝しかない。
それにしても、謎だったビルやドラゴンの死骸について、思わぬ事実が発覚するとは……って、少し待て。まだ俺達は、この龍が〝役目〟について聞いただけで、八つ当たりの理由を聞いていないんだけど?
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