八百四十六話
龍の尾を片腕で防いだ〝ロード〟は、そのままその尾をもう片方の腕で殴り飛ばした。
『ぐぉ!? なんだ貴様らは!!』
龍は突然現れた〝ロード〟達に……いや、尾の一撃を防いだ上にカウンターを打ち込んで来た事に驚愕しながら、相手が何者かと叫んだ。
いやいや、彼等は龍と同じ超常的存在なんだけど? と思いはしたが、それを口にする事はしない。折角、龍の興味が〝ロード〟達へと移っているのに、ここで声を出して自分に注意を引き付けてどうするんだ。
そしてまた。〝ロード〟達も俺達には口を開くなよ! と、その背から圧を飛ばしてきている。
『いや……その気配から理解出来るぞ? 貴様らもこちら側のモノだろう! 何故邪魔をする!!』
龍の爪が〝ロード〟達に向かって振り下ろされる。
だが、〝ロード〟はその振り下ろされた爪に対して、アッパーを繰り出し打ち合う。
ガァァァァン! と、金属と金属を思いっきり打ち付けたような音が響くと同時に、とんでもない衝撃波が俺達を襲った。
「美咲さん背後よろ!」
「了解!」
背中には未だにスタンしているイオ達。
この状態で衝撃波を受けてしまえば、イオ達はどこぞかへと飛ばされてしまうだろう。なので俺はイオの前に出てマナシールドを全力で展開。
そして念の為に、美咲さんに背中を押して貰っておく。幾ら精霊憑依の状態でも踏ん張れるか疑問だからな。
ギギギギギとマナシールドに衝撃波がぶつかり軋むような音が響く。
ガリガリと魔力が削れていき、これは更に魔力をシールドに送り込まねばいけないと判断。……うん、美咲さんに背を支えて貰っておいてよかった。これ、シールドに集中する必要があるから他が疎かになるからな。
戦闘はどうなっているのか? それは、現状何度も何度も〝ロード〟と龍が殴り合っている状態だ。だからこそ、衝撃波が何度も飛んできて結構大変な状態になっている訳なんだけど。
『ふん。何故邪魔をするかだと? そんなもの、君が人に八つ当たりをしているからだろう? 彼等は私達のお気に入りでね。そんなお気に入りをただの八つ当たりで殺されるのは気に食わないのだよ』
『な!? 八つ当たりなどしておらん! ただ試しただけだ! そして、その試しに合格しなかっただけだろうが!』
『やれやれ……子供の癇癪かな? 君は、寝ていた所に、大きな戦闘音や魔力の乱れを感じて起こされたのだろう。寝起きで不機嫌なのはわかるが、それを他者にあたるとはな……』
『違う! 役目を全うする為にだな!!』
うわぁ……あの焦り具合からして、〝ロード〟の言っている事は事実なんだろうなぁ。〝化身〟もまた、うんうんと首を縦に振って〝ロード〟の言葉に頷いているし。
そっかぁ、そうなんだ。俺達って八つ当たりで殺されかけていたのか。
これだから〝神〟ってやつは!
〝化身〟や〝ロード〟や〝模倣体〟は除くとして、神話の内容からして遊び半分で人を滅ぼし過ぎだろう! 本当に、付き合い方を間違えたらヤバイってのは分かっていたけど、流石にこの地雷を避けろってのは無理過ぎじゃないか?
危険だと思うワイバーンを排除しようとしたら、龍が寝ていて、その逆鱗に触れましたとか……ありえんだろう。
『役目だのなんだのと……役目があろうが関係など無い。八つ当たりでお気に入りを殺そうとされたのが気に食わぬと言っている』
凄くありがたいのだけど、〝ロード〟の話はよく考えてみるとだ……これまた〝神〟的な要素満載だよな。
だってこれ、自分達のモノに手を出したから戦争だ! って言っているようなものだし。……てか、〝化身〟もかなり穏やかな気質だと思っていたけど、この場にこうして来ているって事は、決して穏やかと言う訳ではないんだな。……あれは、身内相手にみせるような態度だったという事なんだろう。
『ふん! 離れようとしても関係ない! ロケッ……違った。ワイヤードパンチ!』
〝ロード〟の腕が、肘の辺りから分離して龍へ向かって飛んで行った。ただし、ロードの肘からは飛んで行く腕に向かって、大量の〝目〟がある黒い線で繋がっている。
な、なんて攻撃だ。これは相手のSAN値まで削るような技じゃないか。
当然だけど、龍のSAN値は削る事など無いのだが、それでも驚かないという事は無い。
『な、なんだそれは!? 腕が飛ぶだと! しかも、目が大量にあるなど聞いた事が無いぞ! お前は一体何者なんだ!!』
〝ショゴス・ロード〟です。
てか、〝ロード〟さん。さり気なくロケットと言おうとしてたよね。もしかして、その手のモノを見ているのだろうか。っと、それは後で少し話を聞くとして。
龍は〝ロード〟の事を知らないという事なのだろうか。……まぁ、全知と言う訳では無いだろうから、知らない事が有っても不思議ではないか。そもそも、全知であったらこの戦い自体避けただろうし。
『お、おのれ……邪魔を……邪魔をするなぁぁぁぁぁ!!』
龍が叫ぶと、その口から極太ビームのブレスを放ってきた。
このままだと俺達もそのビームに飲み込まれてしまうコースなんだけど……なんだろうな。前に居るのがこの二柱だと思うと、不思議と安心感すら覚える。
今まで攻撃を〝ロード〟のみに任せ、ただの馬でいた〝化身〟だが、このビーム砲に対しては違う動きをみせた。
『アォォォォォォォン!!』
〝化身〟が咆哮をあげると、化身の口からも同じようなビーム砲状のブレスが放たれ、龍のビーム砲ちぶつかり合った。
ブレスにより空気が震える。それがぶつかり合うのだから、更にその振動数は増え……周囲の石やら木やらが粉砕されて行く。いや、粉砕と言うよりも粉になっている。
そして俺の張っているマナシールドも、先ほどまでよりも更に勢いよく魔力が削られて行く。
「はい魔力ポーションとグミ!」
「あひあふぉ」
美咲さんからポーションとグミを口に放り込んでもらい、少しでも魔力を回復させながらシールドを張る。……正直逃げたいんだけど、ゲートを開くタイミングが無さすぎる。それに、イオ達もまだ復活して来ていないしな。
これ、〝化身〟や〝ロード〟が前方に居なかったらと思うとゾッとするな。
二柱が前にいるからこそ衝撃は軽減されている。もしこれが、全く違う場所に俺達が居たら……恐らくシールドは持たなかっただろう。そしてその場合は、俺達はどこか遠くへと飛ばされていたか、周囲の石や木の様に粉微塵と化していただろうな。
「てか、多分だけど。これまだ全力じゃないよな?」
「少なくとも〝化身〟さんと〝ロード〟さんは、私達が背後に居るから配慮してくれていると思う」
まるで漫画の撃ち合い見たいな状況。
ブレス同士が押され押し返すと言うのを繰り返している。なので、威力は拮抗していると言っても良い。
そしてそんなブレスを放っている〝化身〟の背で、〝ロード〟が何か行おうとしていた。……なんだろう? 何やらブツブツと呟いているような。
周囲からテケリ・リという音が響き始めた。
四方八方と全ての空間からだ。もし、声の発生場所を考えたら……気が狂ってしまうだろう。と本能的に察知し、考えるのを止める。
すると、次に起きたのは目だ。
龍を、〝化身〟や〝ロード〟を、そして俺達の周囲を埋め尽くす様に、大量の〝目〟が現れた。
「これ、〝ロード〟がやったと分かって無かったら発狂してたな」
「あはは……分かってても少しくるモノがあるけどね」
それもそうか……大量の目に全方向から見られている訳だし。
ただ、その目が俺達に対しては一切の敵対心が無く、寧ろヒーリング? 的な光を発しているのだから、まったくもって良く分からないモノである。
あれかな? 恐怖心を与えた分をヒーリングの光で回復させているという事なのかも。マッチポンプかな?
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という事で! 試練と思わせてただの八つ当たりという……なんとも迷惑な龍でした。
あ、でも一応役目はあるんですよ? 本人が言う様に。ただ、それとはまったく関係が無かったというだけで……。




