八百四十五話
一撃を撃ち込む。だがどんな一撃を?
一番威力の高い攻撃を遠慮なく打ち込めばいいのだろうけど。はて? 一番威力の高い攻撃ってどれなんだという疑問が。
元々使える魔法。ウォルが撃ちこむ精霊魔法。
それ以外にも、ウォルが吸収した武器を魔力で疑似的に生成するなんてモノもある。というか、魔力で作れるだけあって自由度がかなり高い。何せ弾丸を鉄串に出来たりするからな。
そう考えると……最強の一撃と言えば、アンチモンスターライフルと鉄串を組み合わせ、巨大化させたパイルバンカーな一発だろうか。もしくは、同じように巨大化させたマナブレードに精霊魔法を付与させた一撃。
ただ、これってどちらもだけど。最大威力で撃ち込もうと思ったらある程度接近しないといけないんだよな。
……あの巨体に近づく? 一撃を撃ち込むのは相手が挑発しているから良いけど。その後どうするよ? 普通に考えたら、接近のし過ぎはあの巨体から繰り出されるカウンターを確実に喰らってしまう。
そんな一撃を喰らったら、どう考えても致命傷に近いモノがあるよなぁ。何せあれだけの巨体だ。極太ビームや雷玉が無かったとしても、動作の一つ一つが既に一撃必殺と言っても良い。
となると……威力は落ちるけど、ある程度の安全は確保できる距離から最大威力を撃ち込むのがベターか。
むむむ。しかしそんな攻撃なんてあるか? いやまぁ、〝精霊憑依〟での一撃はどれも高火力ではあるのだけど。
ん? そう言えば。マナブレードには精霊魔法を付与する事が出来たよな。確かに元々あったマナブレードの機能だった訳だけど……。
「魔力で生成しているんだから、他の武器で出来ても問題ないよな」
なんなら、マナブレードの〝機能〟だけを他の武器を生成した時、同時に作り上げてしまえば? マナブレードの能力を持った銃とかが作れるのではないだろうか。
……よし。物は試しだ! という事で。早速アンチモンスターライフルを魔力で作り上げる。そしてマナブレードの機能も付け加えようとしてみるのだが、これは消費魔力がきつすぎる。
いやいや。ちょっとした思いつきだっただけなんだけど……これ、実践で使うにはちょっとばかりコストが重すぎる。何せ武器を生成するのに倍以上の魔力が必要になるとか。
ただ、既に作り上げているのだから今から消すという訳にもいかない。とりあえず一発これを使ってぶち込んでみよう。
弾丸をセット。
セットするのはウォルによる精霊魔法で、銃身内でマナブレードの機能によって圧縮されている。
そしてセットしている精霊魔法というのが、ウォルによる最大の一撃と言っても良い〝咆哮〟だ。……まぁ、龍の咆哮に比べたら子供の遊びみたいなレベルではあるんだけど。
ただ、そんな遊びな咆哮でも、この銃の中で圧縮したらどうなるだろうか?
ウォルの咆哮は確かに前方へと撃ち出されるモノではあった。だけど、結構な範囲攻撃でもある。
そして範囲攻撃と言う事はだ。それは威力が分散しているって事にもなる訳で……もしそれを一点に集中する事が出来れば? ということで、後はお試し!
銃身を龍に向け、照準を龍の眉間へとセット。
龍は避ける気などさらさらない様子。なのでこの一撃が外れる事は無いだろう。
……だから、脳みそでも揺さぶってスタンでもしておけ! と、願いを籠めてトリガーを引く。
トリガーを引いたと同時に発射されたのは、鉄串では無く小さな弾丸っぽいモノ。ただ、それは超が付くほど圧縮されたウォルの咆哮だ。
なので、発射と同時に響いた音はドォン! という爆発音では無く、「ワォォォン!」と言うウォルの吠えた声だったりする。
音速を超えて到達する弾丸。ここら辺はアンチモンスターライフルと同じ速さで相手に到達するらしい。……まぁ、龍がよけようと思ったら避けらえれるのだろうけど、奴は迎え撃つ……と言うか、防御も無しに受けるつもりらしい。
なので弾丸は、照準を付けた場所と一ミリもズレる事無く命中。
命中した弾丸は、龍の体内へと侵入するような事は無かったが、その場で圧縮された魔力が一気に解放されたようで。
龍の眉間を中心にウォルの咆哮が大爆発した。
「たーまやー……って、すっごい爆音だな」
「ウォルちゃんの声なんだけどね……」
ウォルの咆哮で出来た弾丸だけど。球体を作るような爆発をした後、一定の広さまで広がった後はその場にダメージを与えるようなフィールドを形成している様に見える。
可視化された魔力が渦巻きながらドーム状のフィールドを作っているからな。しかも、外へは音が漏れている程度なんだろうけど、それでも俺達の元まで鳴き声が聞こえているとなると……あのドームの中って物凄い五月蠅い咆哮が響き渡っているのでは?
「これ、弱いモンスターだったら簡単に蒸発しそうだな」
「弱くなくても辛いと思うよ?」
爆発によってダメージを受け。その後、ドーム状の物に閉じ込められたと思ったら、魔力による衝撃やら熱量やらでダメージを受けつつ、鼓膜が破壊されるような咆哮が響き渡っている。……想像したくもないな。そんな空間の中に居るのは。
ただなぁ。結構大きなドームが出来ていると思うんだけど。龍が巨体過ぎている為か、なんだろう……龍がドーム状のヘルメットを付けている様にしか見えない。
そして、そんな龍だけど……ダメージを受けているようには見えないんだよな。
「微動だにしないってのはどうなのさ」
これでも必死に考えて撃ち出した一撃なんだけど? 恐らく威力的にはパイルバンカーやマナブレードと大差ないレベルのハズ。
だから、これが全く通用しないとなると、龍に通じる攻撃は皆無って事になる。……多少でも良いからダメージよ入っていてくれ。
なんてのは……やっぱり神の領域に居る存在には関係ないのだろうか。
『ふむ……この程度か。やはり邪魔でしかないな』
なんて声が聞こえて来た。
ドーム状のフィールドが消えた後、龍の顔が現れたのだけど。その表情と言えば、なんだろうな……ちょっと羽虫に接触されてウザい! と思った時と似たような感じだろうか。
蚊とかによる一刺しにすら及んでないって事だよな。だって触れて這われた程度の感想と言った感じだもの。
『何やら懐かしい気配がすると思ったが……ふむ。気のせいだったか』
そう龍は呟きながら、もう興味など無いと言った様子で体を捻った。
ただし、その捻りは……あぁだめだ。これ、確実に命中するコースだと理解出来る一撃を繰り出す動作。
何せそう感じた時には、既に傍まで龍の尻尾が接近していたのだから。
とりあえず。死なないレベルに抑える為にもと、ウォルと協力して魔力によるシールドを全開で張る。勿論、美咲さんやイオ達を庇う形で。
ただ、直ぐに来ると思われていた衝撃は……どういう訳か全然来ない。ん? これは走馬灯か? なんて馬鹿な事を考えが一瞬だけ頭をよぎったが、こうして普通に思考が出来ているのだからそんなハズが無い。そもそも、思い出のシーンが流れるなんて事もない。
なんでだ? と思って、龍の尾が迫ってくる方を確認してみると……。
どうやら予想外と言うのは何度も続くらしい。てか、一体何をやっているんだ? という疑問が……。
俺の視線の先には……鱗を持つ巨大な狼と、その狼に騎乗する鎧の姿が。そして、そんな鎧が龍の尻尾を片手で押さえつけている。
うん……なんで〝ロード〟と〝化身〟がこの場にいて、しかも騎乗状態なんですかね? 色々と突っ込みどころが多すぎると思うんだけど!
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