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八百四十四話

 吠え合っているウォルと龍。

 ただ、何を言い合っているのか分からない。なのでちらりと双葉の事を見て見るが双葉も分からないらしく、俺の視線に対して静かに首を横に振っていた。


 殴り合って衝撃波をまき散らしたりなんて事にはなって無いが、一体なにを会話しているのか分からない。なので不安に感じながらも、ウォルに全てを任せて祈るしかない。

 しかし、吠える声が大きいと言うのが不安を加速させているんだよな。どう聞いても穏やかに会話をしていますって感じじゃない。



 そんな事を考えながら二体の事を見ていたら、どうやら龍はウォルとのやり取りで人の言葉と言うモノを理解したらしい。うん、ちょっと意味が分からない。


――グルァァァァァ!


 龍が吠えた。ただ、その咆哮と同時に龍は言いたい意味を魔力と一緒に咆哮に乗せたらしく、一種のテレパシーの様なもので『ここには何をしに来た』と伝えて来た。


 これは……交渉が可能と言った感じか? と、少し期待を胸にして龍に自分達が来た理由を伝える。


「俺達の拠点がワイバーンから襲撃を受けたので、逆にワイバーンの巣を探して襲撃をしに」

『ほう……地を這うモノが空を飛ぶモノに対して逆撃を仕掛けたか』


 ……何やら虫的な扱いを受けている気がするが、ここでそれを口にするのは不味いだろうな。とりあえず、そんな不満は腹の底へと飲み込んでおこう。それに、相手は神様的な領域に居る存在だしな。そんな相手からしてみれば、人もモンスターも虫も大差ないって事だろうし。


『ならば手を引け』


 いきなり理由も無く手を引けと言われた。

 いやいや、一応仕事なんですけど? と言いたいのだけど、相手からしてみれば〝仕事〟とか言われても知らんがなって話だよな。とは言え理由は気になる。


「理由を聞いても?」

『邪魔だからだ』


 理由は邪魔だから。うん、とっても単純かつ明快と言える回答。

 ……それで理解出来る訳が無いだろう。その邪魔と言う言葉の前にある内容を知りたいんだよ。


「えっと、邪魔というのは?」

『存在がだが? なんならこの場で消し炭に……「グルルルルルル」ちっ。面倒な奴だ。おいそこの。そいつは精霊なのか? 龍なのか? 一体何なんだ。何か少し知っている気配も感じるのだが……』

「精霊ですけど」


 とは答えたのだが……はて、ウォルは一体どの様な存在になっているのだろうか。

 以前にドラゴンの魔石を飲み込んだ事で、片足を神の領域に突っ込んだ状態だったりしたし、今はそんな魔石などと分かれてただの精霊に戻っている……ハズなんだけど。よく考えたら謎だよな。


 後、やっぱりウォルとこの龍は知り合いなのだろうか? それにしては龍の言っている事が違和感を感じるけど。知っている気配とは一体何なのやラ。


『まぁ良い。邪魔をすると言うのなら容赦はせん』

「邪魔をするつもりはありません。ただ、ワイバーンに用事があるだけで」

『それが邪魔だと言っておる。ふむそうだな……精霊もおるようだし、少し試してやるか』


 えぇぇ……試す何をだ。なんて口にする余裕など無い。

 龍は軽く胴体を捻りながら、尻尾で薙ぎ払うかのような動きを見せて来た。


「ガゥ!!」


 ウォルが吠えた。ただ、その鳴き声は相手を牽制する為のモノとかでは無く、俺達に対して「急げ!」と言っているように感じた。

 なので、俺はその声に押されるような感じで行動をする。


「〝精霊憑依〟」

「ミャォン!?」

「イオちゃんバックステップなの!! プルは……とりあえず私とイオちゃんに纏わりつくの!」

「ラーナ回避!」


 巨大化しているウォルと精霊憑依。実に久々すぎて思わず「うっ」と言ってしまいそうなほどのブーストと負担が。

 ただ、そのお陰で尻尾の薙ぎ払いは回避する事に成功。


 周囲を見ると、どうやら全員が無事に尻尾を避ける事が出来た様だ。しかし、その風圧までは回避できなかったようで……。


「みゃぅぅ……」

「お、お星さまがとんでるのぉ……」

「ぷるぅ!?」


 バックステップで回避したと同時に、尻尾から繰り出された風圧がイオ達を吹き飛ばしたらしい。

 そして、イオは空中で姿勢を制御する前に、背後の木へと叩きつけられてしまったようだ。なので今は、くらくらと頭を動かしながら伏せている。

 双葉もまた、その衝撃をダイレクトに受けてしまったらしい。同じように頭を抱えている。ただ、プルだけは無事だったみたいだ。イオと双葉の事を介護しようと動いているのが良く分かる。分かるけど……自分の体でイオ達の頭を冷やそうとしているけど、それって効果があるのだろうか。


「凄い風圧だったね……これ、アラクネモードじゃなかったら踏ん張れなかったよ」

「八本足で助かったって感じかぁ。Vモードだと飛ばされてたって事?」

「かなぁ……今は地面へと足を突き刺してる状態なんだよね」


 どうやら美咲さんは無事だったようだけど、それでも耐えるだけで精いっぱいだった様子。

 ……この状態って限りなく絶望的なんだけど、龍は一体なにを試しているのだろうか。


「とは言え、やられっぱなしってのもなぁ。とりあえず一発ぶちかましていくか」

『ワフ!』


 ウォルもやる気を出している。

 しかしなんでこんなにもやる気なんだろうか。気になったのでウォルに聞いてみるが、ウォルにも良く分からないらしい。

 ただただ、あの龍を殴りたいという感情が何処からか湧いてくるらしい。……一体なんだそりゃ。


 とは言え、どうやら憑依した事でそんなウォルの感情に俺も流されてしまっているみたいだ。

 何というか、いつもならこの状態からどうやって逃げるか? って考えるハズなんだけど、今はどうやって一撃を入れるかという思考で脳内が汚染されている。そして、あ、違う違う! と修正しようとするんだけど、やっぱり一撃入れる方法を模索する方向へと、思考がスライドしていってしまう。


 ウォル……お前はそんなにあの龍が殴りたいのか。


「とりあえずだけど、一撃を撃ち込みたいというなら弾幕を張るのがセオリーか?」

「それだと軽いんじゃない?」

「ウォルがワンパン入れたいだけみたいだから。とりあえずソレを満足させたら違う発想も出るかなって」


 とにかく今はウォルを満足させる事に限る。

 その先の事は……分からん。分からんが、龍も試すと言っているだけだから、上手く立ち回れば最悪な結果は避けられる……ハズ。というか、ある程度の力をみせないと、それこそ逆に切れるんじゃないかな。


 てか、本当こういった超常的存在は面倒臭いのが多いよな。なんだよ試すとか。折角会話が出来たのだから、会話で解決しようと思わないのだろうか。……思わないんだろうなぁ。

 そういえば、リッチとかも基本的には戦って見極めようとしていたし。


 そう考えると、正気度はガリガリと削って来た〝ロード〟はまともな部類だったのでは? 彼とは戦闘にならなかったしな。……まぁ、発狂するという状況に陥ってしまうから、面倒な存在であるのは間違いなかったんだけど。

 そうそう〝ニーズヘッグ〟もまともな部類か。あれとも会話だけで済んだし。……ただ、その存在感が存在感だから、その姿を見たら気絶したりする人が居るだろうな。とはいえ、世界樹の根から動く事は無いだろうから、見る人自体が少ないだろうけど。

 因みに〝化身〟は、元々がウォルと分かれた存在だから別と言う事で。



 あぁ、龍がこっちを見てる。そしてその目は「遠慮せずに打って来いよ」と挑発するかのような目だ。

 ……あれか? この龍は脳筋なのだろうか。なんだか絶対そうなんじゃないかって思えてくるんだけど。


 とりあえず……龍も望んでいる訳だし、一発大きいのを撃ち込んでみるか。

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