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八百四十二話

 ビリビリと大気が震える。どうやら大気中にある魔力が高速で振動しているらしい。

 大気中に漂う魔力が震える存在。それだけでかなりやばいだろう……と思うのだけど、どうやらそれはただの予兆の一つだったらしい。


 雲が恐ろしい速さで動く。しかもただ動くのではなく、島を中心になる様に集まってきている。


 集まった雲が太陽を隠し、更に雨が土砂降りになった。しかも、上空ではゴロゴロと雷も鳴っている。


「天候を一気に変えるとか……神話かよ」

「おかしいなぁ。神様的存在は何度か見たけど、やばいって思うのは初めてだよね」


 上を見れば、ぐるぐると雲が渦巻いている。いやまぁ、その時点で色々とオカシイんだけど。あれか? 停止している小さな台風かと言いたくなる。

 だがそんな訳も無く……ってか、雨が痛い!! 先ほどから、べしべしと打撃を与えて来る……って。


「これ雹じゃん」

「雨に紛れ込んでるみたいだね。とりあえず皆で固まってシールドでも張っておこうよ」


 普通の天候ではないからな。雷とかも普通のモノと同じように落ちるとは限らない。下手をしたらピンポイントで何かを狙ったり、ゲームとかみたいに柱状になって一直線で墜ちてくる可能性だってある。

 高い所に落ちるのが常識? 何それ美味しいのってやつだな。まぁ、電撃魔法を使える身からすれば、そんな常識なんて簡単に覆す事が出来るのは、そもそも知っている話なんだけどね……その規模が絶対に違うだろうと思うんだよね。



 しかし、その予想は当たっていた。当たってはいたのだが、予想以上のモノだった。



 お空からゆっくりと大きく輝く球体が降りて来たと思うと、それはワイバーンへと近づいていく。

 ワイバーン達はと言うと、逃げ回ったモノもいれば、固まって動けないでいるモノもいる。そして、球体はそんな動かないワイバーンへと接触し……一気に大爆発。


 目がやられるレベルの発光が空を埋め尽くした。

 目が潰れてしまうのではと思いつつ、しっかりと手で防ぎながら……それでも負ったダメージ分を回復魔法で癒しておく。勿論だけど、イオ達は自分で回復魔法なんて使えないから、俺や美咲さんが癒している。いる場所は見えなかったけど、すり寄って来たから直ぐに分かったんだよね。


「何あの発光……」

「大きな雷の玉が弾けたって感じか? 全く……容赦ないよなぁ」


 隣では「みゃぅみゃぅ」とイオが鳴いている。双葉もまた「めがーめがー」と……仕込まれたネタをやるチャンスだと思っているのだろうか? プルは……なんか平気そうだ。元気にプルプルと震えている。


「風の様子は?」

「大丈夫みたい。この子、私の髪の毛に埋もれてたみたいだから……」

「……髪の毛で遮断出来るのか?」

「んっと、それだけじゃむりじゃないかな。あれだよ、髪の毛の中で瞼を閉じていたとかそんなんじゃない?」


 無事なら良いか。


 とりあえず、視界がさっさと回復してくれないと困るんだけど。

 一体状況はどうなっているんだろうか? 視覚以外にも周囲を探索する術があるからある程度の動きは理解出来るけど、球体に直撃したワイバーンがどうなったかとかは分からないからな。



 あ、でも一つとんでもない事に気が付いてしまった。



「美咲さんや……聞きたいんだけど、島側の気配ってどうなったか分かる?」

「え? あ、うーんっと、ダメ分かんない」

「イオ達は?」

「みゃぁ……」

「ピュィィ」

「プルプル」

「皆分からないって言っているの」


 やっぱりか。


 これだけの事が出来る相手だ。その気配も強大なモノがあるだろうなんて思っていたんだけど、現在その気配は完全に見失っている。

 おかしいな? 此処までやっておいて、何処かへ消えましたなんて事は無いだろう。という事は、気配を隠している? いやいや、これほどの存在がわざわざ隠すなんて必要なんてない。ではなんでだ。


 そう考えていると、少しずつ視界が回復して……俺達はちょっと絶望した。てか、これ、下手をしたらちびってたんじゃね?




 空高く渦巻く雲の中心。そこには、とても大きいドラゴンが。


 ただ、ドラゴンとはいっても東洋系の龍。頭に二本の角。大きな爪。にょろりとした長い胴体。びっしりと生えた鱗。まさに龍神様と言っても良い姿をしている。……流石に玉は持っていないようだけど。


 そんな龍が、空から、地上を嘗め回すように見ている。



 とりあえず声は出せない。あんなのに睨まれたら、それこそ蛇に睨まれた蛙状態になるのは当然だ。……ってか、魔王と対峙した時よりも絶望感が半端ない。

 リッチと同等か? いや、それ以上だろうか。とにかく脳内で、アレには絶対に手を出すな! と警報がガンガン鳴っている。


『わふ』


 どうやら心配になったウォルが頭の上にやって来た。

 呼んでいなかったんだけどな。それほど不味い相手と言う事なのだろう。


 ……とりあえず、何時でも逃げ出せる準備をしておかないと。


 あ、でも水野さん達は大丈夫だろうか。俺達は自前のゲートで逃げる事が出来るけど、彼等はそんな訳にはいかないはずだよな。

 拠点のゲートを使おうにも、人数的に結構な時間が必要になるはず。とりあえず通信でも入れてみるか。


『あーあー、水野さん大丈夫ですか?』

『ははは……大丈夫! と言いたいところだけど、全然大丈夫じゃないよねぇ……これ』

『ゲートを使うのは厳しそうです?』

『拠点に居た奴等にはゲートへ向かう様に言っているけど……どれだけの人が動けるのやら。後、俺っち達はペガサスに騎乗していたから、拠点外に居る状態なのさ』


 因みに。この通信はAIを利用して喋らずに会話をしている。なので、声自体は全くお互いの声とは違うんだけど……まぁ、どういう訳か喋り方自体はAIが真似をしてくれるみたい?


 それにしても水野さんはペガサスに騎乗してたのか。そして、そのペガサスに騎乗していたメンバーは拠点外へと降りてしまっているらしい。

 これ、動いたらバレるよね? バレたら龍から攻撃が来たりするのだろうか。どう考えても下手に動けない状況だ。


『とりあえず。拠点組にはさっさと離脱して貰うのが良いんだが……俺っち達はどうしようか?』

『完全に視界内ですからね。じっと耐えるのがベストかと』


 まぁ何をしていても、龍が本気の一撃を放ったらそれだけで蒸発してしまいそうだけど。


 通話をしながら色々と考えていたら、龍がのっそりとしたモーションで動き始めた。

 そして、先ずはと言う訳なのか分からないが、逃げまどっていたり固まっていたりするワイバーンへと攻撃を開始。


 その動きをみて「はっ」と気が付いた。

 あの球体を喰らったワイバーンはどうなっただろうか? と。なので、発光の中心地となった場所を確認してみると……。



 あぁ……どうやら周囲にいたワイバーンごと一掃されてしまったようだ。


 発光の中心点。そこから降りた場所にあたる地上では、焦げたり溶けたりしているワイバーン達がゴロゴロと転がっている。

 あの島から撃ち出されたビーム砲には劣るみたいだけど、それでもとんでもない威力の攻撃だ。


 ただ、今はビーム砲も球体も使わないのか、はたまた使えないのか。龍はワイバーン相手にドッグファイトを仕掛けていたりする。

 ワイバーンを、爪や牙や尻尾を使い格闘戦を仕掛けていて、ワイバーン達は美味しくむしゃむしゃと食べられたり、爪で切り裂かれたりして地上へと落下していく。


『あ、今なら逃げるチャンスでは?』

『行けるかね? まぁ、少しずつバレない様に移動するしか無いが……これはちょっと賭けすぎるさ』


 そう言いつつ、すり足で拠点の方へと移動していく予定らしい。……一体どれだけ時間が掛かるのやら。


 俺や美咲さんはどうするかだけど、自前のゲートが作れるからな。ここはあの龍の動きをしっかりと見ながら、水野さんへと情報をリークするのが一番良いだろう。

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新しい話をアップしていきますよヾ(*´∀`*)ノ:孤島で錬金術師~修学旅行中に孤島に飛ばされたから、錬金術師になって生活環境を整えていく~
― 新着の感想 ―
[一言] ビーム法はビーム砲の誤字かと思ったけど、魔法だからわざとですかね?
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