八百四十一話
ワイバーン達の行動が変わった。
今までは固まっているとはいえ、行動する時は単体行動か少数による行動だったのだけど、集団行動を行うようになっている。
これは、今まで人は敵だと思っていなかったのでは? と思えて来てしまう。だってそうだろう? 今までは一匹や二匹で対処できると考え、その数で攻撃を仕掛けて来ていたのだから。
しかしそうなると……なんでこのワイバーン達は上空で固まっているんだ? という話になる。それも複数のすいm……群れを編成して。
「……もしかして他に何かの脅威があるとか?」
「そのわりには動かないよ」
「人もやるだろ。固まって防御するというか、集団で纏まった方が安心するというか」
弱い動物の防衛本能。みんなでいれば怖くない。まぁ、どんな言い方をしても良いけど、自分達よりも強い物が現れた時どんな行動を取るかといえば、目の前のワイバーンがやっているような行動。
皆で固まって、何があってもいい様にじっと待機をしておく。何かあったら直ぐ動ける様に……と言う訳なんだけど、今は其処へ人間たちによる襲撃も始まってしまったと。
「まぁ、ワイバーン達がこういった行動をみせなかったら人も動かなかったんだけど……ってのは置いておくとして。あの群れ状態で動かないってなると、何かに対して構えているのかもなぁ。で、今までは人の事を敵と思ってなかったから、あしらう様なつもりで行動してたのかもな」
「ただ、余りにも被害が出始めたから敵として認識したと?」
そう言う事だろうな。
何せワイバーン達の攻撃が本気過ぎる。上空から十数匹によるブレス玉が、地上に設置した銃座に向かって集中砲火。その後、ワイバーンが突撃とかもしていて……無人の砲台は少しずつ破壊されている。
当然俺達も、このワイバーンの動きに合わせて対処する訳なんだけど……いやはや、下手に対処しようものならターゲットが完全に移ってしまうんだよな。
数匹のワイバーンを同時に相手取るのは出来なくはないけど、流石に十数匹ともなるとキツイものが有る。なので、無人砲台君には悪いが、囮として利用させて貰うのが一番楽だったりする。
「これがなぁ……颯や天が居たらまた別なんだけど」
「今は居ないからね。だからこうして、地上から射撃を続けるしかないよ」
颯さえいれば上空に飛び出してイオと連携しつつ戦えるから、それこそ数十匹ぐらいと同時に戦闘になっても問題ないんだけどな。
やっぱりアンチモンスターライフルが決め手となると、次弾を撃つまでのタイムロスがあるからテンポよく狩るのが厳しい。
そうなると、美咲さんの弾幕に頼る事になるんだけど。
「弾幕を厚くしても、前に居るワイバーンの壁で後ろにいるワイバーン達が接近出来ちゃうんだよな」
「肉壁だよね。こっちも常に動いてるけど」
一発撃てば何処にいるのかばれちゃうからな。ただ、そこは上手く無人砲台君の射撃タイミングに合わせる事で対処している訳だけど。
フィールドを駆け回る。ドパァン! と銃撃音が聞こえたら直ぐにアンチモンスターライフルを構え、ワイバーンに向かって弾丸を射出。
直ぐにライフルを収納し、また移動を開始……と、どう考えても効率が悪い戦い方だ。
多少は安全になるけども、どう考えてもワイバーンの撃墜数は奴等が集団で行動する前に比べて落ちている。
そして、囮になった無人砲台君は残念ながら無残な姿へ。あぁ、囮が次々と減って行く。
「ただあれだよね。この囮作戦が人じゃなくて良かったんじゃないかな」
「……まぁ、人だったらもっと逃げ回っているだろうけどな」
「てか、あの砲台に使われているAIはどうなってるんだ?」
「んっと……あー、ラーナが言うには「オート弾幕モードにして、さっさと逃げている」んだって」
おおう……AIもよく考えておる。
まぁそれもそうか。自分の方向に相手が向かって来てくれているのだから、適当に弾幕を張るだけでも十分だわな。
で、弾幕を張っている間に、自分達はこっそりと逃げておく。実に正しい行動なんだろうけど、それをAIがやっちゃうんだな。
ただまぁ、そう言う事なら砲台に使われていたコア部分は無事という訳だ。そして逃げたコア達は拠点内に入っているか、拠点を目指して移動しているんだろうな。
「なら気兼ねなく囮に出来る訳だ」
「さっきまで気兼ねしてたの?」
「そりゃ、自分の防具にもAIは搭載されているし、アラクネとも結構な時間を共に戦ったからなぁ」
どんどんと人間味が出て来るAIに対して、囮にするのは思う所が無い訳ではない。
なので、破壊される砲台を見るたびに、どれだけ〝勿体ない!〟と心の中で叫んだことか。……まぁ、逃げている様で本当に良かったけどな。
「しかし、他の探索者達も結構苦戦してるなぁ。まぁ数が数だから仕方ないけど」
「集団の数がさらに増えてるよね……もうニ十匹以上固まってるって感じだよ」
群れが少し解体され、ばらけたワイバーンが戦闘中の集団へ合流する。その為に倒しても倒しても、数は減らずに増えている様にすら感じる。……まぁ、総数でいうなら減ってはいるんだけど。
ただ、敵対している数が増えているので、どんどんと厄介になっていっている。数が増えたらそれだけ壁も増えるし隙は減るからな。
しかし、そんな延々と続くと思われたワイバーンとの戦闘だが、思わぬ事で一時停止してしまう。
――ルォォォォォォォォォォォォォン!!
突如として戦場全体に響き渡った鳴き声。その鳴き声によって、俺達もワイバーンの動きも止まってしまう。
ただ、イオやペガサスは何かを察したのか、急いで地上へと降りていた。そして、それは大正解だった。
島の方から巨大なビームが、上空を通り過ぎていく。
ビームの進路上にいたワイバーン達は、そのビームに飲み込まれてしまったようだが、他のワイバーン達は気にする事無く、ビームに触れないようにと逃避。
そしてビームが完全に通り過ぎた後、そこに残っていたのは……。
「まじか……ワイバーンが骨になって落ちていってる」
「きらって光ってるのは魔石かな?」
「かもな……って、あ!」
これ、もしかしてあれか? 俺達が見た溶けたようなビルとか、ドラゴンの死骸。ソレを作り出した張本人が、島に居るという事では無いだろうか。
やばいな。そうなると、絶対に触れたらいけないタイプの存在だろ。今の攻撃を見ても分かる様に、あんなのを撃たれたら防ぎようがない。
「人が相手にしていい存在じゃないような……って、しまった。ワイバーンの警戒が」
「あ、それは大丈夫みたいだよ。ワイバーン側も完全に動きが固まってる」
敵同士なのに同じ方向を共に警戒。
呉越同舟じゃないけど、この場だけは協力出来ないだろうか? なんて思わなくもない。だけど、下手にワイバーンと協力体制をとる事で、俺達まで島にいる存在に敵だと認識されたくはない。
さて、この状況はどうしたものか。
一度の攻撃だけで満足して、後は眠りについてくれるとかだったら良いんだけど……それは、島にいる存在しだいだからなぁ。
流れに身を任せつつ、いつでも撤退出来るように準備だけはしておくのが一番かな。
とりあえず……此処は祈るしかないだろ。島のとんでもない存在が敵ではありませんように……と。
ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございます!!ヾ(*´∀`*)ノ
てなわけで、とんでもない存在その1が島側にしっかりと居る事が確認されました。
果たして味方なのか、敵なのか、それとも中立なのか。敵だったら、倒せるのだろうか? うん、無理な気がしてならない。




