八百三十七話
「ミャンミャンミャミャーン♪」と、ご機嫌なイオ。
「双葉はがんばったの!」と、俺や美咲さんに対してイオの背からアピールしてくる双葉。
「プルプル♪」と、俺の頭上で謎の動きを見せるプル。
三者三様と言える行動をしている理由なんだけど。それは今、俺達が子供達を引き連れ、ずらりと並んだ屋台を順番に制覇しているからだ。
イオはただただこの空気が楽しいから。双葉は目の映る沢山の食べ物が欲しいのだろう。プルは……うん、なんだろうね? 久々の頭上から見える景色が気に入ったのかな。
「たいちょー! 綿菓子がたべたいです」
「ボクはあのリンゴの飴さん!」
「い、イカ焼き……じゅるり」
子供達も子供達で、あれやこれやと沢山ある屋台に目移りをしているらしい。
そして、たいちょーと呼ばれているのは勿論だけど俺……では無く、双葉の事だったりする。
「むむ……双葉もあのやきそばが食べたいの! 皆のモノ! 集まっておねだり攻撃なの!」
双葉の号令と共に、子供達は一斉に俺や美咲さんに向かってお願い攻撃を開始。
うるうるとした瞳が大量に俺達を襲撃する。……な、なんて恐ろしい攻撃を! てか、分かってた。分かってたけど! この子達は統率がとれすぎだろ!!
「あはは……頑張ったで賞も兼ねてるからね」
美咲さんはそんな事を言いながら、女の子達の手を引いて屋台の方へ。
男の子たちは……実に自由だ。あちらこちらへと仲の良い友達と共に、勝手に走り回っている。なので俺達は「周囲に気を付ける様に」と注意をするのだけど……。
「あまり必要無いんだよなぁ……」
子供が走り回るのだから注意は必要だろう? と思うかもしれないが、それは〝普通〟の子であればの話。
この子達はかくれんぼで優秀な行動をしてみせた子達だぞ? 素で周囲の気配を察知して、無意識の内にと回避しているんだよ。それはもう、元気に会話をしつつ走り回りながらだ。
あ、人にぶつかる!? なんて思っても、ぶつかる事無くぬるりと避けるのはもう芸術じゃないかなぁ。だってそれを探索者がやっている訳じゃなくて子供がやっているのだから。
因みに、そんな子達の中には孤児院の子以外も居る訳で。そんな彼等の親はというと……。
「何といえば良いのかしら?」
「た、たくましく育ったと思えば……それに、今の世界では必須な力と言えるしな」
「うちの子があんなに凄いだなんて!」
「そう言えば! お宅のお子さんはかなり後半まで残っていたわね。羨ましいわぁ」
戸惑い・喜び・羨望。それらの感情が入り乱れた状態で、皆さん集まって会話を楽しんでいらっしゃる。
彼等は子供達に必要な事が何か。というか、この世界で生き延びる為に必要な事を理解しているのだろうね。どこぞの団体とは違うという訳だ。あ、でもその団体も殆どの人が考え方を改めたけど。
そしてそんな親達だからこそ、こうして現状を受け入れつつ、子供達の教育をイオ達に協力させる事も受け入れて……と言うか、今! 俺達だけに子供の事を任せた状態にしているのはどうなのかな!?
「いやぁ……双葉ちゃんも可愛くていいわね」
「イオちゃんの背に乗る姿が様になっているわ」
「頭上にスライムちゃんを乗せたら、頭がひんやりとして気持ちいいのかしら?」
ちらりと俺が彼等を見ると、何やらうちの子を持ち上げる会話を……えっと、なんで俺が引率者の代表みたいな事をしているのだろう。
「それは君達に任せた方が、あの子達が言う事を聞くからね。何ともふがいない話ではあるけど」
父親の一人が乾いた笑いをみせながら説明をした。
えっと、それって他の親だと言う事を聞かせられないという事なのだろうか?
「言う事を聞かないというか、駄々をこねるというか……子供達の中で強さのランキングが出来上がっているのだろう。流石に嘗められているという訳では無いと思うが、他の人よりは下に見られていてもおかしくは無い。なにせ私達は拠点内で仕事をしているから、戦闘能力などからっきしだ」
あ……これ、新しい問題発覚じゃないか?
このままこの子達が育ったら、力こそパワー! なんて言い出す脳筋仕様になってしまうのではないだろうか。これは教育方針をもう少し考え直す必要があるかもしれない。
何せこうして、色々な食べ物や便利な道具や遊具があるのは、拠点内で頑張っている人達が居るからなのだから。そこのところををしっかりと教えておかないと。
「うちの子はイオちゃんや双葉ちゃん達を一番に考えているわねぇ」
「私の子は、あの教導員の人かしら? イオちゃん達と対等に戦えるなんてすごい! っていつも口にしているわ」
因みに。そんなイオや双葉の主である俺や美咲さんの場合は、無条件でリスペクト対象らしい。……なんだか背中がムズムズするな。
「ま、まぁ……俺や美咲さんが動いた方が早いという理由はわかりましたけど」
「君達と言うよりも、イオちゃんや双葉ちゃんと一緒が良いとあの子達が言っただけなんだけどね」
イオや双葉と共に行動をしたら俺達もセットになる。だから、俺達が流れで子供達と一緒に行動するのは火を見るよりも明らか。
だから親御さんたちも纏まって俺達についてくる……と、そう言った図式になってしまっているという訳だ。
そしてそうなると、奥様達は井戸端会議か? と思うようなお喋りを開始するのもまた当然。旦那さん方は人によると言った感じかなぁ。こう、愚痴を言い合っている人も居れば、個人で屋台を巡りつつ子供達の所へ行ったりしている人も居る。
それにしても、なんだかとても不思議な状態だよな。
男の子たちは各自勝手に行動。女の子は美咲さんがイオや双葉と一緒に連れまわしている。親御さんは俺の背後に……本当に何この図? あれか? 俺は親御さんたちの目印か何かか?
「そりゃ、頭にスライムを乗せているからね。その、凄く目立つとは思うよ?」
遠回しに目印にしているという言質を頂きました。
えぇそうでしょうね。楽し気に伸び縮みをするスライムは、それはそれは丁度良い目印になるでしょう。あー……だから偶にだけど、男の子たちもちらちらと俺の方を確認して居る訳か。こう、迷子にならない為にも離れすぎずの位置をキープしているのだろう。
正直、あれだけの能力をみせた子達が迷子になるとは思えないけどな。
なんとなーく現実逃避。
「なぁプル。たこ焼き美味しいか?」
「ぷるる♪」
美味しい! と、頭上で嬉しそうに震えるスライムのプル。
なんだか心が癒されるわぁ……いやだってねぇ。今の俺って、ただの動くモニュメント的扱いなんだぞ? 恋人同士が待ち合わせするには最適です! ってか? いやまぁ、丁度良いってのは理解出来るんだけどね。
「なんというか。目立つってのはやっぱり良くないって事だよなぁ」
「ぷるぅ?」
「プルには分かりにくいか。まぁ、目立つ事でのメリットとデメリットを考えた時、デメリットの方が多いなって事だよ」
「ぷるぅ……」
余計分からないと言った感じのプル。モンスターだからかな? それともスライムだからだろうか。スライムだと目立たないようにする為には擬態をするだけだからなぁ。余り目立たない様に努力するという事を理解出来ないのかもしれない。
それに、目立つ事のデメリットというのは、プルにとって言えば死が迫っているかどうか。そして、この状況だと全く死など接近してはいない。だから俺の言っているデメリットは理解出来るハズも無いと言った感じなのだろう。
「人の目が集まるってのは心地が悪いんだけど……プルはどっちかと言うと、そういった事に対しては受け入れてそうだもんな」
これは俺が探索者だからってのも有るんだけどね。
隠れてこそこそ情報を集めたり、モンスターを暗殺したり、破壊工作をしたり。そんな戦術ばっかりとっていた為の、職業病とでも言えば良いのかな。沢山の目が集まるのはちょっと苦手なんだよなぁ。
安全な拠点内って事は分かっているのだけど、こればかりは習性だからどうしようもない。
てか、人の目を集めている理由って、頭にプルが乗っているからなんだけどな? こいつ、全く無頓着というか、寧ろもっと集まるような動きを見せているんだよな。……まぁ、可愛いから許してしまうけど。
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色々な意味で〝後の祭り〟な話です。
イベント後のとか、スライムを乗せて行動した結果とか。それはもう色々とw




