八百三十六話
「あはは……やっぱりこうなるんだな」
「皆のりのりで楽しそうだね」
目の前で起きている状況に対して、ついつい笑えて来てしまう。
結局このかくれんぼ兼鬼ごっこの最後は、イオ達と教導員による戦闘パフォーマンスになってしまうのだから。……ただ、今回の場合は両者共に枷が付いている状態なので、何時もの様なド派手といったアクションからは物足りないけど、普通の人や探索者なりたての人にも見える形に収まっている。
「まぁ、それでも異質なレベルの戦闘って言っても良いんだけど」
「だよね。枷が付いて動きにくい状況だけど、紙一重で回避や受け流しが基本になってるね」
むしろ、動きにくい状況だからこそ超接近での回避を選択していると言っても良いかもしれない。何せ、枷を付けられていると言っても目は従来のままだからな。だから、相手の動きは十分に見えるんだ。
動きが悪いけど見える状況。後はもうどんな選択をするか分かるよな? という話。
さて、そんなイオ達と教導員のパフォーマンスになっている状況だけど、他の人達はどうなったのかも気になる所ではある。一応だけど、今でもまだまだ脱落していない人も居るからな。
ただ、殆どの人が脱落しているのは事実ではあるけど。
「ゆいが率いるコボルト隊が投入されたら早かったんだよなぁ」
「あれは反則だよ……他のオオカミ達もコボルトの指示に従ってたし」
ウルフ同士の連携では無く、コボルトと言うよりは、ゆいの指示に従って行動する。それはもう、統率の取れた動きで、隅から隅まで針の穴すら見落とさない調査へと動きが早変わり。
これにはもう、上手く隠れた子供達も次々と発見されてしまい、ゆい達は脱落者を大量に量産した。
「ま、これはテイマーとしてのパフォーマンスになったって事だな」
「フリーに動くモンスターと、テイマーの下で動くモンスターの違いも良く分かる形になったよね」
何故テイマーが難関なのか、そしてその難関を突破した先はどんなものなのか。それを、ゆい達に脱落させられた人は自ら体感したという事になる。
そしてまた、脱落者スペースではその光景をしっかりと目に焼き付けてしまった訳で……。
「あんな事が出来るテイマーでも、モンスターを赤ちゃんから育てる人は少ないの?」
なんてワードがあちらこちらから聞こえてきたのだとか。これは、心がかなりの勢いで折られている音が聞こえてきそうだ。
「しかしまぁ、ゆいはここでも戦隊モノのお姉さん役をやるんだな」
「数人の子は、ゆいちゃんの所為で見つかったよね」
そうなんだよなぁ。
脱落者スペースにいる子の為に、何時もの感じでゆいが掛け合いをするモノだから、それに釣られてしまった隠れている子が「おねーさん!」なんて声を発するものだから……居場所がバレバレになってしまったんだよ。
もしくは、戦隊モノだからとポーズをとるコボルト達に「キャー!」なんて声を上げるから。……そこらへんは子供だから仕方ない感じかなとは思うけどね。
ただ、これで発見した後はお互いに何とも言えない表情になってしまっていた。
子供達からしてみれば、自分のミスとはいえ想定外の方法で発見された訳だし、探す側からしてみれば、今から探すぞ! と意気込んだ瞬間に居場所が割れた訳だからな。
そりゃ、お互い納得出来ないだろうって話なんだけど……ルールはルールだからね。今回は大人しく捕まって貰うしかない。また今度リベンジしてくださいって感じだな。
「と、そんな感じで発見されていった訳だけども、それでもまだ隠れている子が居るんだよな」
「猛者だね! 将来有望過ぎるから、もしかしたら影山さん辺りからスカウトが来たりして」
「調査メインの探索者として育てたいって感じか」
脱落した子達も十分にそのレベルになりえると思われるが、この状況で残っている子はやはり別格と言っても良い。
本当に、どうやってコボルトとウルフの包囲網から逃れているんだろうか。
「イオ達は……まぁ、あっちは例外って事で」
イオ達は時間が来たら投入という形になったんだけど、時間になった瞬間に教導員の人も乱入した事で、最初から乱闘みたいな感じになってしまったんだよな。
まぁこれはこれで、違った方向でのアピールになるから良いんだけどさ。もう少し教導員の人は待てなかったのか? 一応だけど、最前線で戦っていたイオ達の調査能力もアピールするつもりだったんだけどね。
「てか、乱入するなら最初は隠れろよ……見つかってから戦闘で良いじゃないかって思うんだけどな」
「ゆいちゃん達の調査方法を見て、「もうそっちでのアピールは良いだろ!」って事になったみたいだね」
いやいや、良くないからな。組織的な動きと、最前線での動きは全く別物だから、少しはその違いを見せないといけないと思う。
あぁでも、イオ達が何をしているか理解できない可能性が高いか。イオ達の動きって理論的に説明しろって言われても難しいからな。
うーん……教導員は教える立場として、今それをみせるべきでは無いと判断したって事だろうか? 俺には本人達がイオとやり合いたいだけにしか見えないんだけど。
なにはともあれ。このイベントは大成功で終わったと言っても良い。
そもそもの目的が、的外れな事を言っている団体へモンスターとは何かを知ってもらうのがメインだったし、そのついでに新人探索者の育成にも使った。……子供達の参戦は、実はイレギュラーだったりする。
子供達の参戦は急遽決まったんだよなぁ。ただそれは、子供達の強い要望があったかららしいけど。あれかな? お祭り的なモノだと思って参加したいって思っちゃったのかも。一応、こういうイベントが開催されますよって各所へ伝えていたからな。……お陰で、イベント会場の出入り口では屋台の多い事。
と、屋台の事は良いとして。
「ただ、そんなイレギュラーだった子達が、本当にイレギュラー過ぎたって形で終わったね」
「まさか、最後まで隠れきる子が一人現れるとはなぁ……」
驚愕と言っても良い結果だと思う。
恐らくイオ達が調査に回っていたら、コボルトやウルフ達の重い枷がなければ、話は別かもしれない。しかし、イオ達は教導員の人達と戯れ、今回の方針もあってコボルトやウルフ達にはいつも以上の枷が付けられた。
ただ、それでも、この結果は快挙と言わずして何といえば良いのだろうか。
何せ他の人は皆捕まっているんだぞ? 教導員の人達は遊んでいたから除外する必要があるけど。それはそれって事で。
「あ、ゆいが早速スカウトに向かってる」
「テイマーの人って本当に手が早いよね」
少し遠くでは、ゆいやゆいの同僚が子供達に対して「テイマーに興味は無い?」って声を掛けている。
あれ? デジャブ? と思ってしまったんだけど、いやこれ、実際に前にもやってたよな。いつどのタイミングだったかは覚えてないけど。
そんな、テイマーや探索者に人気な子供達とは別の場所では、団体さん達が肩を落としている姿が。
「なぁ、モンスター達ってハンデを背負ってたらしいぞ?」
「え、うそ……それで私達は惨敗したの?」
「これで飼うとか絶対無理だろ……」
などと言った会話が聞こえて来た。なるほど、現実を直視出来た人が居るって事か。ただでも……。
「そ、それなら番犬として優秀じゃない!」
「可愛いだけじゃないって最高だよね!」
なんて言い出す人達も居る訳で。これは理解能力が足りていないって事なのだろうか? なんて思ったんだけど。空気の流れは少し違っていて。
「私はガチでテイマーになる勉強するわ……だからもうデモとか参加できないと思う」
「ちょ!? 本気で言ってるの?」
数人がテイマーになる発言をした人に対して、言い寄ろうとするのだけど……それを別の人が制止。
「良いね! 俺もちょっと本気で目指そうかな」
「探索者の方が良いかも? 探索者でも、モンスターを連れまわす許可が貰えはするみたいだから。で、そっちの方が試験は楽みたい」
「探索者はなぁ……戦闘訓練が大変そうだしな」
うんうんと、思わず頷いてしまう。
と言うのも、テイマーや探索者を目指そうという会話をしている人達の方が声は大きいからだ。勿論だけど反対する意見もある。
「ちょ……難しいから俺には無理って言ってたじゃん」
「前に受けた時に絶望したって言ってたよな?」
なんて声もあるけど、その声はほとんど掻き消されるか「それでもやってみたいんだよ」といった反撃を受け黙ってしまう。
どうやら多数派と少数派が完全に出来上がってしまったようだ。そして、少数派であるデモ隊な人達は……おずおずとその場を去って行った。
後で協会には今の会話を伝えておくとしようかな。
ともあれ、メインクエストは達成と言った感じになるのかな。
後は屋台とかを皆で楽しんで帰るとしますかね。子供達には頑張ったご褒美をあげるのも良さそうだ。……イオ達は、おっさんたちとちょっと暴走したからなぁ。さてどうしようかね。
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無事イベントも終了と言う事で、すごすごと帰った人達には後で協会から手が回るでしょう。
暗殺者が来る……なんて事は無いのでご安心を。カウンセラーか、お仕事の斡旋か、何をどうするかは協会と彼等次第ですが。
目標を持った人たちは心が折れないように頑張って貰いたいところですね(≧▽≦)
後、探索者だからって常に戦闘に出る必要は無いのだぜ。調査班として隠密能力に長けていれば……あ、でもそっちの方が訓練がきつそうだ。




