八百三十三話
上層部や指揮官の苦悩という犠牲を払いつつも、ワイバーンの巣にあったダンジョンを攻略していると、そんな情報を協会の探索者用情報ページで確認していたりする。
やれ探索者の一人がトラップに嵌っただの、俺が攻略するんだ! と意気込む者に首輪を付けなければいけなかっただのと、中々読んでいるだけでも面白い……と言って良いのかな? うんまぁ、面白い情報が盛りだくさんだ。
「ただ、この首輪って物理的なのか心理的なのかどっちなんだろうな」
「上手くぼかしてるよね」
個人的には物理的につけていたら面白いななんて思うけど、それは人道的にどうなのだろう? という疑問は当然湧いてくる訳で。ただ、どちらにしても言う事を全く聞かない奴が悪い。そんな枷を付けられる行動ととるからいけないんだって話。
ともあれ、ダンジョンの攻略はある程度順調に行ってはいる様だ。
そうそう。ダンジョンと言えば山越え時に見つけた恐竜たちが居た場所。あそこにもダンジョンが在った訳だけど、そちらも実は探索が行われている。
ただ、此方の場合は緊急性が無い為に一つのパーティーに攻略を任せているらしい。なんでも、新ダンジョンを見つけた場合はこのパーティーに任せろというマニュアルが協会にあるらしいんだけど、そのマニュアルにはいくつかのパーティー名が書かれており、その書かれている名前の一つらしい。
いやそれならワイバーンの巣にあったダンジョンも任せてしまえよ……って話になるんだけど、水野さん達の名前も書かれているらしいから、任せてはいるんだよね。ただ、お供についてきた他のパーティーにちょっとと言える人が混ざっていただけで。
「しかしそのマニュアル? だっけ。どういった基準で選ばれているんだろうな」
「きっと戦力だけじゃないよね」
慎重や臆病者が選ばれるみたいな感じかもなぁ。勿論だけど戦力は最低限必要だろうけどね。例えば、精霊か魔装備を使えるメンバーのみで構成されているパーティーとか。
「むぅ! お仕事の話ばかりなの!!」
「みゃぉん!」
「プルル!!」
そんな事を美咲さんと会話していたら、横から双葉達が口を挟んで抗議をして来た。
何んというか、実に久しぶりな感じがする。というのも、俺達と双葉達の仕事が分断されてしまっているという現状があるからだ。
俺達は待機しながら、研究所やら協会やらに足を運んでいる。双葉達は子供達の護衛をしつつ保育士の補助的な仕事をしている。仕事としてみれば全く接点がないと言っていい状況なんだよな。まぁ、家に帰れば庭などでわちゃわちゃとしている訳だけど。
では何故、今こうして皆で顔を合わせているのかと言うと……。
「呼ばれてじゃじゃーん! 双葉とイオとプルの超絶鬼ごっこの時間なの!」
そう大きな声でタイトルコールをする双葉。……まぁ、それを聞いているのは俺と美咲さんだけなんだけどね。それでタイトルコールで分かると思うけど、今日は協会が開催する鬼ごっこを行う日だったりする。
え? なんで突然協会が開催してるの? 探索者達の教育だったら既に協会が公式で開催しなくてもやってるでしょ? って話なんだけど、実はこれには裏があったりする。
「遊びに見えて、実はかなりガチな鬼ごっこなんだよなぁ。それもこれも、拠点という安全圏に居る気楽な大人や新人探索者に子供達と、全員にモンスターのスペックとはどんなものかって言うのを教え込む為っていうのがメインだし」
「これ、絶対裏にはテイマーになれなかった人達がやってるデモ対策だよね」
「後は天狗になりかけている探索者だな。子供達は……ついでだろうなぁ。孤児院の子は特にだけど、毎日のようにイオ達と追いかけっこをしているしな」
そして俺達が居る理由は単純で、それだけ人を集めて行うのだから監視というか護衛が必要だって事だね。
暴走した人を直ぐに確保したり、怪我をした人達を直ぐに手当てしたりと、言ってしまえば一定以上の実力が必要だったりする訳だから。
「救護スペースにはヒーラーとしてゆりちゃんも来てるんだっけ」
「そうそう。あれでも治療を行う者としては優秀だからな」
「……自分の妹をアレ呼ばわりしなくても良いんじゃないかなぁ。ゆりちゃんってヒーラーとして一流だと思うよ?」
あー……確かにね。
ただ俺の考えと言うか協会や探索者の非公式な基準なんだけど、ヒーラーは探索者のパーティーに入って動けるかどうかって基準がどうしても頭の中に出来上がっちゃってるんだよね。
で、ゆりの場合は完全に回復特化……と、どちらかと言えばヒーラーと言うより医者とかそっちよりってイメージなんだ。ただ、探索者について行けるかどうかと言えば……無理。
ゆりも体を動かして万が一の時に備えているけど、ダンジョンに対しては恐怖心で足が竦むらしいから。……と、その時点で〝ヒーラー〟という意味でいうなら、微妙という話になってしまう。なのでゆりはその非公式な基準で言えば〝ヒーラー〟ではなく〝医者〟とか〝メディック〟なんて呼ばれる位置づけ。
「のハズなんだけど、なんで美咲さんはヒーラーって呼んでるんだ?」
「んー……ほら、ダンジョン恐怖症みたいなのを患っているとは言っても、外では別でしょう? 拠点外活動なら問題ないからヒーラーとしても動けてるじゃん」
「あー……確かに。拠点を襲撃された時とか、ペガサスに騎乗して大活躍していたもんな」
あれだけの活躍をしたというのに、なぜかダンジョンはダメ……と、まだ克服できていなかったりするんだよなぁ。人の心と言うのは摩訶不思議だって話なんだけど、それは今はおいておくとして。
「テイマーからはゆいちゃんも来ているんだよね」
「今回は完全に戦隊モノ化したコボルト達を連れて来ているみたいだな」
そんなコボルトを連れたゆいは、姉のゆりが居る救護スペースに突入してお喋りをしているらしい。……何時もながら自由だな。一応、俺達運営側は待機するスペースが決まっているというのに。まぁ、まだ色々とお偉いさんがお話をしているタイミングだから問題無いけど。
……しかし、運動会の校長先生を思い出すな。こう、誰かぶっ倒れたりしないだろうか? と思うけど、そこは対策済み。倒れそうな子供達には座らせて飲み物も飲ませていたりする。大人は知らん。
「えっと、最初に投入されるモンスター達は……テイマー達の狼や猫みたいだね」
美咲さんがしおりを見ながら流れを確認している。
「だな。その後にゆいが連れているコボルト達が投入されて、最後にイオや双葉達の出番って事になるな」
どんどんと難易度が上がって行く鬼ごっこ。当然隠れる事も可能なんだけど……ぶっちゃけ、モンスター達の嗅覚や聴覚から逃れられるはずがない。それこそ、日々訓練していれば別ではあるけど。
「てか、隠れるという意味では子供達の方が有利なんだよなぁ。いつもイオ達と遊んでいるから」
「だよね~。隠れるのが得意な子とかも居るって聞いた事あるし」
「そうなの! もうあれは完璧に斥候や暗殺者になった方が良いの!」
「みゃぉん!」
双葉やイオのお墨付きと言っていい子がいるらしい。なんとも将来有望な子だ。
「で、双葉達は誰が最後まで残るって思ってる?」
「うーん……やっぱり隠れるのが得意な子なの。あの子達なら制限されたコボルトさん達でも見つけられないと思うの」
「みゃぉん!」
「なるほど、イオちゃんは探索者さんを選ぶの? でも、探索者さんは微妙だと思うの」
「ミャン!」
「そうなの!? それはずるいの!!」
何がズルいのか。
実は探索者の中にはプロと言っても良い存在が混ざっていたりするんだよね。これは、最後まで誰も残らないと言うのを回避する為とか、新人探索者相手に実力差を見せつける為だとか、そう言った意味合いが含まれているらしい。
だから双葉。別にズルいという訳じゃないんだぞ? まぁ、追いかける側からしてみれば、今回の趣旨を考えるとズルいと言いたくなるかもしれないが。
「ぷるる!」
「む、プルちゃんは全滅だと思っているの? ふーむ……確かにそれもありそうなの」
全滅した場合は……最悪、何時もの鬼ごっこメンバーが投入される可能性があるんだよなぁ。
なんか若干一名、拳を打ち鳴らしてスタンバイしているし。……絶対あれ、イオとやり合う気だろ。
とまぁ、そんな訳で、こんな時期にどうなの? と思いつつも、モンスター達との鬼ごっこが開催される。さてさて、一体どれだけの人が心を折られるのやら。
出来れば、モンスターの赤ちゃんを開放せよ! と言っている人達には絶望をして欲しい所だ。
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ワイバーン戦の裏で一体何をwww
という話ですが、いい加減うるさすぎる人達を黙らせる為にもと言った感じですかねぇ。協会も実に頭に痛みを抱えているでしょうね。
とは言え、このイベントはテイマー達と協力してできる事ですので、探索者側の人員は其処まで割いていません。結弥達以外にいるのは、新人さんとその新人を教導している人達ぐらいです。




