八百三十二話
ワイバーンの巣を攻略した! という情報が入ったのは、ゲートが開通してから数週間後。
ただ、やはり巣の中心にはダンジョンが存在したようで、探索者達はその巣を監視している状況らしい。
いやいや、それだと巣は完全に攻略してないだろう! って話になるんだけど、そこは地上部分を攻略したというワードが外れた状態で情報が駆け巡ってしまったらしい。
しっかりと調べれば、正確な方法が違うというのは直ぐにわかる話だったしね。伝言ゲームみたいな状況になっていたのだろう。
そんな訳で、ワイバーンのダンジョン攻略をどうするか? という話し合いが協会の会議室にて連日連夜行われているそうだ。
俺はワイバーン戦には参加していないので、会議自体にも参加はしていないもののその情報と言うか会議ログを見る事が出来る。……まぁ、何かあった時の為に目を通しておくようにと言った感じで、一定以上の能力をもった探索者には普通に配布されている情報だからな。そもそも、探索者相手なら隠す必要も無い事だし。
その会議ログの内容にて。
「当然と言えば当然なんだけど、まずどうやって調べるのかって話になるわな」
「高難易度ダンジョンは入り口から侵入者を殺しに来るもんね」
「だな。やっぱり基本はドローンでの調査って感じになるみたいだけど」
新しいダンジョンの入り口や、階層を移動する際にはドローンを用いてのチェック。これは基本行動と言っても過言では無い。
さらに言うなら、そのドローンに道具を持たせ、フィールドのあちらこちらに刺激を与えるなんて事も出来るならベストだ。……まぁ、そこまでは時間的余裕があるかどうかで話は変わるけど。
「チェックする項目が多すぎるからな。全部チェックしてたら本当に時間がいくらあっても足らない」
「えっと、人数指定によるトラップ・重量によるトラップ・魔力や魔法の属性を感知……本当に考えたら色々あるよね」
考えれば考えるだけトラップは想像出来る。そして、それら全てをドローンだけでカバーするなんてのは無理な話。
なので、何処かのタイミングでゴーサインを出さないといけないのだけど、人が多ければ多い程にそのタイミングを判断するのは難しいモノになる。
ぶっちゃけ、俺や美咲さんみたいな少数のパーティーだったら、その殆どが自己の判断と責任になるから割と気が楽なんだよな。それに、トラップが発動しても対処できる自信もある。
しかし、今あのワイバーンの巣を取り囲んでいる探索者達は全く違っていて……。
「水野さん達だけのパーティーなら話は別なんだろうけど、現状は複数のパーティーが協力している状態だからなぁ」
「中には実力的に上級ダンジョンに行けるようになったばっかりの人もいるみたいだしね」
上手い事采配を振るわないと犠牲者を大量に出してしまうという訳で、協会の上層部も現場で指揮を執っている水野さんも少々頭を抱えているらしい。
それに、そういった人達のやる気ってめっちゃ充実しているみたいなんだよなぁ。こう、手柄を立てるんだ! みたいな感じで。人によっては「一番槍を!」みたいに考えている人もいるらしい。口には出さないけど体にそう言った気持ちが出ているのだとか。
こう言ってはなんだけど、もう少し自分の実力を考えましょう。と、協会側は心の底からお願いしているらしいけどね。
「やる気満々なのは良い事なんだけどね」
「高難易度ダンジョンで自分の実力を試したいってのは分かるけどね。ただ、こういった新発見のダンジョンだとなぁ」
新発見のダンジョンは本当の意味で〝冒険〟だ。
何があるか分からない。全てが手探りの状況で進んで行く。常に死と隣り合わせ……と、ダンジョン攻略自体が死と隣り合わせなんだけど、その死の距離が比では無いレベルなんだよな。
こればっかりは、一度でもその新ダンジョンや新階層を経験した人でないと分からない話。
高難易度ダンジョンなんて言っているけど、その高難易度って言葉の意味や質が全く違うんだよなぁ。
「もう少しランク分けした方が良いと思うんだよなぁ。高難易度でも攻略済みはCランクで、未攻略はBランク。新発見はAランクみたいな感じで」
「指標は欲しいよね。殆どの人が全て一纏めにして高難易度って言っているから、攻略済みの場所で戦ってた人達って他も一緒って考えがちだし」
そして、そんな人達が未攻略や新発見のダンジョンへ足を踏み入れ大怪我をする。そこまでが基本セットだったりもするんだよな。
一応、協会もそういった事を踏まえて色々と考えてはいるみたいだけど……現状が忙しすぎて、それらの設定というか整備があまり進まない状況らしい。
ただこういった事も、ゲートの開通で人の行き来が今まで以上に楽になった事を考えると、少しは改善されるんじゃないかな? と期待していたりする。
「一応はその手の話を行ってはいるみたいだけど」
「水野さんも確か新ダンジョンに対して最初に足を踏み入れた事があったんだよね。体験談を動画で語ったりしてたよ」
ただ、そんな体験談を聞いて、考えを改める人とそうでない人は当然分かれる。本当にそうでない人は大丈夫なのか? と思うけど、実はそんな人の数はそう多い訳では無い。
「殆どの人がその体験談を聞くと反応に変化があるって話だな」
「えっと、協会が統計を取ったみたいだけど、考え直す人の方が九割ぐらいいるみたいだよ」
九割の人がしっかりと物事を認識していると言えば良いのか。それとも、一割も自分の考えを治さない人が居ると言った方が良いのだろうか。
しかし、崩壊前の事を考えたら全く違った反応だよなって思う。あの頃であれば、その数値は逆に近かったはずだしな。
ただこの九割と一割の差が出たのは、探索者のデータだからという可能性もある。全体でデータを取ったら……って、全体のデータを取る必要性は全くないけどな。
「考え無し? な人の考え方って、その殆どは功を焦っているって感じみたいだよ」
「あー、あの侍タイプって言った感じかぁ」
上昇志向が強いというか、名誉を求めているとでも言えば良いのか。そんな人達の中には、自らの死も厭わない! なんてタイプも居るようで。いやいや、死んだらそこでお終いだろう! って話なんだけど、本人が言うには「名を遺す事が大切!」なんて人だったりするらしい。
はっきり言おう。実に面倒くさいタイプだ。
向上心が高いのは良い。活躍したいという気持ちが有るのも分かる。でも、死なれたら困る。それはもう、協会としても探索者の一人としてもだ。
どうして折角強くなった戦力を、死という形で無にしなくてはいけないんだ! と、そう言う話だ。
「おかしいよなぁ。あれだけ新人探索者教育で生き残る動きをしろって教えているはずなのに」
「教導の人達が、生きた情報の方が大切だ! って口を酸っぱくしてるよね」
だというのにも拘らず、どうしてこんな思考に変化していくのだろうか。やっぱり本人の資質ってやつなのかね。
ただまぁ、俺にはそう言った人達を動かす能力なんて皆無だからな。こう言うのは兵部さん達にお任せするしかない。……遠くからお祈りぐらいはしておこう。
「ただ、ワイバーン攻略を行っている人達の中にも居るんだっけ」
「水野さんがんばってー……と応援ぐらいしか出来ないね」
ま、個人で死に急ぐのは百歩以上譲って仕方が無いにしても、周囲は絶対に巻き込むなと言いたい。
周囲を巻き込むような真似をしたら、確かに名は残るかもしれないけど、それは間違いなく不名誉な残り方だからな。と、胸の中に刻んでおいて欲しいものだ。
ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございますm(_ _"m)ペコーン
ということで! ワイバーンをどんどんと攻略していきますよ(゜∀゜)
ただ、ダンジョンが在るという事で……問題は当然ありますよと言う話ですね。えぇ、新ダンジョンは凶悪なのです。……は言ったら直ぐ落とし穴なんてダンジョンも在りますからねぇ。あぁ! 湖のダンジョンだと、直ぐにアタックしようって突入したら、ウツボモドキに食われる運命が待っていましたねぇ。
という事で、新発見の高難易度ダンジョンは幾ら警戒しても足りません。主人公達であれば、あの手この手で回避するのですけど、はたして他の人達だったら? そして、複数のパーティーが合同で攻略に当たっている場合は? なんて話でした。まぁ、まだ攻略では無くその前段階ですが。




