八百三十一話
ゲートの開通は沢山の人に影響を与えた。
喜びもあれば悲しみも……だが、ゲートの真髄はやはりそこでは無い。他に何を例えに挙げようと、やはり交通および物流の革命こそがゲートの最大と言っても良い利点だろう。
そして、その変化した人や物の流れこそが、全ての戦場においてこちら側の戦力を底上げし、優位性を一気に引き寄せたと言っても過言では無いと思う。
「いつでもどこでも駆けつける。物資は常に潤沢となればな」
「ワイバーン戦も終わりが見えそうだよね」
そう。まず一番の成果はワイバーン戦における状況を一転させた事。
ワイバーンの巣だが、こちらは人とテイムしたモンスターが完全に巣を包囲。
上空へと飛ぼうとしたワイバーンから次々と墜落させていくという手段を取っているらしい。……制空権は奪わせないぞって事だな。
因みにその空には、ペガサスライダーな探索者達や鳥型モンスターが常に交代しながら飛んでいるらしい。そして、ワイバーンの巣を爆撃と言う名の魔法による攻撃を行っているのだとか。当然だがあまり物音が立たないパターンの魔法で。
「で、結局ワイバーンの攻略には呼ばれないな」
「一応だけど、対ドラゴン部隊として待機している状況だしね」
はたして本当に島にはドラゴンが居るのだろうか? という問題はさておき。もし居た際や、上空から何か巨大なモンスターが現れるなんて事が無い訳では無いからね。
なので、俺達以外にも予備部隊はしっかりと存在している。
待機する予備部隊を増やす。これはゲートが開通したからこそ出来る事だよな。
何時でも何処でも、どのような戦場でも。直ぐに戦力をお届けします。と、まるでピザ屋の配達かな? って感じだけどね。
と、それはいいとして。
そんな訳で、ワイバーンの巣を攻略すると言うのはもはや時間の問題と言えるかもしれない。
ただ、そこの最奥にダンジョンでも無ければだけど。
「正直、ダンジョン絶対あると思うんだよなぁ」
「ワイバーン用のダンジョンかぁ……攻略が大変そうだよね。てか、どうやってワイバーンって外に出て来ているんだろう?」
「そりゃアレだろ? ダンジョンボスがワイバーンのボスだとか、イオ達の仲間みたいに完全にダンジョンから囚われていないとか。可能性は幾つもあると思うぞ」
「んー……ダンジョンのボスがワイバーンで、ダンジョンの思考誘導に支配されていないってなると、リッチ先生みたいに大変な相手って事?」
「アラクネなラーナでも囚われてたもんなぁ……ダンジョンの思惑を撥ね退けようと思ったら相当なレベルが必要ではありそうだよな」
「結弥君……ラーナがね『だまらっしゃい!』だって」
おおう……ラーナはダンジョンに囚われた事を恥じだと感じている様だ。
いやまぁ、普通なら囚われて当然の話だと思うからね。それこそ特殊な事でも起きない限りは、モンスターであれば確実に捕まってしまうと思うんだよなぁ。
「リッチや〝ロード〟は別格として、イオ達の仲間の場合は二つ以上の群れがボス争いをして、ダンジョンがどちらをメインにするか悩んでいたとかあったみたいだしな。名駅ダンジョンに至っては……うん、これは言うまい」
「高難易度ダンジョンのコアも楽じゃ無いって事かぁ」
試練のダンジョンにおけるダンジョンマスターは、それはもう色々と仕事が沢山あって重労働と言える。……知っているマスターに、それを全く感じさせない存在も居るが。ってか、何時でもお茶やお菓子がメインなんだよな。っと、そんなさぼりマスターは例外としておくとして。
ダンジョンの運営とはかなり過酷なモノであることに違いは無い。
リッチなんかは、のほほーんと此方がお願いしたらサクッと解決してくれたりもしているが、アレはリッチと言う存在がおかしいレベルだという事と、ダンジョンコア二個分と言えるパワーを持ったコアを所持しているから。
だからこそ、高難易度ダンジョンをあそこまで自由自在に操作している。
ズーフ達ダンジョンマスターが居る試練のダンジョンは? と言うと、難易度設定やらダンジョン内に異変が無いかの見回り、探索者に対して五層目でチェックを入れるのと最終戦での相手。ソレだけの事を行わないといけないのだ。これが忙しくない訳が無い。
そしたら、他の高難易度ダンジョンはどうなのだろうか?
高難易度ダンジョンは、各ダンジョンのコアが全てを掌握している。そしてそのコアはダンジョンのボスを設定する為に、ダンジョンから近い場所に居るモンスターをボスとして据える為に捕獲する。この時、基本的にはモンスター側に拒否権は無い。
そして、ボスを設置した後はダンジョンを拡張しつつ、いやらしいトラップやモンスターの配置と、あれやこれやとやるべき事が多い。
「と、研究者は分析しているみたいだね」
「実際にリッチや〝ロード〟に聞いた話から推測している訳だしね。結構答えに近い内容なんじゃないかなぁ」
「試練のダンジョンについてはズーフ達に聞いた話だしな」
とまぁ、そんなかなり大変と言えるダンジョンコアのお仕事だが、当然だけどコアがボスから逆に乗っ取られるなんて事もあり得る話で。ってか、それはリッチが既に証明しているしな。
そしてそれ以外にも〝ロード〟みたいに、ダンジョンの一部を奪うなんて存在も居る訳で……コアという存在は、かなり危ない立場に居ると言っても過言では無い。
「リッチのコアなんてリッチに従順らしいからなぁ……コアと話したことは無いけど」
「ダンジョンから離したコアって、ただの高性能な魔石みたいなモノになっちゃうしね」
ダンジョンコアだった頃の意識などさっぱりないのか、まるで生まれ変わった様な存在になってしまう。だからこそ、安全に運用できる訳なんだけどね。拠点というか村では、村のエネルギー源・電波塔・防衛施設を兼ね備えたタワーのコアとして使われている訳だし。
「そんな万能で優秀なコアだけど、レベル次第ではモンスターに取り込まれたりもするわけで……で、巣に居るワイバーン達の数や行動を見るに、恐らくコアを制圧したワイバーンが居るのでは? って考えられているんだっけ」
「協会の人が言うにはそんな感じだね」
巣にダンジョンが在る前提での話だけど、こういったのは一番面倒なパターンを想定しておくに限るという事で、巣を攻略中の探索者は全員がダンジョンを攻略するという方針で動いている。そちらの方が、本当にダンジョンが在った時に動揺などが起こらないしね。
とまぁ、ワイバーン攻略の現状がこんな感じで、もうすぐダンジョンの有無も直ぐに判明するんじゃないかな。
とりあえず俺達に出来る事と言えば、ドラゴンが居るなら「ドラゴンが目を覚まして攻勢に出ませんように」って事ぐらいかな。
実はワイバーン戦以外にも物事は一気に進んでいたりする。
「ワイバーン側の話ばっかりしたけどさ、伊勢側でも随分と変化があったよね」
「そっちからも色々と情報が入って来るよね」
伊勢や伊賀・甲賀付近。
こちらは、ゲートこそ同盟と言う事で設置されてはいないモノの、伊勢などに近い拠点へのゲートは開通している。
そしてその拠点から、各所へと探索者や輸送車が物資を運んでいる訳だが。それでも以前に比べたら格段に時間は短縮されていると言っても良い。
勿論だが探索者の移動もだ。
「それぞれの戦場に居る人達だけど、ゲートを使って休暇をとれる環境になったからな。常に士気が高い状況をキープ出来ているんだよな」
「AIがあるから引継ぎも楽だしね」
データは常にAIが交換し合っている。勿論重要な事は外部へと漏れないようになっているらしい。
ゲートの開通で更にブラック化が進むか? なんて事を探索者達の中では考察する人達もいたけど、これってかなりホワイトな状況になって行ってるよな。何せしっかりと交代がなされている上に、休息は戦場ではなくそれぞれの拠点に戻って行う事が出来る訳だから。
当然起こりえる話だけど、あちらこちらへと移動させられる可能性が増えたと言うのは否定しないけどね。それでも、移動時間が無くなった事で、人手不足だった状況が一気に改善されはしたのかもしれないな。
移動時間……結構なロスだったんだな。探索者ってスタミナとスピードが有るし、ペガサスもいるから誤差だと思っていたんだけどね。案外侮れない内容だったんだと実感したよ。
ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございます!(o*。_。)oペコッ
という事で、ゲートが開通した事で一気に物語が動き出しました。
今まで動けなかった人達が自由に動ける様になったという証拠ですね。えぇ、各拠点で待機していた人員を使う事が出来る様になったので当然ではありますが。
数値にするとこんな感じでしょうか? 全探索者を10として。
稼働している探索者2 交代要員2 育成中3 各拠点に居る緊急時の待機組3
ゲート開通前がこんな感じ。かなりおおざっぱではありますが。で、ゲートの開通後が。
稼働している探索者4 交代要員2 育成中3 各拠点に居る緊急時の待機組1
と、ゲートで移動が可能になった事によって防衛を薄くする事が出来る為に、外で動かせる人数を増やせた……と。そりゃ、動きが一気に変化しますよって事ですね。
因みに、育成中には教導隊の方々も含まれています。教える人が居ないと育成できませんしね。




