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八百三十話

 ゲート開通について、人々の盛り上がりがそろそろ落ち着く……といった事は無い。何故なら今回のゲート使用について、殆どの人が一時的に拠点間を移動するという事を選んだからだ。

 というのも、彼等は皆が皆まじめだったのか、「仕事の引継ぎが終わってもいないのに、完全に地元へと戻れるか!」と口を揃えて言い切ったらしい。

 そんな訳で、折角のゲート開通によるボーナスタイムだというのに、彼等はそのボーナスタイムを今までいた場所と地元の往復で使う事となってしまった。

 ただ、こういった人に対しては後で優遇処置がされるらしい。なんでも、協会が色々と話を聞いてしっかりとリストを作っているのだとか。


 と、そんな状況だからか、家族と再会できた人・墓参りをした人・旧友と遊びまわった人・恋人と濃厚な日々を過ごした人……中には実に悲劇的な人もいて、そんな人は「もう二度と地元に戻るか!」なんて言っていた人もいたが、それはおいておくとして。

 その殆どの人がまたゲートを使うのだと、そしてその時は地元に戻って来ると各々の大切な人や知り合いに笑顔で告げるものだから、ゲートの前では人々の笑顔もしくは笑顔で涙する表情で溢れかえっていた。


「解放期間の最終日だからなぁ……」

「しかも一般に告知してから時間も短かったしね」


 美咲さんの言う通りで、実はゲートの事を一般公開したのは余りにも突然だった。それこそ、一般人も「え、何それ?」と開いた口がふさがらないレベルだっただろう。

 どうしてそうなったのか? それは、ソラ達があまりにも早く結果を出したという事も有るのだが、ゲートの仕様を考えた時、誰が優先して使うかという話だ。

 当然だが、使用する優先順位は研究者や協会や拠点の上層部の人達だ。

 研究者はそれぞれの拠点を発展させる為に必要な人材であり、上層部の人間ともなると映像通話による会議もあるので対談や交渉などは拠点を出なくても出来るのだが。やはりお互いの拠点をしっかりと視察する必要もある。

 そんな訳で、上層部の移動と言うのは少ないだろうが、研究者と並んでゲートの使用における優先順位は高い。


「次に高いのが探索者か」

「近場なら駆けていけば良いんだけどね」


 そう、近場が目的地なら自らの足で駆けて行けば、場所次第では数分から数時間以内に到着する事が出来る。出来るのだが、基本的にそのような拠点にあるゲートは、言ってしまえば中継地点だ。であれば、さっさと遠い目的地にたどり着きたい時は中継地点であろうと、ゲートを使ってさっさと通過してしまうのが楽だし早い。

 そもそも、探索者がそのような長距離移動を必要とする時は、その殆どがクエストであり、その内容は荷の輸送か、援軍の派遣が殆どで、どちらも一分一秒を争うモノだ。

 他にも配置換えや護衛任務などもあるが、どのみち時間を短縮したい為にゲートを使う必要がある。


 結論。研究者が一番ゲートを使う必要があるのではないだろうか。



 と、そんな訳で。

 本来であれば、一般公開されるのはもっと先になる予定だった。……だったのだが、そこは品川さん達から少し考えようという声があがった。

 何故声が? と言うと、これまで拠点に住む人達の経緯を考えると、彼等にも使わせたいという思いが出て来たからだ。人情といっても良い。


 確かに言われてみればと言う話。

 探索者であれば、あちらこちらへと移動している為に殆どの人が気が付かない。前にも言ったが、俺は自分の父親と再会し、その父親を連れて帰る事が出来た。美咲さんも当然その光景を見ているし、他にも従姉妹のサキちゃんとその父親の再会を目にしている。

 なので俺や美咲さんであれば分かる話なんだけど、殆どの探索者は……ぶっちゃけ、無頓着と言っても過言では無かったりする。

 それもそうだ。何せ今まで、探索者達の殆どは自由に近いレベルで拠点を移動していたのだから。今でこそ情勢的に拠点へ配置され、その拠点から移動するのも大変ではあるのだが……それでも、自由に移動出来ていた経験があるし、今でも休暇さえあれば以前と同じで報告さえしておけば自由に移動する事が出来る。


 だからかな……一般開放の話も探索者側は其処まで乗り気でない人ばかりだったんだよね。

 合理的に考えてなのか「制限がある以上は仕事を優先するべきだ。でないと命に拘わる!」と発言する人までいた。ただまぁ、実際にはその人の言う通りなんだけどね。



 とは言え! 人の気持ちを考えるのは大切だと押し通す力は強い。

 そしてそれは、ただ誰かを思いやってと言う訳では無く。人の気持ちから現れる力についてという、崩壊前であれば考えられない理由を現実のものとして捉える根拠もあったりする。


 魔法や神秘がある世界になったからね……そしてそれらは、人の思いにかなり左右される力。

 精霊だって、熱い思いがあれば火の精霊が応えてくれるし、冷静で静かでありながらも胸の奥に激情を持っていれば水の精霊が。と、精霊との関わりで分かるように、どれだけ思いと言う力が様々な物に影響を及ぼすか、それが目に見えて解る形で現れるようになった。

 その為に、以前の世界よりも〝情けは人の為ならず〟という言葉が、更に現実になったと言っても良い。


 と、そう言った内容を前面に出した品川さん達は、合理派と言っても良い人達を制圧する事に成功した。そして、一般にも公開をという流れになったのだけど……。


「まぁ、それが港が出来上がる数日前だったんだよなぁ……」

「タイミングが悪いというか、どれだけ口論してたんだろうね」


 せっかく作ったゲートだ。公開するタイミングを考えるとは言っても、その公開までの間全く使わないという事は無い。

 探索者や研究者達が時間短縮の為に使うのは目に見えて解る。そして、ゲートを使って移動した先で、そんな彼等をその地の人達が見て違和感を覚えない訳が無い。そしたら、どうやって来たんだ? と話題になるだろう。勘の良い人は直ぐに何か特別な移動方法があるのでは? と気が付くはずだ。

 どう考えても直ぐにゲートを秘密にしておくことは出来なくなる。


 そんな訳で、かなり急な流れで公開してしまえ! という話になったんだけど……そんな急に言われた人たちからしてみれば、準備も何も出来るハズがないよねって話。


「結果的に大成功とはいえ、かなり混乱しただろうなぁ」

「発表されてから一週間ぐらいだっけ? 休暇申請ぐらいしか出せないよね」


 一週間前に休暇申請を出し、それが許可されるってのもとんでもないレベルの話だけどな。よくもまぁ、会社がそれを許可したもんだと思うよ。

 ……もしかしたら、協会が裏で手を回したのかもな。今回のこの電撃的なゲート開通の話は、協会の落ち度と言っても過言では無いし。


「ただまぁ、彼等が次に再会出来るのは、しっかりと仕事を引き継ぎした後って事になるのかな……今、人の手が足らないからなぁ、どれぐらい先になるのやら」

「業務次第ってのも有りそうだけどね。案外、人のトレードが可能な仕事だったら直ぐかも?」


 崩壊前からある仕事もあれば、崩壊後に誕生した仕事もある。なので、一体どんな業種に携わっているのか分からないが、拠点間で交換できる人材と言うのは確かにいるだろう。

 そう言った人達であれば、美咲さんが言う様に案外早く地元へと帰る事が出来る人もいるかもしれない。……可哀そうなのは、その地にしか無いような特殊と言える職についてしまっている人達だろうか。


「たとえば、村だとアスレの管理をしている人とか」

「あー……確かに他の拠点だと無い場所もあるよね」

「ダンジョンから手に入るモノから作っている特産品とかもあるからなぁ……確か、植物ダンジョンから近い拠点だと、ダンジョンからの手に入れたもので加工品を作っているはずだし」

「海側だと海産物で作ってるけど、海産物と植物じゃ全く違うもんね」


 村だとそもそも、食べ物関連の特産品なんて無いしな! だから、そう言った仕事をして居る人の場合は、地元に帰るまでかなりの時間が必要になるはずだ。


 だからこその優遇処置なのだろう。もしかしたら、そんな人達には年間何回か帰れるようにと言う配慮がされるかもしれない。


 何はともあれ、ゲートの公開は大成功と大失敗が重なって出来た奇跡だったりするんだよね。

 本当……ソラがあれだけ頑張って製作した物だから、失敗だけで終わらなくて良かったよ。

ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございます!!




ゲート公開の秘話と言った感じ。

実は一筋縄では無かったって事ですね。えぇ、大きなことをしようと思ったら、裏で色々と起こるモノです。

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